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第14話:やっと、ここに戻って来られた。

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 隣に大切な人がいて、その人に肩を抱かれてゆったりとソファーに座る。決して特別なことではないが、今は何よりも幸せに感じた。

「ケイ、本当にありがとね。それと、ごめん」
「どうして謝るの?」
「俺、何も言わずに出てきちゃっただろ?」
「ああ、そのことなら心配はしたけど怒ってないよ。それに、奏人さんは絶対にボクのところに戻って来てくれるって、信じてたから」
「勿論、俺はケイのところに戻るつもりだったよ。でも……」

 今回、ケイが来てくれなかったら、自分はずっと彰文の人形のままだった。想像すると全身が総毛立った。

「ごめんね、俺、弱くて……」
「奏人さんは弱くない。十分強いと思うよ。だって長い間辛い目に遭ってきたのに、あの人に対して前に進めって言えたんだから」

 普通なら、彰文を殺したいほど憎むはずだとケイは言う。

「ん、確かに辛いこともたくさんあったし、彰文さんを完全に許せたってわけじゃない。けどね、俺もケイみたいに過去ではなく未来を一番にしようって思ったんだ」

 憎むだけでは、一歩も前に進むことはできない。いや、前に進むことで得られるものがあるということを知った。
だからいつか心が落ち着いた時、彰文だけでなく、母のこともちゃんと受け入れて会うことができたらとも考えている。

「俺があそこでああ言えたのは、ケイと、あとセドリックのおかげだよ」

 未来に向かって真っ直ぐ歩き続ける二人の姿は奏人の目標であり、支えだ。

「あ、セドリックといえば……俺、セドリックにも迷惑かけちゃったね」

 セドリックは、奏人と美菜の居場所を探し当ててくれた。ケイだけでも迷惑をかけて申し訳ないと思っているのに、セドリックまでと眉を垂らしていると、あっけらかんとしたケイから、意外な答えが返ってきた。

「あの人なら大丈夫だよ。奏人さんのことお気に入りだから全く嫌がってなかったし、それに協力して貰う代わりに専属になるって契約したから、ギブアンドテイクは成立してる。だから何も気にしなくていいよ」
「……え?」

 一瞬、驚き過ぎて時が止まったかと思った。
 冗談かとも疑ったが、目の前の男に嘘をついている様子はない。

「ま、待って、専属ってセドリックの?」
「そうだよ」
「まさか、俺のために専属の話を受けたってこと?」
「うん」
「どうして、そんなことをっ? セドリックの専属になったら、嫌いなショーにだってたくさん出なきゃいけなくなるんだよ?」

 一度成功したからって、完全に心の傷が消えたわけじゃない。また舞台に立ったら苦しむかもしれないのだ。なのに、そんな大事なことを、自分でのためではなく他人のために決めてしまうなんて。

「確かにショーは今でも怖いし、考えたら手も震えるよ。でも、それ以上に奏人さんともう一度会いたかったから。そのためなら我慢できるって思ったんだ」
「ケ……っ……」

 純粋で真っ直ぐで、そして眩しいぐらいに強い想いに、奏人は思わず天を仰ぎそうになった。自分は、ここまで凜とした思いに包まれていたなんて。
 鼻腔の奥が、ツンとした痛みを生む。

「もう……ケイったら……」

 涙を堪えることができなかった。
鼻をすすりながら、そっとケイの身体に体重をかける。と、ケイは当然のように胸の中に包んでくれた。
 その温かさが、奏人の背を押す。

「セドリックの専属になったってことは、ケイは海外に行くんだよね?」
「そうだね、早ければ来週には日本を発たなきゃいけないかな」

 どうやらセドリックはケイと契約を交わした後、即座にロンドンでお披露目ショーを開くことを決めてしまったらしい。

 ケイを獲得したことを大喜びしているだろうセドリックの顔が、浮かぶ。しかし、すぐに奏人は大切なことに気づいた。
 二人は、とうとう自分の意志と選択で欲しいものを手に入れた。いや、強い想いと共に行動を起こせば、望むものが手に入るということを結果で示したのだ。
そんな二人を見て触発された奏人は、そっとケイの手を握る。

 自分の願いは、ケイと共に未来を歩むこと。そして、ずっと辛い思いをしてきたケイを幸せにすること。

 そのためには――――。

「俺も、ケイについていっていいかな?」
「えっ、も、勿論、奏人さんが一緒に来てくれるのは大歓迎だし、寧ろ、どうやって攫っていこうか考えてたくらいだから、ボクは嬉しいけど……その、大丈夫?」

 不安そうなケイが、こちらを覗きこんでくる。ケイは今回のことで、様々な真実を知ることになった奏人を心配しているようだった。

「俺は大丈夫。というよりもケイと離れ離れになるほうが辛いよ」

 だから一緒に連れていってと、ケイの胸へと、甘えるように額を擦りつける。
 そのまま深く息を吸うと、香水が混ざったケイの香りが鼻腔を通り抜けた。
 愛おしい。そんな思いが込み上げてくる。
 次の瞬間、内側に抑えておくことができなくなった感情が、口から零れた

「好き、ケイ。もう二度と離れたくない」
「か……なとさん……?」

 触れている服の上からでも、ケイの鼓動が一際大きく跳ねるのが分かった。

「本当に、ボクのこと? これ……夢じゃないよね?」
「夢なんかじゃないよ。本当はあの日……二人で打ち上げをした時にもはもう、ケイのことが大切すぎて堪らなかった。一緒に未来を歩きたいって思ってた。でも言えなくて……ごめんね」

 謝ると、頭の上でケイが「謝らないで」と言いながら首を横に振った。

「ね、顔見せて」

 緩やかな動きで抱擁を解かれ、顔を合わせる。そこには誰もが見惚れるモデルではなく、子供のように頬を真っ赤にさせるケイの顔があった

「ボクの恋人になってくれる、って思っていいんだよね?」
「俺、色々な過去があるけど、それでもいいなら……」

 奏人と彰文がどんな関係だったか、どんなセックスをしていたか、全てではないがケイは知ってしまっている。そんな、決して綺麗といえない身体だからこそ、最後の判断はケイにつけてもらう必要があると、そっと問うように見上げた。

「ボクにとって過去なんて関係ないよ。奏人さんも知ってるでしょ? ボクはまだ、感情面で未熟な部分が多い。だからかな……二人が抱き合う映像を見ても、嫌悪感なんて抱かなかった」

 あの映像はただの過去であり、感情を動かす要因にはならない。あの時、それよりも心配だったのは、彰文が奏人自身を本気で愛していたらどう出ようか、とそればかりだったらしい。

「ボクに必要なのは、奏人さんが隣にいる未来だけだよ」

 それ以外必要ない。ケイは言い切る。
 奏人は驚きに双眸を見開いた。恐らく、今の自分は顔が真っ赤になっているに違いない。

「………すっごい、殺し文句だね」

 おかげで抱いていた懸念も、あっという間に吹き飛んでしまった。
 本当に、ケイの純真な想いにはいつも救われる。

「俺、ケイに絆されそうだよ」

 言いながら奏人はケイの首に腕を回し、抱き締めた。
 本当はとっくの昔に絆されているけれど、そこは少し恥ずかしいから、教えるのは先延ばしにしよう。そんな些細な悪戯心を抱いて、苦笑を零す。
 しかしその代わりに、とでもいうようにケイが今一番求めているだろう、艶の宿った言葉を耳元で甘美に囁いた。




 ケイの愛撫を言葉で説明するとするなら、手探りだ。
 一度のセックスでは奏人の身体をまだ知り尽くせていないからと、少しずつ最高の快楽を探りだそうと尽力を注ぐ。

 だが前回のセックスで十分に満足している奏人としては、少しだけ不満だった。
 ケイが快楽の世界へ誘おうとしてくれているのは嬉しいが、それは熱が常に高ぶった状態で置かれているということ。

「や……も……ケイ、願……」

 服を脱ぎ捨て、ケイと身体を重ねて既に三十分。後孔はジェルと指と舌で、ドロドロになるほど解されているというのに、未だ一番欲しいものを貰えない。
 まるでわざと絶頂を迎えないよう強いられて、苛められているみたいだ。

「ん? どうしたの」
「分かってる……くせに……んっ、あっ……ぁ……」

 三本の指が、生き物のようにバラバラと中で動き回る。そのうち一本が一番感じる部分をなぞると、背筋がゾクッと震えて、高く勃ち上がった性器の先端からトロリと透明の雫が生まれた。

「あっ、あんっ……や、もうこれ以上はおかしく……な……」

 大きく足を開き、卑しく腰をあげて強請っても、ケイは舌先で熱心に奏人の胸の突起を捏ね回しているだけで、挿入の体勢に入ってくれない。

「辛……っ……い……」

 強い刺激が欲しくて堪らない。

「も、やっ……」

 願っても快楽をくれないことに我慢の限界を迎えた奏人が、自分の指を性器へと伸ばす。

「待って」

 しかし肉芯を擦り上げようとした瞬間、ケイの手が伸びてきて、奏人を制止した。

「どうして……っ、もう、耐えられ……んぁっ……ん!」
「もう、せっかく綺麗な奏人さんを、堪能しようと思ってたのに」

 不服そうに言うが、その声色からあからさまに状況を楽しむ様子がうかがえる。

「ケイの……っ、んっ……意地わ……る」

 快楽を得るための愛撫は大切だが、度を超えると苦痛にしかならない。すでにその域まで達してしまっている奏人は、理性も忘れて必死に懇願した。

「も……挿れて……っ……」
「ん、分かった」

 ようやく上半身を起こしたケイの長い腕に足を掬い上げられ、片足だけをケイの肩に乗せられる。不自然に大きく開いた格好は、勿論、ケイの熱を一番深くまで受け入れるため。分かっている奏人の喉は、やっと与えてもらえる快楽に期待してゴクリと鳴った。

「いくよ」

 肩に乗った奏人の膝裏に一度キスを落とし、ケイが腰を前に動かす。

「んっ……」

 すぐに大きく膨れた雄の先端が、時間をかけて濡らされた入口を押し広げた。

「あ、あ……っ……」

 じわりじわりと、ケイの雄が入ってくる。熱が奥へと進む度に、たっぷり注がれたジェルが内側からクチュクチュと溢れ出てくるのが分かって恥ずかしくなったが、求めていた圧迫感のおかげで、すぐに忘れることができた。

「奏人さんが好きなの、ココだよね?」

 ゆったりとした動きで最奥へと腰を進めたケイが、奏人の気持ちいい場所を雁首で擦り上げる。その瞬間、全てを一瞬で焼け焦がすかのような電撃が、身体を駆け巡った。

「ぁぁああっ……!」

 ケイの肩に担がれた足の指先までもが痺れて動けない。前回の時もそうだったが、ケイとのセックスは彰文とのものより気持ちよさが格段に違う。
 同じセックスなのに、そこに愛があるか否かでここまでの違いが生まれるなんて。

「ケイ、ケイっ、愛……て、る……」
「奏人……さん……?」
「愛して……っ……るっ……ケイっ」
「ちょっ、ま……奏人さん、ずるい……」

 快楽の階段を登り始めたケイの、やや切羽の詰まった声が耳に届いたと思った途端、奏人の中をグチャグチャに掻き混ぜる雄芯がより大きくなった。

「ぃああっ、中、大き……っ!」
「も……奏人さんに……敵わないよ」

 こんな時まで、ボクを翻弄し続けるんだから。小さな溜息と共に文句が届く。だが、そこからは完全にケイが主導権を掴んだ。

 今まで奥をゆるゆると攻めていた腰を一気に引き、身体に強い振動が伝わるほどの勢いで中を突き始めたのだ。
 これでわずかに残っていた余裕は、完全に消失した。

「やっ、ゃ、やん……っ、ひぃっ、ぁっ……!」

 頑丈なベッドが音を立てるほどに揺さぶられ、上手く呼吸をすることができない。けれど突かれる度に生まれる快楽は最高のもので、奏人はこのまま窒息してもいいと思えた。

「んぁっ、あん、あっあぁっ、やぁっ」

 深くに突き入れられると、自分の中がケイの雄の形に広がる。
 何と幸せなことだろうか。

「奏人さ……も……」
「出し……てっ、ケ……俺、中……出しっ……て!」

 理性なんて、もう一欠片も残っていない。そんな状況の中で、奏人は必死に願った。
 ケイの熱いものが欲しい、と。

「くっ……」

 すると、その願いを聞き入れるかのように奏人の腹の中で、ケイの雄芯がドクンと跳ねた。
 ケイの甘く、熱い蜜が注がれる。
その瞬間。

「あ、ぁっ、んあっ、ああぁぁっ!」

 奏人は絶頂に登り詰めた。
 下腹部の痙攣に合わせるように、全身が震える。
 その後、一気に駆け登った頂点からゆるゆると下りながら、奏人は最高の幸福感に浸った。




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