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第13章(間章):一方その頃編
第149話:卓越者と親衛隊(3)
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ドルシーラは『キト様を尊ぶ会』の会長として第三王子セルギウスと対面していた。
「殿下、このような遠いところまでようこそおいでくださいました。殿下自ら足を運ばれるとはどのようなご用件でしょうか」
「あぁ⋯⋯。キト嬢のことで相談があり、私自ら伺うことにした」
「キト様に関するご相談ですか? どのような内容でしょうか」
ドルシーラは内心でキトの悩みの種は貴方ですよと言いたくなったけれど、グッと堪えた。
「キト嬢がこれまで派閥に属していなかったことは知っている。しかし、何とか私に力を貸して欲しいと思っているのだ。どうにか協力を願えないだろうか」
「いえ、キト様のご意向を無視して協力することはあり得ません」
「そこを何とかお願いできないだろうか」
すげなく断られてもセルギウスは引かない。
そんな様子を見てドルシーラは察した。
「⋯⋯やはり何も分かっていないようですね」
「なに?」
「殿下はこの学校のこと、そしてキト様のことを何も理解されていないご様子」
「どういうことだ」
あまりにも真っ直ぐに意見されたのでセルギウスはつい反発した。
側近達も剣呑な顔をしている。
「もし本当に心からキト様の協力を取り付けたいのであれば、この学校の理念とキト様自身のことについてもっと学ばなければ何も進みません。ここはこれまで殿下が過ごして来た世界とは違うのです」
「理念?」
「そうです。この学校は実力と利で動きます。いくら誠意を見せようとそれがなければ生徒は動きません。相手が王族であったとしても」
意外なことを言われたと思っているかのようにセルギウスは目を見開いた。
「殿下が私たちにもたらしてくれる利は何でしょうか。キト様は何を望んでいるでしょうか。その利益を提供する実力は殿下にはあるのでしょうか」
ドルシーラが側近達を見るとみんな分かっていないようだった。
なぜ分かっていないのか。
「これがこの学校の伝統です。国王陛下が在学中もそのように行動されたはずですし、現在も支持していただいているはずですよ? 『実力がある者は平民であっても登用する』というのは有名なお言葉だと思いますが⋯⋯」
セルギウスは絶句した。まさに国王のその言葉を知っていたからキトを仲間に引き入れようと考えていたはずなのにうまくいかなかったからだ。
ドルシーラはセルギウス達の頭の中でさまざまな考えが浮かんでいると気がついたのでサービスするのはここまでにすることにした。
「⋯⋯差し出がましいことを言って申し訳ありませんでした。改めてお伝えしますが、私達はキト様の喜ぶ顔が見たくてここにいるのです。それに反する依頼は例え王子殿下からのものであっても断らせていただきます!」
ドルシーラは言い切った。
周囲で様子を伺っていた会の者達はドルシーラの毅然とした態度に心の中で称賛を送った。言っていることが事実だとしてもそれを王族に面と向かって伝えるのは流石に気が引ける。
周囲の者達の様子からセルギウス達は自分たちの方に問題があるのではないかと思い始めた。
恥を忍んでもう少し情報を教えてもらえないかセルギウスが思案していると、突然会議室のドアが開き、一人の女子生徒が飛び込んできた。
「会長! 大変です!!!」
彼女は一目散にドルシーラの元に向かい、大きな声でそう言った。
「⋯⋯王子殿下がいらしています」
「あぁっ! 失礼しました。ですがキト様が――」
女子生徒がキトの名前を出した途端、ドルシーラもセルギウスも立ち上がった。
「キト様に何かあったんですか?」
「キト嬢に何かあったのか?」
ドルシーラはセルギウスよりも自分の方が一瞬早かったので謎の優越感を得た。
「キト様が⋯⋯レベル3になりました⋯⋯」
「なんてこと⋯⋯」
部屋中のキトファンが悲鳴か歓声が分からないような声を上げた。
「会長、もしかして⋯⋯」
「えぇ。私の知る限り、非戦闘系のスキルで在学中にレベル3になったお方は知りません。ご存知の方はおりますか?」
ドルシーラがそう聞くと全員が首を横に振った。セルギウスも皆と同じように首を動かしている。
「これは歴史を調べなくてはなりませんね! こうしては居られません!」
ドルシーラは先ほどまでの圧力を霧散させ、楽しげな様子になった。しかし、行動に移す前にふと疑問が湧いて来た。
「あ、そういえばその情報をどうやって得たのですか?」
「あぁ、そうでした! キト様がレベル3上昇の証明書を先ほど学校に提出したそうです。レベル上昇のきっかけとなったのは私達の支援のおかげでもあるそうなので是非お礼を言いたいとおっしゃっておりました。私は先行してここに来たのです」
「何ですって? これからキト様がここにいらっしゃるということよね?」
「そうです。キト様の予定が常に最優先と思っておりましたので了承してしまいましたが、お取り込み中でしたか? 間もなくキト様がこの部屋に着くと思いますが⋯⋯」
そう言って女子生徒はセルギウスを見た。
「突然来訪したのは私の方だから、構うことはない。ドルシーラ嬢、お邪魔した」
セルギウス達は辞去しようとしたけれど、動きが遅かったようで、キトを案内してきた別の女学生がすぐに部屋にやってきた。
「会長! キト様がいらっしゃいました!」
その部屋にいた全員が入り口に注目した。
「あら、お取り込み中だった?」
優雅に入ってきたキトはセルギウスを見てそう言った。
ドルシーラとセルギウスがいずれ対立することは分かっていたのでここにいるのは意外ではない。
「いや、ちょうど話が終わり帰るところだ。ドルシーラ嬢、キト嬢、またいずれ話に伺う」
セルギウスは気落ちした様子で側近達と共にゆっくり去っていった。
「ドルシー、殿下と何かあったの?」
「えぇ、少し強く言いすぎてしまいました。殿下がこの学校のことをあまりにも分かっておられない様子でしたので」
ドルシーラが気まずそうに言うのを聞いてキトは大体の事情を察した。そういう事態にならないように行動していたけれど、やはり問題は起きてしまったようだ。
ちなみにドルシーラはキトに愛称で呼ばれて内心では舞い上がっている。
「キト様、お聞きしました。レベルアップおめでとうございます」
「ありがとう! 聞いていると思うけど今日はその話でみんなにお礼を言おうと思って⋯⋯」
「わざわざこちらに来ていただきありがとうございます。ですが私達は当然のことをしたまでですの」
「そんなことないよ。いつも素材を集めてくれて助かってるの。今回もドルシーの伝手で買った龍卵殻があったからレベルを上げる事ができたのだもの」
「⋯⋯お役に立てたようで光栄です」
「今日は私がお金を出すからみんなで食事に行かない? みんなにいつも助けてもらっているお礼をしたいと思っているの」
「⋯⋯よろしいのですか?」
「うん。というかもうお店を貸し切っちゃったから来てもらえないと困るかな。久しぶりにみんなでお話ししようよ」
部屋にいた女生徒達はみんな満面の笑みを浮かべた。感激のあまり涙目になっている子もいる。
「キト様、本当におめでとうございます。キト様はそのお歳にして国中の者達から製薬をお願いされる立場になったのですね」
レベル3の薬師というのは貴重だ。未来のレベル4候補となれば王族であっても無碍に扱うことの出来ない存在だ。
「セルギウス殿下、キト様は貴方に干渉されるのが余程お嫌だったようですよ」
誰にも聞こえないようにドルシーラはそう言った。
「殿下、このような遠いところまでようこそおいでくださいました。殿下自ら足を運ばれるとはどのようなご用件でしょうか」
「あぁ⋯⋯。キト嬢のことで相談があり、私自ら伺うことにした」
「キト様に関するご相談ですか? どのような内容でしょうか」
ドルシーラは内心でキトの悩みの種は貴方ですよと言いたくなったけれど、グッと堪えた。
「キト嬢がこれまで派閥に属していなかったことは知っている。しかし、何とか私に力を貸して欲しいと思っているのだ。どうにか協力を願えないだろうか」
「いえ、キト様のご意向を無視して協力することはあり得ません」
「そこを何とかお願いできないだろうか」
すげなく断られてもセルギウスは引かない。
そんな様子を見てドルシーラは察した。
「⋯⋯やはり何も分かっていないようですね」
「なに?」
「殿下はこの学校のこと、そしてキト様のことを何も理解されていないご様子」
「どういうことだ」
あまりにも真っ直ぐに意見されたのでセルギウスはつい反発した。
側近達も剣呑な顔をしている。
「もし本当に心からキト様の協力を取り付けたいのであれば、この学校の理念とキト様自身のことについてもっと学ばなければ何も進みません。ここはこれまで殿下が過ごして来た世界とは違うのです」
「理念?」
「そうです。この学校は実力と利で動きます。いくら誠意を見せようとそれがなければ生徒は動きません。相手が王族であったとしても」
意外なことを言われたと思っているかのようにセルギウスは目を見開いた。
「殿下が私たちにもたらしてくれる利は何でしょうか。キト様は何を望んでいるでしょうか。その利益を提供する実力は殿下にはあるのでしょうか」
ドルシーラが側近達を見るとみんな分かっていないようだった。
なぜ分かっていないのか。
「これがこの学校の伝統です。国王陛下が在学中もそのように行動されたはずですし、現在も支持していただいているはずですよ? 『実力がある者は平民であっても登用する』というのは有名なお言葉だと思いますが⋯⋯」
セルギウスは絶句した。まさに国王のその言葉を知っていたからキトを仲間に引き入れようと考えていたはずなのにうまくいかなかったからだ。
ドルシーラはセルギウス達の頭の中でさまざまな考えが浮かんでいると気がついたのでサービスするのはここまでにすることにした。
「⋯⋯差し出がましいことを言って申し訳ありませんでした。改めてお伝えしますが、私達はキト様の喜ぶ顔が見たくてここにいるのです。それに反する依頼は例え王子殿下からのものであっても断らせていただきます!」
ドルシーラは言い切った。
周囲で様子を伺っていた会の者達はドルシーラの毅然とした態度に心の中で称賛を送った。言っていることが事実だとしてもそれを王族に面と向かって伝えるのは流石に気が引ける。
周囲の者達の様子からセルギウス達は自分たちの方に問題があるのではないかと思い始めた。
恥を忍んでもう少し情報を教えてもらえないかセルギウスが思案していると、突然会議室のドアが開き、一人の女子生徒が飛び込んできた。
「会長! 大変です!!!」
彼女は一目散にドルシーラの元に向かい、大きな声でそう言った。
「⋯⋯王子殿下がいらしています」
「あぁっ! 失礼しました。ですがキト様が――」
女子生徒がキトの名前を出した途端、ドルシーラもセルギウスも立ち上がった。
「キト様に何かあったんですか?」
「キト嬢に何かあったのか?」
ドルシーラはセルギウスよりも自分の方が一瞬早かったので謎の優越感を得た。
「キト様が⋯⋯レベル3になりました⋯⋯」
「なんてこと⋯⋯」
部屋中のキトファンが悲鳴か歓声が分からないような声を上げた。
「会長、もしかして⋯⋯」
「えぇ。私の知る限り、非戦闘系のスキルで在学中にレベル3になったお方は知りません。ご存知の方はおりますか?」
ドルシーラがそう聞くと全員が首を横に振った。セルギウスも皆と同じように首を動かしている。
「これは歴史を調べなくてはなりませんね! こうしては居られません!」
ドルシーラは先ほどまでの圧力を霧散させ、楽しげな様子になった。しかし、行動に移す前にふと疑問が湧いて来た。
「あ、そういえばその情報をどうやって得たのですか?」
「あぁ、そうでした! キト様がレベル3上昇の証明書を先ほど学校に提出したそうです。レベル上昇のきっかけとなったのは私達の支援のおかげでもあるそうなので是非お礼を言いたいとおっしゃっておりました。私は先行してここに来たのです」
「何ですって? これからキト様がここにいらっしゃるということよね?」
「そうです。キト様の予定が常に最優先と思っておりましたので了承してしまいましたが、お取り込み中でしたか? 間もなくキト様がこの部屋に着くと思いますが⋯⋯」
そう言って女子生徒はセルギウスを見た。
「突然来訪したのは私の方だから、構うことはない。ドルシーラ嬢、お邪魔した」
セルギウス達は辞去しようとしたけれど、動きが遅かったようで、キトを案内してきた別の女学生がすぐに部屋にやってきた。
「会長! キト様がいらっしゃいました!」
その部屋にいた全員が入り口に注目した。
「あら、お取り込み中だった?」
優雅に入ってきたキトはセルギウスを見てそう言った。
ドルシーラとセルギウスがいずれ対立することは分かっていたのでここにいるのは意外ではない。
「いや、ちょうど話が終わり帰るところだ。ドルシーラ嬢、キト嬢、またいずれ話に伺う」
セルギウスは気落ちした様子で側近達と共にゆっくり去っていった。
「ドルシー、殿下と何かあったの?」
「えぇ、少し強く言いすぎてしまいました。殿下がこの学校のことをあまりにも分かっておられない様子でしたので」
ドルシーラが気まずそうに言うのを聞いてキトは大体の事情を察した。そういう事態にならないように行動していたけれど、やはり問題は起きてしまったようだ。
ちなみにドルシーラはキトに愛称で呼ばれて内心では舞い上がっている。
「キト様、お聞きしました。レベルアップおめでとうございます」
「ありがとう! 聞いていると思うけど今日はその話でみんなにお礼を言おうと思って⋯⋯」
「わざわざこちらに来ていただきありがとうございます。ですが私達は当然のことをしたまでですの」
「そんなことないよ。いつも素材を集めてくれて助かってるの。今回もドルシーの伝手で買った龍卵殻があったからレベルを上げる事ができたのだもの」
「⋯⋯お役に立てたようで光栄です」
「今日は私がお金を出すからみんなで食事に行かない? みんなにいつも助けてもらっているお礼をしたいと思っているの」
「⋯⋯よろしいのですか?」
「うん。というかもうお店を貸し切っちゃったから来てもらえないと困るかな。久しぶりにみんなでお話ししようよ」
部屋にいた女生徒達はみんな満面の笑みを浮かべた。感激のあまり涙目になっている子もいる。
「キト様、本当におめでとうございます。キト様はそのお歳にして国中の者達から製薬をお願いされる立場になったのですね」
レベル3の薬師というのは貴重だ。未来のレベル4候補となれば王族であっても無碍に扱うことの出来ない存在だ。
「セルギウス殿下、キト様は貴方に干渉されるのが余程お嫌だったようですよ」
誰にも聞こえないようにドルシーラはそう言った。
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