暗渠 〜禁忌の廻流〜

角田智史

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 その、さおりの同級生の親御さんの店で飲んだ後のスナックで彼女は、いい気分になって、僕に切り出したのであった。
 「全然そんな、やましい感じじゃないんですよ。でもう、私もこの年齢の内にできる事しておきたいなー、と思って。」
 「いや、合ってるやん。」
 僕は言った。
 以前、そんな話をした時に彼女自身が言っていた。
 「さおりは風俗に通ってるんじゃないか」
 そんな噂が巷で流れている事を。
 そして僕自身も、それはやはり感じていたのである。それはその、前述した根拠からであった。
 「全然そんな、お金に困ってるとかじゃないんですよ、ただやっぱりお金はあるに越した事はないなー、と思って。」
 それを聞いた僕はというと、思いのほか何も感じていなかった。以前から何かを仄めかしていたその時に、もちろん僕は想像できないくらいに鈍い男ではない。それを聞いた時、今までの自分を考えると、もう少し心が痛むような感覚に陥ってもおおかしくはなかった。ただ、それをきっと、誰にも、言える人間はいないだろうと容易に想像はついた。さおり自身、女友達の1人と僕にしか言っていないと言っていた。
 「そうやっちゃ。」
 ひたすら相槌を打つ僕に、彼女は情報を提供していった。

 働いている女の子がたくさんいる事。
 年齢層がかなり幅広い事。
 写真の掲載はしてない事。

 店を直接聞くような野暮な事はしなかったし、したくはなかった。ただ、僕が今までずっと長年の付き合いがあるデリバリーマッサージ店の女の子と一緒じゃないか?それだけは確認した。だが彼女はマッサージではないと断言したのだった。
 僕の中で「探さないといけない。」なんだかそんな感覚がじわじわと迫っていた。

 店を出て、もう帰ろう、そんな話をしながら歩いている中で、2人は例のさおりが突如として辞めたスナックの通りにさしかかった。
 「え?帰る?」
 僕はさおりに聞いた。僕も酒が回っていたが、こんな時、さおりはきっぱりと断る事をしない。
 「行こうや、俺の気がすまんかい。」
 それは、突然さおりが辞めていって心配しているママの顔が浮かんだ事と、僕が紹介してさおりが入店した、そんな感覚があったからだった。
 「ん~、人が少ないなら…。」
 彼女がそう言うと、僕はのそのスナックの方へとずんずんと進んでいった。
 スナックは階段を上って一番奥に位置していた。
 「ちょい待っといて。様子見てくるわ。」
 階段の下にさおりを残して、僕は階段を上っていった。僕の中では、一目でいいからさおりの元気な姿をママに見せればそれで良かったのだった。
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