異世界転移して「カレー」を作ったらみんな依存症になりました⋯⋯。

藤花スイ

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第11話:準備

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 僕はフェランドレン帝国と神聖シオネル王国の戦争を止めるために行動を起こすことに決めた。
 すでに両国の国境付近で戦いは起きているようなので死人をゼロにすることは出来ないけれど、大規模な衝突を止められる可能性はある。

 そのためには短期間のうちにこの国を横断し、帝国を通って戦地へ行かなければならない。
 そのためにはどうしても騎士の力が必要なので、僕は騎士団長であるルシアンヌに要請をすることにした。

「ルシアンヌ、事情は聞いていると思うけれど精鋭を五人借りたいんだ。お願いできるか?」

「⋯⋯ユウトが行きたいと言うのであればいくらでも協力するが、どんな戦いをするつもりだ? それによって選抜しなければならない」

「前線まで行って戦争を止め、全員で帰ってくることが任務だと思っている。ペトロニーアを含む魔法使い五人と一緒で、のちにエレノアと合流することになっているが彼女は最前線には出ないと思う」

「エレノア様の守りは何人だ?」

「近衛の騎士が最大で三十人程度と聞いている」

「戦争地帯まで行くにしては少ないな。なぜそうなった?」

「機動力を重視した結果だと聞いた。それにエレノアの目的が軍事行動だと見なされないためにもそれぐらいが関の山だそうだ」

「よく陛下が許可したな」

「詳細は僕も知らないけれどエレノアが陛下を説き伏せたらしい。説得のためにかなりの理論武装をしていたようだから止められなかったんだろうな」

「なるほどな。さすがはエレノア様だが陛下の許可があったとしても戦争地帯に行くことの危険性が変わるわけではない」

 ルシアンヌは情報を聞いてしばし考え始めた。迅速果断がモットーのルシアンヌにしては時間がかかっている。

「メンバーは決まりそうか?」

「⋯⋯あぁ、メンバーならすでに決まっている」

「割と考え込んでいたようだけど?」

「私とユウトが戦争を止めに最前線に降り立つのだ。志願者が多そうだからどうやって言い聞かせようかと思ってな」

 ルシアンヌの話を聞いて僕は目が点になった。

「えっ、ルシアンヌも行くの?」

「当然だろう。むしろ副団長の二人も含めた最上位の五人で突撃するのが最善だろう?」

「何人か体力のある若い騎士を借りられれば良いと思っていたんだけど⋯⋯。僕は戦うつもりはないよ?」

「戦時中は何が起こるか分からないから強い者が行くに越したことはない。それにユウトが直接赴くのだろう? 行きたい者は多いはずだ」

「僕と行きたい人なんているの?」

「いるに決まっているだろう。騎士は誰しも英雄の後を追いたいと思うものなのさ。無論私もな」

「⋯⋯英雄って言われても実感がないんだよなぁ」

「自己評価が低いのは悪い癖だぞ。ユウトはもうこの国の英雄なんだから自覚を持った方が良い」

 何度そう言われても僕が自分のことを英雄だと思えるようになる気がしなかった。

「はっはっは。そんな渋い顔をするな。いまは実感が湧かないかもしれないが、直に分かるようになるさ。それこそ他国にでも行けばな」

「そんなものかなぁ⋯⋯」

 どう返せば良いか分からなくなったので僕は適度なところで話を戻し、ルシアンヌと今後の動きについて打ち合わせをした。
 そして細かい点に関して話をすり合わせた後、僕は王城に戻ることにした。

 駐屯地を出る前、僕はルシアンヌに改めてお礼をすることにした。

「ルシアンヌ、ありがとう。君を含め騎士団の精鋭がついてきてくれるなんて心強いよ。僕の事情に付き合わせてしまって悪いけれど、頼りにしているからね!」

「⋯⋯あぁ。私もユウトと戦いに赴けることになって嬉しく思っているぞ。次に会うのはもしかしたら出立の時かもしれないな」

「そうだね。エレノアがすごい早さで準備を進めているからすぐに発つことになると思うよ」

「あぁ、そうだろうな」

「それじゃあ、またね。僕もできる限り早く準備を進めるから」

「——ユウト!」

 帰ろうとルシアンヌに背を向けた時、彼女は僕の腕を掴んで引き留めた。
 咄嗟に振り向くとルシアンヌの神妙な顔が目の前にあった。

「私にとってユウトは英雄だ。これほどに強く、これほどに周囲の人を想っている男は他にいない。ユウト自身はそうは思えないのかもしれないが、私は誰よりもユウトのことを信頼しているぞ。ユウトのために身命を賭す覚悟は常に出来ている」

 ルシアンヌはそう言った。
 彼女にはそんな意図はなかっただろうけれど、僕は自分の覚悟を問われているような気がしてならなかった。





 次の日、僕はカレースパイスの生産拠点に来ていた。
 カレースパイスを補充するのと僕がいない間の方針を話し合うのが目的だ。

 まず僕は道中で必要な分のスパイスをアイテムボックスに収納した。
 自分たちで食べる分もあるけれど、必要に応じて交渉の材料とする予定だ。
 これらのスパイスは全て僕が中毒成分を分解してある。

 そして僕はまだ分解処理をしていない生のスパイス達もアイテムボックスに入れた。使い道が決まっているわけではないけれど役にたつ時が来るかもしれない。

 他にもこの場所には有害成分を持たない種類のスパイス——コショウやトウガラシなど——もあるので、それらもアイテムボックスに放り込んでおく。
 ちなみに僕は空間の魔法を利用することでアイテムボックスを実現している。

「こんなところかな」

 思いつくままにスパイスを持った。
 余ったら戻せば良いのだから気が楽だ。

 終わったら会議室に行って打ち合わせをする。
 会議には五人の人がいるけれど、話すのは商会長をお願いしているマティアスが中心だ。

「マティアスさん、最近の動向はどう?」

「そうですなぁ。供給量を絞って価格を上げたことで利益はどんどん上がっておりますなぁ!」

 マティアスは終始笑顔のままだ。
 いまやカレースパイスは世界中で売れまくっているのだから商人としては笑いが止まらないだろう。

「順調そうで良かったよ。この前話したように僕はしばらくいなくなるけれど、いつも通りマティアスさんに任せるってことで良いかな? もちろん帰って来たら色々確認するけどね」

「えぇ、もちろんですよ。今は特に難しい判断もいらないし、しばらくは任せてもらっても構わないですなぁ」

「王城に行けば僕の情報が分かるようにしておくから定期的に確認してほしい。それと今回の旅にはペトロニーアが同行するから緊急時には文書を送ってくれ」

 高速で文書を送ることのできる魔道具を開発しているのでそれでやりとりができる。

「分かりました! だがまぁユウトさん自ら戦地に行くことになるとはねぇ。あっちではそれだけのことになっているんですか?」

「まだ詳しいことは分からないな。どういう状況かこの目で見て、酷いことになる前に止めたいと思っているんだ」

「勇ましいことですなぁ⋯⋯」

「そんなことはないんだけどね」

 売上などに問題がないとしてもお互いの意向を擦り合わせておいた方が良いので、僕らは話し合いを続けた。




 
 会議が落ち着いてみんなで雑談をしている時、マティアスが気になることを言った。

「そういえば最近王都でカレーの消費量が増えているという噂を聞きました」

「消費量が? でも売っているスパイスの量は変わらないよね?」

「えぇ。おかしいと思って調べたのですがスパイスの販売量は変わらないどころか減っているようでした」

「その噂はどこで聞いたんだ?」

「それがあらゆる方面から話を聞くのです。信憑性が高そうなので詳しく調べようと思っていたのをいま思い出しました」

 スパイスが少なくなっているのにカレーの消費量が増えているというのはおかしい。
 そもそもカレーの消費量というのが何を示しているのかは具体的には分からないようだった。

「ちょっと気になるから調べた結果を後で教えて欲しい。僕は僕で調べてみようと思う」

「分かりました」

 カレーに関して不思議なことが起きたら調べる必要がある。
 僕はそんな風に思うようになっていた。
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