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とても、心地が良かった。まるで、夢を見ていたような、そんな感覚に陥る。最高に、気分が良い時に歌うのは、病を治す効力が高まるという事。意識はしていなかったけど、助けられる命があると思うだけで、僕は救われる。


だから、僕は他人を救うのだ。


誰にも止めさせない。僕は僕の矜持で他人を救う。歌い終えると、ふぅと息をつく。目の前には、顔色が先ほどよりもずいぶんと良くなっている。おそらく、治ったのだろう。何せ、歌を歌うという治し方は実感が持てない。ここで、スマートフォンでも出せば確実なんだけど。他の人には奇妙な光景に映ってしまうから、取り出せない。


『多分、心配しなくても国王陛下は無事だよ。グレイシアが病を治したもの!』


アポロンは僕を安心させるように言う。アポロンが言うなら、きっと国王陛下は無事だよね?国王陛下は目を覚ました。僕の姿が映るや否や、動きを止めるが、どうやら、国王陛下は僕が『神の愛し子・グレイシア』で、第二王子という事を知っていた様子。知った上で、何もしなかったのだ。あれかな?触らぬ神に祟りなしってやつ。


国王陛下は僕に感謝の気持ちを述べる。


「・・・グレイシア。今更、こんな事を口にするのは差し出がましい事かもしれない。だが、言わせてくれ。グレイシアがいてくれて本当に、助かった。」


僕はその言葉に救われた。あぁ、僕はまた助けられる命を救ったのかと。そして、やっと僕は認められたのかと。僕は国に捨てられた存在であった。きっと、アポロンがいなければ、死んでいたし、人々を救うなんて、思わなかった。


「父上!!貴方を救ったのは、国に捨てられた第二王子なのですよ!ですから、今度は、第二王子の存在を認めてあげて下さい。そして、双子の王子の誕生は必ずしも凶兆ではない事を国に、国民に認めさせて下さい。」


アディエル王子は口を大きくして言った。


「そうだな。この事を国民に強く言わなければ。我が息子・・・・のグレイシアがこんなに立派に成長したという事、双子の王子の誕生は必ずしも悪い事ではないと言わないとな。」


その言葉で、僕の顔は胸が熱くなり涙が目に溢れる。


「・・・僕は、貴方の息子でいて良いんですか・・・。この国の第二王子で良いんですか・・・。僕はっ。いても良い存在なんですか!!」


僕の胸に長年つかえていた、蟠りは無くなった。僕はその場で、しゃがみ込んで、ただひたすらに泣いていた。父上はしゃがみ込んだ僕を強く抱き締めた。


☆☆☆☆


「次は王妃様を、母上を救いに行ってもよろしいでしょうか?」


「何!?母上も危険な状態なのか!?」


僕は頭を縦に振る。


「母上もあと2週間の命しかない・・・。だから、助けにいかないと死んじゃう。」


僕はそう言った時に、王妃様付きの侍女が父上に報告にあがる。


「国王陛下。王妃様の容態が急変しました!」
「何、それは誠か!!」
「はい!王妃様の意識がなくなってしまいました。」


僕は、すかさず宣言した。


「父上!!ここは、僕に行かせてください!!」
「役に立つかは置いておくが、僕も行くぞ!」
「王妃様の部屋まで案内してほしい!」
「分かった!」


王妃様の部屋に行くと、王妃様がベッドに横になっており、意識を失っていた。あぁ、これは二人・・を救わないと、両方とも亡くなってしまう。


僕は呼吸を整えると、歌い始める。


♪~♪♪


歌い終えると、意識を取り戻す。それと同時に痛みを伴う腹痛を起こす王妃様。これって、まさか!?


「……グレイシア!母上の病は治ったのか?」
「これは、病というより、母上のお腹に赤子がいるからかなぁ?今、体力を回復させたおかげで出産を促してしまったかもしれない。」
「赤子……?確かに、母上はこの頃ふくよかになられたが、まさか懐妊していたとは驚きだ!」


これにはどうしようも出来ない。


☆☆☆☆


意外と安産だったようで、数時間後に男の子を産んだ。また、出産による体力消費は少なかった。念の為、歌ったが。王妃様に、母上にも認められた。これで、ようやく隠れずに済むんだ。あぁ!ここまで、長かったなぁ。


『よかったね!グレイシア!』



☆☆☆☆


僕は第三王子の誕生と共に、公式の場で国王陛下に認知され、国王陛下の病を治した事を、噂が流れ、僕を歓迎する声が国民の中であがった。元々、『神の愛し子・グレイシア』として噂が流れていた事も功を奏した。



僕は今、幸せです!
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