からかぜ

７．楓という人物

　楓のライブ配信は、いつも突然はじまる。
　週末の深夜からのこともあるし、水曜日の朝五時に開始することもあった。それなのに、楓はライブのアーカイブを残さない。
　だけど桃葉は、そのほとんどを見逃すことがなかった。大抵のライブ配信をリアルタイムで視聴できたのは、楓がＳＮＳに投稿するたびに、自分のスマホに通知が来るように設定したからだ。
【僕はゲームが好きですが、それ以上にみなさんと会話したり、同じ時間を過ごしたりするのが好きです。】
【楓といえばゲームというイメージがあるかもしれませんが、実は昔、スイーツレビューとかやってたことがあります。動画消しちゃったけど。見たことがある人はレアですね。楓は意外と、なんでもやりますよ。】
　動画や配信ではくだけた口調の楓だが、ＳＮＳではやけに丁寧な言葉を使う。軟派なのか硬派なのか、しっかりしているのか軽いのか。
　楓はたまに、ＳＮＳで「楓」という一人称を使った。少女が自分を呼ぶようなそれではなく、自分自身を客観視するがゆえの一人称。楓という人物は、画面の中でゲームをしている男とイコールで結びつかず、まるで人格やキャラクターのひとつでしかないというような。
　楓のライブ配信、あるいは投稿動画は、いつも少し冷たくて、たまに優しくなった。あるいはその逆で、すごくあたたかいのに、急に意地悪になる。
「こんな時間まで見てるって、みんな仕事とかしてないの？　なめてるだろ社会」
　そんな暴言を吐いておきながら、
「辛いのに仕事続ける人はもっとなめてると思うけど」
　と、フォローを入れる。あるいは、
「毎日見に来てくれる方には、感謝しかないよなーっていつも思ってるよ、本当に」
　と言いつつも、
「だから俺の配信以外見るの禁止ね。チャンネル登録全部解除してこい」
　と言って笑う。そして桃葉は、律儀にも実際にチャンネル登録を全て解除し、楓の言葉に応えられたのだと、満足するのだった。