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第15章:追悼祭編

第161話:プラウティアの呟き

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 王立冒険者学校の三年生になったプラウティアは今日も訓練に情熱を捧げていた。

 いま彼女は『羅針盤』というパーティに仮所属している。
 パーティメンバーはプルケル、ストロー、ニーナ、ファビウス、メネニアだ。

 彼らは冒険者学校で最上位の成績を残している。
 その成績や冒険者の業績は、学生として過去最高レベルだと言われていて、いま最も将来を期待されているパーティの一つだ。

 これまで、王立冒険者学校のトップ層が同じパーティに所属することはほとんどなかった。彼らはエリート特有の競争意識を持っていて、それぞれが自分のパーティのリーダーになろうとする。
 だが、『羅針盤』はそうではなかった。全員がどのパーティでもトップを張れるような実力を持っているのに、一つのパーティに集まり、連携力を高めている。

 その結果、出来た布陣は強力だ。
 前衛で暴れるニーナを攻守に優れるファビウスが支える。
 全レンジで攻撃のできるプルケルがリーダーとして臨機応変に動きを変え、大きな隙が生まれればストローが強大な魔法で敵を滅する。
 傷を負ったとしても高レベルの回復魔法を行使するメネニアが瞬時に傷を癒す。彼女は武術にも優れているので簡単に崩れることはない。
 そして事態が硬直すれば奇策に秀でたプラウティアが飛び出して状況を一変させる。

 この六人の組み合わせは盤石に思われた。
 彼らの名は広がり、新進気鋭のパーティとして王都の冒険者で知らないものはいないほどだ。

 そんな風に持ち上げられてしまうと多少は浮ついた部分が出てしまうものだけれど、彼らに驕りは一切見られなかった。冒険者学校の同期に『月下の誓い』がいるからだ。

 今はセネカの不在によって活動を一時休止しているが、その名声は一年たった今も高まり続けている。

 彼女達の残した功績は数知れないが、昨年のトリアスでのスタンピードにおける活躍は目覚ましい。
 英雄アッタロス、英雄レントゥルス、そして新たな聖者と共にスタンピード終息の立役者となったこともよく取り上げられるが、同業者の間で評価されているのは彼女達の初動だった。

 あの動きがなければ被害は甚大となり、国が滅亡してもおかしくなかったと評価されている。

 後日、ガイア、マイオル、プラウティアによって発表された魔力溜まりに関する理論はギルドで共有され、上級冒険者達の間で広まっている。

 この業績は『月下の誓い』が、史上最年少で銀級冒険者となったセネカだけのパーティでないことを示している。

 ギルドからパーティ全員を銀級冒険者にして良いという話も出たが、リーダーのマイオルを筆頭に全員が辞退したことも彼女達の評価を高める要因となっている。



 そんな『月下の誓い』と比べると『羅針盤』の業績は霞んでしまう。
 プラウティアが仮所属していることもあり、他のメンバーの能力は彼女達とすぐ比較されてしまう。

 そんな状況は苦しいはずだけれど、プルケルをはじめとした全員が批判を甘んじて受け入れ、実力の向上に邁進している。

 プラウティアに心無い言葉をかける者も少なくない。
「なぜ月下の誓いを裏切った」「セネカのことを忘れたのか」「お前がいるからプルケル達は伸び悩んでいる」

 この一年で『月下の誓い』にも『羅針盤』にもファンができたが、そのどちらもプラウティアの味方ではない。



「何にも知らないくせに……」

 訓練を終えて自室に戻ったとき、プラウティアは思わず口に出してしまった。

 プラウティアは今でも『月下の誓い』の一員のつもりだ。
 冒険者学校を卒業したらマイオル達と合流してセネカを捜索する旅に出るつもりだし、みんなとはこまめに連絡をとっている。

 植物素材の開発も順調で、レベル3になったキトと共に製薬方面でも成果を上げている。
 この力はきっとパーティに戻ってからも役に立つはずだとプラウティアは信じている。

 早くみんなと共に行動したい。早くみんなの役に立ちたい。
 プラウティアはマイオル達と離れたことで『月下の誓い』に対する想いを強くした。

「早くみんなに会いたいな……」

 だけどマイオル達の元に戻るということは、一つの別れを意味するということもプラウティアは分かっていた。

 プラウティアはファビウスのことを心に浮かべた。
 同じパーティになってからも二人の関係は変わらなかった。
 焦がれる気持ちが穏やかな気持ちに変わっていくことにプラウティアは気がついていたけれど、セネカを見つけるため、戻ってきたセネカと肩を並べるために彼女は恋心を封印した。

「実る訳なかったんだよ」

 プラウティアには分かっていた。
 顔も性格も良くて、実力も申し分のないファビウスを他の人が放っておくわけがない。
 ちんちくりんで性悪の自分がファビウスと結ばれるとしたらこの時間しかなかったのだ。

 だけどプラウティアに迷いはなかった。
 セネカ達とあった頃、自分は何をしたいのか分かっていなかった。
 正直やりたいことなんて見つからないと思っていた。
 だけどついに分かったのだ。

「みんなと冒険を続けたい!」

 ただそれだけ。
 英雄になりたい訳でも、龍を倒したい訳でも、未知との遭遇を期待する訳でもない。
 ただみんなと冒険して、一緒に食事をして笑い合いたいだけ。
 それがプラウティアの望みだ。

 セネカを見つけるためだったら恋心も青春も投げ打ってしまって構わない。
 だからファビウスとの関係はもう終わりだとプラウティアは決めている。

 二人は別々の道を歩んでいくことになるのだ。

「だから、これが最後……」

 明日から『羅針盤』の六人は都市トリアスに向かって出発する。
 昨年起きたスタンピードで犠牲になった人々の追悼祭が行われるのだ。
 冒険者の活躍によって都市の被害はほとんどなかったけれど、それでも犠牲者は出てしまった。

 追悼祭には白金級冒険者のゼノン、ペリパトス、そしてピュロンをはじめとして、騒動収束に大きく貢献した者達が招待されている。勿論『月下の誓い』もだ。

 プラウティアはトリアスでマイオル達と合流し、卒業後のことを話すことになっている。

 追悼祭が終わったらあとは卒業試験に向けた準備をすることになる。
 本格的に『月下の誓い』に復帰する活動を始めることになっているから、ファビウス達と行動するのは追悼祭の間が最後になるだろう。

「マイオルちゃん、元気にしているかな」

 プラウティアは自分の部屋を見回し、入学した頃に買ったボロボロの木剣を手に取った。以前は隣にマイオルのものが立てかけられていた。

 さっき訓練を終えたつもりだったが、まだ足りないような気がしてきた。
 キトの見立てによればそろそろレベルアップしてもおかしくないようだし、もう少し剣を振っても良いだろう。

 セネカもマイオルも入学当日からこれくらいの訓練はこなしていたはずだ。

「セネカちゃん⋯⋯」

 そう呟くプラウティアの手はマメだらけだった。
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