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 タウンハウスに戻るとディランが出迎えてくれた。

「お嬢様、今日はいかがでしたか。」
「王太子殿下とは、ゆっくりお話出来て良かったわ。陛下とお父様の話がつけば、候補ではなく婚約者にしたいと言われたわ。」
「…良かったですね。」

 今日もディランは、元気がない。
部屋に入って、ディランが挿れたお茶を飲みながら、話すことにした。

「ディランは、王都があまり好きではないの。こっちに来てから、あまり元気がないけれど。それとも体調が悪いの?」
「お嬢様に心配をおかけするようでは執事失格ですね。戻ったら、担当替えしてもらいます。」
「ダメ。ディランがいないと私…」
「お嬢様、以前にも言いましたが、春からの学園生活は、寮生活だから侍女1人しか連れて行けません。それに嫁ぎ先に私はいません。」
「それは、わかっているわ。私が嫁げばディランが辺境伯になれるんだから…」
「お嬢様?」
「だって、私がいたらディランはずっと執事のままじゃない。ちゃんとディラン離れしなきゃいけないのは、わかっているわ。でも嫌なの。嫁ぐまでは、そばにいて欲しいのよ。だってディランが一番好きだから。」

 もう頭の中がぐちゃぐちゃで自分が全部、ディラン本人に話している事に気づいたのは、呆然としているディランの顔を見た時だった。

「ディラン?えっ⁈私、何言った?」
「シャーリー、いま…」

 学園を卒業するまで呼んでくれていた呼び方で久しぶりに呼んでくれた。
自分が何を言ったのか反芻し、ディランが名前で呼んでくれた事で、顔が真っ赤になる。

「そ、そうよ。私はディランの事、ずっと好きだったわよ。でも執事になっちゃって、私が結婚して辺境伯領継いだら、執事として一生支えるとか言ってたから、私の事、妹か雇主の娘としか思ってないんでしょ?私が嫁いだら、お父様と養子縁組して辺境伯になってもらおうと思ったのよ。何が悪い?」

 もう開き直った。言いたい事、全部言ってやった。

 しばらく呆然としていたディランが、ソファーの横の床に跪いた。

「ディラン?」
「俺は…望んでもいいのか?何もないのに。」
「ディランは有能で、お父様が後継に望む人じゃない。私もお父様もディランの事、大好きよ。」
「俺は、親に見捨てられた存在だ。たまたま子どもがいなかった旦那様が引き取って育てていただけただけで…それだけでも充分だと高望みするなと自分に言い聞かせて来たのに…シャーリーを欲しいと望んでもいいのか?」
「ディラン、それって…」
「俺はシャーリーが支えだったんだ。無邪気にお兄様ってくっついて来るお前がかわいくて仕方なくて。8つも下の女の子を妹として見ていないと気づいたのは、学園に入学してからだったよ。だからエバンス辺境伯の後を継ぐに相応しくなろうと勉強も人脈作りもがんばった。官吏になる誘いもあったけれど、帰るつもりだからと断った。だけど、俺が誰の子でなぜ引き取られたのかを知って、シャーリーを支えて立派なお嬢様にして愛する男性に送り出すことしか選べないと執事になる事を選んだんだ。お前の幸せを見届けたら、領内の商家にでも婿入りして平民として生きるつもりだった。」

 ディランが話す言葉を噛みしめ、私の事を大切に思ってくれていた事を知り、思わず目の前にあるディランの頭を抱きしめていた。

「どこにも行かないで。ずっと側にいて欲しいのよ。」
「領に帰ったら、旦那様に話す。俺がシャーリーを欲しいと。その上でちゃんと俺の話をしたい。いいか。」
「うん。」
「そこは、『うん』じゃなくて『はい』。」
「はい…」

 こんな時でもディランはいつものディランだった。
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