114 / 198
第11章:銀級冒険者昇格編(3):騒乱
第114話:その魔物
しおりを挟む
「ゼノン、あとは任せたー」
ペリパトスは気楽にそう言ったあと、地面に座り、胡座をかいた。
攻撃は終了したので、あとはゼノンが『扉』を閉じるのを見るだけだ。
「あぁ」
ゼノンは手を大きく広げたあと、大河のように雄大だった魔力を解放し、激流のごとく循環させ始めた。
ゼノンは広げた両の掌を向かい合わせて、間にある何かを挟み込むように動かした。その動きに伴って宙に浮かぶ亜空間が僅かに小さくなり始める。
「骨が折れるな」
いつも涼しい顔をしているゼノンの額には汗が滲んできている。
「⋯⋯畳み込まねばならぬか」
ゼノンは何やらぶつぶつと呟いている。
横にいるペリパトスは興味深そうにゼノンの顔を見ている。滅多に本気を出さないゼノンの全力が見られるかもしれないと思ったからだ。
ゼノンはゆっくりと息を吐いたあとで、魔力の圧をさらに高めた。そして透き通った汗を流しながら全てを魔法に投入した。
「[次元圧縮]」
ゼノンがエクストラスキルを発動した途端、それまで抵抗を続けているように見えた『扉』はあっけなく小さくなり、姿を消した。
ゼノンは楽しそうな笑みを浮かべながら額の汗を拭った。
◆
「ファビウス、ニーナ、私とペリパトスはこれから睡眠を取る。あとは頼んだぞ」
ゼノンはポーションを飲みながらそう言った。
「分かりました。『扉』はこれで閉じたんですか?」
「そうだ。だが、しばらくの間は空間が荒れたままだろう」
ゼノンはそう言ったけれど、ファビウスは理解できなかった。
「ペリパトス、私のポーションを飲むと良い」
「お前が持ってるポーションの効果は高いけれど、激マズなんだよなぁ⋯⋯」
「ポーションは癒すために作られたのだ。その原理に従って調合してもらったに過ぎない」
「そりゃ、そうなんだが、人間はまずい薬を喜んで飲むようには作られていないんだよ」
「それもまた真理だな」
「だがまぁワガママ言ってる状況じゃないからな。ありがたく飲ませてもらう」
ペリパトスはゼノンから瓶を受け取り、毒でも呷るかのような様子で飲み、顔を大きく歪ませた。
ゼノンはその様子を満足そうに眺めてからもう一度ファビウスとニーナの方を向いた。
「一時ほど経過したら起こしてくれ。睡眠を取っているだけだから緊急時には起こしてくれて構わない」
そう言った後、ゼノンは腰を下ろし、膝を抱えて丸まりながら眠ってしまった。
寝方が意外とかわいいが、見てはいけないもののように思ったのでファビウスは目を逸らした。
◆◆◆
その魔物は『扉』を通ってこの世界にやって来た。
魔力の薄い世界に降り立つと、目の前に強大な魔物が立ちはだかった。
それは『扉』の前に鎮座し、『扉』の成長と共に強くなることの出来る特別な魔物であった。
魔物同士で戦うことも出来たけれど、彼は同じ匂いのする者と戦うのが好きではなかったので即座に場所を譲り、自分は離れることにした。
ゆっくりと歩いて強大な魔物の横を通り過ぎる時、両者は目を合わせた。
『扉』を介さねば決して出会うことのなかった二匹の魔物は目線を交わし、まるで戦友であるかのように心の中でお互いを激励した。
◆
その魔物は能力を持っている。
それは時に敵を攻撃し、時に仲間を増やすための能力だ。
だからまずはひっそりと潜む場所を探し、入念に準備をしてから仲間を呼ぶことにした。
時折、敵の気配がした。
自分が探られているような気がしたので、気配を感じるたびにその魔物は能力の使用をやめ、時が経つのをゆっくりと待った。
そうやって隠れているうちに腹が減っていることに気がついた。
その魔物は魔力の薄い世界に慣れていなかったので突然に訪れる空腹にいささか驚いた。
だから、弱い魔物や獣をたくさん狩って、いつでも食事ができるように穴蔵に貯め続けた。
◆
しばらくすると、戦いが始まった。
強大な二つの力がぶつかる気配がある。
あの魔物が戦っているのだろう。
探られるような気配を頻繁に感じるようになった。
中には身の毛もよだつほどの不快な波がやってくるが、その魔物は激情を抑え込み、自分の力が気取られないようにしながら、さらに森の奥へ移動していった。
酷く不快な波は定期的にその魔物を襲った。攻撃を仕掛けたくなるような衝動が溢れたけれど、その魔物は耐えることが出来た。
反対に、それはあまりにも一定の間隔でやってくるので、その魔物はいつそれがやって来て、いつなら来ないのかを学習してしまった。
だからその魔物は時期を見ながら少しずつ強い魔物を呼び続けた。
◆
しばらくすると、絶大な波動があたりに立ち込め、穢らわしい気配が漂った。
その魔物はあの強大な魔物の敗北を悟った。それほどに強烈な攻撃だった。
隠れながら近場の魔物を食って英気を養い、その魔物は自らの能力で『扉』の様子を窺っていた。けれど、あの魔物を倒した強者が『扉』から離れる気配はない。
少しすると同じくらい強大な力を持つ者が現れ、二人は全力で『扉』に向かって攻撃を放った。
そして、あろうことか魔法で強引に『扉』を閉じてしまった。
その魔物は、生まれつき備わる知覚能力を動員して、必死に『扉』の気配を探った。
そしてあることに気がついた。
強引に閉じられた『扉』の封印はまだ完全ではなく、接合が馴染むまでにまだ時間があるということだった。
それならまだやりようはある。
邪魔な奴らを排除する。
その魔物は覚悟を決めた。
ペリパトスは気楽にそう言ったあと、地面に座り、胡座をかいた。
攻撃は終了したので、あとはゼノンが『扉』を閉じるのを見るだけだ。
「あぁ」
ゼノンは手を大きく広げたあと、大河のように雄大だった魔力を解放し、激流のごとく循環させ始めた。
ゼノンは広げた両の掌を向かい合わせて、間にある何かを挟み込むように動かした。その動きに伴って宙に浮かぶ亜空間が僅かに小さくなり始める。
「骨が折れるな」
いつも涼しい顔をしているゼノンの額には汗が滲んできている。
「⋯⋯畳み込まねばならぬか」
ゼノンは何やらぶつぶつと呟いている。
横にいるペリパトスは興味深そうにゼノンの顔を見ている。滅多に本気を出さないゼノンの全力が見られるかもしれないと思ったからだ。
ゼノンはゆっくりと息を吐いたあとで、魔力の圧をさらに高めた。そして透き通った汗を流しながら全てを魔法に投入した。
「[次元圧縮]」
ゼノンがエクストラスキルを発動した途端、それまで抵抗を続けているように見えた『扉』はあっけなく小さくなり、姿を消した。
ゼノンは楽しそうな笑みを浮かべながら額の汗を拭った。
◆
「ファビウス、ニーナ、私とペリパトスはこれから睡眠を取る。あとは頼んだぞ」
ゼノンはポーションを飲みながらそう言った。
「分かりました。『扉』はこれで閉じたんですか?」
「そうだ。だが、しばらくの間は空間が荒れたままだろう」
ゼノンはそう言ったけれど、ファビウスは理解できなかった。
「ペリパトス、私のポーションを飲むと良い」
「お前が持ってるポーションの効果は高いけれど、激マズなんだよなぁ⋯⋯」
「ポーションは癒すために作られたのだ。その原理に従って調合してもらったに過ぎない」
「そりゃ、そうなんだが、人間はまずい薬を喜んで飲むようには作られていないんだよ」
「それもまた真理だな」
「だがまぁワガママ言ってる状況じゃないからな。ありがたく飲ませてもらう」
ペリパトスはゼノンから瓶を受け取り、毒でも呷るかのような様子で飲み、顔を大きく歪ませた。
ゼノンはその様子を満足そうに眺めてからもう一度ファビウスとニーナの方を向いた。
「一時ほど経過したら起こしてくれ。睡眠を取っているだけだから緊急時には起こしてくれて構わない」
そう言った後、ゼノンは腰を下ろし、膝を抱えて丸まりながら眠ってしまった。
寝方が意外とかわいいが、見てはいけないもののように思ったのでファビウスは目を逸らした。
◆◆◆
その魔物は『扉』を通ってこの世界にやって来た。
魔力の薄い世界に降り立つと、目の前に強大な魔物が立ちはだかった。
それは『扉』の前に鎮座し、『扉』の成長と共に強くなることの出来る特別な魔物であった。
魔物同士で戦うことも出来たけれど、彼は同じ匂いのする者と戦うのが好きではなかったので即座に場所を譲り、自分は離れることにした。
ゆっくりと歩いて強大な魔物の横を通り過ぎる時、両者は目を合わせた。
『扉』を介さねば決して出会うことのなかった二匹の魔物は目線を交わし、まるで戦友であるかのように心の中でお互いを激励した。
◆
その魔物は能力を持っている。
それは時に敵を攻撃し、時に仲間を増やすための能力だ。
だからまずはひっそりと潜む場所を探し、入念に準備をしてから仲間を呼ぶことにした。
時折、敵の気配がした。
自分が探られているような気がしたので、気配を感じるたびにその魔物は能力の使用をやめ、時が経つのをゆっくりと待った。
そうやって隠れているうちに腹が減っていることに気がついた。
その魔物は魔力の薄い世界に慣れていなかったので突然に訪れる空腹にいささか驚いた。
だから、弱い魔物や獣をたくさん狩って、いつでも食事ができるように穴蔵に貯め続けた。
◆
しばらくすると、戦いが始まった。
強大な二つの力がぶつかる気配がある。
あの魔物が戦っているのだろう。
探られるような気配を頻繁に感じるようになった。
中には身の毛もよだつほどの不快な波がやってくるが、その魔物は激情を抑え込み、自分の力が気取られないようにしながら、さらに森の奥へ移動していった。
酷く不快な波は定期的にその魔物を襲った。攻撃を仕掛けたくなるような衝動が溢れたけれど、その魔物は耐えることが出来た。
反対に、それはあまりにも一定の間隔でやってくるので、その魔物はいつそれがやって来て、いつなら来ないのかを学習してしまった。
だからその魔物は時期を見ながら少しずつ強い魔物を呼び続けた。
◆
しばらくすると、絶大な波動があたりに立ち込め、穢らわしい気配が漂った。
その魔物はあの強大な魔物の敗北を悟った。それほどに強烈な攻撃だった。
隠れながら近場の魔物を食って英気を養い、その魔物は自らの能力で『扉』の様子を窺っていた。けれど、あの魔物を倒した強者が『扉』から離れる気配はない。
少しすると同じくらい強大な力を持つ者が現れ、二人は全力で『扉』に向かって攻撃を放った。
そして、あろうことか魔法で強引に『扉』を閉じてしまった。
その魔物は、生まれつき備わる知覚能力を動員して、必死に『扉』の気配を探った。
そしてあることに気がついた。
強引に閉じられた『扉』の封印はまだ完全ではなく、接合が馴染むまでにまだ時間があるということだった。
それならまだやりようはある。
邪魔な奴らを排除する。
その魔物は覚悟を決めた。
20
お気に入りに追加
597
あなたにおすすめの小説
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
チート狩り
京谷 榊
ファンタジー
世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。
それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。
病原菌鑑定スキルを極めたら神ポーション出来ちゃいました
夢幻の翼
ファンタジー
【錬金調薬師が治癒魔法士に劣るとは言わせない!】
病を治す錬金調薬師の家系に生まれた私(サクラ)はとある事情から家を出て行った父に代わり工房を切り盛りしていた。
季節は巡り、また流行り風邪の季節になるとポーション作成の依頼は急増し、とてもではないが未熟な私では捌ききれない依頼が舞い込む事になる。
必死になって調薬するも終わらない依頼についに体調を崩してしまった。
帰らない父、終わらない依頼。
そして猛威を振るう凶悪な流行り風邪に私はどう立ち向かえば良いのか?
そして、私の作った神ポーションで誰を救う事が出来たのか?
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。
TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる