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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている】
【第六章】 名も無き聖地
しおりを挟む「……ん……んん……」
どこか寝苦しい感覚がゆっくりと意識が呼び起していく。
重い瞼を薄く開いてゆっくりと体を起こすと、すぐに眠りが浅かったせいでいまいち寝た気がしない理由を理解した。
「あぁ……そうか」
ここは異世界のエルシーナという町の民宿? の一番大きな部屋のベッドの上だ。
目が覚めたら自分の部屋、なんて可能性も少なからず頭の中にあったのだが……どうやら夢オチという展開にはならなかったらしい。
「あれ?」
軽く目元を擦り、両側に並ぶベッドを見渡してみると他の皆はまだ寝息を立てている。
しかし、何故か一つ隣のセミリアさんのベッドにはその姿がない。
先に起きていたのか。それにしてもどこに行ったんだろう?
シャワーでも浴びているのかなと更衣室の扉をノックしてみるがこれといって反応は無い。続けて扉を開いてみても中には誰も居なかった。
セミリアさんに限って一人で朝食にいったなんてことはないだろう。
朝の散歩にでも行ったのだろうか。といっても正確な時間が分からないのでその表現が正しいのかどうかは定かではないのだけど。
直接聞いてみればいいか、と腰を上げて立ち上がると僕は極力音を立てないように部屋を出てみる。
セミリアさんならば心配する必要は無いだろうけど、皆が起きるまでの時間潰しぐらいにはなるだろう。
探してみることを決めた僕は階段を降り、受付の方に行ってみるもやはりセミリアさんの姿は無い。
冷静になってみると探すといってもほとんどアテもないので受付に立っているおばさんに聞いてみることにした。
「セミリア? ああ、勇者様かい。それなら上にいるんじゃないかい?」
「上?」
「屋上だよ。うちに泊まった時はいつも朝早くにそこで町を眺めてるからね」
「そうですしたか。どうもありがとうございます」
軽くお礼を言って来た道を戻っていく。
二階建てのこの建物に屋上があるだなんて知るはずもない僕は『そんなのあったっけ?』と記憶を辿りながら階段を昇ってみたものの、やっぱり屋上に続くことなく二階で途切れてしまっている。まあ、ここからいけるのなら誰でも気付くだろうという話なのだけど。
仕方なく廊下を見回りながら進んでいくと一番奥の角を曲がったところに小さな、ほとんど梯子のようなものが上に伸びているのを見つけた。どうやら屋上へはここから行くらしい。
あまり頑丈とは言えなさそうなその梯子に一瞬躊躇いつつ『よしっ』と一人気合いを入れて登ることを決意。
みしみしと音を立てる梯子に不安を覚えながらも、すぐに頭部屋上に到達し外の空気に触れると逆光の向こうに人影が見えた。
どうにか狭い入り口から体を出し、左手で日光を遮ったその視線の先に居たのはやはりセミリアさんだ。
後ろ姿ながら綺麗な銀色の髪に日の光が反射し、より一層神秘的な美しさを増長させている。
木製の柵に腕を置き、周囲に広がる町並みを側を眺めていたセミリアさんは物音に気付き、すぐにこちらを振り向いた。
「コウヘイではないか。どうしてここに?」
「セミリアさんを探してたんですよ」
「私を? 何か急ぎの用か?」
「そういうわけではないんですけど、起きたらセミリアさんの姿が無かったのでなんとなく、ですかね」
「ふむ。よく分からぬが、心配を掛けたならすまなかったな」
「そんな大袈裟な話でもないですよ。ちょっとどこに行ったのかなあって程度で」
「それならいいのだが、よく眠れたか?」
「実はあんまり」
「そうだろうな。私もコウヘイの家ではそうだった、急に環境が変わると苦労するものだ」
セミリアさんは控え目に相好を崩したが、その顔は次第に神妙な面持ちへ変わっていく。
どこか言い辛そうな、それでいて申し訳なさそうな表情にむしろこっちが不安になりそうだ。
「コウヘイ」
「はい?」
「今さらこんなことを言うのは筋違いなのかも知れぬが……本当にこれでよかったのだろうか」
「どういうことですか?」
「一晩よく考えた。本当にコウヘイ達を巻き込んだのは正しいことだったのかと。愚直にも当初はパーティーを組めば道が開けるとばかり思っていたが……それは私のエゴなのではないかと、少しばかりそう考えてしまう自分もいるのだ」
「そんなことはないですよ。誰も無理矢理連れて来られたってわけじゃないですし」
「だが見知らぬ土地で楽しそうにしている皆を見るとな、無関係な人間をこの先危険に晒すのは正しいことなのだろうかとも思うのだ」
「それはどこの世界だって同じですよ。何が起こるかなんて分からないですから、困ってる人を助けようと思うことも、楽しめる時に精一杯楽しもうとすることも、この世界に来なくても変わらないですよ。特に春乃さんや高瀬さんは」
「コウヘイは違うのか?」
「僕はどちらかというと一歩引いて見ているタイプなので」
「まさに参謀向きだな」
「性格だけで役に立つかどうかは分かりませんけどね。でもそれぞれが自分自身でセミリアさんと一緒に行くって決めたんです、心配は要らないですよ」
「コウヘイ……」
「確かに危険な事が待っているかもしれませんけど、僕達にはそれが具体的にどんなものなのかも分からない。だったら分からないことに怯えても仕方ないですし危険だからこそこうして知り合った以上セミリアさん一人残して逃げるわけにもいかないじゃないですか。それが友達とか仲間ってものですから」
「お主も冷静に見えて中々に熱い男だったのだな」
セミリアさんはようやく表情を和らげ、また少しばかりの微笑みを浮かべた。
人を励ますだとか元気づけるのなんて得意じゃないので人の言葉を借りてみたわけだけど、まあ少しでも気が晴れたのならそれでいいか。
「実を言うと春乃さんの受け売りなんですけどね。でもまあ僕も徐々に慣れてきましたし、セミリアさんが僕達を守ってくれるのなら僕はセミリアさんとの約束を守ります。先のことはどうなるか分からないですけど今はそれでいいじゃないですか」
「やはりお主は熱い魂を持っているようだ。コウヘイ、ありがとう。異世界で出会ったのがお主でよかった」
「面と向かって言われると照れますね」
そんな僕にセミリアさんは敢えて何も言わず、フッと笑って背を向けると柵に手を掛け再び町を見下ろした。
自然と僕もその横に並び、同じ景色を共有する。
大きな建物が少ないせいか村がよく見渡せてとても眺めがよく、畑仕事をしている人が何人も見えた。
長閑、という表現がぴったりな風景だ。
「この町は平和なものだろう」
「そうですね。といってもこの世界の一般的な町並みを知らないので比較は難しいんですけど」
「人が傷つけられることに怯えずにいる、それだけでもこの国では珍しいことなのだ。人員が集中する城下町でもない限りはな。ただ、今日向かう予定の集落はそうもいかん」
「また化け物が出るんですか?」
「辛うじて結界の中に位置している集落だ、魔物はいやしない。だが最近その集落の周辺で盗賊による略奪被害が多発していてな」
「盗賊……ですか」
「悲しいものだ、平穏の崩壊と共に人の心までもが荒んでゆく。何故魔物に怯えることのない地で同じ人間に怯えねばならぬのか」
「セミリアさん……」
「その集落というのは百年程の昔、伝説の勇者として今も語り継がれている二代目勇者アネット様が生まれた地なのだが……そのアネット様の持ち物であった貴重な品々までもが持ち出されたらしいのだ。本当に、悲しい時代だ」
セミリアさんはぎゅっと拳に力を入れ苦々しげに顔を歪めた。
類を問わず平和を脅かす悪というものに対する憤りがはっきりと見て取れる。
「あの、その集落に例のなんとかって石があるんですか?」
「魔源石だな。恐らくは間違いないだろう、エルシーナの北ということであるなら他に候補がない」
「ということはその石も盗まれた可能性があるのでは?」
「ないことはないが、可能性は薄いだろうな」
「そうなんですか? あれだけ凄い道具が作れるぐらいのものならとても貴重な物じゃないんですか?」
「勿論貴重な物ではあるさ。だがそれは魔力を操れる者にとっての話であってそれを使えぬものにはただの石ころと変わりはない。魔術師や魔法使いの数が減るばかりの今の世の中では尚更にな」
「つまり希少価値はどこまでない、と」
「自らマジックアイテムを作ってしまうノスルクの様な者がいれば話は別だろうがな。その盗賊めが見境無しに奪い去っていったというのならその限りではないが……」
「そのあたりも含めて、行ってみないとわからないということですね」
「そうなってしまうだろう。私が出会したならば直々に成敗してくれるのだが、魔王の件でそれどころではなくてな。ゆえに私も久々の訪問になるし、実は少し楽しみにしているのだ」
「そうなんですか。じゃあそろそろ準備しましょうか」
「ああ、みんなを起こして朝食にしよう」
そう言ってセミリアさんはその場を離れ梯子方へと歩いていく。
すぐに僕もその後に続き、思いがけず訪れた人知れない朝のひと時を終えた僕達は元いた部屋へと戻るのだった。
○
部屋に戻り、三人を起こすと起こすと春乃さんの朝のシャワーを待って五人で朝食を済ませた。
件の集落への出発である。
どうやら春乃さんは朝が弱いタイプらしく昨日のようなテンションは全くみられない。
「よし、出発だ。俺に付いてこい仲間達!」
逆に昨日となんら変わらない、むしろ増しているぐらいのハイテンションの高瀬さんはすでにやる気満々だ。
頭に巻いているバンダナの色が昨日と違っているのがなんともいえない感情を生む。
「何であんたが仕切ってんのよ」
空元気でも一応ツッコミは忘れない春乃さんは言うだけ言ってセミリアさんに向き直り、
「ねえ、今から行くところってどんぐらいかかんの?」
「今から向かうのはこの町の北方にある集落だ。歩くと少し掛かるが昨日得た金でエレマージリングを調達しておいた。行くだけなら一瞬で済むぞハルノ」
「まじで? よかった~」
またあの瞬間移動みたいな方法で行くのか~。
と複雑な心境でいると、安堵の表情を浮かべる春乃さんの横でみのりがきょとんとしていた。
「あの、具体的にその集落に何をしにいくんですか?」
「魔源石の情報を集めそれを手に入れるのだ。おそらくはその集落に保管されているのだろうが、まずは情報収集からだな」
「そうと決まれば早いとこ出発しようぜ」
「うむ、みんなも準備はいいか?」
「あたしが足引っ張るわけにはいかないからね。任しといて」
「わたしも大丈夫です」
「みのりに同じく」
「よし、ではまた手を取り合って輪になってくれ」
セミリアさんの指示に従い、この世界に来たときと同じようにそれぞれが手を取り合い円を形成していく。
それを確認するとすぐにセミリアさんが合図である呪文を唱え、またあの時の様に視界が歪曲していった。
二度目だからといって慣れるはずもないこの感覚の続く間、僕は『着いたぞ』という言葉が聞こえるまでは目を閉じてやり過ごしたのは内緒だ。
目を開くと周囲にはまさに集落と呼ぶにふさわしい光景が広がっている。
ついさっきまでいた町よりも田舎色が濃く、広い畑と畑の間にほとんど藁で出来たような民家が大きく感覚をあけて散らばるように位置している、といった感じで店や馬車などの姿は全くない。
「うわー、なんかさっきより更に田舎っぽくになったわね~。ここはなんていう場所なの?」
春乃さんのみならず皆が物珍しそうに辺りを見回している。
こういった時代や歴史を感じさせる風景は僕にとっても物珍しく、興味深いものだ。
「この集落に決まった名は無い。勇者の生まれた地、などとは呼ばれているがな」
「勇者の生まれた地?」
「そうだ。かつて世界を救った伝説の人物である二代目勇者アネット様が生まれ、そして眠る土地とされているのだ」
「すごい場所なんですねぇ~」
「百年も前の話だ、今は昔ほど敬う人間もいないがな。さて、悪いが少しばかり時間を頂きたい。しばし待っていてくれ」
そう言ってセミリアさんは畑の奥の方に立っている木で出来た十字の前に一人寄っていくと、その前で膝を折り目を閉じて両手を合わせた。
その形や行動を鑑みるに誰かのお墓なのだろう。
十数秒の合掌を終えこちらに戻ってくるセミリアさんにその疑問を投げ掛けたのは春乃さんだ。
「待たせたな」
「それはいいけど、あれってお墓よね? セミリアの知ってる人の?」
「直接知っているわけではない。今話したアネット様の物ものだ。もっとも、その御身はここに眠っているわけではないのだがな。せめて魂の帰る場所にと作られたものだ」
「へ~、せっかくだしあたしもお祈りしとこうかな。御利益があるかもしれないし、いい? セミリア」
「ああ、構わない。是非そうしてくれると私も嬉しい」
「よし、じゃあ俺も勇者の血を引くものとし手でも合わせておくとしよう」
「引いてないでしょ、あんた何様のつもりよ」
「俺様のつもりだ」
「……聞いたあたしが馬鹿だったわ」
「そうだろ」
「死ね!」
二人は悪態の応酬をしながらもお墓の方へと歩いていく。
その背を見てか、横からみのりが腕を突いた。
「せっかくだからわたしたちも行こうよ、康ちゃん」
「そうだね」
さも名案であるかのようなテンションだけど、何がせっかくなのかはよくわからないよ?
なんて思いながらもみのりと並んで春乃さん達に追いつき、近づいてみると経年による風化や劣化がハッキリと見て取れるその十字架に手を合わせた。
特に勇者に思い入れもない僕はただ『皆で無事に帰れますように』と、それだけを切に祈る。
「よし、では行くとしよう」
僕達四人のお祈りが終わると例によってセミリアさんが先頭を切って歩いていく。
よく考えてみると集落にこそ到着しているものの、そこからどこで何をするのかは把握していないな。
「ちなみにどこに向かうんですか?」
「一番奥に他の物よりも大きな家が見えるだろう、あそこに首長が住んでいる。首長は私達にとても協力的でな、いつも情報を提供してくれるんだ」
指差す先には確かに他の民家より大きくて目立つ家がある。
派手といっても造りそのものではなく何かのツノみたいな物がぶら下がっていたり、家の回りに石像や槍が立っていたりするって感じの派手さだ。
とはいえあんまり突っ込んでも失礼な気もするので僕は黙って着いていくことに。
といっても僕が黙っていたところで春乃さんが思うがままに質問するから特に意味もないんだけど。
「首長、おられるか?」
首長が住むという家の前に着くと扉も無い簾の入り口からセミリアさんが中に呼び掛けた。
黙って見守ることを知らない二人がなぜか真似を始める。
「おーい、社長~」
「課長~」
「ちょっと、二人して失礼ですよ」
「何で? 偉い人なんでしょ?」
「そうですけど偉い役職で呼べばいいってものじゃないですから。第一高瀬さんの課長は完全に馬鹿にしてるじゃないですか」
「邪推はよせ康平たん。見たこともない社長よりも身近な課長クラスの上司の方が頼りになるってテレビで言ってたぞ」
「……なんの話ですか」
そんなやりとりのせいで声を掛けられるまで中から人が出てきたことに気付かないという、僕を含めてとても失礼な一団だった。
相手が相手ならほんと怒られるよそのうち。
「おや、勇者様ではないですか。久方ぶりですな、ばばあの顔でも見に来てくれましたかな? ほっほっほ」
中から出てきたのはインディアンみたいな格好をしている腰の曲がった老婆だった。
人が良いことが見ただけでわかるような柔らかな物腰をしている。
幸いにもさっきのやり取りを聞かれて怒られる、という心配はなさそうだ。
「久しぶりだな、首長。元気にしていたか?」
「上々でございます。勇者様も今日まで無事で何より。ところでこちらの方々は?」
「旅を共にしている仲間達だ」
紹介されて僕とみのりは『どうも』『初めまして』と慌てて頭を下げる。
ちなみに春乃さんは『よろしくねばあちゃん』と、高瀬さんは『俺が世界を背負う男だ』と本人を前にしてなお失礼な態度を続けたが、首長さんは『こちらこそ』と温厚な笑みで同じく頭を下げてくれた。
「あっしはここの長ということになっております。もっとも世間様から見れば特に意味を持たぬ肩書きでしかないですがね」
「そんなことはないさ首長。確かに時代や世代は変わりつつあるが、今とて聖地の守り人としてここに住まう者は尊敬を集めているぞ」
「そう言って下さるのは勇者様ぐらいのもんじゃて。して、お仲間様までお連れになって何か御用があったのではないですかな?」
「うむ、実は魔源石のありかを聞くために来たのだ」
「魔源石ですか、それなら確かにここに保管されておりました」
「やはりそうであったか。どうかそれを譲っていただきたいのだ」
「勿論勇者様が必要とあらば差し出すことになんら惜しみはないのですが……ここに保管されていたのはつい先日までの話でしてな」
「どういうことだ?」
「少し前にこの集落は盗賊団の襲撃を受けまして……アネット様の持ち物を含めて保管庫の物は大半が持ち去られてしまったのです」
表情を暗くする首長には無念さがありありと浮かんでいる。
対照的にセミリアさんの顔は憤りに満ちていった。
「そうだったのか。盗賊の話は聞き及んでいたが、まさかアネット様の持ち物や魔源石までも……私がいれば成敗してやったものを。首長、その盗賊団はどこにいるのか分かっているのだろうか」
「それが、その盗賊団は既にセリムス様が壊滅してくださっておりますのじゃ。襲撃のあった次の日のことです」
「なんとあのサミュエルが。しかし、ならばどうして魔源石はここにないのだ?」
「盗賊達のアジトはここから南方にある洞窟なのですが……もう盗賊はいない。であればそこに保管していた方がこんな衛兵の一人もおらぬ場所に保管されているよりはいくらか安全でしょう。我々の身などどうでもよろしいですが、貴重なアネット様の魂をまた下賤な賊に持ち去られようものならアネット様に合わせる顔がありませんですよって」
「ふむ……それは理解したが、困ったな」
「盗賊のアジトはここからそう遠くはありませぬ。勇者様が必要とされておられるのであればそこから持ち出していただいて構いませんですよ。我々の紡ぎ、護るものはその意志です。今を生きる勇者様の助けになるならば何を惜しむことがありましょう。今この場で差し出せない我々の不義理をお許し頂けるのならば必要な物は必要なだけ持って行ってくだされ」
「何を言うか首長。いつも助けて貰っているではないか、感謝こそすれ責める理由など何もない。我らが必要としているのだ、我らが取りに行くのが当然の筋だろう。世界の為に、この地に住む者達とアネット様のお力を借りることにさせてもらおう」
「ありがたきお言葉にございます。勇者様、世界を救えるその日までどうか無事でありますように。我々も影ながら祈っております」
首長さんは両手を合わせ、元から曲がっている腰をさらに折って今一度深く頭を下げた。
畑にいた人達も含め、セミリアさんがとても尊敬されているのが分かる。
「任せておいてくれ、近い将来必ずやその日をもたらすことを誓う。では皆、すぐに洞窟に向かうとしよう」
「お~!」
「しゃあー!」
「お、お~」
「無理に合わせなくていいんだよ、みのり」
元気な呼応の残響を耳に、首長さんに見送られ僕達は集落を後にした。
盗賊の根城であったらしい洞窟とやらに、魔源石とやらを回収するために。
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