暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

文字の大きさ
上 下
26 / 37

 19

しおりを挟む
 「変なの呼ばんでね。」

 別れ際にありさが言った言葉があまりにも図星過ぎて、僕はハハハと苦笑いを浮かべるしかなかった。もちろん、サイト内での名前を僕が変えた事、この後の予定を聞かれて、しばらく留まると伝えた事、その辺りの情報は嫌でもありさに入り込んではいたが、女の勘が鋭いとはこういう事だろうと、そして得にありさはそれが強いんだろうと肌で感じ、脱帽したのだった。

 ありさが部屋を出てサイトを覗くと、さおりの予約がついに入っていた。ただまだ、受付終了とはならず、「次回17時~」の記載だった。さすがに予約が入ったかと思うと同時に、それでも僕はまだ、予約の電話を掛ける事ができなかった。
 帰宅時間も考えると、元々の理想で言えば、15、16時頃からさおりの予約を取るのが望ましかった。17時からの予約で逆算すると、その時間あたりがギリギリのラインだった。

 それでも僕はまだ、躊躇していた。

 それを踏み出す事で、一体、何がどうなっていくのか、そして、僕のこの行動自体が自分自身として納得できるものなのか、後悔しないものなのか、そんな事がまたぶり返してきて、尚更に頭が痛くなった。
 ただ最終的にやはり、この神のお膳立ての前で、行動しないのは男ではないし、ここで呼ばなかったら、それはそれでやはり、一生モノの後悔として残ってしまうだろうという自分の中での結論に達し、更新マークばかりをタップしていた指を「予約」マークへ動かした。
  
 電話口のスタッフの対応は今一つだった。
 「80分」と伝えたが、「えーとちょっと待って下さい、大丈夫、多分大丈夫です」といった感じだった。

 それから先、僕はピラフを頼んで食べたが、味気はなかった。
 待ってる時間、スマホでゲームでもすればいいかと思っていたし、実際にゲームを始めてはみたが、とても長続きせず、結局何する気も起きずに、ひたすらにウダウダとして時間を潰した。
 ベッドの上でスマホすら握る気にもなれず、テレビさえも見る気になれず、閉ざされ、外界から遮断された空間の中で、どうにもならない事にも関わらず、これまで書いてきたような考えで頭が一杯で無駄な時間を過ごした。

 17時頃に再度、スタッフからの電話があった。
 もう既にホテルにいるのかの確認と、あと10分程で到着する旨の連絡だった。

 さおりが、今からここに来る。

 もちろん動揺はしていた。

 ただ胸の高まりが最高潮だとか、そんな気分ではなかった。
 考え過ぎて、疲れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...