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第8章:王立冒険者学校編(2)

第77話:プラウティアの戦い

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 一回戦に勝利した安堵感を味わいながらプラウティアは次の試合を見ていた。勝った方が二回戦の相手になる。

 戦っているのは一年Sクラスのプルケルと三年Aクラスの先輩だ。

 攻めているのは先輩の方だが、試合は終始プルケルが主導権を握り、危なげなく勝利した。

 次の相手は冒険者ギルド王都支部のホープ、プルケル・クルリスに決まった。

 プラウティアは「ふぅー」と長く息を吐いた。プルケルの厄介さはセネカとマイオルからよく聞いている。
 セネカは模擬戦で一度も負けたことがないらしいが、マイオルは一度も勝ったことがないようだ。

 そんな相手に自分が勝てるだろうか。
 そう問いかける。

 準備はした。
 策も練った。
 あとはやれることをやるだけだ。
 プラウティアは木剣を握りしめた。





 お昼を食べてゆっくり過ごした後、戦いの時間がやって来た。

 試合会場の横で呼ばれるのを待っていると金髪の派手な男が歩いてくる。プルケルだ。

「やぁ、プラウティアさん。ごきげんよう。君と戦うのは初めてだね。僕は楽しみにしているんだ」

 いつも通りの馴れ馴れしい態度でプルケルが話しかけて来た。品があるおかげで爽やかに思ってしまうのがなんだか不服だとプラウティアは感じた。

「単純な戦闘力だけだったら僕の方が上かもしれないが、君たちは油断ならないからね。どんな戦いになるか分からない」

 君たちとは『月下の誓い』の者達のことだろうとプラウティアは理解した。

 軽く言葉を交わしたあと、プルケルは少し離れたところで気持ちを集中させ始めた。

 プラウティアは再び木剣を握りしめる。
 勝てないかもしれない。
 だけど、それでも全力を尽くす。

「一年Aクラス、プラウティアさん。一年Sクラス、プルケルさん。試合の時間です」

 さぁ、戦いの時間だ。





 プルケルの戦法は明快だ。
 必殺の間合いでは魔槍を使ってくる。槍の間合い以外では内でも外でも魔法を使ってくる。分かってはいるけど倒せない。そういうタイプの戦いをする。単純に見えても技は多彩だ。

 特にこの半年間、突拍子もない攻撃を繰り出してくるセネカとニーナに鍛えられて、対応力が格段に上がったと本人も言っている。Sクラスにいるということの意味は大きい。

 そんなプルケルに対するプラウティアの戦術も非常に明快だった。
 言葉にするなら「先手必勝」である。

「はじめ!」

 戦闘開始の合図を聞くや否やプラウティアはプルケルに突っ込んでいった。

 プルケルは魔法で迎撃しようとしたが、迷いのない動きをするプラウティアを警戒して槍での戦いに集中することにした。

 実際プラウティアは遠距離からの魔法をうまく捌き、対応する自信があった。全力の魔法だったら避けられないだろうが、慎重派のプルケルに対する信頼があった。

 プルケルはまっすぐに自分のところに向かってくるプラウティアを見て、腰を据えた。槍は金属製の物に変えたので、木の部分はなく、武器を無力化されることはない。

 プラウティアは真っ向勝負を選んだ。隙が大きくならないように攻め続ける選択だ。

 プルケルが話しかけて来たとき、プラウティアは彼の装備をサッと確認した。遠目では分からなかったことも良く見ることができたので確信が持てた。

 プルケルは槍を構え、薙ぎ払う準備をする。プラウティアの動きを一瞬でも見逃さないように目を見張っている。

 槍の間合いに入ろうとした時、プラウティアはこっそりとスキルを発動した。瞬間、プルケルの革鎧に異常が生じた。

 プラウティアはプルケルの革鎧に使われている植物性の接着剤や紐を【植物採取】で取り去った。表面の光沢も失われている。

 プルケルはほとんど動じなかったが、それでもプラウティアは先手を取ることに成功し、果敢な攻めを続けた。





 プルケルが異変に気がついたのはプラウティアの攻めを受け切り、反撃に出ようとした時だった。

 先ほど鎧を攻撃された時には一瞬だけ狼狽えたけれど、大きな問題ではなかった。あそこで一撃必殺の技を出されたらどうしようもなかったが、そのような技をプラウティアは持っていないようだった。

 そのため、プルケルは即座に体勢を立て直し、プラウティアの攻撃を冷静に受け続けた。

 槍をグッと握って脚を前に出そうとする。しかし、いつものような力強さを感じない。力がうまく入らなくなっている。頭の働きも鈍くなっている気がする。

 何らかの攻撃を受けている。
 プルケルはそう感じた。
 相変わらずプラウティアは怒涛の攻めを繰り出してくる。これは勝算のある動きだろう。

 プルケルはもやがかかったような頭を働かせ、冷静にプラウティアの動きを観察した。

『魔力が減っている⋯⋯?』

 魔力を感じる能力はプルケルにはほとんどないが、プラウティアの保有魔力がかなり小さくなっていることに気がついた。

『スキルを使っているのか? 何に対して?』

 プルケルは手足に痺れを感じ始めた。
 そういえば先ほどから微かに渋みのある匂いが漂っている。

 よく見るとプラウティアの持つ剣の色が僅かに薄くなっているようにも感じる。

「まさか!」

 プルケルは即座にサブスキル[帯雷]を発動した。雷の魔力が身体の隅々まで行き渡り、プルケルの身体能力を上昇させる。

 この技はプルケルの切り札だ。魔力が一気に減っていくのでプルケルは極力使いたくなかった。ライバル達にも見られている。しかし、気づくのが遅かったら手遅れになっていたかもしれない。

 このスキルには身体の耐性を上昇させる効果がある。弱い毒や呪いであれば雷の魔力が浄化してくれる。

 プルケルは身体の感覚が戻ってくるのを感じた。だが、万全にはならないだろう。魔力もどんどん削れていく。

 相手に不足なし。
 こちらも全力を尽くそう。
 プルケルは鋭い目でプラウティアを見た。





 この戦いは途中までプラウティアの思惑通りに進んだ。

 防具に攻撃を仕掛けることで先手を取り、攻め続ける体勢を作った。そして特製の木剣から[選別]により毒成分を採取してプルケルの周りを漂わせた。

 プラウティアはあらかじめ解毒薬を飲んでいるのでほとんど影響がない。そのままじわじわと毒が効くのを待って仕留めようと考えていたけれど、プルケルは気がついてしまった。

 セネカとマイオルはプルケルのサブスキルをほとんど見たことがないと言っていた。おそらく切り札なのだろう。全身に雷の魔力が巡っていて、パチパチと音が鳴っている。すごい威圧感だ。

 プラウティアは自分の気が引けていることに気がついた。もう終わりだ。もう勝てないと諦めそうな気持ちが湧いてくる。しかし、剣を握り直して再び構えた。

 もう小細工は効かない。
 己を信じて戦うしかない。

 プラウティアはプルケルに向かって大きく足を踏み出した。





 プラウティアは同年代の一般的な冒険者と比較すればかなり強い。セネカやプルケルと打ち合える時点で上位の実力を持っている。

 訓練も重ねて来た。特に王立冒険者学校に入ってからの成長は目覚ましい。
 数え切れないほどの対人戦を行ってきた。何度も勝ち、何度も負けてきた。

 しかし、プラウティアは自分の全てを賭けるほど全力で戦ったことはない。

 それは賢いからかもしれない。強い敵を避けるのは冒険者として当たり前だ。
 怖いからかもしれない。全てを賭けたのに勝てなかったら自分を保っていられなくなるかもしれない。全てを賭けて勝ってしまったら、追い込まれるたびに自分を賭けなくてはいけないと思ってしまうかもしれない。

 自信がないからかもしれない。ただでさえ未熟な自分がなりふり構わなくなれば、みっともない姿を衆目に晒すことになる。

 だけど、それでもプラウティアは勝ちたかった。セネカの分も頑張るという誓いがあった。プルケルの足元はフラフラで、今なら倒せる可能性があるかもしれない。

「試してみたい」

 プラウティアは自分の力を試してみることにした。

 このときプラウティアは、自分が階段を一段登ったのだと確信した。
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