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第10話 お泊り配信2/5
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「はいっ、勉強会おしまい! 俺たちもストブラに参戦だァ! イエェーーーイ!」
と、二人を焚きつけるため必死に盛り上げる俺。
だが、肝心の二人から白い目で見られていることに気づいた。……え、なんで?
「秋山よぉ……そんなにマリアママのエロボイスが聞きてぇのかよ。変態か?」
「逆だ逆ゥ! 聞きたくないからマリアを勝たせるために参戦するんだよ! てか、お前に変態とか言われたくないわ!」
「秋山くん、ママのこと大好きだもんね」ニヤニヤ。
「美波……どっちの意味かわからないけどやめてくれ。泣くぞ」
なんやかんや言いつつも、美波がやると言い出し、五十嵐が便乗する形で全員参戦することになった。美波は協力のために乗ってくれたのかと思ったが、ゲーム機を持っていたあたり元々遊びたかったのかもしれない。
ほどなく、対戦ルームのIDとパスワードが配信画面に発表され、それを頼りに俺たち三人はオンライン対戦に潜った。
対戦ルームの名前は『シルマリ清楚の部屋』。人気VTuberの配信だけあり、IDとパスワードが発表されると五秒もしないうちに部屋が満員になった。なんとか三人で部屋に滑り込めたのは運が良かったとしか言いようがない。
一戦目は、いきなり五十嵐の出番だった。
「よっしゃ、行ってくるぜ!」
対戦で使うキャラを選択した五十嵐は、画面内のリングへと上がる。
リングでは既にマリアとシルビア、それにリスナーの一人が待っており、五十嵐が加わると同時にチームが自動で割り振られた。
赤チーム ⇒ マリア&リスナー
青チーム ⇒ シルビア&五十嵐
「おっ? シルビアって人と同じになっちまったか。自動だし、しゃーないな」
「……五十嵐、わざと負けてもいいんだぞ?」
「ぶはははは! お前のリアクションがおもしろそうだから絶対勝つわ!」
「やめろおおおお‼」
「っしゃあ! ぶちのめすぜマリアママァァ!」
~三分後~
――GAME SET!
と、ゲーム画面に表示される。
「五十嵐、ナイスファイト♪」
「……二度とやらねーわ、こんなクソゲー」
敗北者はいつもそう言う。
一戦目の対戦結果は、マリア&リスナーの勝利で終わった。
好調な出だしでエッチなお母さんが遠のいてくれたことに、俺はほっと胸を撫で下ろす。
その横で不貞寝を決め込む五十嵐。普段うるさい奴が静かになると空気が重くなるから勘弁してほしい。
『一緒に戦ってくださった方、ありがとうございましたわっ』
シルビアが画面越しに明るく語りかける。
『結果は残念でしたが、わたくしを守ってくださった場面なんか漢気があってカッコよかったですわよ。次やるときは、一緒に相手をぶちのめしてやりましょうね!』
五十嵐はベッドから起き上がると、「しゃーねえなぁ」とにやけた。ちょろすぎか?
その後も、マリアとシルビアはチーム戦を続けていった。リスナーの中にはストブラ日本最強のプロゲーマーまでおり、有名プレイヤーの参戦でチャット欄は盛り上がりを増す。
俺と美波の番はまだ回ってこない。二人してキャラ選択でもたもたしていたせいで、対戦はかなり後のほうになりそうだった。
「なあ、シルビアちゃんってどんなコだよ?」
ふいに五十嵐が興味津々で聞いてきた。いつの間にか「ちゃん」付けだし。
「見てのとおり、見た目は清楚なお嬢様だな。でもヤクザの令嬢だから口が悪いし、お嬢様口調のヤンキーみたいになってる。あと、自称17歳なのに酒クズ」
「ほー、ヤクザの令嬢設定ねぇ。だから〝お嬢〟って呼ばれてんのかー」
「………………設定なのか怪しいけどな」
「なに?」
「あ、いや、なんでも……。てか、シルビア推しになるのか」
「ちっげーよ! オレ別にVオタじゃねーし。ただまあ……お嬢、可愛くね?」
「わかるぅ~」
こうしてオタクトークをできるようにもなったし、五十嵐はもうじき沼に落ちそうだな……一度ハマったら抜け出せない、メタライブ沼に。
初めて五十嵐とVTuberの話で盛り上がっていると、美波からお呼びがかかった。
「もうすぐ順番だよー」
了解、と俺はゲーム機を手に取る。
折角なのでテレビにゲーム画面を映してプレイしよう。テレビとドックをケーブルで繋ぎ、ドックにスイッチングを設置すると、ゲーム画面がテレビに映った。
テレビ画面に映る対戦ルームには、マリア、シルビア、俺、美波の四人だけ。
「そうか、十五戦目ということは今のところ両チームとも七勝……」
「うん。だから、あたしたちの対戦結果で罰ゲームがどっちになるか決まる」
赤チーム ⇒ マリア&ショウ(俺)
青チーム ⇒ シルビア&夏空ホタル(美波)
「この振り分けだと、俺たち赤チームが勝てば罰ゲームを回避できるわけか」
「あたしがそれっぽく負ければいいんだよね」
「頼めるか?」
「任せて、秋山くんのためだもんっ。……それに、いたずら好きでかわいいダークさまを『クソガキ』なんて言うお嬢は、恥ずかしい目に遭っちゃえばいいんだよ」
ククッ、と魔界の民である美波はいじわるな笑いをする。
今の状況は将棋でたとえるなら王手をかけたようなもの。母さんのエロASMRとかいう地獄は回避できたも同然だ。
勝ったな(確信)!
『あら? 夏空ホタル……貴女もしや、VTuberのホタルさんではなくて⁉』
突然、シルビアが美波のプレイヤー名に食いついた。
予想外の展開に、当の美波と俺は「えっ……」と互いに顔を見合わせた。
『明るくて可愛い名前ねぇ。シルビアちゃんの知ってる人?』
『わたくし、新人VTuberを毎日チェックしてるんですが、その一人ですわ。現役の女子高生でして、バイトしながら配信なさってる努力家さんなんですの。ゲームの腕前はとてつもないですわよ、この方』
『へえ~~! じゃあ遊びに来てくれたのね! ホタルさん~、楽しんでってね~』
コメント
:作業しながら聞いてたらホタルちゃんの名前出てきて腰抜かしそうになったわw
:ホタルちゃん、今は配信外なのかー
チャット欄にも美波のリスナーはちらほらいるようだった。
『同じチームになれて光栄ですわ。一緒にカチコミしましょうね、ホタルさん!』
気さくに話しかけるシルビアに、美波はゲーム内の定型文で「ありがとうございます」に続き、「頑張りましょう!」と相手に送った。
驚いた五十嵐から「美波さん、VTuberなのか……?」と聞かれ、「ううん、人違いだよ」と美波はごまかした。たぶん、俺は最初期のリスナーだったから正体を明かしてもらえただけで、基本的には身近な人にも隠す方針なんだろう。
パンパン、と自分の頬を叩く美波。
気持ちを入れ替えたかのように闘志みなぎる瞳の彼女に、俺は顔を引きつらせた。
「あの、美波……?」
「ごめん、裏切る。もうあたし、お嬢のために体張るしかなくなっちゃったから」
俺は苦笑する。
「……ま、しょうがないな」
リスナーを大事にしたい美波の気持ちは理解しているつもりだし、わざと負けてもらわなくても正々堂々と戦って勝てばいいんだ。
バトルが始まる前に全員の使用キャラを眺めておこう。
まずは倒すべき青チーム――
シルビアの使用キャラは、ピンクのドレスが似合うお姫様だ。おっとりとした外見のキャラだが溜め技の火力は凄まじく、高火力のコンボもあるため侮れない。
美波の使用キャラは、バトルスーツに身を包む女ファイターだ。格闘が強いうえ、相手を麻痺させるパラライザーといった遠距離技まで持つ。プレイヤーの実力を考えると、一番警戒すべきは美波のキャラだろう。
次は俺たち赤チーム――
マリアの使用キャラは、女神のお姉さんだ。盾と杖を装備している見た目から、近接技と魔法を使いこなす。一撃必殺技を持つ強力なキャラだが、母さんは『女神』というだけで選んだから期待してはいけない。
そして俺の使用キャラは、小柄な天使の少年だ。弓矢での遠距離技がメインのキャラで、天使らしく白い翼で飛行もできる。ただ、高火力の技を持っていないためチーム戦ではサポート役の側面が強い。
「ねえねえ。秋山くんのチーム……ぷぷっ。コメントで『おねショタ』って言われてるよ」
「おいコラふざけんな」
やがてバトルステージがランダムで決められた。半球状のドームをひっくり返したような空中要塞であり、逃げ場はない。落下するか吹っ飛ばされてステージに戻って来られなければリタイアだ。
ステージの決定と同時に、テレビ画面に戦いのコールが表示される。
――READY TO FIGHT!
――3、2、1……
――GO!
と、二人を焚きつけるため必死に盛り上げる俺。
だが、肝心の二人から白い目で見られていることに気づいた。……え、なんで?
「秋山よぉ……そんなにマリアママのエロボイスが聞きてぇのかよ。変態か?」
「逆だ逆ゥ! 聞きたくないからマリアを勝たせるために参戦するんだよ! てか、お前に変態とか言われたくないわ!」
「秋山くん、ママのこと大好きだもんね」ニヤニヤ。
「美波……どっちの意味かわからないけどやめてくれ。泣くぞ」
なんやかんや言いつつも、美波がやると言い出し、五十嵐が便乗する形で全員参戦することになった。美波は協力のために乗ってくれたのかと思ったが、ゲーム機を持っていたあたり元々遊びたかったのかもしれない。
ほどなく、対戦ルームのIDとパスワードが配信画面に発表され、それを頼りに俺たち三人はオンライン対戦に潜った。
対戦ルームの名前は『シルマリ清楚の部屋』。人気VTuberの配信だけあり、IDとパスワードが発表されると五秒もしないうちに部屋が満員になった。なんとか三人で部屋に滑り込めたのは運が良かったとしか言いようがない。
一戦目は、いきなり五十嵐の出番だった。
「よっしゃ、行ってくるぜ!」
対戦で使うキャラを選択した五十嵐は、画面内のリングへと上がる。
リングでは既にマリアとシルビア、それにリスナーの一人が待っており、五十嵐が加わると同時にチームが自動で割り振られた。
赤チーム ⇒ マリア&リスナー
青チーム ⇒ シルビア&五十嵐
「おっ? シルビアって人と同じになっちまったか。自動だし、しゃーないな」
「……五十嵐、わざと負けてもいいんだぞ?」
「ぶはははは! お前のリアクションがおもしろそうだから絶対勝つわ!」
「やめろおおおお‼」
「っしゃあ! ぶちのめすぜマリアママァァ!」
~三分後~
――GAME SET!
と、ゲーム画面に表示される。
「五十嵐、ナイスファイト♪」
「……二度とやらねーわ、こんなクソゲー」
敗北者はいつもそう言う。
一戦目の対戦結果は、マリア&リスナーの勝利で終わった。
好調な出だしでエッチなお母さんが遠のいてくれたことに、俺はほっと胸を撫で下ろす。
その横で不貞寝を決め込む五十嵐。普段うるさい奴が静かになると空気が重くなるから勘弁してほしい。
『一緒に戦ってくださった方、ありがとうございましたわっ』
シルビアが画面越しに明るく語りかける。
『結果は残念でしたが、わたくしを守ってくださった場面なんか漢気があってカッコよかったですわよ。次やるときは、一緒に相手をぶちのめしてやりましょうね!』
五十嵐はベッドから起き上がると、「しゃーねえなぁ」とにやけた。ちょろすぎか?
その後も、マリアとシルビアはチーム戦を続けていった。リスナーの中にはストブラ日本最強のプロゲーマーまでおり、有名プレイヤーの参戦でチャット欄は盛り上がりを増す。
俺と美波の番はまだ回ってこない。二人してキャラ選択でもたもたしていたせいで、対戦はかなり後のほうになりそうだった。
「なあ、シルビアちゃんってどんなコだよ?」
ふいに五十嵐が興味津々で聞いてきた。いつの間にか「ちゃん」付けだし。
「見てのとおり、見た目は清楚なお嬢様だな。でもヤクザの令嬢だから口が悪いし、お嬢様口調のヤンキーみたいになってる。あと、自称17歳なのに酒クズ」
「ほー、ヤクザの令嬢設定ねぇ。だから〝お嬢〟って呼ばれてんのかー」
「………………設定なのか怪しいけどな」
「なに?」
「あ、いや、なんでも……。てか、シルビア推しになるのか」
「ちっげーよ! オレ別にVオタじゃねーし。ただまあ……お嬢、可愛くね?」
「わかるぅ~」
こうしてオタクトークをできるようにもなったし、五十嵐はもうじき沼に落ちそうだな……一度ハマったら抜け出せない、メタライブ沼に。
初めて五十嵐とVTuberの話で盛り上がっていると、美波からお呼びがかかった。
「もうすぐ順番だよー」
了解、と俺はゲーム機を手に取る。
折角なのでテレビにゲーム画面を映してプレイしよう。テレビとドックをケーブルで繋ぎ、ドックにスイッチングを設置すると、ゲーム画面がテレビに映った。
テレビ画面に映る対戦ルームには、マリア、シルビア、俺、美波の四人だけ。
「そうか、十五戦目ということは今のところ両チームとも七勝……」
「うん。だから、あたしたちの対戦結果で罰ゲームがどっちになるか決まる」
赤チーム ⇒ マリア&ショウ(俺)
青チーム ⇒ シルビア&夏空ホタル(美波)
「この振り分けだと、俺たち赤チームが勝てば罰ゲームを回避できるわけか」
「あたしがそれっぽく負ければいいんだよね」
「頼めるか?」
「任せて、秋山くんのためだもんっ。……それに、いたずら好きでかわいいダークさまを『クソガキ』なんて言うお嬢は、恥ずかしい目に遭っちゃえばいいんだよ」
ククッ、と魔界の民である美波はいじわるな笑いをする。
今の状況は将棋でたとえるなら王手をかけたようなもの。母さんのエロASMRとかいう地獄は回避できたも同然だ。
勝ったな(確信)!
『あら? 夏空ホタル……貴女もしや、VTuberのホタルさんではなくて⁉』
突然、シルビアが美波のプレイヤー名に食いついた。
予想外の展開に、当の美波と俺は「えっ……」と互いに顔を見合わせた。
『明るくて可愛い名前ねぇ。シルビアちゃんの知ってる人?』
『わたくし、新人VTuberを毎日チェックしてるんですが、その一人ですわ。現役の女子高生でして、バイトしながら配信なさってる努力家さんなんですの。ゲームの腕前はとてつもないですわよ、この方』
『へえ~~! じゃあ遊びに来てくれたのね! ホタルさん~、楽しんでってね~』
コメント
:作業しながら聞いてたらホタルちゃんの名前出てきて腰抜かしそうになったわw
:ホタルちゃん、今は配信外なのかー
チャット欄にも美波のリスナーはちらほらいるようだった。
『同じチームになれて光栄ですわ。一緒にカチコミしましょうね、ホタルさん!』
気さくに話しかけるシルビアに、美波はゲーム内の定型文で「ありがとうございます」に続き、「頑張りましょう!」と相手に送った。
驚いた五十嵐から「美波さん、VTuberなのか……?」と聞かれ、「ううん、人違いだよ」と美波はごまかした。たぶん、俺は最初期のリスナーだったから正体を明かしてもらえただけで、基本的には身近な人にも隠す方針なんだろう。
パンパン、と自分の頬を叩く美波。
気持ちを入れ替えたかのように闘志みなぎる瞳の彼女に、俺は顔を引きつらせた。
「あの、美波……?」
「ごめん、裏切る。もうあたし、お嬢のために体張るしかなくなっちゃったから」
俺は苦笑する。
「……ま、しょうがないな」
リスナーを大事にしたい美波の気持ちは理解しているつもりだし、わざと負けてもらわなくても正々堂々と戦って勝てばいいんだ。
バトルが始まる前に全員の使用キャラを眺めておこう。
まずは倒すべき青チーム――
シルビアの使用キャラは、ピンクのドレスが似合うお姫様だ。おっとりとした外見のキャラだが溜め技の火力は凄まじく、高火力のコンボもあるため侮れない。
美波の使用キャラは、バトルスーツに身を包む女ファイターだ。格闘が強いうえ、相手を麻痺させるパラライザーといった遠距離技まで持つ。プレイヤーの実力を考えると、一番警戒すべきは美波のキャラだろう。
次は俺たち赤チーム――
マリアの使用キャラは、女神のお姉さんだ。盾と杖を装備している見た目から、近接技と魔法を使いこなす。一撃必殺技を持つ強力なキャラだが、母さんは『女神』というだけで選んだから期待してはいけない。
そして俺の使用キャラは、小柄な天使の少年だ。弓矢での遠距離技がメインのキャラで、天使らしく白い翼で飛行もできる。ただ、高火力の技を持っていないためチーム戦ではサポート役の側面が強い。
「ねえねえ。秋山くんのチーム……ぷぷっ。コメントで『おねショタ』って言われてるよ」
「おいコラふざけんな」
やがてバトルステージがランダムで決められた。半球状のドームをひっくり返したような空中要塞であり、逃げ場はない。落下するか吹っ飛ばされてステージに戻って来られなければリタイアだ。
ステージの決定と同時に、テレビ画面に戦いのコールが表示される。
――READY TO FIGHT!
――3、2、1……
――GO!
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カクヨムにも連載中 ⇒ https://kakuyomu.jp/works/16817139556518382199
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