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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【第三十五章】 船は静かに海上を進む

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   ~another point of view~

 穏やかな日差しが広大な海を照らしている。
 程よく潮風が漂うローアン海にはユノ王国の国章が描かれた旗をなびかせながら快調に進む一隻の船があった。
 ラミント王国を離れたユノ、グランフェルト両王国の一行はサミット会場のある孤島へ向かっている。
 困難な試練を乗り越えた凱旋となるべき海路であるはずであったが、船内は沈んだ空気に包まれていた。
「康平君……ホンマに大丈夫なんやろか」
 グランフェルト王国の面々に貸し与えられた客室でダイニングテーブルに向かう夏目飛鳥は晴れない表情で誰にともなく呟いた。
 船に乗り込んでからしばらく、ほとんど会話はなく、それでいて誰も部屋を離れようとしない重苦しい雰囲気のままただ時間が流れている。
 飛鳥の正面で同じくテーブルに向かうセミリア・クルイードもまた神妙な表情で組んだ指を見つめているだけの状態をしばらく維持していたが、その声を聞いてどうにか笑顔を作ってみせた。
「心配するなアスカ、傷は全てマリアーニ王が治してくださったし心臓も動いている。今は眠っているだけですぐに目を覚ますと言っておられただろう」
 誰がどう見ても無理矢理に作ってみた笑顔であったが、飛鳥はただ『そうやんな』と元気なく返すことしか出来なかった。
 唯一普段と変わりない様子でベッドに寝転がっているサミュエル・セリムスも今ばかりは嫌味や皮肉を言う気にはなれなずに黙っている。そして寛太だけは起きていると船酔いに耐えられないためいつの間にか眠っていた。
 室内には再び沈黙が訪れる。
 試練の洞窟を進んだ先で魔物と対峙し、その身を犠牲にして異国の女王を救った。
 その事実こそ伝え聞いたものの、この部屋に居る者は誰一人としてその場に居なかったのだ。
 戻ってきた康平は全身血塗れ、意識は不明。そんな状態で『負った傷は癒えている、やがて目を覚ますだろう』などと言われたところで、その時以来意識を失ったままである仲間の現状を楽観出来るはずもなかった。
 吐息と溜息が交互に聞こえてくるような空虚感漂うその部屋に、待ち人が現れたのはしばらく経ってからのことだった。
 コンコン、と。
 部屋の扉がノックされる。間隔が短く、どこか慌ただしいノックだ。
 返事を待たずして部屋に飛び込んできたのは一人の小柄なメイドの姿。
 ミランダ・アーネット。
 グランフェルト城に仕え、とある事情でこの旅に同行している若き使用人である。
「おかえり、ミランダちゃん。なんか変化あった?」
 すぐに飛鳥が問い掛ける。
 半泣き状態のミランダが口にしたその問いに対する答えは、彼女達が待ち望んでいたものだった。
「コウヘイ様が……目を覚まされました」
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