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第一章 : 崩壊

刻の始動

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…どうしてこうなったんだろう



俺は何がしたかったんだ?
あの女はどうなった?
ああ、そうか。
やっぱり神には勝てるわけがない
最初からこんな事しなければ……!!





 ー時は2232年。この世界は吸血鬼に支配されていた。原因は不明だが、突如として表れた吸血鬼に世界は1年も経たない内に人口の99.97%が吸血鬼にされ、残った僅かな人口は吸血鬼も住めない極地に身を寄せて静かに過ごしていた。例えば、自分の村もその一つだ。…だったはずだ……。

 ー他の村の誰しもが自分の村を噂した。
「あそこの村は吸血鬼が軍地に…」
「人がいないなら早く報告しないと…様に……」

 ー言われていい気分の言葉ではない。いや、気分で言うなら最悪の一言だ。
 吸血鬼が稀にとはいえ、来るというのも一つだが一番は『人が住んでない』という事だ。確かに人が少ない事には間違いないのだが、昔は栄えていた(らしい)し、今でも数人とは言え生活している。

 ーこんな状況でも暮らしている自分や村の人にとっては不愉快以外の何物でもない。
 「同じ人間ならちょっとは助けろよ!」
 声を荒げ、ドアを蹴って少年は外に出た。
 少年  ー  クルトは町に出かけた先、吸血鬼がゴミ箱に捨てていた小汚い上着を少し手荒に着て、妹の帰りを外に出て待った。しばらく待つと妹  ー  シノンが帰って来た。
「ただいま!」
「ああ、お帰り」
 元気に声を出し、前髪を整え始めたシノンに安堵感が生まれた。本来なら自分がするべきであるだろう『吸血鬼の街に潜入し、食糧を盗む』という行動をしている。こうでもしなければ食べる事などほとんど出来ないし、水も飲めない。だから、シノンが街に行くことを止められなかった。
 「今日はパン3個と水(の入ったビン)が4つ、あとは飴玉5つとクッキーが2箱かな」
 綺麗な茶髪を揺らしながら淡々と今日の成果を上げる。幾度とある事に既に慣れてきている様子だった。
 「ああ、ありがとう。これなら2日は大丈夫だな」
 そう言った直後
「今日は疲れたからもう寝るね。お休みなさい~」
「ゆっくり休めよ」
シノンは余程疲れたのか、いつもよりかなり早く眠った。

 ー思えば両親が吸血鬼に殺されてからシノンに無理させてしまったかもしれない。それからというもののいつも俺の代わりに率先して行動してくれるようになった。 ある日
「何故そんなに俺の為に動こうとする、もっと自身の為に動いてもいいだろ?」
と聞いた事があった。
「お兄ちゃんもお父さんやお母さんみたいになって欲しくないから」
「自分がどうなってもいいというのは一種の”怠惰”だ。自身の危険を第一に行動しろ。」
 確か自分はこう言ったはずだが……。こう言った後、シノンはさらに俺に尽くした。
 守ってくれるのは有難いが、俺がシノンを守っているわけではないし、もしも俺のミスでシノンが
死んだら……。正直、目も当てられないだろう。
 死なない様に今日ばかりはゆっくり休んで明日にそなえて欲しいと俺はシノンの寝顔を見て、自室に戻り眠りについた。

 ー翌日、いつもの1日が始まる。まず最初に、昨日に妹が盗ってきた飴玉を一つずつ用意する。
ー以上だ。
 シノンに文句を言うワケではないが、盗ってくる量が少ない。仕方のない事ではあるのだが明日の分を考慮すると、どうしても朝は少なくなってしまうのが現状だ。

 …珍しくシノンが起きてこない。いつもならそろそろ起きて身だしなみを、亡き母のドレッサーで整え始める頃だろう。昨日の様に疲れが出たなら珍しくもないだろうが、それにしてもやけに遅い。
「早く起こさないと…」
そう呟きながら妹の部屋に向かう。
 俺とシノンは離れた小屋に住んでいる、だから時折こうして起こしにいく事があった。ゆっくり休んでほしいというのは本音だが、妹の部屋を掃除するのは自分だ。正直ずっと寝てられるのもかなり困る、というか既に昼前なんだが……。

 そんな事を考えながらもシノンの部屋に着いた。距離自体はそう遠くはなく、走れば1分もかからない距離だ。
 シノンの部屋をノックし、
「シノン、そろそろ起きてこい。もうすぐ昼だぞ」
と、声をかけた。だが、起きてこない。
「疲れたのか?寝てたい気持ちも分かるが一度起きて朝ご飯を食べろ。そうしないと掃除も出来ないだろ」
2回目の声かけにも黙っていたままだった。

…おかしい。シノンは寝起きはいい方ではないが2度声をかけて起きない事は今までなかった。
ドアを強引に開けようとした。が、開かない。いや、開かないという感触ではない、開けてくれないという感覚だ。
「シノン!?大丈夫か!?」
声を荒げるが、起きてくる様子は一向に見られない。
「そうだ……窓だ」
ドアが開かないなら窓を割れば入れる。そう考えた俺は真っ先に家の裏側にある窓に走った。不思議な事に窓は開いている……誰かが入ったのか?

…嫌な予感しかしない。シノンを早く助けないと…。
 その一心で素早く窓から家に入り、明かりを点け、
「シノンに手をだすなあぁぁぁぁ!!!!」
普段は出さない程の声で敵を威嚇した。
……つもりだった。そこに敵の姿などなく、俺の声に驚いたのか床にペタリと座り込んだ下着姿のシノンがいた。

「……シノン?」
「…朝から強烈な事してくれるね、
お・に・い・ちゃ・ん?」
…シノンが怒っている。怒った時のシノンは小さいときによく怒られた母親譲りだ。
「…いや、2回声はかけた…」
その言葉を遮るかのように
「言い訳は却下!というか服を着流から出て行け~!!!!」
さっきの俺の声が比にならないほどの大きな声で怒鳴った。
…素直に出て行く事にした。事情は後で説明しよう…………。

 「で?要件は?」
「いや、朝ご飯に呼ぼうとしてきたんだが、2回声をかけても出なかったしドアを開けようとしても開かなかった。だから窓から入ろうと…」
事情は全て話した。だが、シノンは
「ふ~ん…。着替え中とは考えなかったんだぁ~?」。
シノンの鋭い眼光が心に刺さる。
怖い。その青く光る眼光が怖い。普段の元気さが凍るかの様な目は俺の心を屈服させた。
「ごめん!」
その場で土下座して謝った。意外にもシノンは
「その一言が何故言えないのかな…。まぁ、次からしないって約束してくれる?」
「もちろんそのつもりだ」
逆に約束しないとどうなるのか…想像したくなかった。
「分かればよろしい♪」
良かった。とりあえず機嫌は直ったみたいだ。ホッと肩を撫で下ろし、妹を連れて食卓に向かった。
 …ちなみに似た様な事であれば4回目だ。

 ー朝と昼のご飯を済ませて、シノンと一緒に外に出た。今日は訓練の日で村の仲間内で戦い、お互いに力を身につける事を目的としている。
 …ふと時間が気になり、シノンに時計を見てもらった。
「今は何時だ?」
「え~と……12時…42分くらいかな」
「42分も遅刻してるじゃねーか!」
まずい。そう思った矢先にとどめと言わんばかりの悲報が舞い込んだ。
「ごめんごめん。1時間遅れてるんだったこの時計」
俺は何をどう突っ込んだらいいのか分からずシノンを引いてとにかく走った。
…下手すれば死にかねないかもしれない。

 ー古いというか何となく神秘的な洞窟の広場に俺と妹は集まった。少し余談だが、この洞窟は昔は神殿だったらしく壁に古い文字が描かれている。
「こういう綺麗な場所っていいよね!」
シノンが走り回る。確かにこの場所は綺麗だが、神々しくて自分達の居場所ではないと思ってしまう。

 広場の隣に繋がっている通路を歩くと、唯一神と呼ばれる神『0』の像がある。 
遥か昔の話だが、吸血鬼が現れた事が何度かあった。『0』は吸血鬼達を追い払い、人々を平和に導いたという。一見よくある様な神話の一説に聞こえるが、人々が吸血鬼に対する抵抗力がない以上、『0』は正に神様と言える存在だった。
「『0』、あんたの出番だぞ」。首から垂らしているペンダントを強く握り締めて願った。都合がいいが神頼みでもしないとこの状況は覆らないだろう。
 俺は伝わりもしない願い事を何処か少しだけ伝わると信じてその場を後にした。

 ー広場に戻ると村の仲間が全員集まっていた。
「おっせえよ!!何時間待たせる気だ!?」
「まだ2時間だろうが」
「お前は2時間も待てというのか!?この俺に2時間も待てと言うのか!?」
「お前限定なら永遠と待たせるさ」

この五月蝿いのはガロンだ。容姿は明るい茶髪で高身長、何よりイケメンといった所か。こいつは昔からの腐れ縁で3歳の時から一緒にいる3人組の1人だ。いつも訓練をしているやつで何時でも俺の前を行こうとした、負けず嫌いな性格だった。俺も負けず嫌いだったから2人でよく喧嘩しながらもお互いを高めあった。その時の事が功を成してか、ガロンはこの付近の村一の槍使いに、俺は剣士になった。そういう意味ではこいつにとても感謝している。が、その気持ちも五月蝿さで全部吹っ飛んでしまう。
「この野郎!今日こそは決着をつけてやる!」
「望むところだ!」

今にも戦闘態勢に入ろうとしたその時
「け、喧嘩はダメですよぉ…」
と優しい声が間に挟まった。
この紅い髪が特徴なのはティーンだ。ガロンと同じで小さい頃から一緒にいた3人組の内の1人でとっても優しい子だった。いつも喧嘩している俺とガロンを気弱ながらも勇敢に間に入って納めてくれた。その優しさは動物にも好かれる様で、ティーンの家にはいつも動物がいる。
…一見、優しい普通の女の子といった所だが実は裏の一面がある。
「…っ!」
「…ひっ」 「…はぁ」
「さっき静かにしろといったでしょ!?こっちはいつも喧嘩止めるの正直面倒なんだよ!周りの奴らも迷惑してるんだ、とっとと黙らないと外に出すよ!?」
「「はい!」」
2人が声を揃えて返事を返す程にティーンは怒らせると怖い。最も、怒るのは2人で喧嘩している時ぐらいだ。
…なるべく喧嘩しない様にしないとな……。

そんな話をしていると
「本当迷惑。さっさと出ていけば?」
冷たい声が飛んだ。
 俺と同じ黒髪をしているのはチロルだ。チロルは2年程前に村の近くで行き倒れていて、シノンが食料を分けた所シノンの事を気にいったらしく、以来シノンの護衛をしている。アリラルに行く時もついていってくれて正直、無くてはならない存在となってきている。だが、シノン以外には警戒心が強くて冷徹な態度を取る為か他の村の人には嫌われている。
「いつも妹の為にありがとう」
そうチロルに言うが
「別にあなたにしてるわけじゃないわ」
と返してくる。
…過去に何があったんだろうか。できる事なら力になりたい所だ。

「…………。」
「…別に喋ってもいいんだぞ?」
 この無口なやつはクロという。必要最低限しか言葉を話さないし、特別誰に対して好意を持っているわけではない。ただ、俺たちに対して敵意は向けず、寧ろ吸血鬼の不意打ちから守ったくらいだ。彼女なりには俺たちは仲間と認識してくれているのかもしれない。
「……(もぐもぐ…)」。
…あと、見た目の割によく食べる。それも凄い量だ。

「よく食べる事に飽きないね?なんだったら僕が何か持ってあげようか?」
 金髪の好青年はアデルハートという。高貴な見た目の通り、上品な性格で何より綺麗好きだ。はっきり言って変わり者の多いこの仲間内で一番の常識人だろう。
 「クルト、そろそろ訓練を始めよう」
アデルハートがそう言うとやる気が出たらしく、それぞれが訓練に励もうとした。
だが、
「雨だ…」
この広場は当然の事ながら屋根が無い。雨はみるみる強くなっていき、あっと言う間に水溜りが出来る程になってしまった。ここまでとなると訓練など出来る訳がなかった。
 「明日は遅れるなよ?」
そう最後に言ったガロンに
「ああ、分かってる」
と言い、その広場を後にした。

 …何故かは分からないが訓練してないのにどっと疲れた。
体がだるい。というか熱もある感触だ。
シノンが目の前に見える。助けて欲しいが、手を伸ばそうとしても届かない。シノンじゃなくてもいい、誰か助けてくれ…。
(駄目だ…意識…が……)
俺はその場に倒れ込んだ…………。

To Be Continued…
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