上 下
1 / 10

1 母との別れ

しおりを挟む
 様々な春の花がほころび始めた頃、母は息を引き取った。

 教会で葬儀にはお隣のジョージさん夫妻や母さんと仲の良かったご婦人方が出席してくれ、一輪ずつスイトピー花を棺に添えて、お悔やみの言葉をかけてくれた。ジョージさんと奥さんのナナさんは

「レイちゃん。今日はうちで晩御飯食べなさいね」

「レイ坊、また後でな。家で待ってるぞ」

「はい、ありがとうございます。これまでも母のことを気にかけてもらってとても助かりました。ありがとうございました」


 今日は天気がよく緑が青々として風もなくとても穏やかな日だった。父さんの隣に埋葬された母さんの墓標と父さんの墓標に花を供えた僕はその場に座り込んだ。

「ごめんね。母さん。薬師の癖に母さんを助けられなくて。父さんごめんね。母さんを守れなくて」

 ぽろぽろと涙がこぼれた。半人前薬師の僕の薬じゃ助けられなかった。


 温暖な気候でめったに雪が降ることはないのに、年明けに十数年ぶりの大雪が降った日、母さんは風邪をこじらせて体調を崩すようになった。僕はもっと効能の高い薬草を手に入れたくて、幼馴染で冒険者のギルバートに頼んで森の奥に連れて行ってもらい、新しい薬草を見つけてたくさん摘んで、母さんの好きなリパの実をもいで帰った。

新しい薬草で薬を作る。飲みやすいように取れたてのリパの実も加えてみる。

「母さん、気分はどう?新しい調合で薬を使ってみたんだ」

「ありがとう。薬を飲むとすっきりするわ。でも無理だけはしないでね」


 母さんは僕の頭をなでてくれた。

 それから、何度かギルバートに連れて行ってもらったり、ギルバートのパーティが日帰りや一泊のクエストを受ける際には同行させてもらいパーティの食事の用意や雑用をこなしながら、空いている時間に薬草や果物を取らせてもらい、家に帰れば母さんに効く薬を調薬していた。

 一生懸命薬を作っては母さんに飲んでもらう。
飲んだ後は顔色と体調も良くなる。休んでいてくれたらよいのに仕事に出てしまう。すると2~3日で体調が悪くなってしまう。

「母さん。父さんが元気だったころみたいな生活はできないかもしれないけど、何とか生活できるだけのお金は薬師の仕事で稼ぐから仕事に行かずにゆっくり休んでよ」

「ありがとう。でも母さんも働きたいの。あなたにおいしいものを食べさせてあげたいし、少しでもあなたにお金を残せたらと思っているの。あなたにはいろいろな経験をしてもらいたいから」

「ありがとう母さん。うれしいけど僕は母さんの体のほうが心配だよ。僕がもっと働いておいしいもの食べさせてあげるよ。だから無理しないで」

「ふふふ。母というのは我が子のためにいろいろとしてあげたいのよ」

「ありがとう。でも絶対に無理はしないでね」

 ヤンさんの薬局に薬を下ろして、ギルバートにお願いしてまた薬草採取に行くことにした。ギルバートは快く引き受けてくれたけど、パーティーメンバーには煙たがられている。ギルに迷惑をかける厄介者扱いだ。ギルが見ていないときに、小突かれたり足をかけて転ばされたり嫌味を言われた。

 市販の薬草では効果が半減してしまうので、どうしても新鮮な薬草が必要だったから、そんなことにかまっていられなかった。迷惑がられても頭を下げて仲間に入れてもらった。

 花も咲き始め薬草ももうじき新芽がでてもっと効果の良いものが作れると思った矢先
母が眠るように息を引き取った・・・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蔑まれ王子と愛され王子

あぎ
BL
蔑まれ王子と愛され王子 蔑まれ王子 顔が醜いからと城の別邸に幽閉されている。 基本的なことは1人でできる。 父と母にここ何年もあっていない 愛され王子 顔が美しく、次の国大使。 全属性を使える。光魔法も抜かりなく使える 兄として弟のために頑張らないと!と頑張っていたが弟がいなくなっていて病んだ 父と母はこの世界でいちばん大嫌い ※pixiv掲載小説※ 自身の掲載小説のため、オリジナルです

婚約破棄されたから伝説の血が騒いでざまぁしてやった令息

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されたら伝説の血が騒いだ話。

だから振り向いて

黒猫鈴
BL
生徒会長×生徒会副会長 王道学園の王道転校生に惚れる生徒会長にもやもやしながら怪我の手当をする副会長主人公の話 これも移動してきた作品です。 さくっと読める話です。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

生徒会長親衛隊長を辞めたい!

佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。 その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。 しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生 面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語! 嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。 一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。 *王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。 素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。

推しを擁護したくて何が悪い!

人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。 その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。 理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。 そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。 「凛に危害を加えるやつは許さない。」 ※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。 ※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。

処理中です...