暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 山積みのプリントの下の離婚届けを見つけてからというもの、妻の態度はあからさまであった。
 
 子供2人と妻の3人でよく家を後にした。それは単純に買い物であったり、何らかのイベントごとであったり、イオンに行ったり、そんな事だったろうとは思うが、どこへ行く、行ってくる、そんな言葉を僕に投げかける事なく3人楽しそうに出ていく、そんな様相で、そしてそれは何かを僕に向けている事は十二分に感じ取れていたのである。

 極めつけは息子の運動会であった。
 妻は運動会がある事を私に言ってくる事はなかった。共通のアプリで日程等は分かったものの、そのイベントに対して何時にどこに、どういう風に誰が行くといったような話は一切なく、前日になって僕はいよいよ妻に「明日何時に行くの?」と質問した。それに対しての返答はありきたりにしてきたものの、僕は内心、いよいよだと強く感じていたのだった。

 この家には僕はいない。

 それをまざまざと見せつけてくるような言動が日々続いていった。


 そんな中で時折ある息子と2人の時間が僕には幸せだった。

 たまに、妻と娘は2人で出かけていった。
 その時、息子には何も言わずに出かけていく事があった。
 それは「僕も一緒に行く!」とだだをこねる事が分かり切っていたからだった。

 息子が朝起きた時、大好きなお母さんとねえねがいない。
 「買い物に行ったよ。」
 と僕が伝えはする。

 一度、その状況で、息子が押し入れに入り込んでシクシク泣いている事があった。
 僕はそれを見て、ひたすらに泣き止むまで抱っこしたが、その息子の気持ちは痛い程に分かっていた。

 何も言わないで出ていかれた事。
 何よりも自分が邪魔もの扱いされている事。
 家族の中でのけ者にされている感覚。

 まだ4歳の息子にはあまりにもショッキングで悲しい事であろうと容易に想像がついた。

 そしてそのシクシク泣いている姿が、自分と重なったのである。


 だからこそ僕は、年端のいかない息子だとしても、必ず息子には伝えたい、伝えなければならないと強く思っていた。
 対して妻は娘にはもう言っている、といけしゃあしゃあと言ったのである。
 「まだ息子に伝えるのは早いけど、娘にはもう言っていて、離婚という言葉ではないけれど、お父さんと別々に暮らして、たまにお父さんと遊ぶ、それでもいい?って聞くといいよって言ったよ。」
 と、そんな事を言っていたけれど、娘の性格上、無駄に気遣いができる子である事を考慮すると、それもまた本心であるかどうかなんで決して分かるはずもなく、息子にせよ、娘にせよ、これは当然、僕の口から直接伝えるその事が父としての義務であると当然思っていたし、ここだけは譲るわけにはいかず、そして万が一、子供から「パパと一緒に暮らしたい」そう言われたとしたら、それを跳ね返せる程の心持ちは持ち合わせていなかったのである。

 

 
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