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【プロローグ】 追放
しおりを挟む「結論は出たロイス・ウィルクライム。国家に重大な危機をもたらした咎により今日この場を持って貴様を勇者一行から除名し、国外追放処分とする!!」
アグネリア大陸中央部。
エヴァーローゼ王国の中心地に聳えるオックスウッド城三階、玉座の間に大きな声が響き渡った。
国王ガーディン・カートライトは激高するあまり玉座から立ち上がり、目の前に跪く男を指差し興奮で息が乱れている。
王の両脇には宰相と近衛騎士団長が控えており、眼前には近衛騎士や執政において各部門で最高の地位を与えらえた大臣達、そして神官や勇者パーティーの一行までもがずらりと整列しているがその宣言、或いは決定に異を唱える者はいない。
そんな空気、雰囲気も相俟って今まさに国外追放を告げられた青年ロイス・ウィルクライムはただ絶望の淵にいた。
強制的に両膝を突かされ、手首を腰の後ろで縛られているため立ち上がることも許されず、それでいて今日この日まで生死を共にした仲間達が自身を庇ってくれないという事実に、もはや暴れる気力さえ失われ失望以外の感情を抱くことが困難であるためだ。
十八歳でこの国の最大戦力の一つであり最上級の名誉職である勇者パーティーに加わったロイスは五年間身を粉にして働いて来た自負がある。
それでいてこの有様に至るのはロイスが盗賊という職業であるがゆえだと言えた。
偵察や潜入、情報収集などその役割は多岐に渡るが性質上どうにも第三者の視点では貢献度が図り辛く、栄光なる勇者キャスト・ナイトブレイドや国内一の魔法使いダイア・メイラーの名や功績が目立つということも理由の一つであったが、そうでなくとも『盗賊』という文字が抱かせる印象の悪さも大いに原因を担っている。
しかし、そういった背景を知る由もなければ考察する余裕もないロイスにとってはただただ残酷でみじめな末路だと思う以外に思考の行き着く先はない。
王に、国に、仲間に見捨てられ、切り捨てられたのだと。
ありのまま今この場で起こった全てを理解しようと思うのならば、把握出来たのはそれだけだった。
これはアグネリア大陸より海を挟んで北上した先に存在する一回り小さな大陸である魔族領への遠征から帰った翌日の出来事だ。
国王の命を受け一行は魔王軍に拉致された王女アルテミス・カートランドの奪還を目的に国を出て八日を掛けて旅をした。
だが、魔族領に潜入したものの数多の軍勢による厳重な防備と強固な結界や罠により魔王城への潜入を半ばで断念するに至る。
それでいてパーティーを率いる勇者キャスト・ナイトブレイドの指示によってロイスは単独で城へと潜り込むこととなった。
盗賊として高レベルに達しているロイスは保持しているスキルによって結界を抜けられる能力を持っているためだ。
主命を受けた手前、何の成果もなく帰るわけにはいかないと、何でもいいから成果を持ち帰れと指示され半ば潜入を強いられた形である。
高レベルかつ上位スキルを保持しているとはいえ所詮は盗賊であるロイスには単身上級魔族と戦うだけの戦闘力はない。
それでも息を潜め、気配を殺し、結界や罠をすり抜けながら場内を探索することしばらく。依然王女の居場所は不明、それでいて偶然立ち入ったとある部屋にて思いがけず魔王の娘と遭遇すると限界を察し撤退を考えていたこともあってその魔族を拉致することを決断する。
王女の救出は叶わずとも人質交換等、何らかの交渉材料になると踏んだからだ。
だが結果としてその成果が称えられることはなく、この時のロイスに反対に魔王軍の報復を恐れた国王に全ての罪を被らされ、罪人の如き扱いを受けるなど予想出来るはずもなかった。
唯一の救いは『処刑』を提言する側近が複数いたものの魔族の娘をどう処分するのかという問題に難儀し、幽閉しようともロイスと共に処刑しようとも先端が開かれること必至という状況がぎりぎり思いとどまらせていた。
その結果として生かしておくにせよこの国に置いていては自ら火種を抱えるも同じという結論の下、揃って追い出し無関係を装うことを決めたのだった。
ロイスにしてみれば言うまでもなく納得出来る処分などではなかったが、異を唱えようにも誰一人として味方はいない。
それどころか成果の獲得を指示したキャスト・ナイトブレイドすらもが神妙な表情を浮かべるだけで口を閉ざしている。
他の仲間達に目を向けてみるも一様に目を逸らすか顔を伏せるばかりでやはり口を開くものは皆無だった。
無論、この空間で王の許可なく発言することの愚かさは理解しているつもりだ。
だけどそれでも、冒険者となってから七年、勇者パーティーに加わってからでいえば五年、己の人生全てを捧げて突き進んだこの道がこんなところで終わりを迎えるのかとロイスは嘆かずにはいられなかった。
「議会は終わりだ。あの忌々しい魔族を連れてサッサと出て行くがよい!!」
背後で槍を持ち両肩を抑えていた兵士に力尽くで立たされると、ロイスは引き摺られるように外へと連れ出される。
半ば放心状態の彼に、改めて仲間達を一瞥する勇気はなかった。
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