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第22話:明日への第一歩(3)
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幸輝が入院した日から、誠一は毎日のように病室に見舞いに来た。
朝は出勤前に一度寄り、昼も仕事がない限り会いに来る。夜は個室ということで面会時間が他より緩いこともあり、仕事終わりに必ず寄ってくれた。
しかも誠一は、狙ったかのように朝と昼は食事時に来ては、病院食以外に自分が作って来た料理を幸輝に食べさせた。誠一は「早く幸輝を退院させたいから」と言っていたが、どうやら幸輝に一人で食事させたくないというのが本心らしい。
そんな誠一の献身が功を奏したのか、幸輝の体調は医者も驚く早さで回復した。勿論、摂食障害の原因だった誠一との問題が解決したことも、大きな回復理由だが。
入院してから一週間。体調も検査の数値も良くなった幸輝は、主治医から念願の退院の許可を貰うことが出来た。まだ少しの間は通院が必要だが、日常生活に戻っても障りはないらしい。
そしてやって来た、退院当日。
「荷物はこれで全部か?」
「はい。二日前から誠一さんが色々と持って帰ってくれていたので、大荷物にならずに済みました」
旅行鞄に入れられた荷物を持って歩き出した誠一の後に続いて、幸輝が病室から出る。
退院が正式に決まったのは二日前。それを誠一に伝えたら大喜びして、その日の内から退院の準備を始めてしまった。おかげで幸輝は身一つで退院という運びとなったのだ。
「でもあの……今日平日ですけど、仕事は良かったんですか?」
「それなら大丈夫だ。部長に有休くれって言ったら、『日頃働き過ぎだから、逆に使ってくれた方が助かる』なんて言われたぐらいだからな」
「確かに、誠一さんは少し働き過ぎですからね」
「まー、それは否定出来ないけどな」
笑い合いながら誠一の車に乗る。元々、仕事では社用車を使っていた誠一は、自分の車を持っていなかった。だが幸輝と付き合うのなら車は必要だろうと、十一月の始めに購入していたらしい。
幸輝と一悶着した時はどうなるかと思ったが、無駄にならなくて良かったと誠一は言っていた。
出会ってそろそろ四ヶ月になるが、誠一の運転する車に乗るのは初めてだ。仕事で頻繁に運転していることもあって誠一の運転は上手く、車体も全く揺れない。
それに加え、片手で器用にハンドルを操作する誠一の姿がこれまた格好良くて、幸輝は思わず見惚れてしまった。
「そういや、医者はいつから仕事復帰して良いって?」
「定期的な通院を約束するなら、来週からでも良いそうです」
誠一に釘付けになっていた視線を慌てて戻し、聞かれた問いの返事をする。
「そうか。職場の皆も、お前の復帰を待ってるから喜ぶぞ」
「そうなんですか? 僕、今回のことで皆に迷惑掛けちゃったから、嫌われているものだと思ってたんですけど……」
誠一に背を向けられてからは、特に失敗も多かったし、余計な心配も掛けさせてしまった。そして挙げ句の果てに怪我して入院だなんて、嫌われても可笑しくない。
「んなことねぇよ。お前は勤勉だし、残業も嫌がらないし、何より笑顔が可愛いってお前の部署の連中は皆、すげー気に入ってるらしいぞ。……時々、俺も心配になるぐらいにな」
「そんな……僕の笑顔なんて、誠一さんが隣にいて初めて成立するものですから、そんなに心配するようなことはありませんよ」
「俺がいてって……全く、どうしてお前はそう、人が照れるような言葉がコロコロと出て来るんだよ」
誠一が赤くなりながら「だから手放せなくなるんだよ」と呟く。それが聞こえてしまって、幸輝もまた顔を真っ赤に染めた。
「す、すみません……」
まだ付き合ったばかりの初々しい恋人同士のように照れ合いながら、二人は帰路を進む。
暫くの運転の後、二人が辿り着いたのは誠一の部屋だった。本当なら幸輝の部屋に戻るのが普通なのだが、誠一がまだ幸輝を一人にするのが不安だと言うので、仕事に復帰するまで誠一の部屋で過ごすという話になったのだ。
当然、誠一と一秒も離れたくない幸輝が、その提案を断るはずがない。
「じゃあ、俺はコーヒーでも入れて来るから、お前は座って休んでろよ」
「はい。それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰いますね」
部屋に着いた二人はひとまず休憩しようということで、荷物の片付けを後回しにした。誠一は「慣れない車を運転して疲れた」なんて言っていたが、恐らく幸輝の体調を気遣ってくれたのだろう。そんな誠一の優しさに包まれながら、幸輝は座ってぐるりと部屋を見渡す。
ここに来るのは、何週間ぶりだろうか。部屋は誠一の代名詞でもある煙草の香りと、石鹸の香りに包まれている。懐かしくも愛おしい香りに、幸輝は「ああ、帰って来ることが出来たんだ」と安堵する。
その内に、インスタントのコーヒーを用意した誠一が戻って来た。
「ホラ、コーヒー。ミルクと砂糖たっぷりで良かったか?」
「ありがとうございます」
コーヒーを受け取って、二人で横並びに座る。
「気分は悪くなってないか? もし、辛くなったらすぐに横になれよ」
「大丈夫ですよ。先生からも無理しなければいいって太鼓判貰いましたし。それに今回の入院期間で結構体力も体重も戻ったから、そんなにすぐには疲れませんよ」
「太った? 俺からみたら、まだガリガリだけどな」
「いいえ、今じゃ誠一さんの方が細いです。誠一さんはどれだけ食べても太らないですけど、僕はすぐに身体についちゃう方なんで、逆に考えないといけないんですよ」
前々から思っていたが、誠一は本当に細い。以前、誠一の裸を見た時、筋肉はあるのに意外と全体がほっそりとしていて驚いたことを幸輝は思い出した。外回りでよく動いているということもあるが、多分誠一は元から太らない体質なのだろう。
幸輝は考えながら、隣に座る誠一の腰を触った。
「……うん、やっぱり誠一さんの方が細い」
自分と比べながら触っていると、不意に誠一の腕が伸びてきてそのまま抱き寄せられた。
「いーや、まだ幸輝の方が細い。もっと丸々と太らねぇと、抱き心地が悪い」
「何ですかそれ。誠一さん、まさか太ってる人が好きなんですか?」
「別に。幸輝だったら、どんな姿でも構わねぇから。ただ、倒れるぐらい痩せるのは禁止な」
どんな姿でも構わないなんて言われて、幸輝は一気に顔が赤くなった。
誠一は時々、ポロリと爆弾のように幸輝の胸を射貫く言葉を落とす。しかも無自覚で。その度に心臓が壊れそうなぐらい高鳴り、幸輝を困らせる。今なんて更に抱き寄せられている状態だ。余計にドキドキが増してどうにかなりそうになっていると、不意に誠一が何かを思い出して「あっ」と声を上げた。
「そうだ。俺、幸輝に退院祝い用意してたんだ」
「退院祝いですか? そんな、気を遣って貰わなくても……」
ただでさえ入院で迷惑かけたのだから、と申し訳なさそうな顔を向けると誠一は口角を僅かに上げ、意地悪そうに微笑んだ。
「いるか、いらないかは物を見てから決めろよ」
手を出せと言われ、幸輝は両手で水を掬う時のような形を目の前に作る。
次の瞬間、手の中にカシャンと小さな金属音が鳴った。
最初に目に入ったのは銀色に光るボールチェーン。そしてその先にはチェーンよりも数倍輝くシルバーリングがついていた。
「こ、れ……」
驚いた幸輝が指先でチェーンの部分を摘まみ、持ち上げる。宙に浮いたリングがゆらゆらと揺れると、光に反射して眩しいくらいキラキラと光った。
この形はメビウスの環だろうか。しかもよく見てみるとリングの内側には『S to K』と刻印されている。これはもしかしなくても、アレなのだろうかと考えながら凝視していると左上からわざとらしい咳払いが聞こえた。
「い、一応、サイズは合ってると思う。だから填めても問題はないだろうけど、俺もお前も職場ではつけられないだろ? だからチェーンに通した」
「じゃ……じゃあ、もしかして、やっぱりこれ……」
弾かれるようにして顔を上げると、耳まで真っ赤に染まった誠一の、照れ臭そうな顔があった。
だが見つめ合っている内に、誠一の顔が段々甘く、そして凛々しくなっていく。
「まぁ所謂ところの給料三ヶ月分、ってやつだ。貰ってくれる気にはなったか?」
「も、勿論です! でも、良いんですか? これ、本当に僕が貰っちゃって……」
「ってか、お前以外に誰が貰うんだよ。それはお前専用だ」
呆れたように言われながら軽く左手で小突かれる。しかしその指には指輪がない。もしかして、と幸輝は誠一のシャツの首元に手を掛けた。
ゆっくりと胸元まで開けると、そこには貰った指輪と同じ形のものが、ボールチェーンに繋がれてぶら下がっていた。
「誠一さん!」
顔いっぱいに花を咲かせた幸輝が、誠一に思い切り飛びつく。
「ありがとうございます! これ、大切にします!」
誠一との切れることのない繋がりが出来て、嬉しかった。もう一人じゃない。そんな自信が幸輝の心を満たしていく。
「受け取って貰えてこっちも安心した。……ソレ、つけてやるから貸せよ」
言われて名残惜しくも身体を離した幸輝が、自分の指輪を誠一に渡す。誠一は男らしくも形の良い指でチェーンの繋ぎを外すと、幸輝の首に腕を回して再びチェーンを繋いだ。その一連の行動が、まるで花嫁のヴェールを上げて誓いのキスを交す時の光景に何となく似ていて、幸輝は思わず顔を上げる。
多分――――いや、絶対に誠一も同じことを考えていたのだろう。幸輝の白い胸元に指輪が飾られたと同時に両肩を抱かれ、唇が降りて来た。
それは、神の前で永久の愛を誓うようなキスだった。
「ねぇ、誠一さん。やっぱり僕、丸々と美味しそうに太らないと食べては貰えませんか?」
「何で、急にそんなこと聞くんだよ」
「だって抱き心地が悪いって、さっき……」
「いや、んなことねぇよ。食べさせて貰えるなら、今すぐにでも食べちまいたいぐらいだ」
頭の先から爪先まで丸ごとな、と誠一に耳元で甘く囁かれると、背筋にゾクリと震えが走った。
心臓が、熱い鼓動を刻み出す。
「じゃあ、食べて下さい。僕も早く誠一さんに食べられたい」
熱い眼差しで見上げると、見つめた先にあった誠一の双眸に男の色が宿った。
「全く……お前の体調のこと考えて、自重しようって思ってたのに」
困ったように笑った誠一に、肩を抱かれる。そしてそのままキスと共に、押し倒された。
・
・
・
まるでプレゼントの紐を解くかのごとく丁重に、一枚一枚幸輝の服を脱がしていく。
まだ昼間ということで部屋の中は明るかったが、二人にそんなことを恥じらう余裕なんてなかった。
今すぐ、抱き合いたい。今の二人の気持ちを代弁するなら、その言葉しかないだろう。
「すっかり痕は消えちまったようだな」
寝室のベッドの上に、生まれたままの姿で寝かされた幸輝の肌を、誠一が爪先まで余すことなく見渡す。
幸輝とは対照的に誠一はまだ服を着ている為、二人の相違は大きくて、僅かだが頬に朱が走った。
「誠一さ……ん……も、脱いで下さい……」
「ああ、すぐ脱ぐ。だがその前に――――」
目と目が合う位置にいた誠一が、言いながら幸輝の足下に移動する。次に起こした行動は、幸輝の爪先を掬い上げ、足の甲に唇を落とすことだった。
「誠一さん?」
「お前、俺が嫉妬深いって知ってるだろ? 他の男にいっぱい痕を付けられたって言うのに、我慢出来るか」
行動の理由を説明しながら、誠一は唇を寄せた部分を強く吸い上げる。擽ったいような、痛いような、そんな感覚に囚われた後、誠一の唇が離れた場所には赤い花びらが散っていた。
「でも……、そんなところに付けられてはいませんよ?」
東岡のことを語るのは忍びなかったが、誠一の気分が軽くなるのなら、と幸輝は当時のことを口にする。が、しかし誠一が求めているのは、そんなことではなかった。
「だからだよ。そいつが付けなかった場所まで、全部付けてやる」
子供みたいな焼きもちを、本気で表に出す誠一が何だか可愛く見えてしまった。きっとこんなことを言ったら、誠一は膨れてしまうだろう。だから言わないでおこうと思っている内に唇の位置が少しずつ上がり、脛やふくらはぎ、膝に少しずつ花びらが増えていく。
当然、両足共に、だ。
「何だか、いい匂いがするな」
太腿の内側に花が咲いた時、不意に誠一が零した。
「ああ、朝に……んっ……シャワーを浴びたからじゃないですか?」
筋肉のついていない部分を吸われたことで微かに走った快楽に、身体を震わせながら幸輝が応える。
幸輝が入院していた病院の入浴は時間制で、朝から夜までの間に浴室を予約して使うものだった。退院日となった今日は昼で帰るということで、幸輝は朝一番に予約して浴室を使ったのだ。
「何で朝から風呂なんか入ってるんだよ」
「だって昨日、退院前日の最後の検査が立て続けにあって……気付いたら入浴時間終わってたから……」
「……あっ、検査で思い出した。なぁ、お前の主治医ってさ、何か必要以上にお前のことを触ってなかったか?」
太腿が終わり、唇が腰へと移る。次第に敏感な部分への接触が増えて来て、幸輝の体温は裸にも関わらず上昇した。
「たまに病棟回診とか言って主治医が回って来るだろ? 何度かそれに遭遇したけど、お前を触診する主治医の手付きが何だか怪しかった」
「怪しいって……」
主治医は、ただ職務を真っ当しているだけではないか。そう言おうと思った幸輝の頭の片隅に、ぼんやりと入院中の記憶が甦る。
幸輝の主治医は大学病院の准教授という、医師の中でもかなり熟練した経験を持つ医者だった。加えて柔らかな物腰の人柄だったこともあって、幸輝も安心して治療を任せていたのだが、たまに胸や首に触れる手の動きが怪しかった。
変な言い方かもしれないが、触診というよりも愛撫に似た動きだったのだ。それでも相手は医師だからと見て見ぬ振りをしていたが、誠一も同じように見えていたとなると、もしかしたらそうだったのかもしれない。
「そ……れは考えすぎだと思いますよ。向こうは立派なお医者さんですし……」
だがここで誠一に賛同すると、次からの通院も一緒に来ると言ってきかなくなるだろう。安易に予想出来た幸輝は、大丈夫だと言って誠一の疑いをかわした。
そうしている内、脇腹と二の腕に花が咲き終わる。
「お前はそう言うけど、結構、目ぇ付けてる奴多いから安心出来ねぇよ」
まだまだ強い疑いを残したまま、誠一の唇が首筋に落ちた。
「ん……っ……」
やはり他と違って首筋は、感じる加減が他と違う。それを知ってか、誠一はただ印を付けるだけではなく、何度もしなやかな舌で筋を舐めた。
「ほら、随分前にお前の太腿触った二課の近藤だって、いつお前が復帰するか毎日誰かしらに聞いてるしよ」
熱を纏い始めた意識の中で聞いた名前は一瞬、誰か分からなかったが、少し時間を置いてやっと思い出す。
触られた本人が忘れていたというのに、あの時まだ恋仲でなかった誠一が覚えているなんて。幸輝はどんな反応を返せばいいか、正直分からない。これは素直に喜ぶべきか、はたまた細かすぎると苦言を呈すれば良いのか。
「とにかく、誰かの前で不用意に脱いだり、無防備に笑ったりするなよ。あと、知らない奴はもとより知ってる奴にもついてくのは禁止」
「そんな……っ、ん……心配……しすぎです……」
「お前なぁ。自分の顔と身体よく見て言え。こんな綺麗な顔と身体が目の前にあったら、まともな男だって簡単に傾くぞ」
どこで弾き出したか分からない判断基準を口にしながら、四つ目の印を付けた誠一が更に首筋に噛みつく。
「あー、お前のこと浚って、監禁して、ずっと俺だけしか見られないように出来たらいいのによ」
さらりと恐ろしいことを言ってのける誠一だったが、対して幸輝は少しも嫌な気分にはならなかった。
束縛が強いのが、誠一の愛。つまり束縛が強ければ強い程、自分は愛されているのだと再確認することが出来るから。
「いいですよ。誠一さんが……っ……そうしたいのなら……ぁっ……」
鎖骨をなぞる舌の動きに翻弄されながらも、幸輝は監禁の承諾を渡す。しかい―――。
「……いや、やめとく」
「どう……して?」
「そんなことしたら、お前の色々な顔が見られなくなるだろ。必死に仕事と向き合ってる顔とか、俺が帰社した時に見せてくれる笑顔とか、飲み屋で楽しそうに飲む姿とか。そういった何気ない顔が、俺は好きなんだよ」
「せ、誠一さん……っ!」
当然のごとく紡がれた説明に、幸輝は思いきり胸を打ち抜かれる。
「ああ、勿論――――」
幸輝が顔を真っ赤にさせながら脱力しそうになっていると、突然、鎖骨を這っていた唇が胸元に落ちた。そして、既に隆起していた胸の飾りを甘噛みされる。
「ん……ぁっ!」
硬い歯で柔らかく噛まれると、甘酸っぱい痺れが瞬時に背筋から脳に伝わった。途端に腰が疼き、下腹部が熱くなる。
全身へのキスで敏感になっていたところに、突然強い刺激を与えられればこうなるもの仕方がない。幸輝も頭では納得していたが、せめて一言欲しかったと唇を尖らせた。
「その顔も、な」
恰も予測していたかのように言われたところでやっと、幸輝は自分が乗せられたことを悟る。
「誠一さん……ずるいです……」
「悪い悪い。……さて、前はあらかた終わったし、次は背中な」
最後に一つ、胸の中央に赤を落とされた後、幸輝は子供のように両脇を抱えられ、そのまま俯せに転がされる。
「背中って、まだ……続けるんですか?」
「当たり前だろ。何だよ、その不服そうな顔は」
「だって、もうそろそろ……」
早く誠一と繋がりたい。目だけで訴えると、甘い溜息を返された。
「分かったよ。そのままでちょっと待ってろ」
やっと一つになれる。待ちに待った瞬間の到来に、幸輝は胸を弾ませた。
幸輝の背後で、服の生地が擦れる音がする。多分、誠一が服を脱いでいるのだ。久しぶりの誠一の裸を見たい欲に駆られたが、そのままで待っていろと言われたのを思い出してじっと我慢する。
「幸輝、少し腰上げられるか?」
「はい……」
言われた通り、幸輝は両肘を支えに腰を上げる。するとすぐに誠一の手が、僅かに硬くなり始めた幸輝の性器をゆるゆると扱き始めた。
「んっ」
待ち侘びた快楽の始まりに、身体を震わせる。それから程なくして臀部に指の感触が触れた。暫くの間、しなやかな動きで臀部全体を撫で回していたが、充分に肌の質感を堪能すると、目的の場所である双丘の割れ目を指先でグッと開く。
「いい眺め。お前ってどこもかしこも綺麗だけど、まさかココまで綺麗だとは思わなかった」
「や……そんなとこ見ないで下さい……」
誠一が喋る度、有り得ない場所に息が吹き掛かる。恥ずかしさのあまり思わず逃げようとしたが、次の瞬間、幸輝の身にもっと有り得ないことが起こった。
誠一を受け入れる場所に、ぬるりと湿った感触が滑ったのだ。
生温かな『ソレ』の感触は、ついさっきまで幸輝の身体中を舐め回したものと同じ。
そう、つまり誠一の舌、だ。
「せ、誠一さんっ?」
「ん?」
「な、何してるんです、そ、そんなところ、な、舐め……」
頭が現実を認めたくないのか、事実を言葉にすら出来ない。
「風呂入ったんだろ? ならいいじゃねぇか」
「それとこれとは――っ……ゃ……あっ!」
反論しようとしたところで、入口を這っていた舌が僅かに奥へと潜る。たったそれだけで全身の力が抜け、身体を支えていた肘が崩れた。必然的に上半身はベッドに沈み、腰がより高く上がってしまう。その体勢が誠一にとって好都合だったのか、蕾を攻める舌の動きはより顕著になった。
固く閉じた蕾を舌先で押し開かれ、たっぷりの唾液で濡らされる。まるで子猫がミルクを飲む時みたいに、ピチャピチャと音を立てながら中も外もお構いなしに舐められると、逃げようという意思すら浮かばないほど頭が真っ白になった。
「やっ……ぁ、あっ……んぁっ……」
迫る快楽に抵抗出来ず指を握り締めると、シーツに荒い波が出来る。しかし誠一から与えられる快楽は、それだけでは終わらなかった。
怪しく濡れた蕾に、長い指が滑り込む。充分に濡らされた中は、誠一の長い指を待ち望んでいたかのように飲み込んだ。
「ふ……くっ、ん……ッ……あぁっ」
「お前の中、すげぇ熱い。この中に入ったら、気持ち良いだろうな」
巧みな指使いで前と後ろを嬲りながら、誠一が魅入られた声で呟く。以前、性感帯を見つけているからか、誠一の指先は的確に幸輝の欲が高ぶる場所を刺激した。
「いい、です……よ……っ……早く、中に……来て」
これ以上待つことなんて出来ないと懇願すると、背後で影が大きく動いた。直に指が抜かれ、代わりに硬いものが入口へと触れる。
「入れるぞ」
短く告げられた言葉の後、熱く高ぶった肉塊の先端が入口をグッと押し広げた。人間の防御本能なのか、普段他者の手によって開かれることがない場所は、反射的に入口を閉じようとする。けれど突き進む肉塊の力の方が、圧倒的に強かった。
一気に最奥まで貫かれ、強烈な快感が込み上げる。あまりの衝撃にじっとしていられなかった幸輝は、思いきり背中を弓なりに反らした。
「あぁっ!」
見開いた二つの瞳から、快楽から生まれた涙が零れる。
高く上げた声に、喉の奥がチリチリと焼けて痛んだ。
「幸輝……幸輝っ……」
緩い抽挿を繰り返していた誠一が、上半身を折り曲げる。すると自然に反らした幸輝の背中に口付ける形となって、誠一はそのまま白い背中に花を散らした。
「愛してる、幸輝……頼むから、もう絶対……どこにも行かないでくれよ」
誠一が幸輝の背中に唇を這わせながら、切ない言葉を吐き出す。
それは今まで聞いたことのない、誠一の弱音だった。
きっと快楽に囚われた本能が、言わせているのだろう。不意を打つ形で知った誠一の本心に、幸輝は心が満たされた。
「誠一さん、好き……すきっ……大好き……です」
もう貴方以外、誰もいらない。幸輝が思ったままを口にした時、秘奥を いた誠一の肉塊が大きく弾けた。
「くっ……っ……」
「ゃっ、あ、あっ、ん、ああぁぁっ!」
熱い白濁液が腹の中へ注ぎ込まれると同時に前部の刺激を執拗にされ、幸輝もほぼ同時に果てる。
中から全てを出し切る間、幸輝の全身は痙攣が止まらなかった。
両膝も勝手に震え出し、今にも崩れそうになる。今、誠一と繋がっていなかったら、幸輝の身体は呆気なくベッドに倒れ込んでしまっていただろう。
「幸輝……大丈夫か? 悪い、病み上がりなのに無理させちまって」
幸輝の身体に負担が掛からないよう、ゆっくりと誠一が中から出ていく。ズルリと艶めかしい音を立てて肉塊が抜けた後は、無意識の内に入口がひくついた。
身体中が誠一で満たされて、心は幸せでいっぱいだった。しかし、それ以上に身体にのしかかる疲労が激しくて、幸輝は気持ちと裏腹に何も言葉を返すことが出来なかった。
どうやら、まだ体力が戻りきっていなかったらしい。
衝動に任せて事を進めてしまったことを反省する。ただし、そこに後悔は欠片もない。
「辛かったら横になれ。水、持ってきてやろうか?」
退院初日に無理をさせすぎてしまったことを謝りながら、誠一が甲斐甲斐しく動き回る。
幸輝の身体を抱き上げて横に寝かし、身体中の汗をタオルで拭く。その都度心配そうに覗き込んで来る誠一に柔らかな視線を返しながら、幸輝は疲労が落ち着くのを待つ。
それから十分程経った頃だろうか、幸輝の隣に肘をついて横になった誠一が、静かに問い掛けて来た。
「なぁ、幸輝……休んだままで聞いてくれればいいだが……」
「はい……?」
「もし、お前が許せるなら、一度、母親に会ってみたらどうだ?」
「亜希……さんに?」
誠一の突然の提案に、幸輝は驚きを隠せなかった。
「ああ。今回の一件では八雲さん一家には、随分助けられただろ? その礼も兼ねて、会ってみないかと思ってな」
確かに今回の一件で、玲二は長年勤めた東岡の事務所を辞めた。その後、運良く玲二は他の政治家事務所から声を掛けられ、すぐに再就職先が決まったが、それでも議員となる将来が遠退いたのには変わりない。
そんな決断をさせた玲二の為にも、そして玲二の決断を快く受け入れた亜希の為にも、彼等が望んでいるであろう幸輝と亜希の対面を叶えてやる。それで恩返しをしたらどうかと、誠一は言った。
「亜希さんと……会う……」
考えもしなかったことを言われ、幸輝は強い困惑を表情に出した。
「お前が戸惑う気持ちは分かるよ。でも、俺は今回が良い機会だと思う。もしお前が一人で怖いっていうなら、俺が隣にいてやるから」
誠一の長い指で、髪の毛を梳かれる。その心地良さに瞳を閉じながら、幸輝は考えた。
亜希が今でも幸輝を想ってくれていることは、この前のことで十分理解した。きっと誠一の言う通り、亜希は幸輝と会えるとなったら喜んでくれるだろう。
あとは、幸輝の気持ち次第。
「誠一さん……」
静かに考えを巡らせていた幸輝が、そっと目を開けて誠一へと腕を伸ばす。
「ん?」
誠一は躊躇いなく、幸輝の手を取った。
「会って……みます。亜希さんと……」
「そうか」
幸輝の決断に、誠一は穏やかに微笑んだ。
「でも、きっと緊張すると思うので、一緒に行って貰ってもいいですか?」
「ああ、勿論だ。ずっと隣にいて、支えてやるから」
「はい、お願いします」
二人で額を合わせ、微笑み合う。
その後は示し合せることなく、お互いの唇を重ねた。
朝は出勤前に一度寄り、昼も仕事がない限り会いに来る。夜は個室ということで面会時間が他より緩いこともあり、仕事終わりに必ず寄ってくれた。
しかも誠一は、狙ったかのように朝と昼は食事時に来ては、病院食以外に自分が作って来た料理を幸輝に食べさせた。誠一は「早く幸輝を退院させたいから」と言っていたが、どうやら幸輝に一人で食事させたくないというのが本心らしい。
そんな誠一の献身が功を奏したのか、幸輝の体調は医者も驚く早さで回復した。勿論、摂食障害の原因だった誠一との問題が解決したことも、大きな回復理由だが。
入院してから一週間。体調も検査の数値も良くなった幸輝は、主治医から念願の退院の許可を貰うことが出来た。まだ少しの間は通院が必要だが、日常生活に戻っても障りはないらしい。
そしてやって来た、退院当日。
「荷物はこれで全部か?」
「はい。二日前から誠一さんが色々と持って帰ってくれていたので、大荷物にならずに済みました」
旅行鞄に入れられた荷物を持って歩き出した誠一の後に続いて、幸輝が病室から出る。
退院が正式に決まったのは二日前。それを誠一に伝えたら大喜びして、その日の内から退院の準備を始めてしまった。おかげで幸輝は身一つで退院という運びとなったのだ。
「でもあの……今日平日ですけど、仕事は良かったんですか?」
「それなら大丈夫だ。部長に有休くれって言ったら、『日頃働き過ぎだから、逆に使ってくれた方が助かる』なんて言われたぐらいだからな」
「確かに、誠一さんは少し働き過ぎですからね」
「まー、それは否定出来ないけどな」
笑い合いながら誠一の車に乗る。元々、仕事では社用車を使っていた誠一は、自分の車を持っていなかった。だが幸輝と付き合うのなら車は必要だろうと、十一月の始めに購入していたらしい。
幸輝と一悶着した時はどうなるかと思ったが、無駄にならなくて良かったと誠一は言っていた。
出会ってそろそろ四ヶ月になるが、誠一の運転する車に乗るのは初めてだ。仕事で頻繁に運転していることもあって誠一の運転は上手く、車体も全く揺れない。
それに加え、片手で器用にハンドルを操作する誠一の姿がこれまた格好良くて、幸輝は思わず見惚れてしまった。
「そういや、医者はいつから仕事復帰して良いって?」
「定期的な通院を約束するなら、来週からでも良いそうです」
誠一に釘付けになっていた視線を慌てて戻し、聞かれた問いの返事をする。
「そうか。職場の皆も、お前の復帰を待ってるから喜ぶぞ」
「そうなんですか? 僕、今回のことで皆に迷惑掛けちゃったから、嫌われているものだと思ってたんですけど……」
誠一に背を向けられてからは、特に失敗も多かったし、余計な心配も掛けさせてしまった。そして挙げ句の果てに怪我して入院だなんて、嫌われても可笑しくない。
「んなことねぇよ。お前は勤勉だし、残業も嫌がらないし、何より笑顔が可愛いってお前の部署の連中は皆、すげー気に入ってるらしいぞ。……時々、俺も心配になるぐらいにな」
「そんな……僕の笑顔なんて、誠一さんが隣にいて初めて成立するものですから、そんなに心配するようなことはありませんよ」
「俺がいてって……全く、どうしてお前はそう、人が照れるような言葉がコロコロと出て来るんだよ」
誠一が赤くなりながら「だから手放せなくなるんだよ」と呟く。それが聞こえてしまって、幸輝もまた顔を真っ赤に染めた。
「す、すみません……」
まだ付き合ったばかりの初々しい恋人同士のように照れ合いながら、二人は帰路を進む。
暫くの運転の後、二人が辿り着いたのは誠一の部屋だった。本当なら幸輝の部屋に戻るのが普通なのだが、誠一がまだ幸輝を一人にするのが不安だと言うので、仕事に復帰するまで誠一の部屋で過ごすという話になったのだ。
当然、誠一と一秒も離れたくない幸輝が、その提案を断るはずがない。
「じゃあ、俺はコーヒーでも入れて来るから、お前は座って休んでろよ」
「はい。それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰いますね」
部屋に着いた二人はひとまず休憩しようということで、荷物の片付けを後回しにした。誠一は「慣れない車を運転して疲れた」なんて言っていたが、恐らく幸輝の体調を気遣ってくれたのだろう。そんな誠一の優しさに包まれながら、幸輝は座ってぐるりと部屋を見渡す。
ここに来るのは、何週間ぶりだろうか。部屋は誠一の代名詞でもある煙草の香りと、石鹸の香りに包まれている。懐かしくも愛おしい香りに、幸輝は「ああ、帰って来ることが出来たんだ」と安堵する。
その内に、インスタントのコーヒーを用意した誠一が戻って来た。
「ホラ、コーヒー。ミルクと砂糖たっぷりで良かったか?」
「ありがとうございます」
コーヒーを受け取って、二人で横並びに座る。
「気分は悪くなってないか? もし、辛くなったらすぐに横になれよ」
「大丈夫ですよ。先生からも無理しなければいいって太鼓判貰いましたし。それに今回の入院期間で結構体力も体重も戻ったから、そんなにすぐには疲れませんよ」
「太った? 俺からみたら、まだガリガリだけどな」
「いいえ、今じゃ誠一さんの方が細いです。誠一さんはどれだけ食べても太らないですけど、僕はすぐに身体についちゃう方なんで、逆に考えないといけないんですよ」
前々から思っていたが、誠一は本当に細い。以前、誠一の裸を見た時、筋肉はあるのに意外と全体がほっそりとしていて驚いたことを幸輝は思い出した。外回りでよく動いているということもあるが、多分誠一は元から太らない体質なのだろう。
幸輝は考えながら、隣に座る誠一の腰を触った。
「……うん、やっぱり誠一さんの方が細い」
自分と比べながら触っていると、不意に誠一の腕が伸びてきてそのまま抱き寄せられた。
「いーや、まだ幸輝の方が細い。もっと丸々と太らねぇと、抱き心地が悪い」
「何ですかそれ。誠一さん、まさか太ってる人が好きなんですか?」
「別に。幸輝だったら、どんな姿でも構わねぇから。ただ、倒れるぐらい痩せるのは禁止な」
どんな姿でも構わないなんて言われて、幸輝は一気に顔が赤くなった。
誠一は時々、ポロリと爆弾のように幸輝の胸を射貫く言葉を落とす。しかも無自覚で。その度に心臓が壊れそうなぐらい高鳴り、幸輝を困らせる。今なんて更に抱き寄せられている状態だ。余計にドキドキが増してどうにかなりそうになっていると、不意に誠一が何かを思い出して「あっ」と声を上げた。
「そうだ。俺、幸輝に退院祝い用意してたんだ」
「退院祝いですか? そんな、気を遣って貰わなくても……」
ただでさえ入院で迷惑かけたのだから、と申し訳なさそうな顔を向けると誠一は口角を僅かに上げ、意地悪そうに微笑んだ。
「いるか、いらないかは物を見てから決めろよ」
手を出せと言われ、幸輝は両手で水を掬う時のような形を目の前に作る。
次の瞬間、手の中にカシャンと小さな金属音が鳴った。
最初に目に入ったのは銀色に光るボールチェーン。そしてその先にはチェーンよりも数倍輝くシルバーリングがついていた。
「こ、れ……」
驚いた幸輝が指先でチェーンの部分を摘まみ、持ち上げる。宙に浮いたリングがゆらゆらと揺れると、光に反射して眩しいくらいキラキラと光った。
この形はメビウスの環だろうか。しかもよく見てみるとリングの内側には『S to K』と刻印されている。これはもしかしなくても、アレなのだろうかと考えながら凝視していると左上からわざとらしい咳払いが聞こえた。
「い、一応、サイズは合ってると思う。だから填めても問題はないだろうけど、俺もお前も職場ではつけられないだろ? だからチェーンに通した」
「じゃ……じゃあ、もしかして、やっぱりこれ……」
弾かれるようにして顔を上げると、耳まで真っ赤に染まった誠一の、照れ臭そうな顔があった。
だが見つめ合っている内に、誠一の顔が段々甘く、そして凛々しくなっていく。
「まぁ所謂ところの給料三ヶ月分、ってやつだ。貰ってくれる気にはなったか?」
「も、勿論です! でも、良いんですか? これ、本当に僕が貰っちゃって……」
「ってか、お前以外に誰が貰うんだよ。それはお前専用だ」
呆れたように言われながら軽く左手で小突かれる。しかしその指には指輪がない。もしかして、と幸輝は誠一のシャツの首元に手を掛けた。
ゆっくりと胸元まで開けると、そこには貰った指輪と同じ形のものが、ボールチェーンに繋がれてぶら下がっていた。
「誠一さん!」
顔いっぱいに花を咲かせた幸輝が、誠一に思い切り飛びつく。
「ありがとうございます! これ、大切にします!」
誠一との切れることのない繋がりが出来て、嬉しかった。もう一人じゃない。そんな自信が幸輝の心を満たしていく。
「受け取って貰えてこっちも安心した。……ソレ、つけてやるから貸せよ」
言われて名残惜しくも身体を離した幸輝が、自分の指輪を誠一に渡す。誠一は男らしくも形の良い指でチェーンの繋ぎを外すと、幸輝の首に腕を回して再びチェーンを繋いだ。その一連の行動が、まるで花嫁のヴェールを上げて誓いのキスを交す時の光景に何となく似ていて、幸輝は思わず顔を上げる。
多分――――いや、絶対に誠一も同じことを考えていたのだろう。幸輝の白い胸元に指輪が飾られたと同時に両肩を抱かれ、唇が降りて来た。
それは、神の前で永久の愛を誓うようなキスだった。
「ねぇ、誠一さん。やっぱり僕、丸々と美味しそうに太らないと食べては貰えませんか?」
「何で、急にそんなこと聞くんだよ」
「だって抱き心地が悪いって、さっき……」
「いや、んなことねぇよ。食べさせて貰えるなら、今すぐにでも食べちまいたいぐらいだ」
頭の先から爪先まで丸ごとな、と誠一に耳元で甘く囁かれると、背筋にゾクリと震えが走った。
心臓が、熱い鼓動を刻み出す。
「じゃあ、食べて下さい。僕も早く誠一さんに食べられたい」
熱い眼差しで見上げると、見つめた先にあった誠一の双眸に男の色が宿った。
「全く……お前の体調のこと考えて、自重しようって思ってたのに」
困ったように笑った誠一に、肩を抱かれる。そしてそのままキスと共に、押し倒された。
・
・
・
まるでプレゼントの紐を解くかのごとく丁重に、一枚一枚幸輝の服を脱がしていく。
まだ昼間ということで部屋の中は明るかったが、二人にそんなことを恥じらう余裕なんてなかった。
今すぐ、抱き合いたい。今の二人の気持ちを代弁するなら、その言葉しかないだろう。
「すっかり痕は消えちまったようだな」
寝室のベッドの上に、生まれたままの姿で寝かされた幸輝の肌を、誠一が爪先まで余すことなく見渡す。
幸輝とは対照的に誠一はまだ服を着ている為、二人の相違は大きくて、僅かだが頬に朱が走った。
「誠一さ……ん……も、脱いで下さい……」
「ああ、すぐ脱ぐ。だがその前に――――」
目と目が合う位置にいた誠一が、言いながら幸輝の足下に移動する。次に起こした行動は、幸輝の爪先を掬い上げ、足の甲に唇を落とすことだった。
「誠一さん?」
「お前、俺が嫉妬深いって知ってるだろ? 他の男にいっぱい痕を付けられたって言うのに、我慢出来るか」
行動の理由を説明しながら、誠一は唇を寄せた部分を強く吸い上げる。擽ったいような、痛いような、そんな感覚に囚われた後、誠一の唇が離れた場所には赤い花びらが散っていた。
「でも……、そんなところに付けられてはいませんよ?」
東岡のことを語るのは忍びなかったが、誠一の気分が軽くなるのなら、と幸輝は当時のことを口にする。が、しかし誠一が求めているのは、そんなことではなかった。
「だからだよ。そいつが付けなかった場所まで、全部付けてやる」
子供みたいな焼きもちを、本気で表に出す誠一が何だか可愛く見えてしまった。きっとこんなことを言ったら、誠一は膨れてしまうだろう。だから言わないでおこうと思っている内に唇の位置が少しずつ上がり、脛やふくらはぎ、膝に少しずつ花びらが増えていく。
当然、両足共に、だ。
「何だか、いい匂いがするな」
太腿の内側に花が咲いた時、不意に誠一が零した。
「ああ、朝に……んっ……シャワーを浴びたからじゃないですか?」
筋肉のついていない部分を吸われたことで微かに走った快楽に、身体を震わせながら幸輝が応える。
幸輝が入院していた病院の入浴は時間制で、朝から夜までの間に浴室を予約して使うものだった。退院日となった今日は昼で帰るということで、幸輝は朝一番に予約して浴室を使ったのだ。
「何で朝から風呂なんか入ってるんだよ」
「だって昨日、退院前日の最後の検査が立て続けにあって……気付いたら入浴時間終わってたから……」
「……あっ、検査で思い出した。なぁ、お前の主治医ってさ、何か必要以上にお前のことを触ってなかったか?」
太腿が終わり、唇が腰へと移る。次第に敏感な部分への接触が増えて来て、幸輝の体温は裸にも関わらず上昇した。
「たまに病棟回診とか言って主治医が回って来るだろ? 何度かそれに遭遇したけど、お前を触診する主治医の手付きが何だか怪しかった」
「怪しいって……」
主治医は、ただ職務を真っ当しているだけではないか。そう言おうと思った幸輝の頭の片隅に、ぼんやりと入院中の記憶が甦る。
幸輝の主治医は大学病院の准教授という、医師の中でもかなり熟練した経験を持つ医者だった。加えて柔らかな物腰の人柄だったこともあって、幸輝も安心して治療を任せていたのだが、たまに胸や首に触れる手の動きが怪しかった。
変な言い方かもしれないが、触診というよりも愛撫に似た動きだったのだ。それでも相手は医師だからと見て見ぬ振りをしていたが、誠一も同じように見えていたとなると、もしかしたらそうだったのかもしれない。
「そ……れは考えすぎだと思いますよ。向こうは立派なお医者さんですし……」
だがここで誠一に賛同すると、次からの通院も一緒に来ると言ってきかなくなるだろう。安易に予想出来た幸輝は、大丈夫だと言って誠一の疑いをかわした。
そうしている内、脇腹と二の腕に花が咲き終わる。
「お前はそう言うけど、結構、目ぇ付けてる奴多いから安心出来ねぇよ」
まだまだ強い疑いを残したまま、誠一の唇が首筋に落ちた。
「ん……っ……」
やはり他と違って首筋は、感じる加減が他と違う。それを知ってか、誠一はただ印を付けるだけではなく、何度もしなやかな舌で筋を舐めた。
「ほら、随分前にお前の太腿触った二課の近藤だって、いつお前が復帰するか毎日誰かしらに聞いてるしよ」
熱を纏い始めた意識の中で聞いた名前は一瞬、誰か分からなかったが、少し時間を置いてやっと思い出す。
触られた本人が忘れていたというのに、あの時まだ恋仲でなかった誠一が覚えているなんて。幸輝はどんな反応を返せばいいか、正直分からない。これは素直に喜ぶべきか、はたまた細かすぎると苦言を呈すれば良いのか。
「とにかく、誰かの前で不用意に脱いだり、無防備に笑ったりするなよ。あと、知らない奴はもとより知ってる奴にもついてくのは禁止」
「そんな……っ、ん……心配……しすぎです……」
「お前なぁ。自分の顔と身体よく見て言え。こんな綺麗な顔と身体が目の前にあったら、まともな男だって簡単に傾くぞ」
どこで弾き出したか分からない判断基準を口にしながら、四つ目の印を付けた誠一が更に首筋に噛みつく。
「あー、お前のこと浚って、監禁して、ずっと俺だけしか見られないように出来たらいいのによ」
さらりと恐ろしいことを言ってのける誠一だったが、対して幸輝は少しも嫌な気分にはならなかった。
束縛が強いのが、誠一の愛。つまり束縛が強ければ強い程、自分は愛されているのだと再確認することが出来るから。
「いいですよ。誠一さんが……っ……そうしたいのなら……ぁっ……」
鎖骨をなぞる舌の動きに翻弄されながらも、幸輝は監禁の承諾を渡す。しかい―――。
「……いや、やめとく」
「どう……して?」
「そんなことしたら、お前の色々な顔が見られなくなるだろ。必死に仕事と向き合ってる顔とか、俺が帰社した時に見せてくれる笑顔とか、飲み屋で楽しそうに飲む姿とか。そういった何気ない顔が、俺は好きなんだよ」
「せ、誠一さん……っ!」
当然のごとく紡がれた説明に、幸輝は思いきり胸を打ち抜かれる。
「ああ、勿論――――」
幸輝が顔を真っ赤にさせながら脱力しそうになっていると、突然、鎖骨を這っていた唇が胸元に落ちた。そして、既に隆起していた胸の飾りを甘噛みされる。
「ん……ぁっ!」
硬い歯で柔らかく噛まれると、甘酸っぱい痺れが瞬時に背筋から脳に伝わった。途端に腰が疼き、下腹部が熱くなる。
全身へのキスで敏感になっていたところに、突然強い刺激を与えられればこうなるもの仕方がない。幸輝も頭では納得していたが、せめて一言欲しかったと唇を尖らせた。
「その顔も、な」
恰も予測していたかのように言われたところでやっと、幸輝は自分が乗せられたことを悟る。
「誠一さん……ずるいです……」
「悪い悪い。……さて、前はあらかた終わったし、次は背中な」
最後に一つ、胸の中央に赤を落とされた後、幸輝は子供のように両脇を抱えられ、そのまま俯せに転がされる。
「背中って、まだ……続けるんですか?」
「当たり前だろ。何だよ、その不服そうな顔は」
「だって、もうそろそろ……」
早く誠一と繋がりたい。目だけで訴えると、甘い溜息を返された。
「分かったよ。そのままでちょっと待ってろ」
やっと一つになれる。待ちに待った瞬間の到来に、幸輝は胸を弾ませた。
幸輝の背後で、服の生地が擦れる音がする。多分、誠一が服を脱いでいるのだ。久しぶりの誠一の裸を見たい欲に駆られたが、そのままで待っていろと言われたのを思い出してじっと我慢する。
「幸輝、少し腰上げられるか?」
「はい……」
言われた通り、幸輝は両肘を支えに腰を上げる。するとすぐに誠一の手が、僅かに硬くなり始めた幸輝の性器をゆるゆると扱き始めた。
「んっ」
待ち侘びた快楽の始まりに、身体を震わせる。それから程なくして臀部に指の感触が触れた。暫くの間、しなやかな動きで臀部全体を撫で回していたが、充分に肌の質感を堪能すると、目的の場所である双丘の割れ目を指先でグッと開く。
「いい眺め。お前ってどこもかしこも綺麗だけど、まさかココまで綺麗だとは思わなかった」
「や……そんなとこ見ないで下さい……」
誠一が喋る度、有り得ない場所に息が吹き掛かる。恥ずかしさのあまり思わず逃げようとしたが、次の瞬間、幸輝の身にもっと有り得ないことが起こった。
誠一を受け入れる場所に、ぬるりと湿った感触が滑ったのだ。
生温かな『ソレ』の感触は、ついさっきまで幸輝の身体中を舐め回したものと同じ。
そう、つまり誠一の舌、だ。
「せ、誠一さんっ?」
「ん?」
「な、何してるんです、そ、そんなところ、な、舐め……」
頭が現実を認めたくないのか、事実を言葉にすら出来ない。
「風呂入ったんだろ? ならいいじゃねぇか」
「それとこれとは――っ……ゃ……あっ!」
反論しようとしたところで、入口を這っていた舌が僅かに奥へと潜る。たったそれだけで全身の力が抜け、身体を支えていた肘が崩れた。必然的に上半身はベッドに沈み、腰がより高く上がってしまう。その体勢が誠一にとって好都合だったのか、蕾を攻める舌の動きはより顕著になった。
固く閉じた蕾を舌先で押し開かれ、たっぷりの唾液で濡らされる。まるで子猫がミルクを飲む時みたいに、ピチャピチャと音を立てながら中も外もお構いなしに舐められると、逃げようという意思すら浮かばないほど頭が真っ白になった。
「やっ……ぁ、あっ……んぁっ……」
迫る快楽に抵抗出来ず指を握り締めると、シーツに荒い波が出来る。しかし誠一から与えられる快楽は、それだけでは終わらなかった。
怪しく濡れた蕾に、長い指が滑り込む。充分に濡らされた中は、誠一の長い指を待ち望んでいたかのように飲み込んだ。
「ふ……くっ、ん……ッ……あぁっ」
「お前の中、すげぇ熱い。この中に入ったら、気持ち良いだろうな」
巧みな指使いで前と後ろを嬲りながら、誠一が魅入られた声で呟く。以前、性感帯を見つけているからか、誠一の指先は的確に幸輝の欲が高ぶる場所を刺激した。
「いい、です……よ……っ……早く、中に……来て」
これ以上待つことなんて出来ないと懇願すると、背後で影が大きく動いた。直に指が抜かれ、代わりに硬いものが入口へと触れる。
「入れるぞ」
短く告げられた言葉の後、熱く高ぶった肉塊の先端が入口をグッと押し広げた。人間の防御本能なのか、普段他者の手によって開かれることがない場所は、反射的に入口を閉じようとする。けれど突き進む肉塊の力の方が、圧倒的に強かった。
一気に最奥まで貫かれ、強烈な快感が込み上げる。あまりの衝撃にじっとしていられなかった幸輝は、思いきり背中を弓なりに反らした。
「あぁっ!」
見開いた二つの瞳から、快楽から生まれた涙が零れる。
高く上げた声に、喉の奥がチリチリと焼けて痛んだ。
「幸輝……幸輝っ……」
緩い抽挿を繰り返していた誠一が、上半身を折り曲げる。すると自然に反らした幸輝の背中に口付ける形となって、誠一はそのまま白い背中に花を散らした。
「愛してる、幸輝……頼むから、もう絶対……どこにも行かないでくれよ」
誠一が幸輝の背中に唇を這わせながら、切ない言葉を吐き出す。
それは今まで聞いたことのない、誠一の弱音だった。
きっと快楽に囚われた本能が、言わせているのだろう。不意を打つ形で知った誠一の本心に、幸輝は心が満たされた。
「誠一さん、好き……すきっ……大好き……です」
もう貴方以外、誰もいらない。幸輝が思ったままを口にした時、秘奥を いた誠一の肉塊が大きく弾けた。
「くっ……っ……」
「ゃっ、あ、あっ、ん、ああぁぁっ!」
熱い白濁液が腹の中へ注ぎ込まれると同時に前部の刺激を執拗にされ、幸輝もほぼ同時に果てる。
中から全てを出し切る間、幸輝の全身は痙攣が止まらなかった。
両膝も勝手に震え出し、今にも崩れそうになる。今、誠一と繋がっていなかったら、幸輝の身体は呆気なくベッドに倒れ込んでしまっていただろう。
「幸輝……大丈夫か? 悪い、病み上がりなのに無理させちまって」
幸輝の身体に負担が掛からないよう、ゆっくりと誠一が中から出ていく。ズルリと艶めかしい音を立てて肉塊が抜けた後は、無意識の内に入口がひくついた。
身体中が誠一で満たされて、心は幸せでいっぱいだった。しかし、それ以上に身体にのしかかる疲労が激しくて、幸輝は気持ちと裏腹に何も言葉を返すことが出来なかった。
どうやら、まだ体力が戻りきっていなかったらしい。
衝動に任せて事を進めてしまったことを反省する。ただし、そこに後悔は欠片もない。
「辛かったら横になれ。水、持ってきてやろうか?」
退院初日に無理をさせすぎてしまったことを謝りながら、誠一が甲斐甲斐しく動き回る。
幸輝の身体を抱き上げて横に寝かし、身体中の汗をタオルで拭く。その都度心配そうに覗き込んで来る誠一に柔らかな視線を返しながら、幸輝は疲労が落ち着くのを待つ。
それから十分程経った頃だろうか、幸輝の隣に肘をついて横になった誠一が、静かに問い掛けて来た。
「なぁ、幸輝……休んだままで聞いてくれればいいだが……」
「はい……?」
「もし、お前が許せるなら、一度、母親に会ってみたらどうだ?」
「亜希……さんに?」
誠一の突然の提案に、幸輝は驚きを隠せなかった。
「ああ。今回の一件では八雲さん一家には、随分助けられただろ? その礼も兼ねて、会ってみないかと思ってな」
確かに今回の一件で、玲二は長年勤めた東岡の事務所を辞めた。その後、運良く玲二は他の政治家事務所から声を掛けられ、すぐに再就職先が決まったが、それでも議員となる将来が遠退いたのには変わりない。
そんな決断をさせた玲二の為にも、そして玲二の決断を快く受け入れた亜希の為にも、彼等が望んでいるであろう幸輝と亜希の対面を叶えてやる。それで恩返しをしたらどうかと、誠一は言った。
「亜希さんと……会う……」
考えもしなかったことを言われ、幸輝は強い困惑を表情に出した。
「お前が戸惑う気持ちは分かるよ。でも、俺は今回が良い機会だと思う。もしお前が一人で怖いっていうなら、俺が隣にいてやるから」
誠一の長い指で、髪の毛を梳かれる。その心地良さに瞳を閉じながら、幸輝は考えた。
亜希が今でも幸輝を想ってくれていることは、この前のことで十分理解した。きっと誠一の言う通り、亜希は幸輝と会えるとなったら喜んでくれるだろう。
あとは、幸輝の気持ち次第。
「誠一さん……」
静かに考えを巡らせていた幸輝が、そっと目を開けて誠一へと腕を伸ばす。
「ん?」
誠一は躊躇いなく、幸輝の手を取った。
「会って……みます。亜希さんと……」
「そうか」
幸輝の決断に、誠一は穏やかに微笑んだ。
「でも、きっと緊張すると思うので、一緒に行って貰ってもいいですか?」
「ああ、勿論だ。ずっと隣にいて、支えてやるから」
「はい、お願いします」
二人で額を合わせ、微笑み合う。
その後は示し合せることなく、お互いの唇を重ねた。
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