上 下
2 / 10

2話 ゴーレムでモンスターを倒してみた

しおりを挟む

 馬ゴーレムで暫く移動していると、馬車の轍道が出てきた。

「この先って町とかあるのかな」

『行ってみる?』

「う~ん……。
近くまで行ってみようかな。
どんな雰囲気かだけ見てみたいし」

 俺のような孤児がそう簡単に町に入れるかわからないし、もし入れたとしても生活できなきゃ意味がない。
 故郷だった村のように厄介者扱いされたらたまったものではない。

 轍が続く道に沿って移動して、太陽が真上にのぼってきた頃。

「そろそろお昼頃だよなぁ……」

 グウウゥゥとお腹がなる。
 朝から何も食べていなくて思わずお腹を擦る。
 ゴーレムを操るのにずっと魔力を使っていたから精神的にも疲労が溜まっていた。

「あそこでちょっと休憩しようか」

 轍から見える大きな木に向かい、根本に持たれて一休みをする。

「立派な気だなぁ。
樹齢何年だろ」

 見上げて呟く。

『500年くらいだね。
ねぇモール、この木に少し魔力を分けてあげてよ!!
良いことがある思うよ』

「魔力を?
ノームがそう言うなら……。
どうすればいいの?」

『木の幹に手を当てて元気になりますようにってお祈りしながらやってみて!!』

 言われた通りにすると、手のひらに圧倒的な重圧感を感じる。

ドクンッ ドクンッ

 巨大な心臓のような鼓動が強く伝わってくる。
 ただの大きな木だと思っていたのに、凄まじい存在感が全身を包み込む。

(魔力を流すんだよな……)

 ふぅっとひと呼吸して掌から大木へ魔力を流す。

「ッ!?」

 魔力がどんどん吸われていくのに驚き目を見開く。

「ちょっ!!
これどんどん魔力が吸われてるんだけど!?」

『大丈夫。
この樹に身を委ねて』

 ノームはニコニコしているだけだ。
 不安は大いにあるが、信じて魔力を流し続ける。
 あと少しで魔力が底をつくって所で止まった。

 巨木の葉がざわざわとざわめく。

『大地の王に愛されし子よ、感謝します』

 頭の中に女性の声が響いたかと思うと、巨木の幹から深緑色の長い髪をした奇麗な女性が現れる。

『私はレオルテア。
この木に宿る精霊です。
貴方のおかげで今しばらく生き永らえることが出来ます。
どうか受け取ってください』

 いつの間にかたくさんの実が成っており、枝から離れてゆっくりと俺のもとに集まってくる。
 林檎のような実を一つを手にとって見る。

《精降樹の実 Sランク
精霊が宿る木にのみ成る果物。
木の精霊に認められた証。
体力、魔力全回復》

「こ、これ……」

『良かったねモール!!
これでお腹を満たせるね!!』

「いやいやいやいや!!
恐れ多いわ!!
超レア食材じゃん!!」

 その果物が100個以上も頭上に浮かんでいる。

『どうぞ遠慮なく食べてください。
その実はあなたの物です』

 木に宿っている精霊レオルテアも微笑む。
 俺は恐る恐る一個に手を伸ばし口に運び、噛じる。
 ノームも一緒に果物を手にとってかぶりついた。

「ッ!!」

 口の中に溢れる果汁と極上の甘み。
 濃密なマンゴーのようで、それでいてさっぱりとしたメロンのような味わい。
 まさにほっぺたがこぼれ落ちるような美味しさだ。
 思わず一気に食べきってしまった。
 体中にあった痣や傷は消え、疲労感が癒える。

「ふぅ……、もう大満足だ……」

 たった一個なのにもうお腹いっぱいだ。
 俺は頭上を見上げ、たくさん浮かんでいる実をありがたく頂戴した。
 亜空倉庫に収納すると、精降樹の実は358個だった。

「ありがとうレオルテア。
またここに来た時は俺の魔力を分けてあげるよ」

『ありがとうございます。
貴方の魔力は大地にとても馴染みますから嬉しいです。
是非またお願いします』

 レオルテアは微笑んで手を降ると光の泡となって消えた。
 気にもたれ掛かり気持ちいい微風を受けて一休みした。

「それじゃあ行こっか」

『うん!!』

 今度は馬ゴーレムを作らずに、自分の足で道を行く。
 俺は冒険を楽しむことにした。

 人ひとり居ない長閑な田舎道、ノームと二人でのんびり歩いていると、草影から緑色の皮膚をした子鬼みたいなのが出てくる。

『ゴブリンだね。
オイラたちを狙ってるみたいだから倒しちゃうね!!』

「待って。
俺がやってみる」

 この世界で生きていくにはこういう事が付き物だ。
 守られてばかりじゃなくて、いざという時に自分で動けるように経験しておかないと。

「ゴーレム!!」

 特に何もイメージせず、ノームが作ったようなフォーマルなゴーレムを作り出す。
 ドシドシとゴブリンへ向かい、拳を叩きつける。
 一撃でゴブリンは死んでしまった。

「うおお……。
結構あっさり倒せたな。
ゴーレム、ゴブリンを埋めといて」

 土を掘り出しゴブリンを埋めるゴーレム。
 それが終わると俺は魔力の繋がりを絶ち、ゴーレムはただの土塊に戻った。

 日が暮れてきたからこれ以上進むのは諦めて、野宿する事にした。
 俺一人だけだったなら正直キツかったが、ノームが居てくれるから精神的に少し余裕ができた。

「順番にゴーレムを出して見張りしよう」

『そうだね!!
オイラが先に見張りをするからゆっくり休んでて!!』

 ノームはゴーレムを作って微笑む。

「ありがとう!
それじゃあお言葉に甘えて休ませてもらおうかな……。
3時間経ったら起こして……ふぁぁ……」

 あくびをして轍の横で寝っ転がる。
 午後から結構歩いたから疲れていたから直ぐに眠ってしまった。





『起きてモール』

「んぁ……3時間たった?」

 ムクリと起き上がると、太陽が登り始めていた。
 バッと起き上がる。

「もう朝じゃん!!
なんで起こしてくれなかったの!?」

『モールが気持ち良さそうに寝てたからね、寝かせてあげようと思って』

「ご、ごめん……。
今度は俺が見張りをするから休んでよ。
起きたら移動しよう」

『オイラは大丈夫だよ!!
先に進もう!!』

「いや、でも……」

『ほらほら!!
行こうモール!!』

 俺の手を引っ張り先へ行こうとするノームに連れられて、俺は諦めて進むことにした。

 何度かモンスターの襲撃があり、俺がゴーレムで蹴散らしていると遠くに壁が見えてくる。

「やっと見えてきた」

 轍の先には門があり、そこを門番が居る。
 その門の前に立つと門番が俺の前に立つ。

「この都市に入るなら銅貨3枚だ」

「え!?
あー……えーっと……」

 お金なんて持っているわけがない。
 しどろもどろになっていると、門番の圧が強くなってくる。

「お、お金持ってないです……」

「それじゃあ入れられねぇな。
都市アムリアは入市税が無いと入れん」

「あ、あの!!
この果物買いませんか!?」

 持っているものといえばあれしか無い。
 大変貴重な物だろうが、中の安全な暮らしのためならと亜空倉庫から精降樹の実を一つ取り出す。
 何も無い空中から突然物を取り出した事には驚いた様子だが、門番にはただの果物に見えたのだろう、相手にしてくれない。
 これがどんなに凄いものか説明しても信じてくれず、諦めかけた時。

「ちょっと良いかな」

 身なりの良いおじさんが門の向こうからやって来る。

「私が買い取ろう。
一つ金貨10枚で」

 金貨10枚で買うという男の人に門番の男は目を見開いて驚いている。
 この世界の貨幣の価値について良くわからないが、門番の様子を見てもそれが結構なお金なのはよくわかる。

「さっき見ていたが、収納系スキルを持っているのだろう?
あるだけ買い取ろう」

「は、はい……。
10個あります……」

 なんとなく、ホントの数字を言わないほうがいいと思った。
 ノームをチラと見ると、ずっとニコニコしていた彼だが、男に対してほとんど感情がないような真顔で見ている。
 何処かしら嫌悪しているような雰囲気だ。

「私はエウリム。
君の名前は?」

 凄みのある笑顔で俺を見るエウリム。

「えっと、俺はモールです……」

「そうか、この都市で何かあったら私の所に来なさい。
力になろう。
私は商人ギルドに居るから」

 そう言ってしっかり代金を払って去っていく。
 金貨110枚の収入だ。
 一枚だけを残して亜空倉庫に収納する。

「これでこの中に入れるよね?」

「あ、あぁ」

 門番の男は金貨一枚を受け取ると、入市税を引いた残りのお金を渡してくる。
 銀貨99枚と銅貨97枚だ。
 その場で数えたから確かな数字だ。

「あの、二人分お」

 お願いしますと言い終わる前にノームが遮る。

『人間にまオイラの姿は見えないよ。
あとで説明するからこのまま入っちゃおう!!』

 門番の脇をすり抜けてノームは一足先に中に入ってしまう。
 何か言いかけた俺を訝しむ門番に深く頭をたげて、俺はお金を亜空倉庫に収納しノームの後を追った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おっさん鍛冶屋の異世界探検記

モッチー
ファンタジー
削除予定でしたがそのまま修正もせずに残してリターンズという事でまた少し書かせてもらってます。 2部まで見なかった事にしていただいても… 30超えてもファンタジーの世界に憧れるおっさんが、早速新作のオンラインに登録しようとしていたら事故にあってしまった。 そこで気づいたときにはゲーム世界の鍛冶屋さんに… もともと好きだった物作りに打ち込もうとするおっさんの探検記です ありきたりの英雄譚より裏方のようなお話を目指してます

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...