31 / 33
第25話 卒業4/5
しおりを挟む
7月30日(日)14時00分
「みんな五日ぶり~! メタライブ0期生、天母マリアですぅ。こんマリ~」
母さんがマイクに向かってにこやかに話しかける。
その後ろで、俺はマナーモードにしたスマホから配信に参加し、流れるコメントを目で追っていた。
「みんな心配させちゃったよね、ごめんね……。このとおりマリアはぴんぴんしてるから大丈夫。心配かけるといけないからツイッターでは『お休みします』としか言ってなかったんだけど、実は自律神経がおかしくなっちゃって……へへ。今日まで入院してました。そうそう、みんな知ってる? 病院のご飯って今すごく美味しいのよ! もうびっくり!」
と、オープニングトークのような軽さで入院から退院までの経緯を説明していく。
入院と聞いて最初は驚くリスナーだったが、母さんの明るい雰囲気に安心してか次第にいつもの「草」といったコメントが増えてくる。
「それで、ですね……今日は重大なお知らせがありまして……」
途端に硬い口調になり、母さんはおそるおそるといった様子で切り出す。
もう言うのか……?
「そのお知らせは……配信の後半で話すね。まずは私がメタライブに入った理由を聞いてほしいの。これは、メタライブが発足した経緯でもあるんだけど」
突然の裏話にチャット欄が湧いた。
ファンとしては気になる話だが俺は素直に喜べない。なんで母さんがマリアの生い立ちを語るのかと言えば、今日が最後の配信だからだ。
「みんな知ってることかもしれないけど、メタライブに入るにはオーディションで合格するかスカウトされるかのどっちかなのよね。でも、私だけはそのどっちでもないの」
コメント
:0期生だからか
:そもそも0期生って名前自体が謎すぎる
:マリアママだけメタライブの元社員だったとか?
「あー、元社員っていうのはある意味そうかも。当時……メタに入る前だからもう七年近く前ね、私はお仕事を探してた。ブラック企業で病んで辞めちゃったけどずっと働かないわけにはいかなくて。そんなとき、高校の同窓会に参加したのよね」
:無職で同窓会……ウッ!(心停止)
「まあ、『家事が仕事ですぅ!』で逃げればいいかなって……。それより昔の友達に会って気分転換したかったのよ。みんなね、顔はそんなに変わってないのに意外な仕事したりしててびっくりしたなぁ。私が学校で一番よく話してた友達なんか社長になってたのよ! で、その社長がね……今のメタライブの社長なわけ」
:そういう繋がりね!
:調べたら出てきたけど社長って女の人だったんだな。顔かわいい
:ん? メタライブの社長って今年35……
:マリアママも35歳ってことォ⁉
「違います34歳ですッ! まだアラサーなんですからね!」
……どっちも大差なくね?
とはいえ、中の人が実年齢を明かすのは異例の事態だ。
コメントが荒れるかもと心配したが、「やっぱり三十路」「若い若い」「もっと上だと思ってたのに……」と意外にもあっさり受け入れられていた。普段から年齢を臭わせるトークが多かったからだろう、リスナーにそれほど抵抗感はないらしい。
問題はこの後だ。
子ども――俺がいるという事実が起爆したとき、リスナーがどう反応するか。
「社長のコネで私がすることになったのが、VTuberのお仕事だった。コンプライアンスの関係で詳しくは話せないけど……他の会社さんの化粧品とかサプリメントの紹介ね。私って話すのが得意だからかな、ありがたいことに評判が良くて。それで社長が、VTuber関係で新しい会社を興すから一緒にやらないかって誘ってくれたの。それがみなさんご存じ、メタライブだった。…………まあ、断ったんだけどね」
:断ったの⁉ なんで⁉
「だって社長ったら、28歳の同級生つかまえて『次はアイドルになれ!』とか言い出すのよ。……もうね、はい無理ですサヨナラって感じ。もっと若くて可愛い子に頼めばいいじゃない、私には無理よ……って、そのときは思った。こうして今ここに居るのは社長から説得されたからなの……『母親でもアイドルになれる時代が来た』ってね」
俺は顔を上げ、母の後ろ姿を見た。
「私には、子どもがいます」
:子どもってダックちゃんのこと?
:ネタ? ガチじゃないよね?
「実の子です。命よりも大切な、私の息子です」
あまりにも前代未聞の配信だった。
唐突なカミングアウトに冗談だと疑うリスナーも湧いたが、母さんの「実の子」という発言がその人たちを封殺した。あるいは、冗談だと信じたかったのかもしれない。
年齢を公表したときとは比にならないほどリスナーは戸惑っていた。
:まってまっていみわかんないんだけどまじで
:要するに、マリアママは34歳子持ちの既婚者ってこと?
:ママって呼んでたらママになっちゃった件
:ママ……お前、ママだったのかよ?
「ごめんなさい。今まで黙っていたのは、こういうプライベートは言う必要のないことだと思っていたからで……ううん、違うの。ファンが離れていってしまうのが怖かった。子どもは大切だけど、子どもが理由で好きなことを諦めないといけなくなるのが怖くて……子どもとメタライブ、そのどっちかを選ばないといけない状況から逃げて、ずっと目を逸らしていたんです。本当に、本当にごめんなさい……っ!」
画面の前で頭を下げる母さん。
そのとき、チャット欄に一件のスーパーチャットが流れた。
「あっ、スーパーチャットありが…………え?」
:マリアママへ、お別れを言いに来たよ。今まで散々貢いだのに他の男のものだったことにはみんな裏切られた気分だね。もっと誠意ある対応をしたほうがよかったんじゃないカナ(^_^;) ……追伸 ダックちゃんのほうがかわいいから魔界の民に堕天するのじゃ! \500
「ぃ……今まで、ありがとね……スーパーチャットもありがと……っ」
涙をこらえてお礼を言う母さんを前にして、俺は怒りで肩が震えた。
金を払ってまで嫌がらせしてくる奴は何がしたいんだ。アドバイスじみた軽々しさが腹立たしいしウケ狙いなら空気が読めてなさすぎる。「誠意ある対応を」とか言ってるけど母さんは充分に誠意を持って接してるし、誠意が足りないのはこれを送り付けた奴のほうだ。こんな嫌がらせ、気持ちが弱っているときにされたら泣いてしまう人だっているかもしれない。
しかし、母さんは挫けなかった。
気持ちを立て直すように深呼吸を挟んで、再び画面を見据える。
「今日、私が自分の話をしたのはみんなをびっくりさせたいからじゃありません。みんなに納得してほしいからです」
:納得?
「六年近く私はアイドルと母親をしてきました。上手くいかなかったことはいっぱいありますけど、なんとか両立してこれたと思ってます。だけど、先日遂に限界がきて倒れてしまい……お医者さんの話では、もっと早く――それこそライブ前に倒れていてもおかしくない生活だったそうです。私がライブを乗り越えられたのは、息子のおかげなんです」
違うよ。母さんが頑張ったからだよ。
「息子は私が天母マリアだと知ってて、家の手伝いをしてサポートしてくれていました。なのに私は、そんな息子の思いやりにも気づかないで、ここぞとばかりに空いた時間を配信に使って倒れてしまいました。もう体力的に若くないんだと思います……アイドルと母親、どっちかを選ばないといけない時期が来たんだと思います。どっちも大切で、みんなとの時間はかけがえのないもの――だけど。自分の子どもより大切なものなんて、この世にあるんでしょうか? 私にはありません」
母さんは膝の上で握りしめる手を、そっとほどいた。
「私――天母マリアは本日の配信をもちまして、メタライブを卒業します」
何度も心の中で唱えて練習したような、迷いがない口調だった。
もう知っていたことだけどマリアの声で言われた途端、受け止めきれない事実を突きつけられたみたいに胸の奥がざわついた。俺でさえこうなんだ、初めて聞かされたリスナーの衝撃は計り知れない。
引退宣言を皮切りに、コメントはかつてないほどの勢いで更新されていた。
:話の流れでなんとなくわかってた。わかってたけど……まじか
:推しは推せるときに推しておけ。そう言ってた友人の気持ちがやっと理解できました
:まだ気持ちの整理がつかないけど……お疲れ様、マリアママ。子どもがいようが私にとって推しであることに変わりはないよ。今までありがとう。
:騙されてたなんて思いません。貰ったもののほうが圧倒的に多いから……
:寂しくなるなぁ
「みんな……いっぱいの思い出をくれて、ありがとう……っ」
コメントを読んで涙ぐむ母さん。
それから、明るい声を絞り出し、今後どんな対応になるのかを説明していった。
リスナーとの思い出が詰まったマリアのチャンネルは永久に残されることに決まった。それと、療養があるため卒業ライブのようなお別れ会は予定していない。正真正銘、今日がマリアにとって最後の配信となる。
……本当に、これでよかったんだろうか?
配信開始時からリスナーの反応を追っているが、流れるコメントのほぼ全てがマリアの引退を惜しむ声だ。アンチは別として、母さんの素性を知ったからといって嫌悪感を示すコメントは見当たらない。
アイドルと母親、どっちかを選ばないといけないと母さんは言った。
俺もさっきまではそうするしかないと思っていた。リスナーを納得させるためとはいえ、母親だと明かしてファンがついてきてくれるとは思っていなかったからだ。
しかし実際はどうだろう。
コメントを書き込んでくれる人に限っては、マリアへの好意的な態度は変わっていない。
天母マリアのチャンネル登録者数は200万人以上。そのうちの10%……いや1%でも残ってくれたら、企業VTuberとして活動するには充分じゃないのか。
まだ間に合ってくれ……!
そう念じながら、俺はとある人物にメールを送った。
「それじゃあ、ね……もうマリアからお伝えすることは何もなくて、本当にこれでお別れになるんだけど……」
母さんが配信を終わらせようとしている。
まずい、まだスマホにメールは返ってきていない。どうにかして母さんを引き止めないと本当に引退という形で終わってしまう。
俺が出ていって無理やり止めるか? いや、何万人も見てる配信でそれはさすがに……。
「……あれ? 通話だ。みこちゃんから?」
突如、なぜか四期生の巫みことが通話を申し込んできた。
「みんな五日ぶり~! メタライブ0期生、天母マリアですぅ。こんマリ~」
母さんがマイクに向かってにこやかに話しかける。
その後ろで、俺はマナーモードにしたスマホから配信に参加し、流れるコメントを目で追っていた。
「みんな心配させちゃったよね、ごめんね……。このとおりマリアはぴんぴんしてるから大丈夫。心配かけるといけないからツイッターでは『お休みします』としか言ってなかったんだけど、実は自律神経がおかしくなっちゃって……へへ。今日まで入院してました。そうそう、みんな知ってる? 病院のご飯って今すごく美味しいのよ! もうびっくり!」
と、オープニングトークのような軽さで入院から退院までの経緯を説明していく。
入院と聞いて最初は驚くリスナーだったが、母さんの明るい雰囲気に安心してか次第にいつもの「草」といったコメントが増えてくる。
「それで、ですね……今日は重大なお知らせがありまして……」
途端に硬い口調になり、母さんはおそるおそるといった様子で切り出す。
もう言うのか……?
「そのお知らせは……配信の後半で話すね。まずは私がメタライブに入った理由を聞いてほしいの。これは、メタライブが発足した経緯でもあるんだけど」
突然の裏話にチャット欄が湧いた。
ファンとしては気になる話だが俺は素直に喜べない。なんで母さんがマリアの生い立ちを語るのかと言えば、今日が最後の配信だからだ。
「みんな知ってることかもしれないけど、メタライブに入るにはオーディションで合格するかスカウトされるかのどっちかなのよね。でも、私だけはそのどっちでもないの」
コメント
:0期生だからか
:そもそも0期生って名前自体が謎すぎる
:マリアママだけメタライブの元社員だったとか?
「あー、元社員っていうのはある意味そうかも。当時……メタに入る前だからもう七年近く前ね、私はお仕事を探してた。ブラック企業で病んで辞めちゃったけどずっと働かないわけにはいかなくて。そんなとき、高校の同窓会に参加したのよね」
:無職で同窓会……ウッ!(心停止)
「まあ、『家事が仕事ですぅ!』で逃げればいいかなって……。それより昔の友達に会って気分転換したかったのよ。みんなね、顔はそんなに変わってないのに意外な仕事したりしててびっくりしたなぁ。私が学校で一番よく話してた友達なんか社長になってたのよ! で、その社長がね……今のメタライブの社長なわけ」
:そういう繋がりね!
:調べたら出てきたけど社長って女の人だったんだな。顔かわいい
:ん? メタライブの社長って今年35……
:マリアママも35歳ってことォ⁉
「違います34歳ですッ! まだアラサーなんですからね!」
……どっちも大差なくね?
とはいえ、中の人が実年齢を明かすのは異例の事態だ。
コメントが荒れるかもと心配したが、「やっぱり三十路」「若い若い」「もっと上だと思ってたのに……」と意外にもあっさり受け入れられていた。普段から年齢を臭わせるトークが多かったからだろう、リスナーにそれほど抵抗感はないらしい。
問題はこの後だ。
子ども――俺がいるという事実が起爆したとき、リスナーがどう反応するか。
「社長のコネで私がすることになったのが、VTuberのお仕事だった。コンプライアンスの関係で詳しくは話せないけど……他の会社さんの化粧品とかサプリメントの紹介ね。私って話すのが得意だからかな、ありがたいことに評判が良くて。それで社長が、VTuber関係で新しい会社を興すから一緒にやらないかって誘ってくれたの。それがみなさんご存じ、メタライブだった。…………まあ、断ったんだけどね」
:断ったの⁉ なんで⁉
「だって社長ったら、28歳の同級生つかまえて『次はアイドルになれ!』とか言い出すのよ。……もうね、はい無理ですサヨナラって感じ。もっと若くて可愛い子に頼めばいいじゃない、私には無理よ……って、そのときは思った。こうして今ここに居るのは社長から説得されたからなの……『母親でもアイドルになれる時代が来た』ってね」
俺は顔を上げ、母の後ろ姿を見た。
「私には、子どもがいます」
:子どもってダックちゃんのこと?
:ネタ? ガチじゃないよね?
「実の子です。命よりも大切な、私の息子です」
あまりにも前代未聞の配信だった。
唐突なカミングアウトに冗談だと疑うリスナーも湧いたが、母さんの「実の子」という発言がその人たちを封殺した。あるいは、冗談だと信じたかったのかもしれない。
年齢を公表したときとは比にならないほどリスナーは戸惑っていた。
:まってまっていみわかんないんだけどまじで
:要するに、マリアママは34歳子持ちの既婚者ってこと?
:ママって呼んでたらママになっちゃった件
:ママ……お前、ママだったのかよ?
「ごめんなさい。今まで黙っていたのは、こういうプライベートは言う必要のないことだと思っていたからで……ううん、違うの。ファンが離れていってしまうのが怖かった。子どもは大切だけど、子どもが理由で好きなことを諦めないといけなくなるのが怖くて……子どもとメタライブ、そのどっちかを選ばないといけない状況から逃げて、ずっと目を逸らしていたんです。本当に、本当にごめんなさい……っ!」
画面の前で頭を下げる母さん。
そのとき、チャット欄に一件のスーパーチャットが流れた。
「あっ、スーパーチャットありが…………え?」
:マリアママへ、お別れを言いに来たよ。今まで散々貢いだのに他の男のものだったことにはみんな裏切られた気分だね。もっと誠意ある対応をしたほうがよかったんじゃないカナ(^_^;) ……追伸 ダックちゃんのほうがかわいいから魔界の民に堕天するのじゃ! \500
「ぃ……今まで、ありがとね……スーパーチャットもありがと……っ」
涙をこらえてお礼を言う母さんを前にして、俺は怒りで肩が震えた。
金を払ってまで嫌がらせしてくる奴は何がしたいんだ。アドバイスじみた軽々しさが腹立たしいしウケ狙いなら空気が読めてなさすぎる。「誠意ある対応を」とか言ってるけど母さんは充分に誠意を持って接してるし、誠意が足りないのはこれを送り付けた奴のほうだ。こんな嫌がらせ、気持ちが弱っているときにされたら泣いてしまう人だっているかもしれない。
しかし、母さんは挫けなかった。
気持ちを立て直すように深呼吸を挟んで、再び画面を見据える。
「今日、私が自分の話をしたのはみんなをびっくりさせたいからじゃありません。みんなに納得してほしいからです」
:納得?
「六年近く私はアイドルと母親をしてきました。上手くいかなかったことはいっぱいありますけど、なんとか両立してこれたと思ってます。だけど、先日遂に限界がきて倒れてしまい……お医者さんの話では、もっと早く――それこそライブ前に倒れていてもおかしくない生活だったそうです。私がライブを乗り越えられたのは、息子のおかげなんです」
違うよ。母さんが頑張ったからだよ。
「息子は私が天母マリアだと知ってて、家の手伝いをしてサポートしてくれていました。なのに私は、そんな息子の思いやりにも気づかないで、ここぞとばかりに空いた時間を配信に使って倒れてしまいました。もう体力的に若くないんだと思います……アイドルと母親、どっちかを選ばないといけない時期が来たんだと思います。どっちも大切で、みんなとの時間はかけがえのないもの――だけど。自分の子どもより大切なものなんて、この世にあるんでしょうか? 私にはありません」
母さんは膝の上で握りしめる手を、そっとほどいた。
「私――天母マリアは本日の配信をもちまして、メタライブを卒業します」
何度も心の中で唱えて練習したような、迷いがない口調だった。
もう知っていたことだけどマリアの声で言われた途端、受け止めきれない事実を突きつけられたみたいに胸の奥がざわついた。俺でさえこうなんだ、初めて聞かされたリスナーの衝撃は計り知れない。
引退宣言を皮切りに、コメントはかつてないほどの勢いで更新されていた。
:話の流れでなんとなくわかってた。わかってたけど……まじか
:推しは推せるときに推しておけ。そう言ってた友人の気持ちがやっと理解できました
:まだ気持ちの整理がつかないけど……お疲れ様、マリアママ。子どもがいようが私にとって推しであることに変わりはないよ。今までありがとう。
:騙されてたなんて思いません。貰ったもののほうが圧倒的に多いから……
:寂しくなるなぁ
「みんな……いっぱいの思い出をくれて、ありがとう……っ」
コメントを読んで涙ぐむ母さん。
それから、明るい声を絞り出し、今後どんな対応になるのかを説明していった。
リスナーとの思い出が詰まったマリアのチャンネルは永久に残されることに決まった。それと、療養があるため卒業ライブのようなお別れ会は予定していない。正真正銘、今日がマリアにとって最後の配信となる。
……本当に、これでよかったんだろうか?
配信開始時からリスナーの反応を追っているが、流れるコメントのほぼ全てがマリアの引退を惜しむ声だ。アンチは別として、母さんの素性を知ったからといって嫌悪感を示すコメントは見当たらない。
アイドルと母親、どっちかを選ばないといけないと母さんは言った。
俺もさっきまではそうするしかないと思っていた。リスナーを納得させるためとはいえ、母親だと明かしてファンがついてきてくれるとは思っていなかったからだ。
しかし実際はどうだろう。
コメントを書き込んでくれる人に限っては、マリアへの好意的な態度は変わっていない。
天母マリアのチャンネル登録者数は200万人以上。そのうちの10%……いや1%でも残ってくれたら、企業VTuberとして活動するには充分じゃないのか。
まだ間に合ってくれ……!
そう念じながら、俺はとある人物にメールを送った。
「それじゃあ、ね……もうマリアからお伝えすることは何もなくて、本当にこれでお別れになるんだけど……」
母さんが配信を終わらせようとしている。
まずい、まだスマホにメールは返ってきていない。どうにかして母さんを引き止めないと本当に引退という形で終わってしまう。
俺が出ていって無理やり止めるか? いや、何万人も見てる配信でそれはさすがに……。
「……あれ? 通話だ。みこちゃんから?」
突如、なぜか四期生の巫みことが通話を申し込んできた。
0
カクヨムにも連載中 ⇒ https://kakuyomu.jp/works/16817139556518382199
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
家から追い出されました!?
ハル
青春
一般家庭に育った私、相原郁美(あいはら いくみ)は両親のどちらとも似ていない点を除けば、おおよそ人が歩む人生を順調に歩み、高校二年になった。その日、いつものようにバイトを終えて帰宅すると、見知らぬ、だが、容姿の整った両親に似ている美少女がリビングで両親と談笑している。あなたは一体だれ!?困惑している私を見つけた両親はまるで今日の夕飯を言うかのように「あなた、やっぱりうちの子じゃなかったわ。この子、相原美緒(あいはら みお)がうちの子だったわ。」「郁美は今から施設に行ってもらうことになったから。」と言われる。
急展開・・・私の人生、どうなる??
カクヨムでも公開中
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
覗いていただけだったのに
にのみや朱乃
青春
(性的描写あり)
僕の趣味は覗きだ。校舎裏で恋人同士の営みを覗き見するのが趣味だ。
今日はなんとクラスメイトの田中さんがやってきた。僕はいつも通りに覗いていたのだが……。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる