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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】

【最終章】 例え夢の世界であっても

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 爆発、破壊に伴う灰色の煙が辺りに蔓延している中、誰もが倒れたまま起き上がることも出来ずにただ絶望している。
 僕達の負け。
 認識するというはイコール人生の幕を閉じることを意味するその事実を受け止めようとした時、不意に声がした。
「立ちなさい……クルイード」
 震える様な声でありながら、真っ直ぐとした意志の感じられる声だ。
 その主は唯一立ち上がっているサミュエルさんだった。 
「サミュエル……」
「いつまで座ってんのよ馬鹿。このまま大人しく殺されてやる筋合いが今までに一度でもあった? なんのために私達が存在しているか……そんなことも忘れてしまったわけ?」
 サミュエルさんは鋭い目でセミリアさんを睨み付けている。
 戸惑い混じりの表情を返すばかりだったセミリアさんは、やがて意を決したようにサミュエルさんと同じく剣を杖代わりにしてよろめきながら立ち上がった。
「ふっ、まさかお前に勇者の存在意義を説かれる日が来ようとは……だがその通りだ、私はどうやらそんな簡単な事を忘れてしまっていたらしい。勇者の戦いは……守るべきものがある限り続くのだ。そして敗れて命を失う覚悟に偽りは無く、生きている限り負けを認めて諦めたりはしない。それが……勇者だ!」
 振り絞る様な声で、己に言い聞かせる様な声色で負の感情を消し飛ばし、セミリアさんは立ち上がった。
 剣を支えにすることもなく、無理矢理身体に言い聞かせる様に、身体を服従させたかの様に、それでも真っ直ぐと。
 負傷した左腕だけがぶらんと垂れ下がったままではあったが、右手に剣を構えてサミュエルさんの横へ並ぶ。
「アンタと力合わせるだなんて、最後の最後に嫌な思い出が出来そうだわ」
「そう言ってくれるな、使命を果たすためには我慢も必要というものだ。もっとも、私はそう思ってはいないがな」
 二人は顔を見合わせ、不敵に笑った。
 覚悟でも確固たる意志でもなく、餞別の意図が感じられる笑みだった。
 止めないと後悔することが分かっているのに、言葉を発することが出来ない。
 それは僕だけではなく他の皆も同じだった。
 儚さを漂わせていながらも、まるで消えゆく前の蝋燭が最後に輝きを放つが如く、力強さを増した二人の後ろ姿に掛ける言葉はついぞ見つからない。
 そんな僕達の代わりに口を開いたのは薄れゆく煙の向こうでこちらの様子を窺っていた魔王シェルムだった。
「あれ~、まだ立つんだ。全員殺しちゃうつもりだったのにさ。今度はちゃんと殺さないとね、今もあんまり違わないみたいだけど」
 驚いているのではなく、ただただ小馬鹿にしたような口調。
 二人の勇者は改めて武器を構え、その先をシェルムに向ける。
「ガキの分際で余裕ぶっこいちゃって。クルイード、分かってるでしょうね」
「無論だ。左右に分かれて同時に特攻する、どちらかが犠牲になろうともどちらかが奴の懐に入れば勝ちだ」
「そういうこと。何があっても足を止めるず振り返らない……恨みっこ無しよ」
「どんな結末を迎えようとも、感謝こそすれ恨むことなどありはしない」
 そこで二人の会話は途絶える。
 今まさにその足が地面を蹴ろうとした時だった。
「……待てよ」
 ふと、別の方向から声がした。
 確認せずとも分かるその声の主は、倒れたままであったり壁に寄り掛かることで体を起こすことがやっとの僕達よりも悪い状態であったはずなのに人知れず立ち上がっている。
「高瀬……さん」
『珍獣……』
 気絶していたはずの高瀬さんの姿に無意識の声が漏れる。
 届いているのかいないのか、高瀬さんはふらふらと、のろのろと、セミリアさん達の方へと近付いて行った。
「勇者たんもサミュたんも、たまにはいいこと言うじゃねえかと感心したが……まだまだだな。玉砕覚悟の特攻なんて格好良い真似が似合うのは俺しかいないだろ常考」
「カ、カンタダ……」
「アンタ……」
 二人もただ唖然として高瀬さんを見つめている。
 そんな三人を見て、我を取り戻した様に声を張ったのは春乃さんだった。
「おっさん! あんた……大丈夫なの?」
「ようゴスロリ、お前が俺の心配をするとは、寝てる間に余程切羽詰まってるらしいなおい」
「ふざけてる場合じゃな……」
「大丈夫か大丈夫じゃねえかで言えば、全然大丈夫じゃねえよ。どこもかしこも痛すぎて死にそうだっつーの。全身がバラバラになりそうだぜ」
「だったら……」
「だがな、これこそが俺の望んだ世界で、俺が夢見た死に場所ってもんなんだよ。今まで散々文句言われてきたんだ、最後ぐらい好きにしたっていいだろ」
「何を夢見たってのよ……わけわかんない。あんたなんかが何したって、死んじゃうだけじゃない。あの化け物相手じゃ無駄なのよ……見てわかんないの」
 今更どう足掻いても何も変わりやしない。自分達が迎える結末はすでに決まってしまっている。
 春乃さんはそういうことが言いたかったのだと思う。
 その声は悲壮感に溢れ、カウントダウンが始まるのを待つことしか許されない状況に絶望し、そんな中で高瀬さんがまた理解不能な行動を取ったことで感情がごちゃごちゃになってしまっている。そんな感じだ。
 こんな時に何を言い出すんだ。
 僕にもそんな気持ちが少なからず頭に浮かんだことを否定はしない。
 だけど、セミリアさんやサミュエルさんが立ち上がって、高瀬さんも同じく立ち上がって、白旗なんて上げずに悪足掻きをしようとしている。
 ならば僕も立ち上がらなければいけないはずだろう。
 そう思っているのに、恐怖ではなく純粋に痛みで痺れ、痙攣している右足の震えを抑えるためにはどうすればいいか。
 そんなことを考えるのに精一杯で、三人に続いて立ち上がる事が出来ない自分が情けなくて、今回ばかりは高瀬さんの行動にツッコミを入れることも、二人の口論を止めることも、僕には出来やしなかった。
 ゆえに、高瀬さんの言葉は続く。
「この部屋に入る前に言っただろ? 良い意味で、俺の気持ちはお前等には分からねえってな。今まさにそんな状況なんだぜ」
「…………」
「…………」
「…………」
「俺は所詮オタクの引き籠もりだ……エロ同人好きの同士達を除けば誰からも必要とされず、居ても居なくても誰に何の影響もない存在ってもんよ。俺自身中身もなけりゃ価値も無い人生だと思ってんだ、敢えて死ぬ理由はないが、考えても考えても生きていく理由、生きていたい理由も見つかりゃしねえ。ある日突然死んじまっても特に後悔もないだろうさ」
 突然、高瀬さんはそんなことを話し始めた。
 ある種の諦観の境地なのか、言葉尻の割にその表情から卑屈さは感じられない。
「俺はバトル物のアニメってのが一番好きなんだよな、いつだってあの世界観に憧れてんだ。別に主人公になりたいってんじゃない、例え名前も付いてないモブキャラでも序盤でさっさと死んじまう脇役でもいいからこんな世界に生まれたかったってな。どんな辛い世界でも、理不尽な争いでも、奴らは真剣に生きてんだ。仲間のために、国のために、平和のために、命懸けで毎日を生きてる。そんな生き様が格好良いだろ? 俺は結局現実世界じゃ生き方も考え方も変えられないクズだが、今目の前に変わるチャンスがあるなら死ぬ前に一度ぐらい夢見た世界で望んだ生き方をしてみるのも悪くねえ。モブキャラ上等、死亡フラグ上等、無意味で無駄な長生きをするぐらいなら格好付けて死んだ方が百倍生きてきた価値があるってもんよ。目の前にラスボスがいて、隣に武器っ娘の仲間がいるだなんて最高のシチュエーションでそれが叶うなら何を惜しむことがある? これこそが俺の、オタクとしての意地であり誇りだ」
 高瀬さんは微妙に足を引き摺りながらセミリアさん、サミュエルさんの傍まで進んでいく。
 その向こうではシェルムが不思議そうに僕達を見ていた。
「勇者たん、サミュたん……隙は俺が作ってやる。二人はあのガキんちょ魔王を仕留めろ」
「カンタダ……囮になるつもりか。それがどういう意味か……」
「元はといえば勇者たんがやろうとしていたことだろ? だったら三人でやりゃ二人が攻撃に回れる分成功率も上がる。どのみち俺は走れそうにもないからな、攻撃役は無理だ」
「アンタ……本気なわけ?」
「隙が出来たら迷わず突っ込めよサミュたん。俺がどうなろうと止まらず振り返らず敵を倒す事だけ考えろ」
 その言葉を最後に、高瀬さんは一人崩れたり割れたりとボロボロになっている地面をゆっくり全身して行く。
「おっさん!」
 その後ろ姿へと春乃さんが叫んだが、高瀬さんは振り返ることはおろか反応すらしない。
 高瀬さんの雰囲気がそうさせているというべきか、それ以上声を掛けることも止めることも出来ず、何をするつもりなのかとただ見ている他なかった。
 やがて広間の中心付近まで行くと、そこで高瀬さんはようやく口を開いたかと思うと、

「やいガキんちょ魔王!」

 魔王シェルムに向かって、そんな風に呼び掛けた。
 いつまた攻撃されてもおかしくない状況なので僕も絶えず視界に入れてはいたが魔王は僕達が話をしている間に何かをしてくることはなく、それどころか再び玉座に腰を下ろしている。
 勝利を確信したことで生まれる余裕か、ボスキャラにありがちな『様子を見ている』ということに1ターンを費やしてくれる親切設計の効果か、さながら戦隊ドラマでやられ役の下っ端キャラ達の如くこちらのアクション中は攻撃してこないという暗黙のルールでもあるのか、退屈そうにボーッとしながらこちらを見ているだけだ。
 しかし、そんなシェルムっも高瀬さんの言動にムッとした顔で立ち上がるとビシっと高瀬さんを指差した。
「誰がガキんちょだっ。死に損ないのくせに偉そうにっ」
「いいかガキんちょ。お前のお子様レベルの攻撃なんざ俺様には蚊ほども効かねえんだよ」
「むー……手加減してやったのに調子に乗って。大体後ろの奴らなんて立つことも出来ないの丸出しだもん、強がり丸出しじゃんバーカ」
「アホめ、ありゃ立てないんじゃなくて休憩してるだけだ。お前があまりに弱っちいから退屈なんだとさ。事実、誰一人死んじゃいないだろうが」
「だったら……お望み通りぶっ殺してあげる」
 どんな狙いがあってのことか、挑発を続ける高瀬さんの言葉にシェルムは拗ねる様な顔付きで高瀬さんを睨むと再び両手を天に向けた。
 一撃で僕達の望みを打ち砕いた、あの回避不能の攻撃を繰り出す気だ。
「無謀だ……」
 次またあの攻撃を食らったら間違いなく僕達は死ぬ。
 避けることも防ぐことも到底可能な状態ではない僕達に向けて、どうしてそれを誘導するような真似をするのか……。
 直前のやり取りからしても高瀬さんが自分一人であれを食らうつもりなのは間違いない。囮になり、その隙に二人がシェルムを攻撃する。
 そんなプランを持っているのであろうことは想像出来るが、あれは高瀬さん一人で済む攻撃じゃないことは身を持って知っているはずなのに……。
 そう思えばこそ止めないといけないと分かっているのに、既に手遅れであることを示すようにシェルムの真上には巨大な魔力の塊が出来上がってしまっていた。
 そして、高瀬さんに掛けようとした言葉も、張本人によって遮られる。
「やるなら本気で来いよ幼女。おままごとみてえな攻撃じゃ時間の無駄だからな」
「うるさーい、絶対ぶっ殺してやる! 覚悟しろ!」
 感情のまま叫ぶ様に吐き捨て、シェルムは魔力の塊を一層大きくさせた。
 先程よりも一回以上大きく、もはや食らったら、どころか当たらなくても万事休すだと分かる大きさだ。
 ああ……これで本当に終わってしまうんだ。
 もう横にいる仲間どころか自分の心配すらも放棄してしまうような光景に、思いの外あっさりとした感想が頭を過ぎると同時に勝手に涙が頬を伝っていた。
 似た様な気持ちだったのか誰も言葉を発することなく、ただ魔力の光が自分達を照らしている刹那的な光景だけがこの目に映っている。
 そして……、
「死んじゃえ~!」
 光の向こうからシェルムの声が聞こえてくるのと同時に、魔力の塊は放たれた。
 僕達の方へと勢いよく向かってくる光の塊は瞬く間に一番前にいる高瀬さんのに迫ってくる。
 前にも同じ様な光景を目の当たりにしたことがあったっけ。
 城にいった時、偽物の王様の攻撃に対して高瀬さんはただふざけて叫んだだけだったなぁ。
 そんな回想シーンが最後の記憶なのかと目を閉じかけた僕だったが、しかしながら今度はそうではなかった。
 高瀬さんは乱暴に右手をポケットに手を突っ込んだかと思うと、何かを取り出しニヤリと笑いながらそれを巨大な魔力の塊に向かって突き出したのだ。
「挑発に乗ってくれてありがとよ」
 薄っすらとそんな声が聞こえる。
 訳も分からずその姿を見守る僕の目にはその手にビー玉ぐらいの大きさの赤い宝石が持たれているのが映っていた。
 数日前、確かに僕はあれを見た覚えがある。
『あいつは……アルヴァントクリスタル!』
 ジャックがその時口にしたそのアイテムの名前を再び口にした。
 同時にその時のジャックの説明が脳内で再生される。
 盗賊の洞窟にあった宝箱から出て来たを見つけた時のジャックの言葉が、鮮明に。

『一度きりどんな魔法攻撃も跳ね返すことが出来るって優れものだ』

 誰もが完全に忘れ去っていた小さな宝石の存在。
 その宝石に魔力の塊が触れると同時に、高瀬さんが叫んだ。
「これが……俺様の奥の手だ! マホ寛太ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 瞬間、まるでゴムで出来た壁にでもぶつかったかの様に、まさに跳ね返るという表現がピタリと合う動きで、高瀬さんの手のひらに触れた魔法の塊ははじき返された。
 勢いを殺さず、そのままのスピードで今度は玉座の方向へと飛んでいく。
 僕の位置からは手前に立つ高瀬さんと巨大過ぎる程に巨大な光の球しか見えていないが、その奥からはシェルムの動揺する声が聞こえていた。
 遅れて高瀬さんの挑発はこの布石だったのだと理解する。
 威力が大きければ大きい程にカウンターとしての効果は増し、不意を突いていることがシェルム自身にとっての焦りや動揺を誘う。そういう意図があったのだ。
 ならば。
 この先の展開を考えた時、いくつかあるパターンでも最悪の場合を想定するならば……僕はここでへたり込んでいる暇なんてないはずだろう。
「ぐっ……いてて」
 悲鳴を上げる体で無理矢理立ち上がるも、やはり膝が踊ってしまって上手く制御するのが難しい。
 激痛のあまりむしろ笑うしかないって感じだ。
 それでも僕は、自らの体が発する警告も震えも痛みも全て無視して、足を引き摺りながらではあったが前方へ向かって駆け出した。
 走り出す僕の少し先ではセミリアさんとサミュエルさんが左右に別れて特攻していくのが見えている。
 そしてさらにその先、部屋の一番奥。
 恐らくは玉座の位置にあたるのだろうが、そこで高瀬さんの跳ね返した魔法攻撃の球が制止した。
「ぬ?」
 と、少し前で高瀬さんが首を傾げる。
 ほとんど同時にシェルムの声が続けて聞こえた。
「んにゃぁぁぁぁぁ!!」
 ほとんど叫び声の様な声がしたかと思うと、玉座で静止していた光の球が破裂したように分解し、いくつものサイズを小さくした球体へと姿を変えて再びこちらに向かって飛んできていた。
「………………」
 やはりそうなったか。と、言わざるを得ない展開だ。
 同等の、或いはそれ以上の威力を持った魔力をぶつけてさらに弾き返してきた、といったところだろう。それによって最初の大きな弾が破裂した。
 それは想定できるパターンの中では他ならぬ最悪のものであったが、でもあった。
 魔法弾は次々と脇の地面や壁に着弾し破戒音や爆発音を響かせる。
 そのうちの一つ、それも一番大きな塊が既にほとんど棒立ちで僕の前にいる高瀬さんの目前に迫っていた。問うまでもなく、もう高瀬さんに躱したり防いだりする術などない。
 こんな時、きっと高瀬さんはまた変な叫び声を上げるだけなのだろう。
「ぬわ……」
「高瀬さん、そのネタはもういいです」
 だけど、
「こ、康平たん!?」
「まったく、あんな作戦があるなら先に教えておいて下さいよ。たまたま思い出したからって理由があるなら、それはそれであなたらしいですけど」
「ちょ、おまっ……何でここにいるんだ康平たん」
「こうなることを予測して、ですかね。黙って見ていたら高瀬さんが死んでしまうかもしれない、それを放ってはおけないでしょう。ですがまあ、詰めが甘いのもまたあなたらしいのでしょうね」
「康平たん……」
 僕の名を呼ぶ高瀬さんの前に立ち、指輪を付けた左手を前に突き出す。
 後は野となれ山となれ、僕も高瀬さんも他の皆も、やれることはやった。
 知略で相手を上回り勝利するのが好きな僕だが、以外と運否天賦に委ねるのも嫌いじゃないんだよなぁ。
 なんて、場違いな自己分析を挟んでしまったが、僕は僕の最後の仕事をするとしよう。
「僕の盾なら直撃は避けられます、しっかり捕まっていてください。ただし……高瀬さんの宝石とは逆で弾き飛ばされるのは僕達なんですけどね。壁に叩き付けられる程度は覚悟していてくださいよ」
 もう数メートルに迫っていた魔法の砲弾の目映い光が僕達を照らしている。
 目を閉じたりせず、目を反らさず、死ななければ御の字という心持を維持しながら、僕は発動の詠唱をした。
「フォルティス!!」
 現れる透明の盾という名の壁。
 掌の二、三十センチ先で魔法攻撃は文字通り壁にぶつかった様に一瞬だけ動きを止める。
 だけどやっぱり次の瞬間には僕の身体は宙に浮いて、次の瞬間にはもの凄い速度で後方に吹き飛ばされていた。
「ぐっ……」
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 三度目だからそろそろ分かってきた。これは今までで一番勢いよく飛ばされている。
 こんな速度で壁に叩き付けられたのちに生きていられるだろうかと心配になってくるが、重なる様に飛ばされているおかげで高瀬さんの悲鳴がうるさくて若干それどころではなかった。
 大体そこは【ぬ】じゃないのかと思わずツッコミたくなる。
 これも開き直ったからか、不思議と恐怖や不安はない。覚悟と痛みに耐えるだけの根性が僕にあるかどうか、そんな感じだ。
 そんなことを考えている間に僕達の体は衝撃に見舞われる。
「「ぐえっ」」
 ドン! という音、衝撃と共に思わず声が揃う。
 しかし、そこそこの衝撃ではあったが『ぐえっ』で済むなんてことがあるだろうか?
 意識もはっきりしているし、衝撃だけで元から痛む膝以外にダメージもほとんどない。
 いつもの壁に叩き付けられてから地面に落下するという二度おいしいならぬ二度痛い連鎖もなく、壁にぶつかって止まってしまったのだろうかと思ってしまうような現象が起きていた。
 もはや感覚まで麻痺しているのかと恐る恐る首を後ろに向けると、
「まったく、揃いも揃って無茶ばかりする奴等だ…………トラ」
 目の前には面妖なトラのマスクをかぶった上半身裸の筋骨隆々の顔がある。
 虎の人が僕達の身体を受け止めていた。それが今起きた全てだった。
「ゲレゲレェェェェ! お前はやれば出来る子だと思ってたぞぉぉ」
 地面に下ろされるなり高瀬さんは虎の人に抱き付いている。
 僕もお礼を言おうかと口を開き掛けた時、パリン! という音が辺りに響いた。
 聞こえた音の出所は部屋の奥深く。つまりは、玉座の辺りだ。
 先程の魔法攻撃が着弾し爆発したことで発生していた煙や埃で視界が塞がりつつあったが、隙間から僅かに見えた光景が全てを理解させた。
 玉座のそばでシェルムが尻餅をつき、怯える様な顔で目の前に立つセミリアさんを見上げている。
 そのセミリアさんの持つ剣が玉座の枠に刺さっているところを見てようやくシェルムに向けて剣を振り抜いたのだと把握した。
 パリンという音の正体はシェルムの頭に乗ったティアラが破壊された音だったのだ。
 とはいえ、どう見てもティアラのみを破壊しようとした攻撃ではない。
 首ごと飛ばさんばかりに振り抜かれた剣を、恐らく見切ったのではなく反射的に身体を引いた結果ティアラに当たった。そんな感じだ。そうでなければあんな状態にはならない。
『相棒!』
「うん、二人は上手く隙を突けたみたいだ……」
 セミリアさんの後ろにはサミュエルさんもいる。それすなわち、僕達の最後の賭けは成功したのだ。
 これで高瀬さんの一世一代の捨て身の行動も報われる。
 それは間違いないんだけど……。
「僕も行かないと……高瀬さんと虎の人はここに居てください。みのりと春乃さんをお願いします」
 もう走る気力も残っていないけれど、それでも僕は返事を待つことなく玉座の方へと足を進めていく。
 何かを終わらせると気が来たのだとするならば、それは今しかないと思うから。
『お、おい相棒。行くって何するつもりだ、そんな体で』
 ひょこひょこと歩く僕の胸元でジャックだけが驚きの声を届てている。
 後ろでは高瀬さん達の声もするが、急ぎたくても急げないもどかしさのせいで耳に届いてはいない。
「もうティアラは無いんだから危険は無いでしょ?」
『そりゃそうかもしれねえが……何をするかって質問の答えにゃなってねえぜ』
「止めるんだよ……二人を」
『止めるだあ? おめえそれがどういう意味か……』
「分かってる。だけど止めなきゃ……僕が、僕の世界から来た人間じゃなくなってしまうんだよジャック。お願いだから何も言わないで」
『相棒……』
 それきり、ジャックは何も言わなかった。
 少しずつ近付いてはいたがそれでも早足には遠く及ばず、玉座までの距離が半分になったところでセミリアさんの声が聞こえてくる。
 その声はシェルムに対して最後の会話だという意志表示がありありと感じられた。
「罪は冥府で償うといい」
 そう言って、目の前でセミリアさんは再び剣を振り上げた。
 返った言葉は絶望と恐怖が生んだ命乞いに他ならない。
「ま、待ってよ! 待ってってば、ちょっと話し合いとかしようよ!」
「聞く耳持たん。よく覚えておけ魔王よ、勇者ある限り悪が栄える時代などありはしない。さらばだ」
 尻をついたまま後退るシェルムを見下ろすセミリアさんの目は本気だ。
 これでは近付くまで待っていては間に合わないと、僕は部屋の中央から叫んでいた。
「待って下さい!!!」
 振り上げられた大剣が今にも振り下ろされようとする中、セミリアさんの動きが止まる。僅かに下にぶれたところを見ると、本当にギリギリだったようだ。
 サミュエルさんを含め二人は一度僕の方を見たが、シェルムがその隙に逃げようとする動きを取ったことでセミリアさんの視線がそちらに戻る。
 首に剣を突き付けられたシェルムは『ひぃっ』と泣き声と悲鳴の混じった声を上げた。
「動くな。逃げようという素振りを見せれば即座に首を跳ねる」
「お、おっけー……動かない。動かないから……痛いの止めない?」
 その言葉を無視し、セミリアさんはもう一度僕に視線を向けた。
 少しずつ歩いて近付く僕を、傍に来るまで何も言わずに待っている。
「一体どうしたのだコウヘイ、先ほどカンタダを守った時のダメージも残っているだろうに」
「すいません……ただ、止めないとと思ったらジッとしているわけにもいかなくて」
「止める? 何を止めるというのだ」
 セミリアさんは僕の意図が分からず難しい顔をした。
 依然シェルムの首に触れている剣の刃はそのままだ。
『クルイード……相棒はな、そいつを殺すのを止めろって言ってんだよ』
「なんだって?」
 ジャックが代弁するとセミリアさんも、後ろで右手の刀を肩で弾ませていたサミュエルさんもその動きを止めて目を見開いた。
 当然ながらその表情には動揺と疑問が浮かんでいる。
「コウヘイ……それは、それがどういう意味か分かっているのか」
「分かってるつもりです。いや、正確には分かっているつもりになっているだけなのかもしれないですけど、それでも」
 それでも。
 殺せば勝ち。殺せば解決。殺せば平和。殺すことが正義。
 そんな風には思って欲しくないと思った。
 僕達の世界でだって、人を殺めれば同じ命で償いをしなければならない。誰かが決めたルールの下で裁きを受ける。当然のことだ。
 それが必要の無いことだとは思わない。むしろそうあるべきだとさえ思う。
 国は、人は、秩序によって守られるものだ。
 それを乱し、社会に悪影響を及ぼす人間など罰せられて然るべきだし、むしろ日本なんて犯罪者に甘い国だという不満すら日頃から抱いてもいる。
 それでも、僕は今目の前で起ころうとしている出来事を仕方ないの一言で片付けていいとは思えなかった。
「もう勝負は付いたんですよね? 僕達の勝ちなんですよね? だったら……もういいじゃないですか。命まで奪わなくても……いいじゃないですか」
 何もしていないのにボロボロの僕が言える台詞ではなかった。
 自分の価値観とも矛盾していることも分かっていた。
 僕は何を言っているんだろう、そんな気持ちだって勿論ある。
 それでも今この場に起きた惨状を前にして、僕達の知るものとは違っても戦争という命の奪い合いを体験してなお、出てくる言葉を飲み込むことは出来なかった。
「コウヘイ、巻き込んだ私が言えることではないが、お主等の元の生活を鑑みれば非情な戦いをしていることは理解している。だが、こやつらのせいで平和は失われる一方だったのだ。こやつが直接手を下したわけではないにせよ、魔族の手に掛かってどれだけの兵が、民が、命を失ったと思う? 人間界に害を為す魔は、人間によって淘汰されてきた。それが数百年も昔から繰り返されてきた人間と魔族の戦いの歴史だ」
 言いたいことは理解した。だが、分かってくれ。
 セミリアさんはそんな口調だ。
 それでも僕は引き下がったりはしない。
 口から出てくるのは、もはや思考回路なんて経由していない、ほとんどただの感情論だった。
「でも、だからこそ……何かを変えられる可能性があるのなら、それは今なのかもしれないじゃないですか。セミリアさん言ってましたよね、セミリアさんやサミュエルさんは勇者という称号を受け継いでいるんだって。受け継ぐということはその必要があるからで、その理由が人々を守るというのならまだしも誰かを殺すために受け継いだんだとしたら、それは必ずしも正しいことではないと僕は思います」
「………………」
「過去に多くの人々が殺されて、それを理由にセミリアさんがこの子を殺しに来て、いつかこの子が殺された報復に人々が殺されて……それでは何も変わらないじゃないですか。歴史を繰り返して、そのために将来より多くの人が殺されるかもしれないんですよ?」
「それは……しかし」
「僕は身を守ることもろくに出来なくて、敵を倒す強さも誰かを助ける強さも持ってはいないけど……少なくとも、仲間であるセミリアさんがこんな女の子を殺すところを黙ってみていたら一生後悔する」
「だが……ならばどうしろというのだ。コウヘイのように頭が良くない私には分からない……何が正解でどれが不正解なのか。私は勇者の名の下に正義と平和のために我が身を賭して戦ってきたつもりだ。だが、それゆえにその道以外に正解など知らぬのだ」
 セミリアさんにも迷いが生まれていた。
 少し辛そうにしているのは、まるで僕が責めるように囃し立てたからなのかもしれない。
 それでも僕の言葉に耳を傾けてくれるセミリア・クルイードという人間を見て、やっぱり僕は少女を殺す人間であって欲しくないと思うのだ。
 例えこれが現実の出来事じゃなかったとしても、感情があって痛みも感じて殺されれば終わりであるのならば、少なくともゲームなんかじゃないのだから。
「サミュエル、お前はどう思うのだ。ずっと黙り込んだままで……」
 依然変わらずシェルムの首に剣を固定したまま、セミリアさんは首を後方に向けた。
 シェルムは地面に尻を着いたまま怯えた様子で僕とセミリアさんを交互に見ている。
「べっつにあたしはどっちでもいいわ。なんかコウが熱弁しちゃってるけど、そんな話あんま興味無いし。逃がすなら逃がしてあげたら? あんたのが言ってんでしょ?」
「興味が無いだと? お前はそれで良いのか……魔王を……魔王を逃がすなど、そんな話は聞いたことがない」
「こんなガキの命一つで悩むなんて相変わらず馬鹿な奴。逃がして困るのは私も含めて、今まで一度だって勝てやしなかったからでしょ? だったら強くなりゃいいだけの話、少なくとも私は魔王に勝ったぐらいじゃ満足なんてしない。魔王なんて簡単に倒せるだけの強さを手に入れてやるわ。逃がしたコイツが災いを呼ぼうものなら、即座に殺してやれるぐらいのね」
 やれやれと溜息混じりに首を振って話し始めたサミュエルさんだが、最後には鋭い目付きでシェルムを睨んだ。
 再度シェルムが小さく悲鳴を上げるのとほぼ同時に興味なさげな表情に戻した上で僕の方を見た。
 正確には、僕の後ろを。
「どーせ後ろの連中もおんなじ意見なんでしょ?」
 後ろの連中、という意味が分からず振り返ると僕の後ろに皆がいた。
 高瀬さんが、春乃さんが、みのりが、虎の人が、すぐ後ろに立っていた。
 いつの間に……。
「あったりめえよ。こんな幼女を殺しちまったら、いつか俺の自叙伝がアニメ化されるときに弊害が出るじゃねえか」
 腕を組み、ドヤ顔でうんうんと頷きながらそんなことを言うのは高瀬さんだ。
「あたしも、康平っちに賛成。セミリアの強さっていうのはさ、誰かを守るためのものであって誰かを殺すためのものじゃない、誰かに勇気を与えるものであって誰かに恐怖を与えるものではないって、そう思うんだ。だから康平っちに賛成、そっちの性格悪い女はどうでもいいけど」
 足を怪我しているためみのりに支えられて立っている春乃さんが続く。
「口を慎みなさい下女」
「誰が下女なのよっ!!」
 こんな状況でも喧嘩は忘れない。
「わたしも康ちゃんに賛成です。セミリアさんやサミュエルさんの強さや格好良さというのは、そういう心の部分のものでもあって欲しいと思います。わたしは怖がってばかりで、あの全身黒ずくめの人の時はそれが出来なくて悲しい気持ちになりましたけど、こんな小さな子に同じことをしてしまったらきっと優しい人間ではいられなくなってしまうと思うから」
 自分も辛いだろうに、そんなことをおくびにも出さず春乃さんを支えながらみのりも続く。
 サミュエルさんの名前も出すあたりよく出来た性格をしているものだ。
「オイラはレディーマスターの意志に沿うだけだトラ。元より人間でも魔族でもない身、ならば仲間の意志を尊重するのもいいだろう、と余計な口出しだけしておこう……トラ」
 どこまでも第三勢力的なキャラを守りたいらしい虎の人もまた、いつもと同じ様に仁王立ちで腕を組んだまま渋い声で同意する。
 高瀬さんを庇う時に受けた攻撃のせいで右半身が火傷をしたみたいに赤く腫れている姿が痛々しい。
「皆にまでそう言われては、私は……どうすればいいコウヘイ、ジャック」
 若干数の暴力と化してる感がないでもないが、セミリアさんの迷いの色はより濃くなっていた。
 まるで助けを求める様に、僕を見る。
『クルイード、おめえが判断すりゃいい。俺はどっちの言い分、気持ちも良く分かる。この時の為に戦ってきたお前と、ただお前を助けるためにここにいるこいつらとじゃ考え方も違ってくるだろう。ましてやこいつらは元々戦いとは無縁だったんだ、あとはお前が自分で答えを見つけることだ。一人の人間として、一人の勇者として、そしてこの一行の一員として、どうしたいか、どうするべきか、考えてみるといい』
 ジャックが答えると、セミリアさんはもう一度考え込むような顔で口を結び黙り込んだ。
 その視線は僕達から地面へと変わり、少しすると俯いたまま目を瞑って、ただただ一人で黙考する。
 やがて顔を上げ、目を開いたセミリアさんは改めて僕を見た。
「私とて、誰かを殺すために勇者をやっているわけではない。それはお主等の言う通りだ。シェルムにしてもまだ幼いがゆえに善悪の判断など出来ない部分もあるだろう、それも分かっているしコウヘイの言うように争いの歴史など続いていい理由などない、ということも理解した。どちらかが完全に滅びるまで戦いを続けても犠牲が増えるだけだということもな。だが私も勇者として退けないこともある。逆に今こやつを生かしたことで誰かが犠牲になる可能性だってあるはず、そうなれば私は後悔では済まないだろう。だからこそ、その心配が無くなる道があるのであれば私もコウヘイや、みんなの意志に従おうと思う。サミュエルの言う通り、私がもっと強ければこのようなことで悩む必要は無いのかもしれん、だが今の私にはこれが精一杯の答えだ」
 セミリアさんは真っ直ぐな目で、はっきりと自分の意志を告げた。
 そこにあるのは。
 僕が、みんなが、力になってあげたいと思った頃のままのセミリアさんの姿だ。
 振り返ると、僕と目が合った順に一様に頷きながら笑顔を浮かべる一同。
 後は任せた、そんな感じの笑みだとすぐに理解する。
 ならばと、僕はセミリアさんの傍まで歩き、屈むことでシェルムと目線を合わせた。
 始めて間近で見た魔王の少女は、やっぱり年端も行かない僕達とほとんど変わらない姿形をした小さく幼い女の子だった。
「君も、もういいよね? これ以上殺し合いなんてしたくないよね? だから君がこの国から出て、もう人間に迷惑を掛けないって約束出来るなら帰してあげる。だけど約束出来ないって言うなら……僕達は君を殺さないといけない、どうかな」
 それはもう交渉にすらなっていない文句だった。
 しかしこの子を守るためにはそういう手段しかあるまい。
 元々魔界という、それこそゲームや漫画で聞いたような所に居る存在なのだと少し前に聞いた。
 元居た場所に帰ることが死なずに済む条件ならば、この子にとっても非情な通告とまではいかないだろう。
 それが分かっているのかいないのか、シェルムはもの凄い勢いで何度も頷いた。
「するする! 約束する! おうちに帰るから殺すのは嫌っていうか、もう喧嘩は終わりってことに……しよ?」
 そう言いながら、徐々に視線をセミリアさんの方へと移すシェルムは完全に恐怖でいっぱいになっている。
 僕が良くてもこの人が許さないんじゃないの? そんな目だった。
 その姿はまるで母親に怒られて怯える子供みたいで、今しがたこの場で起こった命の奪い合いを『喧嘩』と表現するあたり、やはり難しいことなど分かっていないのだと思う。
 それこそ、セミリアさんの言う歴史がそうさせているかの様に、魔族だから魔王だから、ただそんな理由でここにいるかのではないかという印象さえ感じられた。
「さっき聞いてたかもしれないけど、私はどっちでもいいんだけど? 帰るなら帰るでいいし、約束も守らなくていいわ。その代わり今度私の目の届くところで何かしようってんならその時は容赦無く首を刎ねる。要するに、死にたくなったらまた来なさいってことね」
 サミュエルさんがこわーい目でシェルムを見下ろしながら余計なことを言い出した。
 これ以上恐怖を植え付けるのはやり過ぎな気もするが、これに懲りてくれれば効果もあるというものか。
「そういうことだ。シェルム、仲間の慈悲で命は助けてやる。約束を忘れるな、次会うことがあれば……その時が貴様が死ぬ時だ。分かったのならすぐに居るべき場所へ帰れ」
 セミリアさんのトドメの言葉も結構な脅し文句である。
 シェルムはもう何度目になるか『ひぃっ』と女の子らしい悲鳴を上げて座ったまま後退っていく。
 今度ばかりはセミリアさんの剣がそれを止めなることはなく、一メートルほど距離を置くとシェルムは立ち上がり、
「じゃ、じゃあ帰る……ね? 後ろから攻撃したりしない、よね? 帰っていいんだよね?」
「さっさと行かぬか!」
「は、はい! で、ではさよなら~」
 再びセミリアさんに剣を向けられ、慌ててシェルムは部屋から逃げて行った。
 魔界というのがどこにあるのか知らないけど、どうやってそこまで帰るのだろう。まさか走ってではないだろうな。敗走するシェルムの後ろ姿を見て、そんなことを思った。
 やがてシェルムの姿が消えると、セミリアさんは剣を鞘に収める。
「これで……終わったのだな。私の、私達の戦いは」
 そう呟いて天井を見上げるセミリアさんの表情は儚げで、達成感や安堵ではなく今日この場に至るまでの長き戦いの日々を振り返り、その戦いが終わりを告げた事実を感慨深く噛み締めているようだった。
 そして、その事実は僕達にとっても意味を同じくする。
 異世界から来た勇者を名乗る少女と共に歩んだ知らない世界での不思議だらけの冒険と旅、そして命懸けの戦いは今、確かに終わりを告げたのだ。
 
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