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○月×日『すきの種類』
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将平くんに言われたことを考えてみる。
ストックホルムシンドローム。
この言葉の意味すらわからなかった僕は、まずはスマホで意味を調べた。
誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象……らしい。
僕がこれだと、将平くんは言った……。
深く、深く、記憶を掘り返してみる。
矢野くんとは幼稚園から一緒。
中学三年の春までは、普通に友達だったはずだ。
それまでは対等……だった。
長身でイケメン王子様な矢野くんと、チビで冴えない僕は誰が見ても凸凹不釣り合いな2人だったけど、すごく、仲良かった。
それを壊したのは矢野くんだ。
無理矢理体を引き裂かれた。
それが愛情の裏返しだと知った今でも、今までで1番怖い出来事だ。
あのころの僕が今の僕を見たら驚くだろうな……
将平くんに言った通り、高校に上がってから矢野くんが女の子と遊ぶようになって、僕はそれを不快に思った。
だって、意味がわからなかった。
僕としてるのはなんで?
女の子とするなら、なんで僕と……?
漠然と、セックスは好きな人同士がする行為だと思ってた。
だから、矢野くんは僕のことを友達以上に思ってるんじゃないかって考えたこともあった。
けど、矢野くんが花村さんと寝てるのを知った時、僕の勘違いだってわかった。
矢野くんのセックスに意味なんてない。
手近な僕に手を出しただけだったんだ。
そう思ったら、悲しかった。
なんで悲しいか。
矢野くんに好かれてると思うと、嬉しかったからだ。
僕も好きだった。
もちろん友達として。
不釣り合いでも、矢野くんが隣にいるのが当たり前だった。
そんな矢野くんが友達以上に僕のことを好きだったら、それは嬉しいことだと思ったんだ。
矢野くんに抱かれてから、僕らは対等じゃなくなった。
僕は矢野くんの隣から、後ろを歩くようになって、矢野くんが抱く女の子や、花村さんと同等になってしまった。
友達以上どころか、友達以下になってしまった。
寂しくて、寂しくて、焦がれた。
矢野くんが離れてく。
僕は、矢野くんのセックスを受け入れるようになった。
友達以下でも、その他と同等でも、その他の中で上位にいたかった。
ズボン脱げ、そう言われて躊躇わないわけがなかったけど、僕はこんな風にしか矢野くんに求められてない。
こんな時くらいしか、矢野くんを近くに感じられなかった。
こういう感情は、嫉妬に近いものじゃないんだろうか。
確かに、矢野くんを好きになるポイントがわからないかもしれない。
あえていうなら、恐怖と、……少しの独占欲。
矢野くんの隣に並ぶのが僕じゃなくなって、その不特定多数に……そう、嫉妬したんだ。
その後、篤也さんに出会って、矢野くん以外の人と初めてセックスした。
そこで再確認した。
矢野くんに知られて嫌われたくないと。
矢野くんの恋人というわけじゃない。
だから、僕が誰と何したって矢野くんには関係ない。
ほんとは、望んでしたわけじゃないから、言い訳する必要だってないんだ。
最初こそ葛藤しながら篤也さんとの関係を続けてたけど、一緒にいるうちに、僕はこの木崎篤也という人を好きになって、この好きは、矢野くんの好きとは違うものだと気づいた。
矢野くんを想う切ないものじゃない。
すごく暖かいものだった。
篤也さんに抱かれる時は、安心できた。
矢野くんと違って優しい。
僕を見る目も、触れる手も。
恋人て、こんなに温かいものなんだと思った。
歩くんを好きだった時も、すごくドキドキした。
一目でもその姿を見たいなんて、思ったこと無かったのに、歩くんにはそれがあった。
何度も図書室に通ったのはそのためだ。
矢野くんへの気持ちは、篤也さんや歩くんとは違う。
心の底から安心できない危うさがある。
今のこの満たされた感じは、確かに安心感だと思うけど、それは、時が経つと薄れる気さえする。
また矢野くんの隣に立てた。
そのポジションを再び得た満足感にすぎない。
……ダメだ。
将平くんの言葉に惑わされてる。
矢野くんと話さなきゃ。
本当は怖い。
将平くんに言われたからって、矢野くんへの気持ちを疑ってるなんて言ったら、怒るかもしれない。
……矢野くんに嫌われたくない。
嫌われたくないこの気持ちは、好きってことじゃないの?
僕達は、前までの僕らじゃない。
だから、大丈夫。
大丈夫だよ。
ストックホルムシンドローム。
この言葉の意味すらわからなかった僕は、まずはスマホで意味を調べた。
誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象……らしい。
僕がこれだと、将平くんは言った……。
深く、深く、記憶を掘り返してみる。
矢野くんとは幼稚園から一緒。
中学三年の春までは、普通に友達だったはずだ。
それまでは対等……だった。
長身でイケメン王子様な矢野くんと、チビで冴えない僕は誰が見ても凸凹不釣り合いな2人だったけど、すごく、仲良かった。
それを壊したのは矢野くんだ。
無理矢理体を引き裂かれた。
それが愛情の裏返しだと知った今でも、今までで1番怖い出来事だ。
あのころの僕が今の僕を見たら驚くだろうな……
将平くんに言った通り、高校に上がってから矢野くんが女の子と遊ぶようになって、僕はそれを不快に思った。
だって、意味がわからなかった。
僕としてるのはなんで?
女の子とするなら、なんで僕と……?
漠然と、セックスは好きな人同士がする行為だと思ってた。
だから、矢野くんは僕のことを友達以上に思ってるんじゃないかって考えたこともあった。
けど、矢野くんが花村さんと寝てるのを知った時、僕の勘違いだってわかった。
矢野くんのセックスに意味なんてない。
手近な僕に手を出しただけだったんだ。
そう思ったら、悲しかった。
なんで悲しいか。
矢野くんに好かれてると思うと、嬉しかったからだ。
僕も好きだった。
もちろん友達として。
不釣り合いでも、矢野くんが隣にいるのが当たり前だった。
そんな矢野くんが友達以上に僕のことを好きだったら、それは嬉しいことだと思ったんだ。
矢野くんに抱かれてから、僕らは対等じゃなくなった。
僕は矢野くんの隣から、後ろを歩くようになって、矢野くんが抱く女の子や、花村さんと同等になってしまった。
友達以上どころか、友達以下になってしまった。
寂しくて、寂しくて、焦がれた。
矢野くんが離れてく。
僕は、矢野くんのセックスを受け入れるようになった。
友達以下でも、その他と同等でも、その他の中で上位にいたかった。
ズボン脱げ、そう言われて躊躇わないわけがなかったけど、僕はこんな風にしか矢野くんに求められてない。
こんな時くらいしか、矢野くんを近くに感じられなかった。
こういう感情は、嫉妬に近いものじゃないんだろうか。
確かに、矢野くんを好きになるポイントがわからないかもしれない。
あえていうなら、恐怖と、……少しの独占欲。
矢野くんの隣に並ぶのが僕じゃなくなって、その不特定多数に……そう、嫉妬したんだ。
その後、篤也さんに出会って、矢野くん以外の人と初めてセックスした。
そこで再確認した。
矢野くんに知られて嫌われたくないと。
矢野くんの恋人というわけじゃない。
だから、僕が誰と何したって矢野くんには関係ない。
ほんとは、望んでしたわけじゃないから、言い訳する必要だってないんだ。
最初こそ葛藤しながら篤也さんとの関係を続けてたけど、一緒にいるうちに、僕はこの木崎篤也という人を好きになって、この好きは、矢野くんの好きとは違うものだと気づいた。
矢野くんを想う切ないものじゃない。
すごく暖かいものだった。
篤也さんに抱かれる時は、安心できた。
矢野くんと違って優しい。
僕を見る目も、触れる手も。
恋人て、こんなに温かいものなんだと思った。
歩くんを好きだった時も、すごくドキドキした。
一目でもその姿を見たいなんて、思ったこと無かったのに、歩くんにはそれがあった。
何度も図書室に通ったのはそのためだ。
矢野くんへの気持ちは、篤也さんや歩くんとは違う。
心の底から安心できない危うさがある。
今のこの満たされた感じは、確かに安心感だと思うけど、それは、時が経つと薄れる気さえする。
また矢野くんの隣に立てた。
そのポジションを再び得た満足感にすぎない。
……ダメだ。
将平くんの言葉に惑わされてる。
矢野くんと話さなきゃ。
本当は怖い。
将平くんに言われたからって、矢野くんへの気持ちを疑ってるなんて言ったら、怒るかもしれない。
……矢野くんに嫌われたくない。
嫌われたくないこの気持ちは、好きってことじゃないの?
僕達は、前までの僕らじゃない。
だから、大丈夫。
大丈夫だよ。
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