暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

文字の大きさ
上 下
8 / 32

 7

しおりを挟む
 その、さおりの同級生の親御さんの店で飲んだ後のスナックで彼女は、いい気分になって、僕に切り出したのであった。
 「全然そんな、やましい感じじゃないんですよ。でもう、私もこの年齢の内にできる事しておきたいなー、と思って。」
 「いや、合ってるやん。」
 僕は言った。
 以前、そんな話をした時に彼女自身が言っていた。
 「さおりは風俗に通ってるんじゃないか」
 そんな噂が巷で流れている事を。
 そして僕自身も、それはやはり感じていたのである。それはその、前述した根拠からであった。
 「全然そんな、お金に困ってるとかじゃないんですよ、ただやっぱりお金はあるに越した事はないなー、と思って。」
 それを聞いた僕はというと、思いのほか何も感じていなかった。以前から何かを仄めかしていたその時に、もちろん僕は想像できないくらいに鈍い男ではない。それを聞いた時、今までの自分を考えると、もう少し心が痛むような感覚に陥ってもおおかしくはなかった。ただ、それをきっと、誰にも、言える人間はいないだろうと容易に想像はついた。さおり自身、女友達の1人と僕にしか言っていないと言っていた。
 「そうやっちゃ。」
 ひたすら相槌を打つ僕に、彼女は情報を提供していった。

 働いている女の子がたくさんいる事。
 年齢層がかなり幅広い事。
 写真の掲載はしてない事。

 店を直接聞くような野暮な事はしなかったし、したくはなかった。ただ、僕が今までずっと長年の付き合いがあるデリバリーマッサージ店の女の子と一緒じゃないか?それだけは確認した。だが彼女はマッサージではないと断言したのだった。
 僕の中で「探さないといけない。」なんだかそんな感覚がじわじわと迫っていた。

 店を出て、もう帰ろう、そんな話をしながら歩いている中で、2人は例のさおりが突如として辞めたスナックの通りにさしかかった。
 「え?帰る?」
 僕はさおりに聞いた。僕も酒が回っていたが、こんな時、さおりはきっぱりと断る事をしない。
 「行こうや、俺の気がすまんかい。」
 それは、突然さおりが辞めていって心配しているママの顔が浮かんだ事と、僕が紹介してさおりが入店した、そんな感覚があったからだった。
 「ん~、人が少ないなら…。」
 彼女がそう言うと、僕はのそのスナックの方へとずんずんと進んでいった。
 スナックは階段を上って一番奥に位置していた。
 「ちょい待っといて。様子見てくるわ。」
 階段の下にさおりを残して、僕は階段を上っていった。僕の中では、一目でいいからさおりの元気な姿をママに見せればそれで良かったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰キャ系ぐふふ魔女は欠損奴隷を甘やかしたい

豆丸
恋愛
陰気な魔女は誇り高い欠損奴隷をデロデロに甘やかしていつか骨抜きにしたい!

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

今夜、彼氏の死体を好きな人と埋めに行く

木村
恋愛
あらすじ  国司田優希(くにしだ ゆき)は彼氏に浮気されたことを血の繋がらないおじである椿田瑠依(つばきだ るい)に愚痴った。それはなんてことない、普段通りの雑談のはずだった。 「ゆきち、思いっきりガンってやりな」  両片思いの二人が、浮気彼氏の死体を埋めに行く。仄暗い、夜明け前のお話です。 ※残酷な描写があります 登場人物 国司田優希  ヒロイン 22歳  ダウナーな雰囲気のあるモテ女 学生  浮気をされて彼氏と別れるが……。 椿田瑠依  ヒーロー 35歳  優希の血のつながらないおじさん 陶芸家  優希の親友のような存在だったのだが……。 彼氏  浮気をしたので殺されます

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

ラスボス教祖様に『教育』されてます

木村
恋愛
ロマンスファンタジー小説の皮を被った戦争小説『黒の約束と白の誓い』のモブ、ジェニーズに憑依してしまった主人公。原作知識から様々な国で戦争が起きることを知っていたため、ラスボス戦まで平和な『教団』でモブ信徒として生活しようと考えた。しかし、どういうわけかラスボスであり、教団の教祖であるドレイブンに目を付けられ、『教育』を受ける羽目に……!? 自分よりはるかに頭がいい人に、認知を正されながら、大事にされる話です。 登場人物 ジェニーズ  ヒロイン 22歳  セカイ系ロマンスファンタジー小説の世界に転生してしまった女性の憑依先  戦争に巻き込まれたくない一心で教団に入信したのだが…… ドレイブン・ロック・ルーン  ヒーロー 28歳  とある教団の教祖様  原作小説ではラスボスとして最後は主人公たちに討伐されるはずなのだが……?  プラチナブロンドの長髪、紫色の瞳をしたカリスマ的ハンサム

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...