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王妃様

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数日後、午後の授業が都合で休講になったので、家で師匠に稽古をつけてもらおうか医療のレポートを書こうかと考えながら正門まで来ると質素な馬車が1台止まっていた。
誰か学生のお迎えなのか?普通、通用門側なのに知らないのかなぁと思いながら横を通り過ぎようとしたら、扉が開いて馬車に乗せられてしまった。
「えっ⁈」
「私よ。ミリアリア。」
目の前に座っているのは、商家のおかみさんくらいな服装のレイモンドのお母様でこの国の王妃様エルフェリア様だった。
「お、王妃様、今日は何ですか。」
「午後、授業がないみたいだから、一緒にお出かけしようと思ったの。」
「はぁ…」
私にとって王妃様はお母様の従姉妹でレイモンドの事がなければ、仲の良いおばさまという感じなのだが、将来息子の嫁になると考えられている今は微妙でついつい距離を置いている。
馬車は、王宮ではなく商店が並ぶ市街地へ向かっているようだ。 
「まずは、ランチね。時告鳥亭っていう食堂がおいしいから、そこでいい?」
「はい。」
「王宮の食事もおいしいけれど、たまに気を遣わずに食べれる定食とか食べたくなるのよ。陛下は付き合ってくれるけれど、警備の事とか大ごとになっちゃうし、息子達は付き合ってくれないから、1人で行くのも…と思っていたら今日は午後ミリアリアが空いているって聞いてね。」
「レイですか?」
同じ授業を取っているから終わる時間も知っているレイモンドかと思って聞くと
「あの子が教えてくれるわけないじゃない。」
そうよね。私が王妃様とお出かけして仲良くなられても婚約解消しにくくなるだけだし。
でも、そうすると誰?
今日の帰宅時間は、リリーにも未定と言って登校している。
「情報源はナイショ。レイには一緒に出かけることも言ってないわよ。バレたらうるさいだろうけど。それより何食べる?おすすめはホーリーウッドの名物、グラン鳥のパイかな。」
「王妃様と同じで。」
「お出かけ中は、王妃様はやめてね。お忍びだし。母さんが嬉しいけど、エリーさんでもいいわよ。それとせっかくだから、このワンピースに着替えてね。」
王妃様のお願いに庶民風ワンピースに馬車の中で着替える。
「ミリアリアがジャルフ伯爵家の次期当主として男装で通しているのは、わかっているわ。でもこのお出かけの間は、ただの女の子でいていいからね。」
馬車を裏路地で降り、歩いて時告鳥亭に向かう。大通りから少し入った静かな通りにこじんまりとしたその店はあった。家庭的な店にはたくさんの客がおり、王妃様はカウンターに座ったので慌てて横に座る。
出された料理も貴族が食べるような感じではなく豪快にワンプレートにメインもサラダもデザートもある。
「どう?おいしい?」
王妃様に聞かれるまでもなく、おいしい。こんな料理もあるんだあとうれしくなった。
店を出て大通りに向かって歩き出す。
「連れてきてくださってありがとうございます。」
「時告鳥亭の料理の材料が王都に届くのもジャルフの力よ。物流が円滑に行われ、安価で仕入れられるということは、大切ね。」
ジャルフ伯爵家が情報や警備をする能力と物流をおさえている。それは…
「ミリアリアの考えている通りよ。王家がジャルフを手放すわけがない。それがあなたとレイモンドの婚約なの。レイモンドに拒否権はない。ただ、あなたにはレイモンドを選ばないことも出来るわよ。あの子王宮じゃ真面目ないい子なのにジャルフ伯爵家で随分わがまま言っているみたいね。愛想つかされたらどうするのかなぁと思うけれど、それも王子として色々考えられない未熟さだから仕方ないしね。」
「王妃様はそれでいいのですか?」
「エリーさんよ。」
話の内容的に王妃様でいいとは思うけど。
「エリーさんは、私がレイを選ばなくてもいいのですか?」
「母親として、ミリアリアのおばさんとしては、2人が結婚してくれれば嬉しいわよ。でもあなたを犠牲にしてまで縁組しなくても私も陛下もジャルフの血縁だし。レイモンドは、あなたが相手なら2つの国の王位継承権あるけど、他の貴族に婿入りしたら継承権を無くすことになるわ。他の貴族の息がかかった男子を王位につける気はないから。それがわかっていない貴族が令嬢をけしかけたみたいね。」
「おう…エリーさんは、ご存知だったんですか。」
「陛下や伯爵にバレないようにミリアリアの部屋で湯あみしたんですってね。婚約者とはいえレディの部屋で何をしているんだか。
陛下たちにはバレてないから大丈夫よ。影たちもそこはわかってくれているみたいだから。これが他の令嬢と何かあったというなら、ただじゃ済まないだろうけれど。」

王妃様の情報網はすごいらしい。
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