上 下
14 / 33

第11話 お泊り配信3/5

しおりを挟む
 バトルが始まった。

『ホタルさん強そうだから……ごめんね!』

 開幕、マリアは真っ先に美波に向かって接近戦を仕掛ける。
 親子の以心伝心か、俺も同じことを考えて美波を狙っていたので丁度いい。
 マリアが近接魔法を放つと同時、俺は矢を連射した。避けきれる攻撃じゃない。ストブラにはバリアがあるため防ぐことはできるが、バリアを解除したところにマリアの追撃が入るだろう。
 集中狙いで悪いが勝たせてもらうぞ。

「……甘いよ、秋山くん」

 マリアの近接魔法が美波にバリアされる。
 しかしただのバリアじゃない――ジャストバリア。相手の攻撃を受けると同時にバリアを解除し、次の動きへのロスをなくす高等テクニックだ。
 美波はそれを難なく二連続で発動して二人がかりの攻撃を完璧に防ぐと、マリアをキックで吹っ飛ばし、俺に追撃を仕掛けてきた。

「なにィ⁉」『うそぉ⁉』

 と、思わず親子そろって仰天してしまうほどの実力だった。

『アーハッハッハ! さすがはホタルさん! わたくしの見込んだとおりでしたわ!』
『なんかマリアの吹っ飛ぶ方向でシルビアちゃんが溜め技してるんですけどぉ! これも計算のうちなの⁉ ま、待って――』

 ガコン!

 シルビアのスイングしたフライパンに強打され、マリアが大ダメージを負う。
 俺はといえばサポートに回る余裕などなく、飛翔して美波の追撃をなんとか逃れたところだった。

「美波、何がお前をここまで強くさせた……⁉」
「……一日分のバイト代で買ったゲームだもん。中途半端な実力でやめちゃったら、居酒屋で酔っ払いにセクハラされても叫びたいのをこらえて愛想笑いした一日分のあたしが報われないじゃない! だから、最強Vゲーマーを目指す」

 小遣いで買った俺とは覚悟が違いすぎる。勝てる気がしない……。

「それにね、お嬢のために戦ってると思うとやる気が出るの。この人のために頑張りたい、この人にもっと認められたい、そう思っちゃうの。なんでかな」
「これがトップVTuberのカリスマ性ってやつか……!」

 だがな美波、俺の相棒は言わずと知れた天母マリアだ。
 見せてやれ母さん、本当のトップVTuberのカリスマ性を!

『ぎゃあああ‼ シルビアちゃんいいの⁉ マリアは先輩だよ! 憧れって言ったよねぇ⁉ 憧れの先輩を殴っちゃうのってどうなのかなぁ⁉』
『仁義のためなら憧れだろうとぶん殴る、それがこの極姫シルビアですわ!』
『ヤクザいやああああ! ショウさん助けてぇぇえ!』

 知るか駄女神。ぶん殴られとけ。

 と、理性では突っぱねたものの、マリアに助けを求められると体が勝手に動いてしまう。気がつくと俺は二人のあいだに割り込んでおり、マリアを攻撃から守っていた。

『あぁ、ショウさん……かっこいい』

 …………かっこいい、か。

「秋山くん、対戦中にニヤニヤしないで」
「し、してない! しそうになっただけだからセーフだ!」

 しかしだ、この実力差でどう勝てばいいんだ?
 俺だけじゃ美波には勝てないし、マリアと協力して二対一の構図を作ろうとしてもシルビアがそれを許してくれない。勝ち筋の見えない状況だ。
 もし負けてしまったら、マリア――母さんのエロボイスが待ち構えている……。

「負けたくない、絶対負けたくないッ! 今日は耳栓持ってないんだよおおお!」
「……っ、きた!」

 と、美波が待ち望んでいたみたいに声を出す。
 俺の絶叫が天に届いたのか、逆転の可能性がステージに現れた。
 ステージ上空でふわふわと漂う七色のボール。これはストライクボールと言い、このボールを破壊したプレイヤーは一度だけ必殺技を放つことができるのだ。
 刹那、全員が一斉にストライクボールを目指して動き出した。

『よく知らないけどあのボール強いのよね⁉ マリア、獲ります!』
『獲るのはこのシルビアですわァ!』
「お嬢、ここはあたしが!」

「……悪いな、三人とも」

 空に飛び上がる三人をよそに、俺は地上から弓矢を連射する。
 弓矢は次々とストライクボールに命中し、宙を漂うボールはガラス玉のように砕けた。
 ボールが割れると俺のキャラは七色に光り、いつでも必殺技を放てる状態になった。あとはただタイミングを計るだけだ。

『くらァ! ボール寄越しやがれですわ!』
「ぐげっ⁉」

 ドゴォ、とものすごい勢いでシルビアに殴られた。すると俺のキャラの体からストライクボールが吐き出され、再びふわふわ飛んで行ってしまう。
 しまった、これを渡せば勝ち目がなくなる!

「お嬢っ、一番近いから獲って!」
『わたくしが獲ります、ホタルさんは援護を!』
「させるかよ! 吹っ飛べ、連射弓!」
『なっ⁉ ……クソがよォォオ‼ てめぇ邪魔しくさってんじゃねェですわよ⁉』
「秋山くん! もう諦めてママのエロボイス聞こうよ!」
「まだ生きるのを諦めたくない!」

 まさしく混戦と呼んだほうがいいカオスな状況。
 そんな中、ふいにストライクボールが再び砕けた。
 誰が破壊したか。その人物は今、七色の神々しい光に包まれている――

『やったやったぁ! なんかマリアが獲っちゃったみたい!』

 ナイス! さあ母さん、必殺技をお見舞いしてやれ!

『あ……でもどうしよ。獲るの初めてだから必殺技のボタンがわかんないよぉ! ねえショウさん、どのボタン押せばいいの⁉』
「B! ババアのBだ! 早く押せ!」
『思い出したっ、Aボタンよね!』
「なんで思い出したとか噓つくんだよぉ!」

 そこに、ストライクボールを奪還しようと迫りくる美波とシルビア。俺はボタンを思い出してもらう時間を稼ぐため弓矢で援護するが、二人の動きを止めるには至らない。
 美波とシルビアがマリアに向かって攻撃を仕掛ける。マリアはまだ思い出さない。

 ……もう駄目だ。母さんのエロボイスなんて聞きたくなかったなぁ……。

 と、俺が諦めかけた、そのとき。

『う~ん、全部のボタン押しちゃえばいいや。えいっ!』

 必殺技が発動。マリアが天高く飛翔し、美波とシルビアの攻撃が空を切る。

「そんなのアリィ⁉」『やべェですわ! 退避!』

 逃げようとする二人だが、マリアの必殺技がそれを許さない。

『ブラックホールっ!』

 マリアの掛け声とともに突如ステージ中央に漆黒の空洞が生成され、美波とシルビアを飲み込まんと空洞が拡大する。攻撃のため接近していた二人は瞬く間にブラックホールへ吸い込まれていった。

『そして、えぇっと……なんかすごいビーーーム‼』

 マリアの携える杖の先端から波動砲が放たれ、ブラックホールに捕らえられた美波とシルビアに直撃。湯水のごとく浴びせられる波動砲により二人は大ダメージを負う。
 次の瞬間、ブラックホールを中心に爆発が発生。
 美波とシルビアは声を上げる間もなく場外に吹き飛び、リタイアとなった。

 ――GAME SET!
 ――WINNER マリア&ショウ!



 7月1日(土)13時57分

 ストブラバトル大会の結果は、マリア率いる赤チームの勝利。
 シルビアは罰ゲーム〝ダックちゃんに甘々ボイスで告白!〟をすることになった。

『ダーク……? わたくし、いつも貴女の言葉にカッとなって喧嘩してしまいますが……あの、貴女のこと、す……好きですわっ! 本当はダークのことが好きなんですわよォ! ……うぅっ///』

 配信画面で恥ずかしさから悶えるシルビア。
 無理やりとはいえダークにデレる彼女は珍しく、チャット欄ではリスナーの「てぇてぇ」コメントで大賑わいだった。
 そんな中、告白されたご本人様のコメントまで流れてきて、

コメント
〈黒曜ダーク〉:そうだったか…………なんと返すのがいいか経験不足で思いつかなくて本当に申し訳ない。でもお前がそんなふうに思っていてくれることには感謝しているし、配信中に言えるのはこれくらいだ……ありがとうな。

『ば、バカぁ……っ、こちとら罰ゲームだから仕方なく言ってんですわよ! 語尾忘れるくらい動揺してんじゃねェですわ!』
『えっと、なんかガチっぽくなっちゃったけど……――というわけで! #シルマリ清楚コンビのお泊り会お昼の部はここまで! 次は夜の部で会いましょ~。乙シルマリ~』
『あああああああッ‼ どちくしょおおおおおおおおおおおお‼』
しおりを挟む
カクヨムにも連載中 ⇒ https://kakuyomu.jp/works/16817139556518382199
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

家から追い出されました!?

ハル
青春
一般家庭に育った私、相原郁美(あいはら いくみ)は両親のどちらとも似ていない点を除けば、おおよそ人が歩む人生を順調に歩み、高校二年になった。その日、いつものようにバイトを終えて帰宅すると、見知らぬ、だが、容姿の整った両親に似ている美少女がリビングで両親と談笑している。あなたは一体だれ!?困惑している私を見つけた両親はまるで今日の夕飯を言うかのように「あなた、やっぱりうちの子じゃなかったわ。この子、相原美緒(あいはら みお)がうちの子だったわ。」「郁美は今から施設に行ってもらうことになったから。」と言われる。 急展開・・・私の人生、どうなる?? カクヨムでも公開中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

覗いていただけだったのに

にのみや朱乃
青春
(性的描写あり) 僕の趣味は覗きだ。校舎裏で恋人同士の営みを覗き見するのが趣味だ。 今日はなんとクラスメイトの田中さんがやってきた。僕はいつも通りに覗いていたのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

ファンファーレ!

ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡ 高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。 友情・恋愛・行事・学業…。 今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。 主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。 誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。

処理中です...