67 / 169
【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】
【第二十八章】 責任
しおりを挟む「これは一体……」
思わず声を漏らし、もう一度辺りを見回した。
やはり自然に囲まれている。
壁も天井もないし、木々の匂いがはっきりと感じられることも気のせいではなさそうだ。
うっすらと霧が掛かっているせいで太陽は見えず、同じ理由で視界がよろしくないため目の前に広がる湖の先に何があるのかも確認は出来ない。
しかし、なぜあれだけの仕掛けを乗り越えて辿り着いた先が屋外なんだろうか。
いや、考えようによっては元々この場所に例の水晶が封印されていて、この場所を守るために洞窟を挟んだというパターンもなきにしもあらずか。
「コウヘイ様、あれをご覧になって下さい」
戸惑いと考察の最中、隣に立つマリアーニさんが前方を指差した。
あるのは湖だけ……と思っていたのだが、目を凝らしてみると岸に小さなボートらしき物があるのが目に入る。
霧のせいで見えにくかったことに加え周りの光景に目がいっていたとはいえ、それでなくても気付かなくても無理のないぐらいに小さなボートだ。
大人の男性なら一人、子供や女性でも二人乗れば定員に達しそうな程に。
「ボート……あれで湖を進めということ、なんでしょうね」
「そういうことなのでしょう。大きさを考えてもわたくしとコウヘイ様で進むための物のようですね」
「でも、危険じゃないですか? また何か仕掛けてあるかもしれないですし、先に何があるかも見えやしないのに」
「そうだよ姫、別にボートなんか乗らなくてもあたしが連れて行ってあげるよ?」
マリアーニさんの向こうにいるカエサルさんが疑わしげな目を僕に向けている。
こんな奴に大事な女王様を任せられるか、と遠回しに言いたいんだろうなと分かりたくもないのに分かった。
「いいえエル。この先は国の代表として二人で進まなければならないの。あのボートが意味しているのはそういうことなのよ。それからコウヘイ様、何があるかも分からないというのは少し違いますね。この先に不思議な魔力を感じます。恐らく……いえ、ほぼ確実と言っていいでしょう。湖の先に水晶の眠る祠があるようです」
「そ、そうなんですか」
魔力なんて微塵も感じることが出来ない僕はなんとも間抜けな返事しか出来ない。
意見を求めてセミリアさんに視線を送ってみるが『私などに分かるはずがないだろう』と言わんばかりに首を振られてしまった。
「わたしも間違いないと思いますね~。人や魔物の持つ魔法力とは全然違いますし」
「お二人がそう仰るのであればそうなんでしょうね。僕には全く分からないのでここはマリアーニさんに従って動くということにさせていただければ」
魔法使いであるウェハスールさんも同じ考えとくれば異論を挟む余地もなく。
過去に何度もセミリアさんやジャックが姿も見えないうちから敵の存在を察知することがあったけど、そういう感覚なのだとしたら僕には一生分からないままなんだろう。
とはいえ、だ。
「でも、僕とマリアーニさんの二人で行くのは不味いんじゃないですか?」
「どうしてでしょう?」
「水晶にその魔法力? を補充しなければならないんですよね? ということは少なくともウェハスールさんが居ないと駄目なのでは?」
そういう理由で僕達グランフェルト王国勢はユノ王国とペアになったはずなのだ。
「心配は無用ですよコウヘイ様。こう見えてもわたくしも並の魔法使いよりは魔法力を持っていますわ。攻撃呪文は全くと言っていい程習得していないですしケイトと比べると足下にも及びませんが、水晶に魔力を注入するぐらいであれば問題はありません」
「そ、そうだったんですか……」
じゃあやっぱり僕達プラスマリアーニさんの組み合わせでもどうにかなったんじゃないか。なんて後悔は後の祭り。
一人一人に『あなたは魔法を使えますか?』なんて聞いて回る様な真似が出来るはずもないし、協調性のない人が多いあのメンバーで扉探しをしていたら今こうして無事でいられなかったかもしれないと思うと結局この布陣がベストだった気がするので文句は言うまい。
「では参りましょうか、コウヘイ様」
「分かりました。僕達二人ですらギリギリ乗れるかどうかという大きさですけど」
「元より祠には二名以上で入ってはならないという暗黙のルールもありますので致し方ないのでしょう」
そんなルールは初耳だ。
リュドヴィック王め……さっきから僕が何も知らない奴みたいになってるじゃないか。
と、げんなりしていると。
「でも姫、ほんとに一人で大丈夫なの?」
「大丈夫よ、エル。万が一なにかあったとしてもコウヘイ様が守ってくださるわ」
「………………」
え? そうなの?
僕どう考えてもあなたより弱いんですけど。
「ちょっとあんた、姫になにかあったら許さないんだからね」
「まぁ……僕の身でどうにかなるレベルならそれを最優先するつもりではいますけど」
「なにそれ!? もうちょっと男らしいこと言えないわけ!?」
「こらエル、あまり困らせるものじゃないわ。でもコウヘイ様、くれぐれも我らが姫様のことをよろしくお願いしますね~。姫に万が一のことがあったら戦争になりかねないので~」
「……怖いこと言わないでくださいよ」
プレッシャー掛け過ぎでしょ。
一国の王ともあれば分からないでもないけど、そんなの僕に負い切れる問題じゃないでしょうに。
「コウヘイ、魔物の気配はしないが霧で覆われていて視界も悪い。くれぐれも気を付けてくれ。マリアーニ王もどうかご無事で帰られますよう」
「ええ。ありがとうございます、勇者様」
僕とマリアーニさんはそれぞれセミリアさんと握手を交わすと、ボートの前に移動する。
後ろからマリアーニさんに話し掛けようとするのを寸前でシャダムさんが遮った。
「兄弟、俺の武器を貸してやろうか。この破邪の効果を持つダーク・アローを」
「いえ……使い方も分からないので気持ちだけ受け取っておきます」
ダーク・アロー。
直訳すると闇の矢? 何か凄い能力でも備わっているのだろうか、と思ったのだが。
「コウヘイ様、お気になさらないでください~。勝手に名付けているだけで中身は普通のクロスボウですから~」
と、ウェハスールさんのある意味可哀相な指摘が入った。
どうやら僕の深読みだったようだ。
「凡人には理解出来ぬ領域、それが暗黒の世界たる所以か」
と、わけの分からないことを言うシャダムさんに、
「もうっ、シャダムうるさい」
と、蹴りを入れたのはカエサルさんだ。
怒ってやり返そうとするシャダムさんから逃げる形でそのまま二人は向こうに走って行ってしまった。
邪魔される心配も無くなったので僕は改めてマリアーニさんに向き直る。
「マリアーニさん、皆さんの傍を離れる間これを預けていてもいいですか?」
「これは?」
「なんというか、僕のお守りみたいなものです。もしも何かあった時、きっと役に立つ物なのでどうかお願いします」
「分かりました。ではありがたくお預かりさせていただきます」
了承の返事を受け、自分の首からジャックを外してマリアーニさんに手渡した。
マリアーニさんはそれを自分の首に掛ける。
白いドレスに髑髏のネックレス……論ずるに値しないほどのミスマッチ感だが、僕が自分の身よりもこの人の無事を優先させようと思った時にきっと意味を持つはずだ。
こうして僕達二人は小さなボートに乗り込んだ。
二人乗ってしまうと座ることも出来ないぐらいの小ささに、立っていなければならないことに対するバランス的な意味での怖さを感じる。
というかオールが見当たらないんだけど、どうやって進めばいいんだろう。
そんな心配は、二人が乗った瞬間に勝手に動き出したボートに驚くと同時に解決された。
何から何まで手の込んだ仕掛けだらけだなぁ。なんて思いつつ、ついでに仕掛けとかシステムとかルールとか、ほんと事前に教えておいてくれと改めてげんなりしながら、ゆっくりと岸を離れるボートの上で霧の向こうを見つめるのだった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
投資家ハンターの資金管理 ~最強パーティを追放された青年は、美少女パーティにせがまれ最強へ導く~ (※ハンターは資金力がすべてです)
高美濃 四間
ファンタジー
最強パーティ『ソウルヒート』に所属していたヤマトは、動物と話せることと資金管理しかできないからと、ある日突然追放されてしまう。
その後、ソウルヒートは新しいメンバーを迎え入れるが、誰一人として気付いていなかった。
彼らの凄まじい浪費は、ヤマトの並外れた資金管理でしかカバーできないと。
一方のヤマトは、金貸しにだまされピンチに陥っている美少女パーティ『トリニティスイーツ』を助けると、彼女たちからせがまれ、最強パーティの元メンバーとしてアドバイスと資金管理をすることに。
彼はオリジナルの手法をいかし、美少女たちときゃっきゃうふふしながら、最強のハンターパーティへと導いていく。
やがて、ソウルヒートは資金不足で弱体化していき、ヤマトへ牙をむくが――
投資家がハンターパーティを運用し成り上がっていく、痛快ファンタジー!
※本作は、小説家になろう様、タカミノe-storiesにも投稿しております。
田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました
七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。
天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが──
俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。
──数年後
自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。
それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。
だけど、俺は強くなりたかった。
イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。
だから死にたくなっても踏ん張った。
俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。
ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。
──更に数年後
師匠は死んだ。寿命だった。
結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。
師匠は最後に、こんな言葉を遺した。
「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」
俺はまだ、強くなれる!
外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる!
──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。
だけど、この時の俺は知らなかった。
まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる