薫くんにささぐ

七草すずめ

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中学三年生とわたしの小説

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 見ると、投稿サイトに載せている小説にレビューが書かれたという知らせだった。
 世の中は捨てたもんじゃない。薫くんという王子様が助けに来なくたって、わたしの容姿も年齢も知らない通りすがりの村人が救世主になることもあるのだ。
『ドキドキしながら読みました☆ わたしもこんな恋がしたい♡』
 小説投稿サイトはいくつかあるけど、わたしが好きなのは「異世界モノ」と言われる小説がすくないサイトで、わたしはそこに何本かを公開している。ぜんぶ、純文学の新人賞に応募して、一次選考で落ちたやつだ。
 小説を書き上げた直後はいつも、最高傑作ができた、という満たされた気持ちになった。少し寝かせて校正すると、自分が書いたなんて信じられないぐらいおもしろく感じる。原稿を投函するときには、投稿先の文芸誌にわたしの筆名と作品のタイトルが載っているところを想像してにやにやする。かたん、というポストの音が頼もしく響く。
 それから長い長い長い長い時間待たされて、ようやく一次選考の結果が載った文芸誌が発売される日になって、ばくばくする心臓に引っ張られるようにして行った本屋でわたしの名前なんて一文字も載っていないページを見て灰になって帰るのだ。家に帰ってもう一度読んだ作品はゴミみたいにつまらなかった。
 初めて投稿したものが一次選考落ちだとわかった日、本屋の袋を持たず魚みたいな目をしてで帰宅したわたしを見て、薫くんは「主人公に感情移入ができないんだよ」と初めてわたしの小説に感想をくれたんだった。
 小説を書いて生きていくには新人賞をとるしかないと思っていたので、落選を知りもう死ぬかとも考えたんだけど、少し調べたら今はウェブ小説から出版に至るケースも多いということがわかった。
 すぐに一番大きなサイトに登録して、一次選考すら通過できなかった小説を投稿すると、意外とたくさんの人が読んでくれて、時には感想までもらえたりして、結果を待っていた長い長い長い長い時間はいったいなんだったんだろう、新人賞なんてばからしい、と思ってしまった。だってインターネットに公開すれば、こんなにすぐ見返りがある。報酬ともいえる甘い言葉がたくさん。待たされて待たされて待たされて待たされてわたしの作品なんて存在してなかったみたいに扱われることもない。
 それ以来、わたしは「半年に一本、新人賞に応募」という目標を改め、「投稿サイトで連載して読者を集める」ことを目指してがんばっている。薫くんはそれについて何も言わない。
「ドキドキしながら読みました☆」というレビューをくれたのは、プロフィールを見る限り中学三年生らしかった。「義務教育らすと!」と書かれた文字がまぶしい。
 感想をもらえたのはわたしが高校生のときのことを思い出しながら書いている恋愛小説で、薫くんにはいつものように「友達の友達の話を聞かされたみたい」と言われたけど、この女の子にとっては他人事じゃなく心に響いたのだ。
 むくむくと執筆欲がわく。
 今連載しているものはこの恋愛小説と、中学生のときの先生をモデルにした職業小説と、欲望を詰め込んだ官能小説と、自分をぼこぼこにするホラー小説で、この四つがわたしの代表作みたいなかんじになっていた。他にも一話だけ書いた推理小説や不条理なショートショートや詩やエッセイなんかも書いているけど、あんまり閲覧数もコメント数も伸びないから飽きてしまった。
 よし、今日はせっかくレビューももらったわけだし、恋愛小説を更新しよう。
 気合いを入れて書き始めたのに、手が勝手に動き、あれ? おかしいな、なぜか主人公がどんどん不幸になっていく。恋人に裏切られ、浮気現場を目撃させられて、そのうえ騙されて慰謝料まで払わされた。
 そうだ、今朝薫くんは「仕事」に行って、紗奈ちゃんも帰ってしまって、無期ひとりぼっちの刑がはじまったばかりなんだった。わたしは黙ってブラウザを閉じる。保存はしない。
 そもそもわたしは、中学生のガキが書いた感想ひとつで何をよろこんでいるんだろう。くだらない、こいつどうせビッチだろ。
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