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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている③ ~ただ一人の反逆者~】
【第十三章】 謀反
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~another point of view~
ハイクが去った玉座の間ではクロンヴァール王とユメールが依然としてジェインの報告を待っていた。
度重なる予定の変更にうんざりしつつあったクロンヴァール王であったがこれだけの事態だ、それに関しての報告を聞かないわけにもいかない。
少々待ち時間が長い気がしていないわけではなかったものの、一人で調査を続けている家臣を責めるわけにもいくまいと気にしないことにした次第だった。
一方で隣に居るユメールは元よりクロンヴァール王と二人きりの時間である以上どれだけ待つことになろうとも特に気にしてもいない。
それどころか、いっそのことこのままジェインが来なくても全然いいとさえ思っている程のお気楽振りである。
しかし、そんな至福の時間を切り上げたのは他ならぬユメール自身だった。
玉座に座るクロンヴァール王に寄り掛かるようにその身を預けていたユメールは会話の最中に突如立ち上がると、腰の辺りから取り出した指抜きの黒い手袋を両手に嵌める。
寸前までの緩みきった表情は凜としたものに変わり、視線の先にある広間の大きな扉を見据えていた。
「お前が率先して働いてくれるとは珍しいじゃないか」
対照的にクロンヴァール王は玉座に座ったまま、冷静な様子を維持している。
それに対しユメールは僅かに静かに不敵な笑みを浮かべた。
「クリスの仕事はお姉様の傍に居ること、お姉様を愛すること、そしてお姉様に近付こうとする輩を排除することです。それ以外はダンにやらせておけばいいですが、こればかりは譲れないってもんです」
「そうか、では私はお前に任せて高みの見物といかせてもらうとしよう」
「なんならお昼寝していても構わないですよ?」
「可愛い妹が私のために一肌脱ごうというのだ。それを見ずに眠ってしまうのは勿体ないというものだろう?」
「脱ぐのはベッドの上が良かったのにって感じですが、どうせつまらん仕事です。馬鹿共の相手をしている暇は無いですからちゃちゃっと終わらせるです」
その言葉を最後に会話は途切れる。
クロンヴァール王は余裕綽々の表情で、ユメールは鋭い目付きで、それぞれ殺気の充満する扉の向こうを見つめてその時をジッと待っていた。
そんな状態で敵の登場を待つこと間もなく、勢いよく扉を開いて突入してきた敵勢の中にあって唯一予想外だった男の姿にユメールは我が目を疑うことになる。
二人の視界を瞬く間に剣や槍を構える数十人の兵士が埋めつつある中。
まるで指揮を執る立ち位置に居るかのようにその中心に居たのは、この国の王子であり女王の実弟であるベルトリー・クロンヴァールだった。
状況を考慮した推察や気配、殺気の度合いからしてこの国の兵であることまでは察知していたし、ゆえに件の爆弾魔がようやく姿を現したかと考えていたユメールの予想は大きく覆されることになる。
しかし、だからといって油断や気の乱れは一切無く、いつでも攻撃が出来るように一団の動きに全神経を集中させている中で玉座を包囲する様に兵士達が動きを止めると、その間を割るように真ん中をノロノロと歩いてくるベルトリーは嫌らしい笑みを浮かべ、軽薄な口調でユメールにとっては嫌悪感を抱かせるばかりの濁った声を発した。
「よおユメール、どうしたそんな顔をして。怖いか? 怖いのか?」
「一体何の真似ですか……ベルトリー」
「ベルトリー様だ。大人しくしていればお前に危害は加えない。黙ってオレのすることを見ていろ」
「誰がそんな戯れ言に……」
全てが生理的に受け付けないベルトリーと主君に剣を向けておきながら黙ったままでいる兵士達に苛立ち、すぐにでも王子を含んだ全ての敵を締め上げようとしたユメールであったが、すんでのところでそれを制したのは他ならぬクロンヴァール王だった。
未だ玉座に座ったままのクロンヴァール王が目の前に立つユメールに掛ける声は至極冷静でいて、それどころか笑みすらも浮かべている。
「まあ待てクリス、此奴等は私に話があるようだ。是非聞いてみようじゃないか」
「お姉様……」
微塵もその価値は無いとユメールは思う。
しかし二人は自分と違って血の繋がった姉弟だ。
異常とも言えるこの状況からして、撃退して終わりというわけにはいかないだろうことも確かだった。
「さてベルトリー、私に話があるのだろう。聞いてやろう」
至近距離という程でもなく、かといって安全圏というまででもないという微妙な位置で向かい合った王家の姉弟。
そんな状況にあって周囲の兵士達は揃って武器を向けたまま動く気配は無い。
「その通り、姉上に聞いて貰いたいことがあってね。おっと、先に言っておくが座ったまま動くんじゃない。主導権はオレが握っていることを忘れるなよ?」
「心配するな、最初から動く気などない」
「そりゃ殊勝な心掛けなことで」
「それで、私に何の用だ?」
「なに、大した用じゃあないさ。クーデターってやつだ、姉上にはちょっと死んで貰おうかと思ってね」
「ほう、お前が私に冗談を聞かせてくれる日が来るとはな。そしてそれが思いの外面白い話だったということにも驚きだ。話どころか、その顔も見た目も私を笑わせるためにそこまで醜くしているのだということに今更気付いた自分を恥ずかしく思うぞ」
「オレを挑発するなよ姉上……何を勘違いしているのかは知らないが、これは冗談なんかじゃない。お前が邪魔だ、お前が死ねばオレの時代が来るんだ、全ては姉上の独裁政治が招いたことだ、自業自得ってやつなんだよ!」
「独裁政治……ねぇ。いやはや、私は嘆かわしいぞ弟よ。お前に刃を向けられていることも然り、後ろにいる馬鹿共が平気でそんなことをしていること然りだ。お前如きが自分の意志でこんな行動を取れる頭を持っているとは思えないが、誰かの差し金か?」
「差し金なんかないね。これはオレの意志、オレの力だ。全てはお前が招いた事なんだよ。爆弾は運良く逃れたみたいだが、姉上は後悔しながら死んでいくんだ。オレを出来損ない扱いしたことをな!」
「その前に一つ教えておいてやろう、ベルトリー」
「今更命乞いが通じると思ったら大間違いだぞ」
「命乞いではない。ベルトリーよ、どうして私がお前の様な馬鹿でクズで出来損ないの弟を野放しにしていたと思う。それは亡き父や姉上にお前の事を託されたからだ。王家に残った最後の二人なのだと、ベルのことをよろしく頼む、とな。それ故にどれだけお前が王家の恥さらしであってもそれを咎めはしなかった。ただその一つの理由でだ。何が言いたいかというと、私にとってのお前の価値はただそれだけだということだ。だが、お前は今その唯一の理由を自ら放棄したのだ。この先の行動に出たならば……その瞬間、お前は私の弟ではなくなる」
「フン、何を言うかと思えば。そんなことはオレとて同じなんだよ、お前じゃなくて生きているのがミルキア姉さんだったらどれだけよかったことか。それに、弟ではなくなるだって? そりゃそうだろう、すぐにオレの姉はこの世から居なくなるんだ」
「そうか、最後まで馬鹿で愚かなままお前はその人生を終えるのだな。だが、それがお前の人生だというのなら私が口を挟む理由はない。好きにするがいい」
「いつまでも余裕振りやがって……まだ自分の立場が分かってないらしい。ならばオレも話すことはもうない。まずはそうだな、立ってもらおうか。いつまでも偉そうに座っていられるのもムカつくからな」
侮辱の言葉に表情を歪めながら、ベルトリーは自身も腰に指していた剣を抜き姉に向けた。
しかし、ラブロック・クロンヴァールは指一本として動かそうとはしない。
それが益々ベルトリーを苛立たせた。
「立てと言っているのが聞こえないのか!」
怒鳴り声が広間に響き渡る。
それでも玉座に腰掛けた王は変わらず足を組み肘を突いたまま動くことはなく、唯一変わった冷たい目で弟を見下ろすだけだった。
「最初に言っただろう、私はここを動くつもりはない。その必要も理由もない。分かるか? どんな理由でそこに立っていようとも、今この場でどれだけの兵力を率いていようとも、お前如きが私の行動や意志を左右することは一切無い」
その冷たい目が真っ直ぐにベルトリーを射抜く。
言葉にするよりもはっきりと、敵意が自分に向いていることを理解した。
その恐ろしい目と一変した空気に怯み、怖じ気づきそうになるベルトリーに追撃の如く言葉を投げ掛ける王の口調は酷く冷たいものだ。
「愚弟よ、一度だけチャンスをやる。周りの馬鹿共も含め、一歩も動くな。これは王としての命令ではない。私が私の身を案じてする頼み事でもなければお前を何かに導くアドバイスでもない、警告だ」
その言葉をどう受け取ったのか、ベルトリーはただ目の前に座る王を睨み返すことしか出来ない。
目と鼻の先に居る血の繋がった姉の存在が随分と遠く、高い位置に感じられた。
この距離を自らが縮められる気がしない、そんな格の違いを今更ながらに自覚させられている。
そしてそれが分かっていても今更退くことなど出来ないベルトリーは五十人対二人である事実だけが背中を押し、怯む心を一蹴するべく感情に身を任せて大声で叫んだ。
「やれ、お前達! ユメールは生きたまま捕らえろ、姉上は殺してしまえ!」
号令が響く。
同時に兵士五十人が構えを取った。
しかし、前方に立っていた兵士が女王に向かって突撃するその一歩目を踏み出した瞬間、全ての兵士とベルトリーが足を引っ張られるようにして逆さの状態で宙に浮いた。
兵士達は上下逆さのまま高い天井付近まで吊り上げられ、痛みに呻きながら苦しむような声を上げている。
その傍らでは手放した武器が次々と落下し床を跳ねていた。
唯一ベルトリーだけは驚きと人の倍はある体重がぶら下がることによる痛みを増長させ、それらに耐えきれずに既に気を失っている。
その光景を作った張本人は、目の前の景色を見て玉座の前で呆れるだけだった。
「やれやれ、です。どいつもこいつもお姉様を裏切るとはふざけた奴らです」
これこそが天元美麗蜘蛛と呼ばれる糸使いユメールの神髄である。
ユメールは敵の気配を察知した時点で広間に罠を張っていた。
直前に身に着けた指抜きの革手袋は武器である鋼の糸を操るためのものであり、その能力の最大の長所はユメールが魔法力を注ぐことによって操る糸の長さに上限が無くなり、更にはほとんど視認出来ないレベルの透明な糸に変わってしまうという点にある。
宙に浮いている兵士達には把握出来ていないだけで浮いている理由は片脚を糸で縛られ天井から吊されている状態であるがゆえのことだったのだ。
「お姉様……どうしますですか?」
ぶら下がっている連中の生死すらどうでもいいユメールだったが、臣下の謀反が起きたことに加えそこには実の弟が含まれている。
クロンヴァール王が心を痛めていないかと心配になった。
しかし、当のクロンヴァール王はいつもと変わらぬ冷静な表情でいつも通り冷静に答えるだけだった。
「近衛兵を呼べ。愚か者共はそままで構わない」
ユメールはすぐに命令に従い、その指から無数に伸びている兵士達を吊している糸を切り離して束ねると地面に打ち付けて小走りで広間を後にした。
近衛兵。
かつてラブロック・クロンヴァールが兵士団に居た頃の直近の部下だった者のみで形成される最も信頼出来る兵士が集まる部隊だ。
すぐにユメールが近衛兵十数名を引き連れて広間に戻ると、事前の説明を受けていないのかユメールのすぐ後を走っていた隊長は目の前の光景に愕然とする。
「へ、陛下……これは一体」
「此奴等は主君であり王である私に剣を向けた反逆者だ。直ちに全員を拘束し牢に放り込め。ベルトリーは地下独房だ」
「王子を……地下独房に? しかし陛下、それでは……」
いつ何時であろうとも承知以外の返事をしない近衛部隊隊長が思わず言葉を失う。
これだけの兵士が反逆を試みた事に対する驚きも当然あったが、ベルトリー王子を地下独房に入れろという命令に対する驚きの方が何倍も大きかった。
地下独房に入れられるということ。それはすなわち、処刑対象であるということの証明だった。
「どうした、聞こえなかったのか? それとも……私に二度同じ事を言わせるのか?」
「い、いえ……仰せの通りに」
ギロリと睨まれ、隊長はすぐに跪いた。
そしてすぐに立ち上がると部下にそれらを実行するように命令を下す。
こうして。
王を除けば唯一残った王家の血を引く男ベルトリー・クロンヴァールの一世一代のクーデターは実を結ぶことなく、自らが王になるという野望と共に霧散した。
○
すっかりと日が暮れた頃、城内の爆破と王子によるクーデターという例のない事件が起きたシルクレア城はようやくのこと事態の収拾がつきつつあった。
玉座の間では王たるラブロック・クロンヴァールが城に残っている側近達が戻ってくるのを待っている。
すぐにクリスティア・ユメールが、少ししてダニエル・ハイクとアッシュ・ジェインが共に戻って来ると、揃って王の前に並んだ。
「ふぅ~、取り敢えず聖剣には会食の予定を明日にずらしてもらうよう伝えて了承も得ておいた。その前に捕縛した全ての兵士共を牢にブチ込む作業も完了してる。少し話も聞いてみたが、どいつもこいつも口にするのは同じ、自分が何をしたかは覚えているが全てにおいて自分の意志ではなかった。だとよ」
玉座の前に立つなりハイクは口から煙を吐いて、やや疲れた表情を浮かべた。
続けてジェインも王への報告を口にする。
「こちらも、まだ気を失ったままですがベルトリー王子もご命令通り地下独房へ連行したことを確認しました。王子や謀反を起こした兵士達の部屋を調査しましたが特にめぼしい発見はありません。牢番には陛下の部下だった経験の長い者を複数名置いていますので王子に手出しや荷担をする者が近寄る心配はないかと」
それらの報告を聞くと、玉座に座るクロンヴァール王は特に表情を変えることなくただ労いの言葉を向ける。
「ご苦労だったな二人とも」
他の誰かが見れば普段と変わらぬ王に写るその姿。
しかし、この場に居る三人がそうではないことに気付けぬはずもない。
「お姉様……大丈夫ですか? です」
「取るに足らん。私はこの国の王であって世界の王ではない、同様に神でもない。買った恨み辛みをいちいち数えている様な奴に王など務まるものか」
「そう言う割にゃ、ご気分が優れねえみたいじゃねえか。今一度問うぜ、本当にベルトリーを処刑するつもりか」
ハイクは火の付いた煙草を握りつぶしながら、まるで問い詰める様な目を向けた。
クロンヴァール王は諄いと答える代わりにギロリとハイクを睨み付ける。
「当然だろう。国王暗殺未遂の実行犯だ、そうしない理由は何一つない」
「王家の人間であり、血の繋がった弟であってもか」
「配慮に値しないと言っている。対象によって中身を変える法になんの価値がある、便乗しようという輩が居ないとも限らん。抑制の効果を考えても当然の処置だ」
「だったら、兵士共はどうするつもりだ。あいつらの首も落とすつもりか?」
「お前が口にした証言通りベルトリーに強要された部分もあるのかもしれないが、主君に剣を向けてお咎め無しで済ませる程甘くはない。武器を取り上げ、数年は僻地で屯田に服してもらうことにする。無論、しばらく牢で頭を冷やさせた後の話だがな」
少なくとも全員が死刑になることはなさそうだとハイクは安心するが、やはり王子を処刑するという決断を下させたままでいいと思えるはずもなく。
だからといって一度決めたことを簡単に取り下げるような王ではないことを知っているハイクはどうにか出来ないものかとジェインに視線を送った。
その意味をすぐに理解したジェインはすかさず割って入る。
「しかし陛下、あのベルトリー王子が単独でこのようなことを画策出来るとは思えません。やはり裏で糸を引いている人物が居ると見るべきではないでしょうか」
「そうかもしれんし、そうでないかもしれん。だからといって黒幕とやらが居るか居ないか、その答えが見つかるまで待ってやるほど悠長なことをするつもりはない。誰に扇動されていたとしても、あいつが私に刃を向けたことは事実。法に従い定められた償いをさせる、あいつが誰であるかは関係無い」
「クリスは……お姉様が決めたことになら何があっても従うです……でも、後々お姉様が辛い思いをしたり後悔することには賛成したくない、です」
ユメールはほとんど泣きそうになっていた。
ここまで周囲の賛同を得られないことも久方ぶりであったが、クロンヴァール王は自らの決定が間違っているとは微塵も思っていない。
それでも、ユメールの訴えを含む信頼する者達の意見だからこそほんの少しの譲歩をしないままではいられないのだった。
「私は自分の意志で決めたことに後悔などしない。だが、お前達三人が揃ってそう言うのであれば明日の昼までは猶予をやろう。明日の昼、ベルトリーの処刑を執行する。それまでに影の主犯が居ると分かればその時は処分を考え直すことにしよう。言いたいことはそれだけだ、私は先に休む」
心配そうに見上げるユメールの頭に一度手を乗せ、クロンヴァール王はそのまま部屋に戻って行った。
その後ろ姿を見送ると三人は揃って大きく息を吐く。
「やれやれ、なんだってこんなことになっちまったんだか。どうにかならんもんかね、AJよ」
「明日の昼までってのは結構な無理難題な気もするけど、一応ボクに考えがある。どうにか出来るように動いてみるつもりだよ」
「あんなクソったれ王子は死んだって一向に構いませんですが、お姉様は本当にこれでいいと思っているですかダン、AJ」
「思っているわけがないし、このままじゃいつか後悔や自責の念に駆られることになる。心に傷を負うことになる。だけど、陛下はこういった事柄には冷酷なご決断をされることに拘っている節があるからね。考え直してもらうのはそう簡単じゃない」
「知った風な口を利きやがりますですねAJ。お前は何か知っているですか」
「知った風な口を利いているわけではないけど、どちらかといえばあの日の出来事についてはハイクの方が詳しいんじゃないかな」
「あの日? お姉様のあの日とは何とも淫靡な響きですが、ダンも知ってやがるですか?」
「ま、知らないでもねえが……」
「なんでクリスが知らないお姉様の話をお前達が知ってやがりますか! 気に食わんぞ、です!」
「そう言わないでよユメール、あれは君が兵士団に入る前のことだ。知らないのも無理はない」
「それを言えばてめえも同じだろうAJ。城仕えし始めたのはユメ公より後だったお前がなぜ知っている」
「ボクはアルバートさんに聞いたことがあってね。といっても掻い摘んだ話だろうから事の次第を全て把握しているわけじゃないんだろうけど」
「んなこたぁどうでもいいですっ。さっさと聞かせろです!」
「話してやってもいいが、言うまでもなく他言無用の話だ。姉御本人の前では特にな」
「分かっているです。こう見えてもクリスは口は堅い方です」
「いまいちアテにならねえ気もするが……」
まあいい、と。
咥えた煙草に火を着け一度煙を吐き出すとハイクは若かりし時分の話を始めた。
「ありゃあ五年程前……俺が入隊して間もない頃の話だ。先代が存命で、姉御が兵士長をしていた頃のな」
ハイクが去った玉座の間ではクロンヴァール王とユメールが依然としてジェインの報告を待っていた。
度重なる予定の変更にうんざりしつつあったクロンヴァール王であったがこれだけの事態だ、それに関しての報告を聞かないわけにもいかない。
少々待ち時間が長い気がしていないわけではなかったものの、一人で調査を続けている家臣を責めるわけにもいくまいと気にしないことにした次第だった。
一方で隣に居るユメールは元よりクロンヴァール王と二人きりの時間である以上どれだけ待つことになろうとも特に気にしてもいない。
それどころか、いっそのことこのままジェインが来なくても全然いいとさえ思っている程のお気楽振りである。
しかし、そんな至福の時間を切り上げたのは他ならぬユメール自身だった。
玉座に座るクロンヴァール王に寄り掛かるようにその身を預けていたユメールは会話の最中に突如立ち上がると、腰の辺りから取り出した指抜きの黒い手袋を両手に嵌める。
寸前までの緩みきった表情は凜としたものに変わり、視線の先にある広間の大きな扉を見据えていた。
「お前が率先して働いてくれるとは珍しいじゃないか」
対照的にクロンヴァール王は玉座に座ったまま、冷静な様子を維持している。
それに対しユメールは僅かに静かに不敵な笑みを浮かべた。
「クリスの仕事はお姉様の傍に居ること、お姉様を愛すること、そしてお姉様に近付こうとする輩を排除することです。それ以外はダンにやらせておけばいいですが、こればかりは譲れないってもんです」
「そうか、では私はお前に任せて高みの見物といかせてもらうとしよう」
「なんならお昼寝していても構わないですよ?」
「可愛い妹が私のために一肌脱ごうというのだ。それを見ずに眠ってしまうのは勿体ないというものだろう?」
「脱ぐのはベッドの上が良かったのにって感じですが、どうせつまらん仕事です。馬鹿共の相手をしている暇は無いですからちゃちゃっと終わらせるです」
その言葉を最後に会話は途切れる。
クロンヴァール王は余裕綽々の表情で、ユメールは鋭い目付きで、それぞれ殺気の充満する扉の向こうを見つめてその時をジッと待っていた。
そんな状態で敵の登場を待つこと間もなく、勢いよく扉を開いて突入してきた敵勢の中にあって唯一予想外だった男の姿にユメールは我が目を疑うことになる。
二人の視界を瞬く間に剣や槍を構える数十人の兵士が埋めつつある中。
まるで指揮を執る立ち位置に居るかのようにその中心に居たのは、この国の王子であり女王の実弟であるベルトリー・クロンヴァールだった。
状況を考慮した推察や気配、殺気の度合いからしてこの国の兵であることまでは察知していたし、ゆえに件の爆弾魔がようやく姿を現したかと考えていたユメールの予想は大きく覆されることになる。
しかし、だからといって油断や気の乱れは一切無く、いつでも攻撃が出来るように一団の動きに全神経を集中させている中で玉座を包囲する様に兵士達が動きを止めると、その間を割るように真ん中をノロノロと歩いてくるベルトリーは嫌らしい笑みを浮かべ、軽薄な口調でユメールにとっては嫌悪感を抱かせるばかりの濁った声を発した。
「よおユメール、どうしたそんな顔をして。怖いか? 怖いのか?」
「一体何の真似ですか……ベルトリー」
「ベルトリー様だ。大人しくしていればお前に危害は加えない。黙ってオレのすることを見ていろ」
「誰がそんな戯れ言に……」
全てが生理的に受け付けないベルトリーと主君に剣を向けておきながら黙ったままでいる兵士達に苛立ち、すぐにでも王子を含んだ全ての敵を締め上げようとしたユメールであったが、すんでのところでそれを制したのは他ならぬクロンヴァール王だった。
未だ玉座に座ったままのクロンヴァール王が目の前に立つユメールに掛ける声は至極冷静でいて、それどころか笑みすらも浮かべている。
「まあ待てクリス、此奴等は私に話があるようだ。是非聞いてみようじゃないか」
「お姉様……」
微塵もその価値は無いとユメールは思う。
しかし二人は自分と違って血の繋がった姉弟だ。
異常とも言えるこの状況からして、撃退して終わりというわけにはいかないだろうことも確かだった。
「さてベルトリー、私に話があるのだろう。聞いてやろう」
至近距離という程でもなく、かといって安全圏というまででもないという微妙な位置で向かい合った王家の姉弟。
そんな状況にあって周囲の兵士達は揃って武器を向けたまま動く気配は無い。
「その通り、姉上に聞いて貰いたいことがあってね。おっと、先に言っておくが座ったまま動くんじゃない。主導権はオレが握っていることを忘れるなよ?」
「心配するな、最初から動く気などない」
「そりゃ殊勝な心掛けなことで」
「それで、私に何の用だ?」
「なに、大した用じゃあないさ。クーデターってやつだ、姉上にはちょっと死んで貰おうかと思ってね」
「ほう、お前が私に冗談を聞かせてくれる日が来るとはな。そしてそれが思いの外面白い話だったということにも驚きだ。話どころか、その顔も見た目も私を笑わせるためにそこまで醜くしているのだということに今更気付いた自分を恥ずかしく思うぞ」
「オレを挑発するなよ姉上……何を勘違いしているのかは知らないが、これは冗談なんかじゃない。お前が邪魔だ、お前が死ねばオレの時代が来るんだ、全ては姉上の独裁政治が招いたことだ、自業自得ってやつなんだよ!」
「独裁政治……ねぇ。いやはや、私は嘆かわしいぞ弟よ。お前に刃を向けられていることも然り、後ろにいる馬鹿共が平気でそんなことをしていること然りだ。お前如きが自分の意志でこんな行動を取れる頭を持っているとは思えないが、誰かの差し金か?」
「差し金なんかないね。これはオレの意志、オレの力だ。全てはお前が招いた事なんだよ。爆弾は運良く逃れたみたいだが、姉上は後悔しながら死んでいくんだ。オレを出来損ない扱いしたことをな!」
「その前に一つ教えておいてやろう、ベルトリー」
「今更命乞いが通じると思ったら大間違いだぞ」
「命乞いではない。ベルトリーよ、どうして私がお前の様な馬鹿でクズで出来損ないの弟を野放しにしていたと思う。それは亡き父や姉上にお前の事を託されたからだ。王家に残った最後の二人なのだと、ベルのことをよろしく頼む、とな。それ故にどれだけお前が王家の恥さらしであってもそれを咎めはしなかった。ただその一つの理由でだ。何が言いたいかというと、私にとってのお前の価値はただそれだけだということだ。だが、お前は今その唯一の理由を自ら放棄したのだ。この先の行動に出たならば……その瞬間、お前は私の弟ではなくなる」
「フン、何を言うかと思えば。そんなことはオレとて同じなんだよ、お前じゃなくて生きているのがミルキア姉さんだったらどれだけよかったことか。それに、弟ではなくなるだって? そりゃそうだろう、すぐにオレの姉はこの世から居なくなるんだ」
「そうか、最後まで馬鹿で愚かなままお前はその人生を終えるのだな。だが、それがお前の人生だというのなら私が口を挟む理由はない。好きにするがいい」
「いつまでも余裕振りやがって……まだ自分の立場が分かってないらしい。ならばオレも話すことはもうない。まずはそうだな、立ってもらおうか。いつまでも偉そうに座っていられるのもムカつくからな」
侮辱の言葉に表情を歪めながら、ベルトリーは自身も腰に指していた剣を抜き姉に向けた。
しかし、ラブロック・クロンヴァールは指一本として動かそうとはしない。
それが益々ベルトリーを苛立たせた。
「立てと言っているのが聞こえないのか!」
怒鳴り声が広間に響き渡る。
それでも玉座に腰掛けた王は変わらず足を組み肘を突いたまま動くことはなく、唯一変わった冷たい目で弟を見下ろすだけだった。
「最初に言っただろう、私はここを動くつもりはない。その必要も理由もない。分かるか? どんな理由でそこに立っていようとも、今この場でどれだけの兵力を率いていようとも、お前如きが私の行動や意志を左右することは一切無い」
その冷たい目が真っ直ぐにベルトリーを射抜く。
言葉にするよりもはっきりと、敵意が自分に向いていることを理解した。
その恐ろしい目と一変した空気に怯み、怖じ気づきそうになるベルトリーに追撃の如く言葉を投げ掛ける王の口調は酷く冷たいものだ。
「愚弟よ、一度だけチャンスをやる。周りの馬鹿共も含め、一歩も動くな。これは王としての命令ではない。私が私の身を案じてする頼み事でもなければお前を何かに導くアドバイスでもない、警告だ」
その言葉をどう受け取ったのか、ベルトリーはただ目の前に座る王を睨み返すことしか出来ない。
目と鼻の先に居る血の繋がった姉の存在が随分と遠く、高い位置に感じられた。
この距離を自らが縮められる気がしない、そんな格の違いを今更ながらに自覚させられている。
そしてそれが分かっていても今更退くことなど出来ないベルトリーは五十人対二人である事実だけが背中を押し、怯む心を一蹴するべく感情に身を任せて大声で叫んだ。
「やれ、お前達! ユメールは生きたまま捕らえろ、姉上は殺してしまえ!」
号令が響く。
同時に兵士五十人が構えを取った。
しかし、前方に立っていた兵士が女王に向かって突撃するその一歩目を踏み出した瞬間、全ての兵士とベルトリーが足を引っ張られるようにして逆さの状態で宙に浮いた。
兵士達は上下逆さのまま高い天井付近まで吊り上げられ、痛みに呻きながら苦しむような声を上げている。
その傍らでは手放した武器が次々と落下し床を跳ねていた。
唯一ベルトリーだけは驚きと人の倍はある体重がぶら下がることによる痛みを増長させ、それらに耐えきれずに既に気を失っている。
その光景を作った張本人は、目の前の景色を見て玉座の前で呆れるだけだった。
「やれやれ、です。どいつもこいつもお姉様を裏切るとはふざけた奴らです」
これこそが天元美麗蜘蛛と呼ばれる糸使いユメールの神髄である。
ユメールは敵の気配を察知した時点で広間に罠を張っていた。
直前に身に着けた指抜きの革手袋は武器である鋼の糸を操るためのものであり、その能力の最大の長所はユメールが魔法力を注ぐことによって操る糸の長さに上限が無くなり、更にはほとんど視認出来ないレベルの透明な糸に変わってしまうという点にある。
宙に浮いている兵士達には把握出来ていないだけで浮いている理由は片脚を糸で縛られ天井から吊されている状態であるがゆえのことだったのだ。
「お姉様……どうしますですか?」
ぶら下がっている連中の生死すらどうでもいいユメールだったが、臣下の謀反が起きたことに加えそこには実の弟が含まれている。
クロンヴァール王が心を痛めていないかと心配になった。
しかし、当のクロンヴァール王はいつもと変わらぬ冷静な表情でいつも通り冷静に答えるだけだった。
「近衛兵を呼べ。愚か者共はそままで構わない」
ユメールはすぐに命令に従い、その指から無数に伸びている兵士達を吊している糸を切り離して束ねると地面に打ち付けて小走りで広間を後にした。
近衛兵。
かつてラブロック・クロンヴァールが兵士団に居た頃の直近の部下だった者のみで形成される最も信頼出来る兵士が集まる部隊だ。
すぐにユメールが近衛兵十数名を引き連れて広間に戻ると、事前の説明を受けていないのかユメールのすぐ後を走っていた隊長は目の前の光景に愕然とする。
「へ、陛下……これは一体」
「此奴等は主君であり王である私に剣を向けた反逆者だ。直ちに全員を拘束し牢に放り込め。ベルトリーは地下独房だ」
「王子を……地下独房に? しかし陛下、それでは……」
いつ何時であろうとも承知以外の返事をしない近衛部隊隊長が思わず言葉を失う。
これだけの兵士が反逆を試みた事に対する驚きも当然あったが、ベルトリー王子を地下独房に入れろという命令に対する驚きの方が何倍も大きかった。
地下独房に入れられるということ。それはすなわち、処刑対象であるということの証明だった。
「どうした、聞こえなかったのか? それとも……私に二度同じ事を言わせるのか?」
「い、いえ……仰せの通りに」
ギロリと睨まれ、隊長はすぐに跪いた。
そしてすぐに立ち上がると部下にそれらを実行するように命令を下す。
こうして。
王を除けば唯一残った王家の血を引く男ベルトリー・クロンヴァールの一世一代のクーデターは実を結ぶことなく、自らが王になるという野望と共に霧散した。
○
すっかりと日が暮れた頃、城内の爆破と王子によるクーデターという例のない事件が起きたシルクレア城はようやくのこと事態の収拾がつきつつあった。
玉座の間では王たるラブロック・クロンヴァールが城に残っている側近達が戻ってくるのを待っている。
すぐにクリスティア・ユメールが、少ししてダニエル・ハイクとアッシュ・ジェインが共に戻って来ると、揃って王の前に並んだ。
「ふぅ~、取り敢えず聖剣には会食の予定を明日にずらしてもらうよう伝えて了承も得ておいた。その前に捕縛した全ての兵士共を牢にブチ込む作業も完了してる。少し話も聞いてみたが、どいつもこいつも口にするのは同じ、自分が何をしたかは覚えているが全てにおいて自分の意志ではなかった。だとよ」
玉座の前に立つなりハイクは口から煙を吐いて、やや疲れた表情を浮かべた。
続けてジェインも王への報告を口にする。
「こちらも、まだ気を失ったままですがベルトリー王子もご命令通り地下独房へ連行したことを確認しました。王子や謀反を起こした兵士達の部屋を調査しましたが特にめぼしい発見はありません。牢番には陛下の部下だった経験の長い者を複数名置いていますので王子に手出しや荷担をする者が近寄る心配はないかと」
それらの報告を聞くと、玉座に座るクロンヴァール王は特に表情を変えることなくただ労いの言葉を向ける。
「ご苦労だったな二人とも」
他の誰かが見れば普段と変わらぬ王に写るその姿。
しかし、この場に居る三人がそうではないことに気付けぬはずもない。
「お姉様……大丈夫ですか? です」
「取るに足らん。私はこの国の王であって世界の王ではない、同様に神でもない。買った恨み辛みをいちいち数えている様な奴に王など務まるものか」
「そう言う割にゃ、ご気分が優れねえみたいじゃねえか。今一度問うぜ、本当にベルトリーを処刑するつもりか」
ハイクは火の付いた煙草を握りつぶしながら、まるで問い詰める様な目を向けた。
クロンヴァール王は諄いと答える代わりにギロリとハイクを睨み付ける。
「当然だろう。国王暗殺未遂の実行犯だ、そうしない理由は何一つない」
「王家の人間であり、血の繋がった弟であってもか」
「配慮に値しないと言っている。対象によって中身を変える法になんの価値がある、便乗しようという輩が居ないとも限らん。抑制の効果を考えても当然の処置だ」
「だったら、兵士共はどうするつもりだ。あいつらの首も落とすつもりか?」
「お前が口にした証言通りベルトリーに強要された部分もあるのかもしれないが、主君に剣を向けてお咎め無しで済ませる程甘くはない。武器を取り上げ、数年は僻地で屯田に服してもらうことにする。無論、しばらく牢で頭を冷やさせた後の話だがな」
少なくとも全員が死刑になることはなさそうだとハイクは安心するが、やはり王子を処刑するという決断を下させたままでいいと思えるはずもなく。
だからといって一度決めたことを簡単に取り下げるような王ではないことを知っているハイクはどうにか出来ないものかとジェインに視線を送った。
その意味をすぐに理解したジェインはすかさず割って入る。
「しかし陛下、あのベルトリー王子が単独でこのようなことを画策出来るとは思えません。やはり裏で糸を引いている人物が居ると見るべきではないでしょうか」
「そうかもしれんし、そうでないかもしれん。だからといって黒幕とやらが居るか居ないか、その答えが見つかるまで待ってやるほど悠長なことをするつもりはない。誰に扇動されていたとしても、あいつが私に刃を向けたことは事実。法に従い定められた償いをさせる、あいつが誰であるかは関係無い」
「クリスは……お姉様が決めたことになら何があっても従うです……でも、後々お姉様が辛い思いをしたり後悔することには賛成したくない、です」
ユメールはほとんど泣きそうになっていた。
ここまで周囲の賛同を得られないことも久方ぶりであったが、クロンヴァール王は自らの決定が間違っているとは微塵も思っていない。
それでも、ユメールの訴えを含む信頼する者達の意見だからこそほんの少しの譲歩をしないままではいられないのだった。
「私は自分の意志で決めたことに後悔などしない。だが、お前達三人が揃ってそう言うのであれば明日の昼までは猶予をやろう。明日の昼、ベルトリーの処刑を執行する。それまでに影の主犯が居ると分かればその時は処分を考え直すことにしよう。言いたいことはそれだけだ、私は先に休む」
心配そうに見上げるユメールの頭に一度手を乗せ、クロンヴァール王はそのまま部屋に戻って行った。
その後ろ姿を見送ると三人は揃って大きく息を吐く。
「やれやれ、なんだってこんなことになっちまったんだか。どうにかならんもんかね、AJよ」
「明日の昼までってのは結構な無理難題な気もするけど、一応ボクに考えがある。どうにか出来るように動いてみるつもりだよ」
「あんなクソったれ王子は死んだって一向に構いませんですが、お姉様は本当にこれでいいと思っているですかダン、AJ」
「思っているわけがないし、このままじゃいつか後悔や自責の念に駆られることになる。心に傷を負うことになる。だけど、陛下はこういった事柄には冷酷なご決断をされることに拘っている節があるからね。考え直してもらうのはそう簡単じゃない」
「知った風な口を利きやがりますですねAJ。お前は何か知っているですか」
「知った風な口を利いているわけではないけど、どちらかといえばあの日の出来事についてはハイクの方が詳しいんじゃないかな」
「あの日? お姉様のあの日とは何とも淫靡な響きですが、ダンも知ってやがるですか?」
「ま、知らないでもねえが……」
「なんでクリスが知らないお姉様の話をお前達が知ってやがりますか! 気に食わんぞ、です!」
「そう言わないでよユメール、あれは君が兵士団に入る前のことだ。知らないのも無理はない」
「それを言えばてめえも同じだろうAJ。城仕えし始めたのはユメ公より後だったお前がなぜ知っている」
「ボクはアルバートさんに聞いたことがあってね。といっても掻い摘んだ話だろうから事の次第を全て把握しているわけじゃないんだろうけど」
「んなこたぁどうでもいいですっ。さっさと聞かせろです!」
「話してやってもいいが、言うまでもなく他言無用の話だ。姉御本人の前では特にな」
「分かっているです。こう見えてもクリスは口は堅い方です」
「いまいちアテにならねえ気もするが……」
まあいい、と。
咥えた煙草に火を着け一度煙を吐き出すとハイクは若かりし時分の話を始めた。
「ありゃあ五年程前……俺が入隊して間もない頃の話だ。先代が存命で、姉御が兵士長をしていた頃のな」
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