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第34話: 異世界転移して「カレー」を作ったらみんな依存症になりました⋯⋯。

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 気がつくと辺りは暗くなっていた。
 いつのまにか日が暮れてしまったらしい。

 とぼとぼと王都に戻ると門番がいた。
 真剣な顔をしているのでカレーの影響から脱したのだろう。

 門から入ると厄介なことになりそうなので気配を消して塀を飛び越えた。

 街は活気を取り戻している。
 昼時には人がいなかったけれど、今は街ゆく人を見かける。

「誰にも捜索されてないみたいだな」

 かなり時間が経っていたので僕の不在に気がつき捜索隊でも結成されているかと思ったけれど、そんなことはなかった。

「国王と言ってもそんなものか⋯⋯」

 だけど歩きながら改めて考えるとやはりこの状態はおかしい。

 平時であればエレノアかペトロニーアあたりが気がついてなんらかの動きを見せてもおかしくないのにその気配がない。

「もしかして⋯⋯!」

 僕はたまらず走り出した。





 王都を走りながら僕はカレー依存症の対処策について改めて考えていた。
 気配を消しているので僕のことに気がつく人はいない。

 キョウヤを倒したことでこの世界にカレー耐性がある人はいなくなった。
 もちろん僕の知らないところで異世界から転移してきた人がいる可能性もあるけれど可能性としてはかなり低いと思っている。

 実際の所どれぐらいの人がカレー依存症にかかっているのかも今後調べていかなくてはならない。

 辺境の山奥にいる仙人みたいな人でさえもカレーを食べていると正気だった頃のマティアスに聞いたことがあるから望みは薄いかもしれないけれど、まだカレーを食べてない人がいる可能性はゼロじゃない。

 また、僕の子供たちは大きな可能性を持っている。
 エレノアたちが妊娠してから約十ヶ月が経過した。お腹は大きくなり、いつ産気づいてもおかしくないと言われている。

 僕の血が入っていればカレーに対する耐性があるのではないかと思っているけれど根拠はない。

 もし子孫たちが僕と同じようにカレー依存症にかからないのであれば、僕の人生は明るいものとなり、この世界の文明も潰えることはないだろう。

 一方で、子供たちもこの世界の人のようにカレー依存症にかかってしまうのだとしたらすぐに隔離しなければならないだろう。

 そんなことを考えていると、突然ルイナ村で赤子を見た時の記憶が蘇ってきた。
 あの時僕が調べた赤子はまだ生まれたばかりだったのにカレー依存症だった。
 だとすると食事をしていないのにカレー依存症にかかったことになる。

「ま、まさか⋯⋯」

 もし母体を通して胎児にカレーの成分が伝播する可能性があるとしたら⋯⋯?

 その可能性に思い至った途端に目がくらみ、全身が震え出した。
 生まれた子供にカレーを食べさせなければどうにかなると思っていたのだけれど、もうどうしようもない可能性があると気がついてしまった。

 足がうまく動かない。
 王城までもう少しなのに足を踏み出すことができない。

 僕は取り返しのつかないことをしてしまったのではないという考えが頭にこびりついて離れない。

 脳は僕の制御を振り切ってさまざまな想いを突きつけてくる。

 なぜ調子に乗ってカレーを作ってしまったのだろう。
 蔓延したと気づいた後、なぜ何とかなると思い込んでいたのだろう。
 なぜたった一人の理解者になる可能性のあったキョウヤを殺してしまったんだろう。
 なぜあんなに簡単に子供を作ってしまったのだろう。

 心臓が強く鼓動してとてつもない吐き気が込み上げてくる。

「⋯⋯でもまだそうと決まったわけじゃない」

 自分に言い聞かせる。
 まだ決まってもいないのに悩んでも仕方がない。
 全ては事が分かってから考えれば良い。
 だけどそんな考えに反して身体の震えはいつまで経っても止まらない。

 早く確認して楽になりたいのに、現実を見たくない。
 そんな気持ちが心の中でぶつかって暴れている。
 身体を動かしたいのに動かすことができなくなってしまった。

「こうなったら魔法で飛ぼう」

 僕は魔法を発動した。
 制御がぶれて安定しないけれど目的地はすぐそこなので問題ない。

 姿を隠しながら僕はフラフラと空を飛び、王城に入っていった。





 王城の中は静かだった。
 僕たち王族が居住する区画には侍女をはじめとして人がもっとたくさんいるはずだけれど人の気配を感じない。

「――――オギャア」

「!」

 微かに赤ん坊の泣き声が聞こえてきたような気がする。
 僕はエレノア達の部屋の方へと急いだ。

 部屋に近づくにつれて泣き声が大きくなってくる。
 しかも声は複数だ。

 四人のうち誰かは分からないけれど、二人以上の子供が生まれたらしい。
 僕は父になったのだ。

 再び全身がガタガタと震え出す。
 足が地面に張り付いて動かない。

「へ、部屋に入ったらまずは【鑑定】しよう⋯⋯」

 母と子の健康を確認して、それから子供のカレー依存症に対する耐性を見なければならない。

 もし子供がすでにカレー依存症だったらどうしよう⋯⋯。
 一人だけではなく、どの子もそうだったらどうしよう⋯⋯。

 僕はみんなが笑って暮らせる世界を作りたかった。
 それが仮初であったとしてもみんなが美味しいものを食べて、幸せに過ごせるのであればそれで良いと思っていた。
 だけど自分の子供もああやって狂っていくと思った瞬間、自分が犯したことの罪が重くのしかかってきた。

 本当に一生このままで良いのか?
 話が通じなっていく人々の中で僕は生きていくつもりなのか?

 壊れていく世界の中で僕だけが狂えない。
 それが僕が望んだことだったのだろうか。

 激しい震えを抑えながら僕は必死に赤ちゃんの声が聞こえる方へと向かった。
 そして扉を開けてすぐに【鑑定】スキルを発動した。

「どっちだ⋯⋯。どっちなんだぁぁぁぁ!!!!!」

 僕の声が城中に響き渡った。












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こちらで完結になります。
お読みいただきありがとうございました!
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