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○月×日『元カレと僕と…』
しおりを挟む「茜さんからだいたい聞いてます」
歩くんは僕の正面に座って、静かに口を開く。
「すごく面白そうに話すから、驚きました。まさか、まことさんが……て、……今でも信じられなくて、」
だからか……、
それで納得した。
歩くんから急に会いたいなんて、何かあると思った。
矢野くんに釘を刺されてから僕との接触は1度もなかったから……。
でも、話しが将平くんとのことだってのは、想定通りだ。
「茜さんが嘘をつくわけないって……、でも、まことさんはそんなことする人ではないし……」
……そんなことする人じゃない、か……。
傷つく資格はないけど、やっぱり傷つく。
それにしても、歩くんは茜さんを信頼してるんだな。
僕なら茜さんの言葉は嘘だと疑ってしまう。
歩くんは僕が思ってたより混乱してる。
茜さんはなんて歩くんに話したんだろ。
想像するに、適当に話しを盛ってそうだけど……。
「……浮気してる。それだけだよ」
小さな声でそう言った。
地元から3駅離れた初めて入ったカフェだ。
知り合いはいないだろうけど、一応声は潜めた。
僕の告白に、歩くんはやっぱり、信じられない……と言いたそうな顔をした。
「…相手は、矢野くんのお兄さんなんだ。」
「……その人のこと、好きなんですか?」
「え?」
予想外の質問をされる。
「ううん、好きじゃ……ないよ」
ライクかラブかでいったら、ライクだと思う。
「好きじゃないのに……、好きじゃない人と浮気ですか?前は、恋人でない人と関係を持つことを悩んでたのに」
「……それは……そうなんだけど、」
「矢野先輩とつきあって、それも解消されたはずなのに、なんで……」
なんで……か。
……ぼくも、つきあってみてから今の感情が生まれたから、なんて説明していいかわからない。
ただ、付き合ってみて、矢野くんとの関係は理想とはかけ離れてたことがわかってしまった。
理想的じゃなかったからって、嫌いになったりはしないけど、釈然としなかった……。
「……なんかね、恋人になっても、矢野くん変わらないんだ。全然じゃないんだけど、主従関係みたいなの、ぬけなくて……それが、恋人じゃないんだよね、……ぼくのこと、好きなんだなって解る瞬間もあるんだけど、恋人ぽいことする時は、やっぱり奴隷になったみたいで虚しくなるんだ」
矢野くんはそうは思ってないかもしれないけど、僕は無理だ。
恋人になったのにまだこんな思いをするのはなんでか、モヤモヤしたものが心の中に渦巻いてた時、将平くんが現れた。
「浮気のこと言ったら、矢野くんどんな顔するのかなって、矢野くんが今までしてきたこと、僕がやり返したら、矢野くんはぼくのこと好きなままでいてくれるのかなって……」
どこかで、無理だろうな……と思ってる自分がいる。
でも試してみたくて、すごく危険な橋を渡ってる。
「……別れることになってもいいんだ、」
ただの僕のわがままだけど、矢野くんを試してみたかった。
将平くんは、そのために利用させてもらってるにすぎない……はず。
身体の相性が矢野くん以上に良いのは、思ってもみなかったことだけど、矢野くんと将平くんの経験の差ということにしておく。
「まことさん…、…。」
歩くんはまだ言いたいことがあったけど、諦めたって顔をしてる。
「柚野ちゃん…」
ここで思ってもみない人の声が聞こえる。
「えっ、」
声の方に慌てて顔を向けると、聞き間違いじゃない。
そこには山梨先輩がいた。
………………血の気が引いた。
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