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第11話 お泊り配信3/5

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 バトルが始まった。

『ホタルさん強そうだから……ごめんね!』

 開幕、マリアは真っ先に美波に向かって接近戦を仕掛ける。
 親子の以心伝心か、俺も同じことを考えて美波を狙っていたので丁度いい。
 マリアが近接魔法を放つと同時、俺は矢を連射した。避けきれる攻撃じゃない。ストブラにはバリアがあるため防ぐことはできるが、バリアを解除したところにマリアの追撃が入るだろう。
 集中狙いで悪いが勝たせてもらうぞ。

「……甘いよ、秋山くん」

 マリアの近接魔法が美波にバリアされる。
 しかしただのバリアじゃない――ジャストバリア。相手の攻撃を受けると同時にバリアを解除し、次の動きへのロスをなくす高等テクニックだ。
 美波はそれを難なく二連続で発動して二人がかりの攻撃を完璧に防ぐと、マリアをキックで吹っ飛ばし、俺に追撃を仕掛けてきた。

「なにィ⁉」『うそぉ⁉』

 と、思わず親子そろって仰天してしまうほどの実力だった。

『アーハッハッハ! さすがはホタルさん! わたくしの見込んだとおりでしたわ!』
『なんかマリアの吹っ飛ぶ方向でシルビアちゃんが溜め技してるんですけどぉ! これも計算のうちなの⁉ ま、待って――』

 ガコン!

 シルビアのスイングしたフライパンに強打され、マリアが大ダメージを負う。
 俺はといえばサポートに回る余裕などなく、飛翔して美波の追撃をなんとか逃れたところだった。

「美波、何がお前をここまで強くさせた……⁉」
「……一日分のバイト代で買ったゲームだもん。中途半端な実力でやめちゃったら、居酒屋で酔っ払いにセクハラされても叫びたいのをこらえて愛想笑いした一日分のあたしが報われないじゃない! だから、最強Vゲーマーを目指す」

 小遣いで買った俺とは覚悟が違いすぎる。勝てる気がしない……。

「それにね、お嬢のために戦ってると思うとやる気が出るの。この人のために頑張りたい、この人にもっと認められたい、そう思っちゃうの。なんでかな」
「これがトップVTuberのカリスマ性ってやつか……!」

 だがな美波、俺の相棒は言わずと知れた天母マリアだ。
 見せてやれ母さん、本当のトップVTuberのカリスマ性を!

『ぎゃあああ‼ シルビアちゃんいいの⁉ マリアは先輩だよ! 憧れって言ったよねぇ⁉ 憧れの先輩を殴っちゃうのってどうなのかなぁ⁉』
『仁義のためなら憧れだろうとぶん殴る、それがこの極姫シルビアですわ!』
『ヤクザいやああああ! ショウさん助けてぇぇえ!』

 知るか駄女神。ぶん殴られとけ。

 と、理性では突っぱねたものの、マリアに助けを求められると体が勝手に動いてしまう。気がつくと俺は二人のあいだに割り込んでおり、マリアを攻撃から守っていた。

『あぁ、ショウさん……かっこいい』

 …………かっこいい、か。

「秋山くん、対戦中にニヤニヤしないで」
「し、してない! しそうになっただけだからセーフだ!」

 しかしだ、この実力差でどう勝てばいいんだ?
 俺だけじゃ美波には勝てないし、マリアと協力して二対一の構図を作ろうとしてもシルビアがそれを許してくれない。勝ち筋の見えない状況だ。
 もし負けてしまったら、マリア――母さんのエロボイスが待ち構えている……。

「負けたくない、絶対負けたくないッ! 今日は耳栓持ってないんだよおおお!」
「……っ、きた!」

 と、美波が待ち望んでいたみたいに声を出す。
 俺の絶叫が天に届いたのか、逆転の可能性がステージに現れた。
 ステージ上空でふわふわと漂う七色のボール。これはストライクボールと言い、このボールを破壊したプレイヤーは一度だけ必殺技を放つことができるのだ。
 刹那、全員が一斉にストライクボールを目指して動き出した。

『よく知らないけどあのボール強いのよね⁉ マリア、獲ります!』
『獲るのはこのシルビアですわァ!』
「お嬢、ここはあたしが!」

「……悪いな、三人とも」

 空に飛び上がる三人をよそに、俺は地上から弓矢を連射する。
 弓矢は次々とストライクボールに命中し、宙を漂うボールはガラス玉のように砕けた。
 ボールが割れると俺のキャラは七色に光り、いつでも必殺技を放てる状態になった。あとはただタイミングを計るだけだ。

『くらァ! ボール寄越しやがれですわ!』
「ぐげっ⁉」

 ドゴォ、とものすごい勢いでシルビアに殴られた。すると俺のキャラの体からストライクボールが吐き出され、再びふわふわ飛んで行ってしまう。
 しまった、これを渡せば勝ち目がなくなる!

「お嬢っ、一番近いから獲って!」
『わたくしが獲ります、ホタルさんは援護を!』
「させるかよ! 吹っ飛べ、連射弓!」
『なっ⁉ ……クソがよォォオ‼ てめぇ邪魔しくさってんじゃねェですわよ⁉』
「秋山くん! もう諦めてママのエロボイス聞こうよ!」
「まだ生きるのを諦めたくない!」

 まさしく混戦と呼んだほうがいいカオスな状況。
 そんな中、ふいにストライクボールが再び砕けた。
 誰が破壊したか。その人物は今、七色の神々しい光に包まれている――

『やったやったぁ! なんかマリアが獲っちゃったみたい!』

 ナイス! さあ母さん、必殺技をお見舞いしてやれ!

『あ……でもどうしよ。獲るの初めてだから必殺技のボタンがわかんないよぉ! ねえショウさん、どのボタン押せばいいの⁉』
「B! ババアのBだ! 早く押せ!」
『思い出したっ、Aボタンよね!』
「なんで思い出したとか噓つくんだよぉ!」

 そこに、ストライクボールを奪還しようと迫りくる美波とシルビア。俺はボタンを思い出してもらう時間を稼ぐため弓矢で援護するが、二人の動きを止めるには至らない。
 美波とシルビアがマリアに向かって攻撃を仕掛ける。マリアはまだ思い出さない。

 ……もう駄目だ。母さんのエロボイスなんて聞きたくなかったなぁ……。

 と、俺が諦めかけた、そのとき。

『う~ん、全部のボタン押しちゃえばいいや。えいっ!』

 必殺技が発動。マリアが天高く飛翔し、美波とシルビアの攻撃が空を切る。

「そんなのアリィ⁉」『やべェですわ! 退避!』

 逃げようとする二人だが、マリアの必殺技がそれを許さない。

『ブラックホールっ!』

 マリアの掛け声とともに突如ステージ中央に漆黒の空洞が生成され、美波とシルビアを飲み込まんと空洞が拡大する。攻撃のため接近していた二人は瞬く間にブラックホールへ吸い込まれていった。

『そして、えぇっと……なんかすごいビーーーム‼』

 マリアの携える杖の先端から波動砲が放たれ、ブラックホールに捕らえられた美波とシルビアに直撃。湯水のごとく浴びせられる波動砲により二人は大ダメージを負う。
 次の瞬間、ブラックホールを中心に爆発が発生。
 美波とシルビアは声を上げる間もなく場外に吹き飛び、リタイアとなった。

 ――GAME SET!
 ――WINNER マリア&ショウ!



 7月1日(土)13時57分

 ストブラバトル大会の結果は、マリア率いる赤チームの勝利。
 シルビアは罰ゲーム〝ダックちゃんに甘々ボイスで告白!〟をすることになった。

『ダーク……? わたくし、いつも貴女の言葉にカッとなって喧嘩してしまいますが……あの、貴女のこと、す……好きですわっ! 本当はダークのことが好きなんですわよォ! ……うぅっ///』

 配信画面で恥ずかしさから悶えるシルビア。
 無理やりとはいえダークにデレる彼女は珍しく、チャット欄ではリスナーの「てぇてぇ」コメントで大賑わいだった。
 そんな中、告白されたご本人様のコメントまで流れてきて、

コメント
〈黒曜ダーク〉:そうだったか…………なんと返すのがいいか経験不足で思いつかなくて本当に申し訳ない。でもお前がそんなふうに思っていてくれることには感謝しているし、配信中に言えるのはこれくらいだ……ありがとうな。

『ば、バカぁ……っ、こちとら罰ゲームだから仕方なく言ってんですわよ! 語尾忘れるくらい動揺してんじゃねェですわ!』
『えっと、なんかガチっぽくなっちゃったけど……――というわけで! #シルマリ清楚コンビのお泊り会お昼の部はここまで! 次は夜の部で会いましょ~。乙シルマリ~』
『あああああああッ‼ どちくしょおおおおおおおおおおおお‼』
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