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第11話:きっとこの夜が人生で一番幸福の日になるだろう。

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 運命が漸く繋がる。二人の頭には今、その言葉しかないだろう

 寝室へと移動した二人はすぐさまベッドへと雪崩込み、頭がクラクラになるまで深いキスを貪った。

 自分には奥ゆかしいといわれる日本人の血が半分流れていることもあってか、元々性に淡泊な方だった。グラマラスな女性が載った写真は美しいと思うが、それで興奮は覚えない。性交も成人男性として興味はあるが、積極的に求めることはない。セイの場合はヴィートという壁があったことから他者と身体を重ねることから遠ざかっていたが、きっと一般人に生まれてもそうは変わらなかっただろう。

 だが、それが今はどうだ。エドアルドを前にすると、より深くまで触れたい、触れられたいという衝動が収まらない。
奥ゆかしさが聞いて呆れそうだ。

「いいですかセイ、フェロモンを解放します」
「うん、お願い」

 セイを押し倒したエドアルドが、上から覗き込む形で確認してくる。待ち望んでいた瞬間に、セイは胸を大きく高鳴らせて頷いた。

 アルファはその身体から、オメガの自我を奪うほど高濃度のフェロモンを出すことができる。俗に征服フェロモンと呼ばれているそれは、ほとんどがオメガの発情フェロモンに触発されて勝手に分泌されてしまうものなので、自らの意思で操れる者は少ないというがエドアルドにはそれが可能らしい。

 辛くなったらすぐに言ってください、との前置きの後、頬に触れていたエドアルドの首筋が一瞬、熱くなるのを感じた。
 その直後。

「っ、ぁっ」

 煮詰めたジャムのような甘い香りに鼻孔内が痺れたのが先か、それとも全ての毛穴から火が噴き出したかのように全身が熱く滾ったのが先か。ともあれ突然起こった顕著な変化に、セイはこれ以上開かないほどに双眸を見開いた。

 濃度の高すぎる香りに、上手く息が吸えない。あまりの苦しさに耐えられず脱力してしまうと、事態を予想していたであろうエドアルドに抱き締められた。

「大丈夫ですか?」
「ゃ……」

 強い酒を大量に煽った後の、度数の移った吐息みたいな囁きを耳に吹きかけられるとそれだけで腰が震え、きゅうっと下腹が甘く疼いた。
 触られてもいないのに、下腹の塊が固くなってしまったのが自分でも分かる。だがセイに訪れた変化は、それだけでは終わらなかった。

「んっ……」

 男としての生理現象が起こったとほぼ同時に覚えた、臀部の奥に隠れる窄まりの違和感。それを感じると同時に、きつく閉じている入り口の内側がカァっと熱くなって、内膜からトロリとした粘液が滲み出てきた。

「あっ……っ……」

 他のものは一切通さないのに、その粘液だけは外へ出て行くことを特別に許されているかのように肛華から零れ、性器からの先走りとともに下着を濡らしていく。

 分かっている、これが何なのか。
 女性特有の生殖器である膣を持たない男性オメガは直腸の奥に子宮を持ち、ヒートの際にそこから分泌液を出して相手を受け入れる。三ヶ月に一度の発情期と同じ現象が今起こったということはつまり、エドアルドのフェロモンでヒートに入ったということだ。

「くっ……」

 しかし、これほどまでに強いものとは思っていなかった。自分がどんな状況になるかは想像していたものの、少々甘く見ていたことをセイは後悔する。

「きついですか?」
「ううん……平気、だよ……」

 両手両足に一つずつ鉛を括り付けられたかのような重圧は正直つらいが、それと同等に、いやそれ以上に充足感で満たされていて気分がいい。

「直に触れても?」
「いいよ……全部エドに任せるから、好きにして」

 喋ると喉を通る息も熱い。

「フフッ、愛する人から好きにして、だなんて、嬉しくて叫び出しそうだ。でも、気をつけてください。あまり誘う言葉ばかり聞かされると、止まらなくなってしまいます」

 エドアルドは言いながら着ていたシャツを豪快に脱ぎ捨てた後、形のいい指で一つずつ丁寧にセイの着ているシャツのボタンを外していった。全て解き終わったらシャツの合わさりを開き、露わとなった肌の感触を確かめるように掌を全体に這わせる。

「んっ……」

 擽ったさと気持ちよさに主張を示した胸の隆起に、動く指が何度か触れる。普段ならそんな場所など触られたところで何も感じないが、ヒート時は身体中の全てが性感帯へと変わるため、ほんのわずかに擦られただけでも窄まりが期待を抱いてきつく収縮した。

 胸も気持ちはいいが、早く下に触れて欲しい。今日ばかりは気が逸って、焦れてしまう。控えめに腰を揺らすと、エドアルドが喉の奥で優しく笑った。
分かっている。言葉として形にしなくてもセイの願いは伝わっていると、穏やかな眼差しから伝わってくる。

「綺麗だ……」

 胸の上を滑っていた手が鳩尾を、そして臍の上をと順々に降りていき、スラックスへと到着する。そしてそのまま流れるように留め具を外され下着ごとスラックスを降ろされると、途端にエドアルドの顔が恍惚の色に染まり上がった。

「凄い……セイのフェロモンが一気に濃くなって……まるでリキュールを直接血管に注射されたみたいだ」

 嬉しそうに目を細め、生まれたままの姿となったセイを上から眺める。

「ん……」

 どこも触れられていないのに、ただ何もせず見つめられるだけで全身を愛撫されているみたいにゾクゾクと背筋が震えた。

「さて、どこから触れましょうかね」

 全体を揺らしながら主張する肉芯か、それとも目に止まらぬ影でひっそりと待ちかまえている濡れそぼった蕾か。楽しそうに悩みを口にする前で、もう既に最大にまで張りつめてしまったセイの肉芯の先から一滴、期待を宿した透明の珠が生まれた。

「セイはどっちがいいですか?」
「そ……れは……」

 甘く問われるが、どちらを触られても待っているのは快感ゆえ決められない。迷っていると、ふんわりと微笑んだエドアルドが予想外の提案を持ちかけてきた。

「決められませんか? では……両方同時にしましょう」
「え……?」

 何と言われたのだ、と一瞬理解が追いつかなくて首を傾げようとする。が、その前に手をスゥっと足の付け根奥へと伸ばしながら腰をゆっくりと屈めるエドアルドの姿が目に入り、そして直後、唐突に前と後ろ両方の性感帯へ甘美な刺激が始まった。

「ん、あぁっ!」

 自分の指でしか慰めたことのない肉芯が、生温かい口腔の壁に包まれている。しっとりと濡れた後孔も指先で窄まりを柔く突かれた後、優しく入口を解されやわやわと開かれる。するとたちまち秘奥へと侵入しようとしているエドアルドの指を、肛華の内側から新たに溢れたセイの淫液が早速濡らしたのが分かった。

 その後もグチュグチュと入口を開こうとする度に卑猥な水音が立つ。それもまた聴覚からの刺激となり、セイの後孔はローションでも垂らしたかのようにすっかりドロドロになってしまった。

「あ……っぁ、だめ……出、る」

 さすがに男としての快楽は知り尽くしているからか、前部の猛りへの刺激は的確だった。しなやかな弾力の舌で揉むように陰茎や裏筋を舐め、尿道口から先走りが出たところを吸い上げられる。それを何度も繰り返される内に、セイはあっという間に快楽の階段を登らされてしまった。

「エド、離し……も、う……っ、んんっ!」

 このままではエドアルドの口腔に精を放ってしまう。理性を揺さぶられる中でも、それは申し訳ない気分になって腰を引こうとするが、まるでセイの行動を読んだかのように後孔を解していた指を奥深くへと沈められ、不意の衝撃に全身の力が抜けてしまった。
 そこへ追い打ちを掛けるように強く吸われ。

「ああっ!」

 結果はセイの呆気ない敗北で終わった。
 陰茎が小さな痙攣を起こした後、噴き上がるように奥から熱いものが込み上がり、まま外へ飛び出していく。しかし、尿道どころか亀頭を口腔で塞がれていたため、勢いよく散った白濁は全てエドアルドの喉の奥へと消えていってしまい――――。

「え、う……そ……」

 ゴクン、と喉を鳴らしながら嚥下する音が集音器で拾われたかのごとく、リアルに耳に伝わってくると、恥ずかしさに両手で顔を覆うことしかできない。

「セイ? どうしました、気持ちよくなかったですか?」
「そ……いうわけじゃない……けど、こういうの初めてだから……」
「どんな顔をしたらいいか分からない?」

 顔を隠したまま小さく頷く。
 しかし、こうなるのも仕方ないと思って欲しい。初めての性交でフェラチオをされ、ずっと外に放つものだと思っていたものを平然とした顔で飲まれれば、誰だって居た堪れない気持ちになるはず。

「初々しいところが可愛いですね。別にどんな表情でも愛おしいセイには代わりはないのですから、気にしなくてもいいんですよ」

 逆にもっと色んな顔を見せて欲しいと、腰を少し上げたエドアルドに願われる。そうなれば既に心を囚われているセイに断ることなどできず、顔の前に置いていた両手をゆっくりシーツの上へと下ろした。

「変でも笑わないでよ……」
「勿論です。というか、さすがに私もそろそろ笑っている余裕がなくなりそうですから大丈夫かと思いますよ」
「余裕がない?」

 どういうことだろうかと尋ねれば、エドアルドが視線を自らの下腹部に向けた。追って目線を同じ方向へ動かせると、穿いているホワイトのパンツが一目で分かるほど隆起していて、セイは何を指しているのかをすぐに察する。

「早く、貴方の中に入りたい」

 濡れた唇で請われ、違う位置にあるはずの胃と心臓が同時にキュっと締まった。たちまち鼓動とともに送り出された激潮が脳を沸騰させ、目に映る世界が喜びに染まり上がる。
 早くエドアルドと繋がりたい。その言葉だけが脳内でこだました。
 ただ、最愛の対は中に入りたいと願いつつも、まだ蕩け始めた窄まりを指で掻き回すばかりで挿入の体勢に入らない。

「エド? も……いいよ?」
「そんな、まだこちらは指一本分しか開いていないですよ? 余裕がないのは本当の話ですが、だからと言ってセイを傷つけるような結果にはしたくありません」
「けど……」
「大丈夫、すぐに気持ちよくなれるよう、私も頑張りますから」

 まるでお預けを食らった気分だ。目の前に最高のディナーがあって、こちらは空腹だと訴えているのに、全ての料理が出揃うまで手を付けていけないと言われているような。
しかしセイに痛い思いをさせたくないというエドアルドの意志は固いらしく、いくらこちらが誘う目線を送っても二本目の指を足すために入口を解すばかりでなかなか先に進まない。

「そんな不満そうな顔をしないでください。代わりにセイの気持ちいい場所を見つけてあげますから」

 柔らかくなった窄まりに二本目の指を添え、ゆっくりと一本目の後を追うように中へと沈めていく。

「ぁっ……」
「痛いですか?」
「……たく、ない……よ」

 それどころか溢れんばかりの愛蜜が指に絡まりすぎて、二本目が入ったかどうかすら分からなかったぐらいだ。

「ねぇ、エド……もう、お願……」
「ダメです。いい子ですから聞き分けてください」
「だって……」

 これでは気持ちよくなんてなれない。そう文句を告げようとした、その時。

「ん、あぁっ」

 くるりと内襞を大きく混ぜた二本の指の先がある一部に触れた瞬間、背中にある全ての神経が一斉に痺れを起こした。

「やっ、ぁっ!」

 この凄まじいほどの破壊力を持つ快感は何だ。その場所を押される度に勝手に腰が跳ね、尿道に残った残滓が外へと飛び出していく。

「ああ、ココですね……」

 何かを見つけたらしいエドアルドは嬉しそうに呟くと、同じ場所を集中的に捏ねり始める。

「ぃ、ああっ、や、ぁっんっ!」

 体感したことのない快楽に声が止まらない。射精を終えたばかりの性器も、早々に二度目の熱を掴まえてしまった。
 だめだ、気持ちがよすぎて理性を失いそうだ。でも――――。

「や……だっ、エドっ……」

 もう十分快楽に酔わされているし、欲の獣も目覚めている。けれど、セイのオメガとしての本能は尚も『これは違う』と訴えていた。

「セイ……?」
「指、やっ……エドが……いいっ……」

 オメガである自分の身体は、アルファの欲液を纏った肉塊でしか満たされない。きっとこのまま指だけで絶頂を迎えたとしても、酷い欲求不満が残ってしまうだろう。それが分かってしまったセイの本能は、いやしくもエドアルドの熱欲を欲した。

「お願い……エド……」

 どうか、これだけは聞き入れて欲しい。懇願すると眦に溜まっていた涙が自然と落ちた。
 その雫の跡を、エドアルドが唇で受け止める。

「セイのためだと思っていましたが、逆に苦しめてしまったみたいですね。すみません……」

 謝罪の後、ぐずぐずの後孔から、指が引き抜かれた。すると悦楽を弄ぶ圧迫がなくなったことに秘奥の襞が切なくひくついたが、もう不満はなかった。
 大丈夫、すぐに全てを満足させてくれる熱が戻ってくる。
 期待を抱いて待っていると、身体を起こしたエドアルドが穿いていたスラックスの留め具を外し、躊躇いなしに下着ごとすべてを脱ぎ捨てた。

「あ……」

 日本の空手が好きでよく鍛錬を積んでいるという彼の足は、筋肉の形がくっきりと浮き立ちほど隆々としていて、同じ男として見惚れてしまう。だが、今はそれよりも下腹部の中心で、明瞭にその存在を主張するエドアルドの男性器に目が止まった。
 張ち切れんばかりに膨らんだ太幹に、雁高の亀頭。その長く太い彼の雄は一般男性と比べても遙かに大きく、最早凶器に近いと言っても過言ではない。
 おそらく、生半可な覚悟で受け入れればただでは済まないだろう。エドアルドが丹念にセイの後ろを解そうとした理由が、今、やっと理解できた

「怖い、ですか?」

 少しだけトーンの落ちた問いかけが届く。
 どうやら驚きのあまり、まじまじと見つめてしまっていたようだ。

「ご、ごめん、失礼だったよね……でも驚いただけで怖くないよ。それに大丈夫、僕、証拠はないけど自信があるんだ」
「自信?」
「エドとは絶対に繋がれるって。だから、ね……遠慮しないで、僕をエドで満たして」

 確信のない言葉は弱いかもしれないが、本当に怖くなんてなかった。笑顔を見せて頷くと、最初は怖々としていたエドアルドの表情が次第に柔らかくなる。

「ありがとう。セイの言葉に救われました」

 そう言ってエドアルドが頬に軽いキスを落としてくれる。そして、その体勢のままセイの両足を広げ、膝裏を押し上げた。

 反動でシーツから腰が浮き、不安定な状態になる。が、多少の不快など気にもならなかった。漸くエドアルドと一つになれる。その歓喜に気が逸ったからだ。

「いきますよ」

 一言の断りの後、後孔の入口に指とは違う体温を持つ塊が当たった。間を置かずして確かな硬さの肉塊が、窄まりを押し開いていく。

「あっ、あ……あ、ぁ……」

 エドアルドが慎重に腰を進める度にぐち、ぐち、と二人の粘膜の口付ける音が立った。今も尚、粗相でもしたかのように流れ続けるセイの愛液と、エドアルドの雁首の先から溢れ出す雄の淫液が、広げた腹の中で混ざっていく感触も生々しく伝わってくる。

 涙が勝手に浮かぶのは、決して苦しいからではない。エドアルドの肉筒を飲み込んでいるセイの媚肉が、強くなっていく圧迫感に満足して身体中に喜びのシグナルを出しているからだ。

「あっ、ぃぁっ、やあぁ、っん、ふ……っ」

 ペーパーにインクを落としたかのように、じわりじわりと脳の中が熱くなっていく。意識もとろりと蕩け始め、考えられることはもう気持ちいい、しかなかった。

「大き……中、エドで……いっぱい……ンンっ!」

 少し押しては引くを繰り返しながら奥を目指していたエドアルドの雄の先端が、指の愛撫の時に見つけられた性感帯に触れると、たちまち目の前に火花が散り、電気ショックを受けたかのように背中が大きく跳ねた。

「ひっ、いぁっ!」
「ここ……気持ちいいですか?」

 セイが見せた反応でウィークポイントに到達したのだと気づいたエドアルドが、小刻みに腰を揺らし始める。

「ぃ……いいっ……いいっ! 気持ち、いぃ……っ」

 ガチガチに硬くなった雁首で同じ場所を何度も擦られると、もう頭の中は真っ白になった。快感が強すぎる。狂ってしまいそうだ。多分、あと何押しかされたら完全に理性は砕け、セイの世界は淫楽に染まってしまうだろう。そうなればそこに存在するのは、欲の獣だ。

 だが、別にそんなことは大した問題ではない。アルファと身体を重ねるということは、そういうことなのだから。
けれどセイには獣に成り下がる前に、一つだけ願わなければいけないことがあった。

「エド、エド……おねがっ、やくっ……はやくうなじ、かんでぇっ!」
 この状態で項を噛まれれば、確実に番契約は成立する。つまり今が絶好の好機だ。一秒でも早くエドアルドのものになりたいセイは、上手く呂律が回らない口を精一杯動かして懇願する。

「ええ……分かってます。私も……っ、早く貴方に印を刻み……たい」

 彼の声にも余裕がない。セイと同じようにオメガのフェロモンに理性を揺さぶられているのだろう。腰のグラインドも小刻みなものから、深い部分を抉るようなものに変わってきている。

「ああっ、ぁっ、んぁっ!」

 エドアルドが動く度に、結合が深くなる。雄を咥えた後孔の端から、ぐちゅんぐちゅんと媚肉の中で混ざった甘やかな淫蜜が零れていく。

 その中、首筋にフッと温かな吐息が掛かった。
 淫楽に狂わされる中、薄目を開けるといつの間にかエドアルドの唇が首元まで降りてきていて、ああ、とうとう印を刻まれるのだと悟る。

「セイ……愛してっ……ます」

 腰を突き上げると同時に愛を囁かれ、首筋を舌でなぞられる。既にどこもかしこもが敏感になっている皮膚は、ほんの些細な刺激だけでも悲鳴を上げるほどの痺れが走った。

「ひ、ああぁっ……く……も、ぼくっ……もぉっ!」

 形になったかどうかすら分からない言葉を吐き出しながら、無意識に首を大きく反らし、エドアルドに項を見せる。
 早く、噛んで、早く。
 快楽の波が目前まで押し寄せて来ている中、首の皮膚に固いものが当たった。カリッという感触で触れたのは、愛しい対の歯だ。

「セイ、セイっ!」

 エドアルドが腰を大きく引き、勢いをつけて肉襞を割りながら奥を突く。

 ――――来る。

「ひ、ぃあ、あああぁぁッ!」
「くっ……」

 次の瞬間、二人の身体がビクンと大きく痙攣し、続けて二つの雄からも灼熱の白濁が飛び出した。

 片方はセイ自身の薄い腹の上へ、もう片方はきゅうきゅうに締め付けた秘宮へと注がれていく。

 腹の中が熱い。欲液を出しながらオメガの子宮壁を波打たせる熱塊の脈が、まるで生き物のようだ。二度目の射精と、初めて体験した後ろ側の強すぎる悦楽に全身を震わせながら、セイは最上の幸福に酔いしれる。

「あ……ぁ、あ……」

 ああ、やっとエドアルドと一つになれた。
 正直な話、項を噛まれることはもっと生々しい痛みを伴うものだと思っていた。しかし、瞬間的な快楽に、苦痛は打ち消されてしまったらしい。

「エド……これでぼくたち……一つに……」
「……ええ、私はもう貴方のものです」
「なにいってるの、ぼくだってエドのものだよ」

 気怠い開放感の中、エドアルドを求めて腕を伸ばすと、最愛が微笑みと一緒に抱きしめてくれる。温かい。身体に重なるこの体温が全部自分のものだと思うと、感極まって叫びだしたくなった。

 きっとこの先、どんな困難があったとしても今夜の記憶と項の刻印があれば、下を向くことなくいられるだろう。

 ――――そう、どんな困難があっても。

 大丈夫、絶対に大丈夫だ。セイはエドアルドの首筋に顔を埋め、思い切り愛おしい香りを吸い込むと、そっと目を閉じて口元だけで笑った。

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