上 下
123 / 186
第11章:銀級冒険者昇格編(3):騒乱

第123話:間隙

しおりを挟む
 最新の理論によれば、この世界の物質は目に見えない小さな物質が固まってできているのだという。

 本当なのかは分からないけれど、スキルの行使に大事なのはイメージだ。
 だからセネカは自分や魔物がそのような微小の物質で出来ていると思い込むことで、強力な攻撃を繰り出そうと奇行を始めた。

 細かいことはよく分からない。
 ガイアに何度も理論を聞いたし、数式を解くとそれっぽい答えが出ることも分かっている。
 だけど理論は時代とともに変わってしまうし、机の上の結論が常に現実を反映しているとは限らない。

 となると、セネカが出来ることは一つである。
 その法則が成り立つ世界を自分の中に作れば良い。

 他の人にとっては空気を【縫う】という行為が意味不明なように、このスキルが戦いに使えるとは思えないように、世界がどう動くのかはセネカには分からない。

 だけど、空気を縫うこともスキルが当たりであることも、セネカにとっては真実なのだ。

 その揺るぎない想いを今だけでも、スキルの力で現実にしてしまえば良い。

 ルキウスが隣にいる今、セネカは何にでもできる気持ちになっていた。





 大太刀を鞘に納めたまま、ルキウスはガーゴイルに向かっていった。ガイアの魔法を受けてバランスを崩す魔物は恰好の的だ。
 だけど、ルキウスは攻撃しないまま、一旦ガーゴイルの横を通り過ぎた。

 攻撃が来ると身体を硬くしていたガーゴイルは完全に拍子を崩された。

「[剣]」

 ルキウスは作成した大太刀に同じサブスキルを重ねがけし、威力を倍加した。
 そして振り向いて、反対側でセネカが攻撃体制に入っていることを確認した。

 セネカが柄に手をかけて、刀を抜こうとしているのが見える。
 ルキウスも柄を握り、セネカと同時に飛び出した。
 二人の視線が交錯する。

 二人は息を合わせ、両側から激烈な居合い攻撃を放った。

 ガーゴイルに攻撃が当たる瞬間、セネカはその魔物を構成する小さな物質の間に刃を入れて、極微の間隙を【縫い】進めた。

 シャキーン。

 ガーゴイルを切り裂く二つの音が重なり、大森林に響く。

「ギ」

 そしてガーゴイルは胸と腹を両断され、三つに分かれて落ちていった。

【レベル4に上昇しました。[縫い付ける]が可能になりました。干渉力が大幅に上昇しました。身体能力が大幅に上昇しました。魔力が大幅に上昇しました。サブスキル[属性変換]を獲得しました】

 セネカはレベル4になった。





 切断されたガーゴイルは地に落ち、下半身の方から崩れ出した。
 シューシューと音が出ていて、煙のようなものが発生している。

「⋯⋯勝ったのね」

 マイオルがそう言ったのを皮切りに力が抜け、みんなが地面に腰を下ろした。

 アッタロスとレントゥルスは限界を超えて技を出したため、肉体の消耗が激しかった。
 最後の攻撃のために力を振り絞ったセネカとルキウスも満身創痍であった。

 ポーションで魔力をこまめに回復しながら【探知】を続けたマイオルも脳の疲労で限界を感じている。そのマイオルと共に攻撃を抑え続けていたガイアもボロボロだ。

 安堵感からプラウティアはへたり込んだけれど、この中では比較的ダメージが少ないと気付くとアッタロスとレントゥルスの方に向かい、ケガの手当てをし始めた。

 全員が死を覚悟した戦いだった。
 明らかに戦力は足りておらず、幾つもの偶然が重なって得ることが出来た貴重な勝利であった。
 次に同じメンバーで戦っても勝てるか分からない。そんな激闘であった。

 ガーゴイルが亜空間から魔物を召喚していたと考えると数々の違和感を説明出来るというのも全員が脱力した要因の一つだ。

 魔物の増えが早く、倒しても倒しても強力な魔物が出てくる理由が分かった。だからあのガーゴイルを倒したことでスタンピードの原因もおそらく除かれただろうとみんなが思っていた。

 そんな気の緩みを敵は見逃さなかった。





 その魔物にはまだ息があった。

 先は長くなく、首以外はもう朽ちている。
 完全なる敗北だ。
 しかし、自分にトドメを刺したあの二人、特に聖の遣いだけは苦しめてやりたい。
 だからその魔物はあと十数秒だけ残っていた時間を捧げて、ささやかな反撃をすることにした。

 これまでその魔物は亜空間を発生させ、こちらの空間に吐き出すことで火や魔物を召喚していた。
 今度は亜空間を発生させて吸い込めば良い。

 そうすればアイツを苦しめることができる。

 首だけになったガーゴイルは最後の力を振り絞って、ルキウスのすぐ後ろに亜空間を発生させた。

 そして吸引を開始して、事の顛末を見届ける事なく息絶えた。





 それは突然やって来た。
 全員が気を抜いている時、ルキウスの後ろに赤黒い亜空間が発生したのだ。

 セネカが声を出して注意を促そうとした時、ルキウスは既に吸い込まれ始めていた。

「ルキウス!」

 セネカは反射的に立ち上がり、ルキウスの腰にしがみついて、そして一緒に亜空間に飲み込まれていった。

「セネカァァァァ!!!!!」

 いち早く異常に気がついたマイオルの悲痛な叫びだけが、大森林に響いていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。 そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。 とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする? パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。 そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。 目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。 とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。

理想とは違うけど魔法の収納庫は稼げるから良しとします

水野忍舞
ファンタジー
英雄になるのを誓い合った幼馴染たちがそれぞれ戦闘向きのスキルを身に付けるなか、俺は魔法の収納庫を手に入れた。 わりと便利なスキルで喜んでいたのだが幼馴染たちは不満だったらしく色々言ってきたのでその場から立ち去った。 お金を稼ぐならとても便利なスキルじゃないかと今は思っています。 ***** ざまぁ要素はないです

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

おいしい狩猟生活

エレメンタルマスター鈴木
ファンタジー
幼い頃から祖父の趣味に付き合わされ、自身も大の狩猟好きになってしまった、主人公の狩生玄夜(かりゅうげんや)は、休暇を利用して、いつもの様に狩猟目的の海外旅行に出る。 しかし、今度の旅行は一味違った。 これは、乗っていた飛行機ごと異世界に集団転移し、嘆き悲しむ周囲の人間が多い中、割りと楽しみながら狩猟生活に挑む、そんな主人公のサバイバルレポートである。 【注意】 現実では、自宅の庭に侵入した野生生物以外は全て、狩猟するには許可が必要です。 また、大型野生生物の殆どは絶滅危惧種指定の保護対象です。絶対に真似をしないで下さい。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ 狩猟が始まるのは十話辺りからになります。それまで長々と説明回が続きますが、ご容赦下さい。 ※ が付いている回にはステータス表記があります。 この作品には間違った知識、古くて現在では効率の悪い知識などが含まれる場合があります。 あくまでもフィクションですので、真に受けない様に御願いします。 この作品には性暴力や寝取られ要素は一切ありません。 作者にとって初の作品となります。誤字脱字や矛盾点、文法の間違い等が多々あると思いますが、ご指摘頂けた場合はなるべく早く修正できるように致します。 どうぞ宜しくお願いします。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

勇者召喚おまけ付き ~チートはメガネで私がおまけ~

渡琉兎
ファンタジー
大和明日香(やまとあすか)は日本で働く、ごく普通の会社員だ。 しかし、入ったコンビニの駐車場で突如として光に包まれると、気づけば異世界の城の大広間に立っていた。 勇者召喚で召喚したのだと、マグノリア王国の第一王子であるアルディアン・マグノリアは四人の召喚者を大歓迎。 ところが、召喚されたのは全部で五人。 明日香以外の四人は駐車場でたむろしていた顔見知りなので、巻き込まれたのが自分であると理解した明日香は憤りを覚えてしまう。 元の世界に戻れないと聞かされて落ち込んでしまうが、すぐにこちらで生きていくために動き出す。 その中で気づかなかったチート能力に気づき、明日香は異世界で新たな生活を手に入れることになる。 一方で勇者と認定された四人は我がままし放題の生活を手にして……。 ※アルファポリス、カクヨム、なろうで投稿しています。

処理中です...