上 下
46 / 46

44 最終話

しおりを挟む
【アルヴィン視点】

王宮、国王陛下の執務室には、妙に落ち着かない側近(私)とそれに少し苛つく王の姿があり、他の事務官たちは、びくついていた。

「おい、筆頭事務官、何したか知っているか?」
「知らないよ。朝からずっとあんな感じで…」

事務官達がコソコソ話していると王が立ち上がって私のところに来る。

「アルヴィン、気になるなら帰れ。」
「しかし、今日の業務は…」
「気もそぞろなアルヴィンにいられても、鬱陶しい。命令だ。1週間でも1ヶ月でも休みをやるから、気が済むまで仕事に来なくていい。」

周りの事務官達は、ビクついていた。
おそらく私がクビか謹慎させられるような王の気を損なうことをしたのだと思っているのだろう。同情的な視線と私がいなくなる事で王のペースに直接晒されてることの不安な視線が交差していた。

が、私は許可が下りたので、さっさと机の上を片付け始めた。
こんなに早く帰れて、しばらく仕事休めるなんて思っていなかった。

「それではお先に失礼します。」

丁寧に挨拶して、執務室の扉を閉めると私は一目散に自宅へ向かった。

馬車がギルフォード公爵邸に辿り着くとエイミーが出迎えてくれた。

「お兄様、おかえりなさい。早かったわね。」
「陛下が帰してくれた。しばらく休んでいいそうだ。」
「アーノルドは、私がこっちに来ているから知っているものね。」
「それでティアは?」
「さっきから侍医が付いているわ。多分もう少しかかるけど。」
「私もティアに…」
「お兄様、お産に立ち会うのは無理だから、隣の部屋で大人しく部屋で待っていて。」

寝室の横、自分の居間で座っていてもティアが気になり、何も手につかない。ティアは大丈夫だろうか…

そういえばまだ名前を考えていなかったな。
男だろうか、女だろうか。
男ならデーヴッドがいいな。
女ならグレースかシャーロット…

そんな事を考えていた時、隣から赤ん坊の泣き声が聞こえた。

「うまれ…た。」

寝室の入り口に近寄って入ろうとすると中にいた侍女に止められる。

「旦那様、まだ入れません。もう少しかかります。」

私は頭に?が浮かぶ。
いま生まれたよな。
まだって、どういう事だ?

しばらくするとエイミーが、子どもを抱いて来てくれた。

「お兄様、おめでとうございます。男の子よ。抱いてあげて。」

エイミーから恐々受け取る。
タオルに包まれた赤ん坊は、まだとても小さくて嬉しいと思うと同時に守ってあげなくてはと思う。
そしてこんなステキな贈り物をくれた妻に感謝と労いの言葉を贈りたかった。

「ティアは?」
「んー。まだかな。」
「何か問題があったのか?」
「あと数時間はかかると思う。お兄様、クリスティアのお腹大きいと思わなかった?」
「たしかに普通の妊婦より大変そうだったが。」
「どうも双子みたいでね。」
「は?」
「まだお産、終わってないの。」

とりあえず赤ん坊を侍女に渡し、また部屋で待機に戻った。

外が暗くなって来た頃、寝室がまた騒がしくなってきた。
いよいよか?と立ち上がった時、また赤ん坊の泣き声が聞こえた来た。
ホッとして寝室の扉を見つめているとエイミーがまた赤ん坊を連れて来てくれた。

「お兄様、おめでとうございます。今度は女の子よ。」

渡された娘は、息子より少し小さめだったが確かな重みにじーんとしてくる。

「クリスティアに会えるわよ。」
「わかった。」

娘を抱いたまま寝室に入ると愛しいクリスティアが大仕事をやり終えて横になっていた。
右側に娘を置き、反対側に侍女が連れてきた息子を置いてクリスティアの手を握る。

「ありがとう、ティア。大変だっただろう。まさか2人もいっぺんに…」
「アル様。この子達の名前、考えていただけますか。」
「決めてある。デーヴッドとグレースだ。まさか一度に使うとは思っていなかったが。」
「そうですか。よろしくね。デーヴッド、グレース。」

それから数日後
王の執務室には、復帰したが、ため息ばかりで使い物にならない筆頭事務官(私)と不機嫌な王がいた。

「だから、しばらく来なくていいと言っただろうが。」
「周りの事務官がついていけないペースで仕事するあなたが悪いんです。おかげで早々に復帰して欲しいと各所から依頼されたんですから。せっかくティアと子ども達との楽しい時間を満喫していたのに。」

そう返すと陛下は、心当たりがあるらしく、「うっ」と詰まったような顔をしていた。

「わかった。私も気をつけるから落ち着いて仕事に集中できるまで来なくていい。」
「それではお先に失礼します。」

私は机を片付けるとサッサと扉に向かう。

「筆頭事務官って、切れ者だと思っていたけど、あんな顔もするんですね。」
「アルヴィンは、10年前から10歳下の妻にベタ惚れなんだよ。」

陛下がそう言うと事務官たちはびっくりしたようだ。
確かにこの部屋に貴族はほぼいないから知らなかったらしい。

「筆頭事務官の10歳下って、しかも10年前って8歳じゃないですか⁈」
「それってロリコン?」
「その前は妹溺愛だったし。」
「陛下、余計なことを言うな。」
「えー⁈ロリコンのシスコン?」
「私はロリコンでもシスコンでもない!」

仕事復帰後は、生暖かい目に晒されそうな予感はするが、とにかく愛する妻と子が待つ邸に帰ろうと足早に王宮をあとにするのだった。



                                      The end

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ゆかりん(=^ェ^=)

面白かったです(*´∀`)♪

酒田愛子(元・坂田藍子)
2020.05.20 酒田愛子(元・坂田藍子)

ありがとうございます😊

解除

あなたにおすすめの小説

悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十
ファンタジー
<ここ>ではないどこかで世界にその名を轟かせた、セヴェルハムト帝国は、元は歴史こそ古くかつて存在した大帝国にその起源を持つ国ではあるものの内政も外交も三流以下でありながらプライドだけは天にも届くと言われ<西方諸国のお荷物>とさえ揶揄されるそんな歴史に縋ることしかできない落ちぶれた弱小国だった。それが、ある女性の登場によって文字通り生まれ変わり、起源となった大帝国に比肩するほどの隆盛を見せた。 しかしそれは、当時の王を篭絡し実権を握ったその女性による、苛烈とも評される果断な改革によってもたらされたものであり、それによって多くの人間が虐げられる結果となったのも事実だった。 やがてその女性は夫である王さえ追放し、女帝として徹底した独裁を行うにいたった。 それから十年。虐げられた人々の我慢は限界に達し、自分達を苦しめる悪しき女帝を打ち倒すべく蜂起、激しい内戦の果て、遂に女帝<ミカ=ティオニフレウ=ヴァレーリア>を捕らえることに成功した。 この物語は、<歴史上最も忌むべき悪女>とまで称された彼女が、ギロチンによる処刑のために広場へと引き立てられるところからは始まる…… 筆者より カクヨムとなろうでも同時連載します。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢のスクラップ&ビルド! 〜隠しルートの【女王エンド】目指して逆ハーレムとチート魔術で愛と平和の国を作ります〜

虎戸リア
恋愛
「……ああ、また貴族共のせいで死亡フラグと破滅フラグが立ったぁ……ええいめんどくさい、そもそもの原因であるこの腐った国を一度ぶっ壊す!」  息をするだけで死亡フラグが立ち、歩くだけで破滅フラグが肩を組んでやってくる不遇系悪役令嬢、ルーチェ・クロイツ。  彼女が禁術書の呪いで前世の記憶を取りもどしたのは10歳の時。彼女の前世は日本人のアラサー女子だった。  そして自分が10人のヒロインから選べる自由さがウリのVR乙女ゲーに出てくる、破滅エンドしかないと言われている悪役令嬢、ルーチェ・クロイツその人である事に気付いた。 「絶望しかないけどそういえば一つだけハッピーエンドあったっけ、なんだいけるじゃん」  彼女は持ち前のポジティブさ、前世の知識、そしてチート魔術を武器に唯一のハッピーエンドである隠しルート【女王エンド】を目指す事を決意する。  こうして死亡フラグと破滅フラグを折り続ける為にハチャメチャに生きる彼女に惹かれて次々と魅力的な人物が彼女の下に集まってきた。  エルフショタ、剣の達人、大陸一の商人、他国の皇子……そしてドラゴン。  これは逆境をバネに、フラグも国も人もまとめてスクラップして、理想の国をビルドするルーチェの愛と平和の成り上がり恋愛譚である! ・毎日更新! ・恋愛要素あり ・逆ハーレム要素あり ・冒険、チート、無双要素あり ・内政あり ・第三者視点あり 小説家になろうにも投稿しております

悪役令嬢は義弟にザマアされる?

ほのじー
恋愛
【本編完結】【R18】ゲームの悪役令嬢に転生したフィーヌは、義弟であるレオナルドの幸せの為に悪役令嬢を貫く決意をした。彼に嫌がらせしたりするけど、毎度何故かレオナルドは嬉しそうだ。「あれ、なんか違う」と思うもフィーヌは悪役を演じ続けた・・・ 【Hotランキング1位ありがとうございます!!】【恋愛ランキング/小説ランキング3位ありがとうございます!!】【お気に入り5100人達成!!ありがとうございます】 ※始めはコメディテイスト、途中少し残虐描写が入りますがハピエン予定なのでご安心ください ※☆マークはR15もしくはR18程度の性描写ありです。

【完結】悪しき魔女の悪役令嬢はBL世界の中で奮闘する!

かのん
恋愛
   私シルビアンヌは、このBLゲームの世界の悪しき魔女、悪役令嬢として生まれことに腐女子として歓喜いたしました。  なので、ヒロインちゃん(♂)を自分の侍女として雇ったり、攻略対象者(♂)の女性へのトラウマをヒロインちゃんを使って阻んだりと画策いたします。    これは、BL世界だからと、皆が男が好きなのではと疑う主人公がおりなすドタバタ劇。 ※BLゲームの物語ではありますが、あまりBLではありません。あくまでも主人公は女の子です。  また、ご都合主義の物語でありますから、ご了承いただける方は読んでいただけると嬉しいです。  完結済みですので、安心して読んでいただけたらと思います。毎日更新します。

拗らせ王子は悪役令嬢を溺愛する。

平山美久
恋愛
処女作になります。 文章ところどころおかしいところあると思いますが完結後にゆっくり直していこうと思ってます。 最後まで楽しんでもらえたら幸いです。 *大変申し訳ございませんが サラのストーリーは 別のタイトルとして今後連載予定になりますので 拗らせ王子は一度完結になります。

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。