上 下
47 / 198
第5章:王立冒険者学校編(1)

第47話:セネカの全力

しおりを挟む
 セネカたちが入学してから三ヶ月が経とうとしていた。

 毎週のアッタロスとの訓練は、毎回三人ずつがアッタロスと模擬戦をしている。
 セネカもこれまで二回戦ってきた。

 一回目はスキルの力を極力抑えて、ほぼ剣技だけで戦った。
 二回目は部分的にスキルの力を使いながらアッタロスと打ち合って自分の成長を確かめた。

 セネカは次の模擬戦は全力で戦うと決めていた。
 喧嘩っ早いセネカがここまで我慢したのは大きな成長だが、それも限界である。

 全力で戦えばセネカがレベル3であることを勘付かれる可能性が高いけれども、隠す意味もあまりないと思うようになってきた。

 むしろ実力をしっかり見せて庇護を受けられるように動いた方が、ルキウスのことを調べる上では良いのかもしれないと考えるようになっている。

 最近セネカはとある懸念を抱くようになってきた。
 それは結局のところ、自分は戦闘スキルではないということだ。

 身体能力が上がり、スキルを活用できる見込みも立ってきた。剣技には磨きがかかり、日々鋭さを増している。けれど、戦闘スキルを持つ同級生を見ていると、その成長の目覚ましさに脅威を感じてしまう。

 【雷槍術】を持つプルケルの槍術の成長性は非常に高い。
 【長剣術】という珍しいスキルを持つフィルスの剣技の冴えは、はっきりと分かるほどで、純粋な剣の技術だけでは既にセネカは敵わないように見える。

 今更自分のスキルをハズレとは思わないし、英雄の道に繋がる有用なスキルだと信じているが、セネカは剣士としての自分に自信が持てなくなってきていた。

 だからこそ、アッタロスに本気で当たる必要がある。

 圧倒的な実力者に対して自分が出来ることは何か。足りないものは何か。セネカはそれを確かめたくて仕方がない。

 だから、アッタロスに全てをぶつけようと心に決めた。





 その日のセネカの雰囲気は明らかにいつもと違った。
 普段はほわほわとしていて、何ならボーッとしているように見えるけれども、今日は張り詰めた空気を出していて鋭さを隠していない。

 いつもは気軽に話しかけるニーナも今日は気を使ってセネカに一言も話しかけることはない。

 その日のSクラスはいつもと違った雰囲気のまま、アッタロスの実技指導を受けた。





 戦闘力についてクラス内で様々な議論がなされている。
 共通の認識としてみんなが思っているのは、近距離最強はセネカだということだ。そして、中距離最強はプルケルで、遠距離はストローだ。

 セネカは模擬戦でプルケルに負けたことがない。
 プルケルはその間合いの広さから、ストローが魔法を準備する前に攻撃することができると思われている。
 ストローが本気で魔法を行使すれば、セネカは攻撃する術を持たずに潰されてしまうと考えられている。

 そのため、マイオル以外の生徒は、セネカはプルケルに強く、プルケルはストローに強い。そして、ストローはセネカに強いという三竦さんすくみの関係になっているとずっと考えている。

 ちなみにセネカの次に近距離戦が強いと考えられているのがニーナで、セネカとニーナの模擬戦では異次元の空中戦が展開される。





 セネカとアッタロスの模擬戦の時間が来た。
 普段は自分の訓練をするSクラスの者たちも手を止めて二人を見ている。

 セネカだけではなく、アッタロスも闘志を漲らせている。

 朝、セネカを見た時から、アッタロスはセネカが本気で来ることを察した。
 負けるつもりは毛頭ないし、負けるとも思っていないが、セネカは何をしてくるのか分からない。

 足元をすくわれて、反撃の時にやり過ぎてしまわないようにアッタロスの方も気を張り巡らせる必要があった。

「お願いします」

 珍しくはっきりとした声でセネカが言った。

 アッタロスは剣を抜く。

「かかってこい」

 二人の剣士の目がバッチリと合った。





 セネカは自分を針と見なした。
 お尻のあたりに光る糸が垂れる。

 非物質を縫う時は自分を針と見なさなくても威力はあまり変わらないのだが、物質を縫う時には針となった方が良いので準備をした。

 アッタロスは剣に魔力を纏わせて、魔力剣の準備をしている。

 セネカは刀を構えて、アッタロスに向かって走り出した。

 まずは[魔力針]を撃って牽制しながら、空気を【縫って】アッタロスに肉薄する。
 アッタロスは[魔力針]を最小限の動きで躱してセネカの斬撃に備えようとした。

 そのとき、セネカは十本の[まち針]をアッタロスに向けて同時に放った。並行して、自分を針と見なしてアッタロスの足を刀で【縫い】にかかる。

「面白い!」

 そう言ったアッタロスは一瞬考えたあと、全てを叩き潰すことにした。

「[瞬速]」

 アッタロスは空気を縫いながら進んでくるセネカと同等の速度で動き、全てのまち針を斬り捨てた上で、迫り来るセネカの攻撃を避けた。

 そして、すれ違い様にセネカに向けて氷属性の魔力剣を放った。
 セネカはその剣身に決して触れないように丁寧に避けながら、アッタロスを蹴った。
 アッタロスはその蹴りを事も無げに受け止め、火の魔法を撃ってセネカを牽制した。

 セネカは空気を縫い続ける事で高速移動を実現している。
 アッタロスの魔法に対して、斜め上方向に空気を【縫う】ことでセネカは回避した。ゴリゴリと魔力が減っていくのをセネカは感じた。

 この瞬間、アッタロスに隙を与えてしまうことになるので、セネカは魔力を多めに込めた[魔力針]を連続で三本撃って動きを止めようとした。

「[光剣]」

 アッタロスの剣が光り輝き、一撃で三本の針を斬り払った。そして、足を踏み出してセネカに迫ってくる。

 セネカはこの時、アッタロスが本気で自分に対峙してくれていると感じて、ちょっと嬉しくなった。

 時間稼ぎにしかならないと分かっていたが、セネカは[まち針]十本を集約してアッタロスに撃ち、着地とともに攻め入った。

 ここが大事なところだと感じたので、セネカは空気を【縫う】ための魔力を倍にして、さらに加速した。アッタロスの光り輝く剣からは危険な香りがする。

 アッタロスはまち針をまたも簡単に払い、セネカの動きを見た。

 セネカは躊躇いなくアッタロスの首に斬りかかったが、すぐに見切られて躱された。
 前進しながら返す刀でもう一度斬りかかりつつ、至近距離で[まち針]を撃ち込む。

「そういう事もできるか」

 アッタロスはセネカの斬撃を避けつつ、瞬間的に腕から炎の魔力を放ち、まち針を殴って消滅させた。





 Sクラスの学生たちは息を呑んで目の前の攻防を見ていた。
 初めて見るセネカの本気に驚きを隠せない者もいる。
 あの三竦みは何だったのかとみんなが考え始めている。

 これまでは近距離での戦いを見せていただけで、セネカには中距離でも遠距離でも戦う術があるように見えた。

 そしてあらゆる点において、ここにいる十一人を凌駕しているように感じたので、皆、声を失ってしまった。

 一方、マイオルは【探知】を全力で発動して、二人の戦いを何とか追おうと必死になっていた。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

病原菌鑑定スキルを極めたら神ポーション出来ちゃいました

夢幻の翼
ファンタジー
【錬金調薬師が治癒魔法士に劣るとは言わせない!】 病を治す錬金調薬師の家系に生まれた私(サクラ)はとある事情から家を出て行った父に代わり工房を切り盛りしていた。 季節は巡り、また流行り風邪の季節になるとポーション作成の依頼は急増し、とてもではないが未熟な私では捌ききれない依頼が舞い込む事になる。 必死になって調薬するも終わらない依頼についに体調を崩してしまった。 帰らない父、終わらない依頼。 そして猛威を振るう凶悪な流行り風邪に私はどう立ち向かえば良いのか? そして、私の作った神ポーションで誰を救う事が出来たのか?

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。 元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。 もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...