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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【第十章】 初顔合わせ

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 聞いたところによると、十分も歩けば会場に到着するということらしい。
 辺り一面ジャングルのような風景の中にあって人工的に作られた道が港から島の中心に向かって真っ直ぐに続いている。
 会場に向かうこのグランフェルト一行。
 先頭をセミリアさんと僕、ミランダさんが歩き、その後ろに王様と姫様が、さらにその後ろに残る四人が続くという配置だ。
 要人を真ん中に配置するといういかにも護衛らしい隊列ではあるが、そもそもこの島にも化け物が出るのだろうか。
 ということをセミリアさんに聞いてみると、
「魔物は存在しないはずだ。この島には強力な結界が張られていて、そもそも魔族は近付くことすら出来ないからな」
 結界というのが物理的にどういう物なのかはさておき、ノスルクさんの住んでいる森の近くにあるエルシーナ町もノスルクさんの結界によって魔物はほとんど現れないと聞いた覚えがある。
 であれば。
「国その物とか、他の町にもその結界を張っておけばそもそも人間が化け物に襲われる心配もないのでは?」
「さすがにそれは無茶な話だ。結界術というのはとても高度な魔術でな、こんな小さな島や町一つならまだしも国どころか大都市を覆うだけの広範囲に結界を張ることだけでも相当な技術と魔法力に厳重な管理体制が必要となる。一国全ての都市、町村にそれを施すなどあのロスキー・セラムを要していても到底不可能だろう」
「そりゃそうですよね」
 出来るなら最初からやっているという話か。
 どのロスキー・セラムなのかは知らないけど。
「でもまあ五人のうち僕や高瀬さん、夏目さんで三人ですからね。何かあった時にあまりアテにならないでしょうし、襲われることもないのなら安心です」
 これじゃほとんど二人で七人を守らないといけない状態になりそうだ。
 高瀬さんはやる気満々で戦おうとするんだろうが、僕や夏目さんもアルスさんやミランダさんも王様達と同じで戦う術など持っていない。
 といっても僕は少なくとも盾を使って守る側に回らないといけないんだろうけど……。
「そう謙遜をするなコウヘイ。お主やカンタダは十分に強さも勇気も持っているさ。といっても、この島に攻め入ろうなどという輩もそうはいないだろうがな。五カ国の屈強な戦士達が一堂に会するのだ、ある意味ここは世界で一番安全な場所とも言えよう。ただ、サミュエルが心配の種ではある」
「サミュエルさんが?」
「どこか覇気がないというか、中々モチベーションも上がらないようでな」
「確かにずっと大人しいままですね。あまりやる気が感じられないというか」
「ああ、元々同行する気もなかったらしくてな。あまりこういう任務に感心がないようなのだ。いざ戦闘になれば力を発揮するのだろうが、フラストレーションが溜まって揉め事など起こさなければよいが」
 セミリアさんと違って忠誠心とかなさそうだもんね、あの人。
 気は短いし口も悪いし、確かにすぐに喧嘩とかしてしまいそうだ。いや、基本的にはいい人だけども。
 高瀬さんもトラブルメーカーという意味では似たようなものだし……。
「しかしまあ、彼奴も場を弁えるぐらいのことはするだろう。私達はサミットの最中は手持ち無沙汰になるであろうし、のんびりしていればよい。今回は魔物共と戦うこともないから安心しろコウヘイ」
「そうであればありがたいですね。といっても、何かしら王様やセミリアさんの役には立たないと付いてきた意味もないんでしょうけど」
「そう気負うな。お主の力が必要な時は私も王も助けを求めるだろう、その時が来る前から気を張っていても仕方あるまい。後ろの二人を見てみろ」
「……思いっきり観光気分ですね」
 振り返ってみると、あれやこれやと言い合いながら右に行ったり左に行ったりしている高瀬さんと夏目さんの姿が随分と遠くにあった。
 いくら平和な旅とはいえよくあそこまで気楽に構えていられるものだと思わされるが、ある意味一周回って正しい過ごし方なのかもしれない。
 やる気なさげなサミュエルさんや、さっきから不満や文句ばかり言って王様を困らせている姫様も含めてどうにも緊張感に欠ける感じだけど、僕が難しく考えすぎなのかな。という感想は前回も多々あった気がしてならないが……。
「必要な時に必要な力を発揮する、そうでない時は楽しむことも必要だということだ。さあ会場が見えたぞ」
 最後にポンと僕の背中を叩いてセミリアさんは前方を指差した。
 そこにあったのはただの小さな小屋だ。
 古くさく、なんの変哲もない、ノスルクさんの住んでいる小屋よりも更に小さいサミットはおろか食事会すら出来そうにないであろう古びた小屋が一つ建っている。
「あれが……サミットの会場?」
 代弁してくれてありがとうミランダさん。
 何から何まで予想と違いすぎてサミットその物が僕の思っているのとは違うのではないかと疑いたくなってきた。
「やっぱりここからもう一段階どこかに移動するってことですか?」
「いや、そうではない。初めて目にするお主等にしてみれば驚くのも無理は無いが、中に入ってみると分かる。きっと、もっと驚くぞ」
 言っている意味が分からず、僕とミランダさんは顔を見合わせて首を傾げる。
 中に何があるのだろうかと、どうにか入る前に答えに行き着こうと必死に考えたが唯一浮かんだ答えが地下に広がる建物なのかという残念なレベルだった。
 そんなことを考えているうちに後ろにいた高瀬さんと夏目さんが追い付いてきた。小屋を目にした感想はやはり似たり寄ったりだ。
「おい、何だよこのボロ小屋は。休憩でもしようってのか?」
「いえ、どうやらこの小屋が会場らしいんですけど……」
「このボロ小屋が!? なんか想像してたのと全然ちげえぞ」
「おいTK、ボロ小屋ボロ小屋言いなや、失礼やで。確かに吹いたら飛びそうなガラクタ小屋やけど思ってても口に出さんのが礼儀やろ」
 いや……そこまで言っちゃったらどっちもどっちだと思う。
「この召使い達の言う通りですわ。お父様、どうして王族であるわたくしがこのような汚らしい場所に入らなければいけないのですか。家畜でももう少しマシな所に住んでいますわよ」
「そうだそうだ! ローラ姫の言う通りだ!」
「ていうか……いつからウチらは召使いになったんや?」
 三者三様に不満を漏らす姿に王様もセミリアさんも呆れ顔だ。
 思ったことをそのまま口にする人間が三人も集まると呆れたくもなるよね、分かります。
「そう興奮するでないローラ。カンタダもアスカもだ。この外見はカムフラージュのためのもの、中に入ればお主等も納得するだろう。耳で聞くより目で見た方が早い、我々も会場入りするとしようではないか」
 王様が目配せをすると、一度頷いてセミリアさんが小屋の扉に手を掛ける。
 二人の言葉の意味を考えながら二人に続いて小屋の中に足を踏み入れてみると、そこには予想出来るはずもない光景が広がっていた。
「うそやん……なんなんこれ? どうなっとんの? おかしいやろ」
「ふっ、こういうことだろうと思ってたぜ」
「ま、このぐらいはしてもらわないと即国に帰るところですわね」
 やはり三者三様に好き勝手言ってる三人だったが、僕の感想は夏目さんと全く同じだ。
 これは綺麗とか汚いとか、そんな問題ではない。そもそも広さからして物理的におかしいことになっている。
 お城に帰ったのかと思うぐらいの大きな玄関口の左右にはいくつも扉が並んでいるし、壁には絵画や高価そうな置物がいくつも飾ってあって、更には天井には大きなシャンデリアもぶら下がっていた。それどころか上に続く階段まで見える。
「どうなっているんですか……これ」
 外から見た小屋に二階なんてものは無かった、それは間違いない。そもそもこの玄関口だけで小屋の大きさを優に超えているではないか。
「これで納得できただろう。大昔からこのサミットの会場は魔族を寄せ付けないための様々な呪法によって守られてきている。これもその一つだ。外からは古びた小屋にしか見えないようになっているが、これが本来のこの建物の姿なのだ。ちなみに上は十二階まであるのだぞ」
「「「十二階!?」」」
 思わず高瀬さん、夏目さんのデコボココンビと声を揃えてしまったのは一生の不覚になりそうではあるが、王様の説明を聞かなければ受け入れられるはずもない事実に心底驚きだ。
 魔法って本当になんでもアリなんだなぁ……なんて感想しか出てこない。
「すっごいなー、なんかとうとうホンマモンの異世界って感じやわ。ワープした以外はそこまで実感も無かったけど、こんなん外国行ったかてあり得へんもんなぁ」
「お前まだ信じてなかったのかよ、頭かてー奴だな」
「そやかて化けモンとか魔法とか一切目にすることもなかったし、しゃーないやんか。でもこれ見たら信じるしかないっちゅうか、もう感動で頭混乱してくるわー」
 夏目さんの目が輝き始めた。
 確かに僕もそれらを見るまでは半信半疑だったし、気持ちもまあ分からなくもない。
 実は化け物出たけどね……二人が船内にいる間に。あのインパクトは知らない方が幸せなんだろうけどさ。
「会合が行われるのは明日の昼だ、それまでは各自自由に過ごしてくれてよい。各国に一つの階層と部屋が二つずつ用意されていて、一つは王族用、一つは従者用になっている。部屋で休むもよし、場内で過ごすもよし。但し、建物の外に出ないこと、他国の者と諍いを起こさぬこと、これは遵守してくれ」
 それから、と。
 僕が即決で部屋で休むことを決めた瞬間、王様が僕の方を見た。
「夕方までには全ての国が出揃うだろう。わしは各方面に挨拶などをせねばならん。勇者クルイード、コウヘイは同行してくれ」
「御意」
「わ……分かりました」
 何故に僕も?
 という疑問は空気的に口に出来なかった。
 僕も一応王様の従者という立場でここにいるのだ。その王様の指示にその都度説明を求める従者の姿はきっと王様にとって良いものではないだろう。とはいえ……本当にどうして僕が。
「ローラは共に参れと言っても聞かぬであろう?」
「よくご存じで、ですわ。汗も掻きましたし、わたくしは当然部屋で休みます」
「まったく、誰に似たんだか。ああ、それからステイシーとアーネットよ。お主等は晩餐の用意などを手伝って貰わなければならんが、よろしく頼むぞ」
「「かしこまりました」」
 二人のハキハキとした返事が響き『では一旦部屋に向かうとしよう』と王様が歩き出したのと同時だった。
「リュドヴィック王」
 横から王様を呼ぶ声がした。女性の声だ。
 全員が揃ってその方向を見ると、こちらに近付いてくる三人の若い女性の姿があった。三人が三人とも僕と大して年は変わらないだろうことが見た目から分かる。
 先頭を歩いているのは恐らく声の主であろう人物で、丈の長い紫色のドレスを身に纏った全身から高貴さが溢れている様な女性だ。
 肩まで伸びたサラサラの明るめの茶色い髪の毛をしており、頭にキラキラした冠を乗せているところを見るにどこかの国の王女とかお姫様なのだろう。
 そしてその後ろには二人の女性が付いていて、こちらは対照的に腕や背中に武器を持っている辺りセミリアさんやサミュエルさんと同じ護衛的な立場の人の様だ。
 一人は警戒心丸出しでこちらを見ている髪の毛が右側半分だけ金髪で左側半分は真っ黒という奇抜な外見をしている若い女性で、いかにも戦士らしい格好をしており背中には薙刀のような形の武器が見えている。
 そしてもう一人は、見るからに寡黙そうな背が高いポニーテールの女性だ。こちらは僕よりもやや歳が上だろうか。
 どうやら刃物の類する物は持っていないみたいだけど、左手の肘から先だけが甲冑で覆われており、手の先まで繋がった赤色の甲冑の手の甲の部分が猛獣の爪の様な形になっていて大きく鋭い刃になっているいわゆるクロー型の武器が物騒に光っている。
「久方ぶりです、リュドヴィック王」
 近くまで来ると、ドレスの女性がにこりと微笑んだ。
 王様が手を差し出すと、二人は自然と握手を交わす。
「お久しぶりですな、マリアー二王。お元気そうで何より」
「リュドヴィック王もお変わりないようで」
「しかし、随分と早い到着だったのですな。今朝にはもうお着きで?」
「いえ、それが昨日陽が落ちる頃には。なにぶんわたくし達の国はこの島から一番距離がありますので。何かあって遅れてしまえばご迷惑になると思い余裕を持って国を出たのですが、少々早く着き過ぎてしまいました」
「それはそれは、お若いのに立派な心掛けですな。うちの娘にも見習わせたいぐらいだ」
「とんでもございませんわ、まだまだ若輩者でございます」
 そこでようやく二人の手が離れる。
 いかにも身分的に偉い人の社交的な会話だが、ローラ姫が明らかに不機嫌になっているので名前を出すのは控えて欲しいものだ。とばっちりが怖い。
「ところで、後ろの女性達は護衛の方達ですかな?」
「ええ、顔を合わせるのは初めてでしたね。失礼を致しました。仰る通りわたくしの護衛兼付き人をしてもらっています。わたくし達の国は軍隊を持たない小さな国ですが、僭越ながらこの二人の強さは諸国の戦士にも引けを取らないと思っておりますわ。右からエルフィン・カエサル、スカットレイラ・キャミイです。エル、レイラ、ご挨拶をなさい」
 マリアー二王と呼ばれた女性がそう促したものの後ろの二人は自ら名乗ることはせず、ただ黙ったままぺこりと僅かに頭を下げるだけだ。
 やや横柄な態度に見えなくもないが相手が一国の王であることを考えると意図していないとしても個々に名前を覚えてもらおうとするかのような挨拶をするのもおかしな話か。
 そんな僕なりの推察の正否は定かではないが、王様も特に言及することもなく同じく僕達の紹介を始めた。
 一人一人名前を呼ばれると、やはり僕達の側もあちらと同じく一礼をするに留まるか、精々一言付け足す程度の挨拶を返すのが精一杯という感じだ。
 ロールフェリア王女とサミュエルさんが完全にシカトしているあたりが若干恐ろしかったりもしたが、そんな正しい振る舞いが分からずどこか居心地の悪い時間も終盤に来た頃、事件は起こる。
「そしてアスカ、同じく勇者一行の一人として同行している」
「よろしゅう頼んます」
「最後に、カンタダ。この者も……」
「なあなあ国王のオッさん」
「ぬ、どうしたのだカンタダ。まだ紹介の途中であろう」
「俺の紹介よりこの超絶美少女の紹介をしてくれよ。この麗しきレディーはもしかしてもしかするとお姫様なのか?」
「うむ、こちらはユノ王国のナディア・マリアー二女王だ。それよりも、あまり失礼な態度を取るものでは……」
「だったら俺様ローラ姫よりこっちのお姫様がいい! 魔王なんざ俺が全部ブッ倒してやるから俺と結婚し……」
 ヤバい。
 そう思った時には遅かった。
 その瞬間僕の目に映ったのはカエサルと紹介された、すなわち半分金髪の方の女性が背中から薙刀っぽい武器を抜き、マリアー二王に駆け寄ろうとした高瀬さんに向けて突きを放つ姿だった。
「エル!」
 マリアー二王が咄嗟に叫んだが、制止の効果はない。
 しかし、躊躇無く放たれた突きは高瀬さんの身体に触れることなく激しい金属音と共に動きを止めた。
 周囲が言葉を失う中で、その攻撃を防いだのはサミュエルさんだ。
 セミリアさんも咄嗟に反応し剣を抜いた状態で高瀬さんを自身の背後にまで引っ張り込んではいたが、それよりも先にサミュエルさんのククリ刀が高瀬さんの目の前でその突きを防いでいる。それも片手で。
 睨み合うサミュエルさんとカエサルという女性の眼光に、僕達はおろか二人の王すらも言葉を失っている。
 数秒の沈黙を挟んで、先に口を開いたのはカエサルさんだった。
「サミィ、久しぶりに会ったっていうのにそんな目で睨むなんて連れないんじゃない?」
「こんなんでもうちの国のモンなの、手出すなら代わりに相手になってあげるけど?」
「姫に近付く奴は排除する、それが今のあたしの役目なんだよね。ま、今日のところは昔のよしみで退いといてあげるけどさ」
 そう言って、ようやくカエサルさんは武器を収めた。
 その声こそあどけなさの残る幼さを含んだものではあったが、表情も目も一切笑ってはいない。
「随分と丸くなったわねぇエル。私にしてみればアンタみたいな裏切り者を殺すことに躊躇う理由はないんだけど」
 再び睨み合う二人。
 この二人が旧知の仲であることは行き交う言葉から分かるが、それが因縁めいた関係であることは火を見るよりも明らかだった。
 裏切り者……そんな言葉が一層空気を重たくさせる。
 しかし、両者が武器を引いたことで周囲も我に返ったのかマリアー二王が今一度その名前を呼んだ。
「エル、いい加減になさい。この場で武器を取ることか何を意味するか分からないあなたじゃないでしょう」
「セリムス、お主もだ。この場で諍いは許さんと言ったばかりだぞ」
 二人の王が改めて一番前まで出ると、二人を引き離すように後ろへ下がらせる。
 黙って睨み合っていた二人は揃ってフンと鼻を鳴らしつつもようやく視線を反らした。
「マリアー二王、とんだ無礼を」
「いえ、こちらも許されざる行為をしたことに変わりはありません。非礼をお詫び致します」
 互いに頭を下げる国の主の姿だったが、バツの悪い表情をしたのはカエサルさん一人だった。
 そんな態度の違いはサミュエルさんの性格によるものか、はたまた彼女との怨恨の深さゆえか。
 どちらにせよここで終わらせておかなければ事態の収拾が付かなくなってしまうだろう。そういう意味では代表となる人間同士が頭を下がるという行為は正しいはずだ。
 すかさず逆ギレしようとした高瀬さんをアルスさんが後頭部へ一撃を叩き込んで阻止しただけに、収めるにはこれ以上ないタイミングだといえる。
 やいやい! 
 とでも言おうとしたのだと思われる高瀬さんを二度目の『や』を発音するのと同時ぐらいにどこから取り出したのか、手に持っていた警棒のような短い鉄の棒による一撃で高瀬さんは白目を剥いて地面に倒れ込んでしまっている。
 グッジョブと高らかに言いたい行動ではあるが、果たして高瀬さんは大丈夫なのだろうか……。
 予想外の一撃に横で見ていた夏目さんも『お、おいTK……大丈夫か?』と普通に引いていた。
「二人には厳重に注意をしておきますゆえ、ご容赦願いたい」
 そんな高瀬さんの撃沈を見守り、リュドヴィック王は改めてマリアー二王に向き直る。
 少しは心配してあげてもいいのに……と思わなくもないが、この騒動の原因はそもそも高瀬さんの行動によるものなので自業自得という認識に落ち着いたのは僕も同じだしこればっかりは仕方あるまい。毎度毎度鉄拳制裁的に黙らされる姿を見ているだけに不憫ではあるけど……。
「こちらも同じく厳しく言って聞かせますのでお許し下さい」
「それでは今回に限り互いに不問ということでよろしいか」
「ええ、そうしていただけると助かりますわ」
「ではその様に。我々は部屋に向かうことにさせてもらいましょう、わざわさ挨拶に出向いてもらって申し訳ありませんな。我が国のフロアは四階でしたかな」
「ええ、今回は三階がわたくし共のフロアになっております。その上の階に貴国が、そして上から順にフローレシア、サントゥアリオ、シルクレアとなり、二階がサミット会場ですわ」
「そうでしたな。なにぶん覚えることが多いもので年寄りにとっては大変だ。しかし、何から何までご丁寧な対応に感謝と敬意を」
「こればかりは開催のたびに入れ替わるということですので参加回数の多いリュドヴィック王ならではの悩みかもしれませんね」
 そんな、どこか取って付けたような会話を笑顔で交わす二人の王の話も終わり、
「それではわたくし達も部屋に戻らせていただきますね。明日もまたよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げて、マリアー二王と二人の護衛は上の階へ続く階段の方へと歩いていった。
 二十歳やそこらの年齢だろうあの人が一国家の王とは、やはりこの世界は何もかもが規格外だ。
「では我々も一旦部屋に入るとしよう。クルイードよ、カンタダを運んでやってくれ」
「御意。カンタダも少しは懲りてくれればよいのですが、いささか直情径行の気が強いのが悩みどころです。しかし、見事な当て身でしたなステイシー殿」
「おほほ、侍女の嗜みですわ」
 笑って誤魔化すアルスさんだった。
 僕も同じ目に遭わないように気を付けねば……。
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