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第8話 スタート地点 2
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さおちゃんはオーディションに合格してからは、大好きだったショートケーキも食べなくなった。カフェやファミレスに行くと、いつも美味しそうに甘いものを頬張っていたのに、最近はドリンクしか頼まなくなっていた。わたしの家に来ても、お菓子を食べないようにしていたのだった。
「そんなに無理しなくても、たまには食べても良いと思うけど?」
わたしもさおちゃんに合わせて、彼女の前ではお菓子は控えた。今日は久しぶりにさおちゃんが家に遊びに来ていたけれど、ただ紅茶を啜るだけだった。
甘いものを控えていることに加えて、ダンスレッスンもしているさおちゃんの体はアイドルになる前に比べて、随分引き締まっていた。元々可愛らしかったさおちゃんはさらに可愛さを磨いていき、なんだか少しずつわたしとは別世界の人になっているように思えた。
そんな風に思うと、もう一度見つめたさおちゃんはいつも以上に可愛らしく見えた。わたしを見つめてきているクリクリとした大きな瞳に吸い込まれそうな気分になってしまう。
「甘いもの食べたら体にキレがなくなっちゃうから。もっとダンスのキレあげて、ミミミみたいにもっと大きいとこでライブしたいし」
さおちゃんはわたしの部屋にある新しく買った雑誌の付録についていた、ミミミちゃんのポスターを見ながら言う。ポスターの中のミミミちゃんは、大きなライブ会場でマイクを持って、跳ねていて、とても躍動感があった。
「やっぱりミミミちゃんのこと意識してるんだね」
わたしが連れていったミミミちゃんのライブに行ったことがきっかけで、さおちゃんはアイドルを目指した。だから、ミミミちゃんのことも特別視してしまうのだと思う。
「別に、そう言うわけじゃ無いけど……」
さおちゃんは、少し照れくさそうに俯いてから続ける。
「ねえ、杏子ちゃんはまだミミミのこと推してるの?」
うん、と頷くと、さおちゃんは少し寂しそうに続けた。
「わたしがアイドルになっても?」
え? と一瞬首を傾げてから、うん、と素直に頷いた。
「さおちゃんのことはもちろん最推しだよ。でも、ミミミちゃんのこともさおちゃんの次に推してるよ」
どうしてミミミちゃんを推していることと、さおちゃんがアイドルになったこととが関係しているのだろうかと思ったけれど、さおちゃんが、そっか……、とがっかりしたみたいに答えた。
「杏子ちゃんはミミミのどこが好きなの?」
わたしの部屋の本棚に収まっていたミミミちゃんのフォトブックを持ってきて、尋ねてきた。さおちゃんは睨むみたいに誌面を見つめていた。誌面で踊っているミミミちゃんは、動作の一部分を切り取られているから静止しているはずなのに、動いて見えた。躍動感もある。その姿は、写真であっても目が離せなくなってしまう。
「すごいよね」
「何がよ?」
「ミミミちゃん、こんなに動いてるのに、全部笑顔なんだよ。どの箇所を切り取られても全部楽しそうに笑ってる。わたし、元気貰えるんだよね」
「わたしからは元気もらえないの?」
わたしの答えを聞いて、さおちゃんは俯いて、元気なさそうに尋ねてきた。
「ううん、毎日頑張ってるさおちゃんからも、もちろん元気貰えるよ。……ていうか、さおちゃんのことが最推しだって、ずっと言ってるじゃん」
「そうだけど……」
不満そうな顔をしているさおちゃんを見て、わたしは首を傾げた。
「わたしはどうやったら杏子ちゃんにたっぷり推してもらえるようになるのかな?」
「もうたっぷり推してるつもりだけど……」
さおちゃんにわたしの想いが伝わっていないようで、少し困ってしまった。今まで人の感情に鈍い子というイメージはなかったけれど、もしかしたら案外鈍感な子なのかもと思ってしまう。
「まだまだ足りないよ……」
「そうかな」
わたしが首を傾げるとさおちゃんは大きく頷いた。
「ミミミとセットで推されてるの納得いかないもん!」
「そう言われても……」
さおちゃんは最推しだけど、ミミミちゃんも大事な推しなわけで、正直選べない。わたしが困っていると、さおちゃんは小さくため息をついた。
「まあ、いいや。その代わり、ちゃんとわたしのライブ毎週来てね!」
「もちろんいくよ!」とわたしは即答した。さおちゃんの輝いているところを見るのは大好きだから。それに、まだまださおちゃんは駆け出しでファンも少ないから、わたしがさおちゃんにとって、一番のファンでいてあげられる気がするのだ。
「ミミミとわたしのライブの日が被ってもちゃんと来てくれるよね……」
「もちろん!」とわたしは胸を張って言った。わたしにとっての最推しはさおちゃんに変わりないのだから。わたしの言葉で、さおちゃんは口元を緩めた。
「……わかった! それならわたし頑張る!」
うん、と頷いてから、さおちゃんの頑張りを応援するのだった。
「そんなに無理しなくても、たまには食べても良いと思うけど?」
わたしもさおちゃんに合わせて、彼女の前ではお菓子は控えた。今日は久しぶりにさおちゃんが家に遊びに来ていたけれど、ただ紅茶を啜るだけだった。
甘いものを控えていることに加えて、ダンスレッスンもしているさおちゃんの体はアイドルになる前に比べて、随分引き締まっていた。元々可愛らしかったさおちゃんはさらに可愛さを磨いていき、なんだか少しずつわたしとは別世界の人になっているように思えた。
そんな風に思うと、もう一度見つめたさおちゃんはいつも以上に可愛らしく見えた。わたしを見つめてきているクリクリとした大きな瞳に吸い込まれそうな気分になってしまう。
「甘いもの食べたら体にキレがなくなっちゃうから。もっとダンスのキレあげて、ミミミみたいにもっと大きいとこでライブしたいし」
さおちゃんはわたしの部屋にある新しく買った雑誌の付録についていた、ミミミちゃんのポスターを見ながら言う。ポスターの中のミミミちゃんは、大きなライブ会場でマイクを持って、跳ねていて、とても躍動感があった。
「やっぱりミミミちゃんのこと意識してるんだね」
わたしが連れていったミミミちゃんのライブに行ったことがきっかけで、さおちゃんはアイドルを目指した。だから、ミミミちゃんのことも特別視してしまうのだと思う。
「別に、そう言うわけじゃ無いけど……」
さおちゃんは、少し照れくさそうに俯いてから続ける。
「ねえ、杏子ちゃんはまだミミミのこと推してるの?」
うん、と頷くと、さおちゃんは少し寂しそうに続けた。
「わたしがアイドルになっても?」
え? と一瞬首を傾げてから、うん、と素直に頷いた。
「さおちゃんのことはもちろん最推しだよ。でも、ミミミちゃんのこともさおちゃんの次に推してるよ」
どうしてミミミちゃんを推していることと、さおちゃんがアイドルになったこととが関係しているのだろうかと思ったけれど、さおちゃんが、そっか……、とがっかりしたみたいに答えた。
「杏子ちゃんはミミミのどこが好きなの?」
わたしの部屋の本棚に収まっていたミミミちゃんのフォトブックを持ってきて、尋ねてきた。さおちゃんは睨むみたいに誌面を見つめていた。誌面で踊っているミミミちゃんは、動作の一部分を切り取られているから静止しているはずなのに、動いて見えた。躍動感もある。その姿は、写真であっても目が離せなくなってしまう。
「すごいよね」
「何がよ?」
「ミミミちゃん、こんなに動いてるのに、全部笑顔なんだよ。どの箇所を切り取られても全部楽しそうに笑ってる。わたし、元気貰えるんだよね」
「わたしからは元気もらえないの?」
わたしの答えを聞いて、さおちゃんは俯いて、元気なさそうに尋ねてきた。
「ううん、毎日頑張ってるさおちゃんからも、もちろん元気貰えるよ。……ていうか、さおちゃんのことが最推しだって、ずっと言ってるじゃん」
「そうだけど……」
不満そうな顔をしているさおちゃんを見て、わたしは首を傾げた。
「わたしはどうやったら杏子ちゃんにたっぷり推してもらえるようになるのかな?」
「もうたっぷり推してるつもりだけど……」
さおちゃんにわたしの想いが伝わっていないようで、少し困ってしまった。今まで人の感情に鈍い子というイメージはなかったけれど、もしかしたら案外鈍感な子なのかもと思ってしまう。
「まだまだ足りないよ……」
「そうかな」
わたしが首を傾げるとさおちゃんは大きく頷いた。
「ミミミとセットで推されてるの納得いかないもん!」
「そう言われても……」
さおちゃんは最推しだけど、ミミミちゃんも大事な推しなわけで、正直選べない。わたしが困っていると、さおちゃんは小さくため息をついた。
「まあ、いいや。その代わり、ちゃんとわたしのライブ毎週来てね!」
「もちろんいくよ!」とわたしは即答した。さおちゃんの輝いているところを見るのは大好きだから。それに、まだまださおちゃんは駆け出しでファンも少ないから、わたしがさおちゃんにとって、一番のファンでいてあげられる気がするのだ。
「ミミミとわたしのライブの日が被ってもちゃんと来てくれるよね……」
「もちろん!」とわたしは胸を張って言った。わたしにとっての最推しはさおちゃんに変わりないのだから。わたしの言葉で、さおちゃんは口元を緩めた。
「……わかった! それならわたし頑張る!」
うん、と頷いてから、さおちゃんの頑張りを応援するのだった。
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