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 私たちの結婚披露宴は、朝から雪の降る寒い日になってしまった。

 披露宴前に家族だけで行ったチャペルでの結婚式では、大輔さんと約束通り一緒に歩き、理は大輔さんから私を受け取る時、頭を下げて

「あずを幸せにします。今まで本当にありがとうございました。」

と言ってくれたので、嬉しくって泣いてしまった。

 私の後ろからとことこ付いてくる理奈と拓哉くんが、可愛くて小さなカップルみたいと写真を撮りまくるお義兄さんに、やっぱり理と兄弟だと思った事は、理には内緒だ。

 
 披露宴は、夕方5時から行われた。
 クラウンのみんなには、びっくりされたが、祝ってもらえて嬉しかった。

「まさか課長の相手が小林さんとは…」

「しかもあんなに大きなお子さんがいるなんて…」

と言われた。

 理奈は、理にそっくりで理のベタ甘ぶりに親子だと周りが納得してくれたのは良かったが、会社での理しか知らない出席者は皆さん、仕事の鬼の変貌ぶりにみんな言葉がないようだった。

 別の意味で驚いていたのは、高瀬さんと築地さん。
まさか総務部長の結婚披露宴に招待された理由が、私だとは思っていなかったようで、会場で私を見て固まっていたので、明日以降仕事に行って、どう接してくれるか、少し心配だったりする。

 かず先輩と理が準備を頑張ってくれた披露宴は、盛り上がり楽しく終わりを迎えた。

「本日は、私たちのために雪の降る足元が悪い中、結婚披露宴にご出席いただきありがとうございます。

 皆さまを驚かせてしまいましたが、理奈、娘は私とあずみの娘です。
 私とあずみはちゃんと話をせずに相手の事を考えていたら、伝わるだろうと思っていたため別々に暮らすという時間を無駄に作ってしまいました。

 その間、あずみには理奈をひとりで育てる選択をさせてしまいました。
 
 私は、この会場にいらっしゃいます皆さまに、話し合い向き合って、あずみと生きていくことを誓います。

 本日は本当にありがとうございました。」

 2人でお辞儀をすると拍手が起こって、また涙が溢れた。

「ふぅ…」

 披露宴の後、かず先輩が用意してくれた最上階のスイートで、ドレスから少し楽なワンピースに着替えて、ひと息つく。

「あず、疲れた?」

 シャワーを浴び、オフモード、メガネだけ銀縁の理がミネラルウォーターを手渡してくれる。

「ちょっとだけ。テンション上がっているから、疲れよりボーっとしちゃう感じかな?
理奈は?」

「理奈は、大輔さんとお義母さんが、連れて行った。
最近、拓哉と遊んでばかりで鎌倉に連れて行かなかったから、3人で出かけたよ。」

「理、今日はありがとう。
ううん。再会してから今日まで、本当にありがとう。」

「あず?」

「でもね。私たち夫婦なんだから、理に幸せにしてもらうんじやなくて、2人で幸せになりたいの。
だから、1人で無理しないで。
仕事は手伝えないけど、他は理も言ってたけど、何でも話し合って向き合っていきたい。
だから、2人に関する事は結婚式の準備の時みたいに、1人で無理しないでちゃんと相談して。」

「そうだな。これからは、あずに相談しないとな。
差し当たり、理奈に兄弟を作りたいんだけど、奥様は何人までならいい?」

 真顔でそう言ってキスをしてくる理に慌てるとニヤリと笑った。

「何人でもいいわよ。育てられる人数なら。」

「じゃあ、サッカーチーム目指すか?」

「私は、理とゆっくり過ごせなくなるわよ。」

「それは嫌だな。人数は運に任せるとして、理奈がいない事だしスイートを堪能するか。」

 ひょいと抱き上げられて、ベッドに優しく置かれた。

「あず、愛してる。」

「私も理の事、大好きよ。
理が仕事の鬼じゃない顔を知られちゃったから、これからモテそうで心配なくらい。」

「俺は、浮気しないから大丈夫。」

「どうして?」

「だって、あずにしか勃たないから。別れたあの日からあず以外の女を見ても勃つことは、一回もなかった。
 あずを4月に見た時、仕事中なのに久しぶりに勃っちゃって、地味な格好した子に何でだろうって、1日よく見ていて苗字が違うけど、あずだって分かった。」

「どれだけ私センサーの性能がいいのよ。」

 呆れて笑ってしまう。

「接待とかで女の子のいる店とか行っても、言い寄って来た上げ膳状態でも勃たないこいつが、仕事で案内してくれるパートの女の子の後ろを歩くだけで元気になるって、もはや限定品レベルだろ?」

「はいはい、すごいですね。」

「棒読みで言うな。
とにかく俺はあずがいなきゃ、結婚しないというか、出来ない身体だったって事だから、他に目が行くことはない。安心した?」

「うん…」

「それじゃ、あずを堪能させて。」

外が明るくなるまで、優しく濃密な時間が過ぎていった。



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