暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

文字の大きさ
上 下
9 / 37

 8

しおりを挟む
 スナックの扉を開けて僕は店内を見渡した。そしてママを見つけると手招きした。
 「さおり?」
 近づいてきたママに僕は黙って頷いた。ママは興奮した様子で少し目が潤んでいるようにも見えた。
 「階段の下で待っちょ。」
 そう僕は言って、ママと2人階段を下りていった。

 「…ご無沙汰してまーす。」
 さおりは丁寧にお辞儀しながら、申し訳なさそうにママに言った。
 「久しぶりやん!元気!?」
 ママは久々の再会に嬉しそうにしていた。
 「あっはい、元気です。」
 「戻ってきないよいつでも!」
 狭い階段に3人、僕は久方ぶりの、笑いながらの話す2人を少し微笑ましく見ていた反面、2人の思うところはきっと別々にあるんだろうなと思っていた。
 「もお~、せっかくわざわざ降りてきて頂いたんで一杯だけ飲んで帰ります!」
 さおりがそう言って、ママは嬉しそうに階段を上っていった。僕はといえばほんの少しの違和感、そうそれは、先に言ったそこが気になっていて、複雑な気持ちになっていた。

 カウンターに2人座り、やはりママは終始嬉しそうに話していた。
 人不足のご時世、ママは今までの事は全く気にしないからいつでもまた戻ってきてほしい、その事を繰り返しさおりに語りかけていた。
 ただ、僕は言葉にはしなかったものの、それは難しいんじゃないかと思っていた。
 結局、さおりはその呼びかけにハッキリとした返答をする事なく、僕らは店を後にした。

 それから、さおりはまた、たまに僕の誘いに乗っかってくるようになった。
 次にそのスナックへ行った帰り際にお見送りにきたママにさおりは言った。
 「あっ、今週の土曜日入りまーす。」
 突然の言葉に僕は驚いた。
 「えほんとー?」
 そういうママとさおりの会話にこれまた僕は違和感しか感じないのであった。
 突然いなくなった人間が、もう一度働くそれはサクッと実現するものではなく、それならそれでキチンとした順序を踏むべきである。酒が回っていてすぐさま言葉が出てこなかったが、そこは当然、
 「今週の土曜日、入ってもいいでしょうか?」
 という言葉が筋であって、正直それだけでは足りない。まずは心からの謝罪、そして「あんな事になってしまいましたけど、今後は~~という風に考えているので、大変おこがましいのは承知しておりますが、もう一度働かせて頂けないでしょうか?」という言葉を選ぶべきだったであろう。

 それから1度か2度、スナックへさおりは出てきはしたが、またしても当然のように雲隠れしてしまったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...