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「セリーナ、ジョシュアから色々聞いて呆れたか?」

心配そうに聞いてくる殿下は、子犬のように頼りなさげだ。

「いたたまれなくなりました。」
「え⁈」
「こんなに思ってくれていたのに、騙すようなことをしてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。」
「そんなことはない。これから一緒に歩んでくれるなら、私は十分だと思っている。」
「殿下。まずはしっかりお仕事終わらせましょうね。では、私はやることがありますので、これで失礼させていただきたいです。」

そのまま流されると多分部屋の外にいるジョシュア様に怒られそうなので、そう言って立ち上がりドアを開けると案の定そこにジョシュアがいた。

「ジョシュア様、殿下がお戻りになりますので、お願いします。」
「了解しました。ほら、殿下。明後日、セリーナ嬢と一緒に視察に行くために仕事片付けに行きますよ。」

殿下はジョシュア様に引きずられるように部屋をあとにする。

「大事なことを忘れていた。セリーナ嬢、あとで新しい侍女を連れて来ます。」

1人になって事業に関わる書類の整理をして各担当者用のメモを付けてファイリングしているとノックをして、ジョシュア様が戻ってきた。

「おまたせ。王宮の中で信頼がおける人を連れてきた。うちの母付きだったから、ちょっとお姉さんだけど。」
「ジョシュア様、お姉さんといいながらおばさんと思っていませんか。」

ニコニコしながらジョシュア様に言い返しているその人は、少し太めの頼り甲斐がありそうな女性だ。そう言えば、ジョシュア様とアリア様のお母様でティーダ公爵夫人は国王陛下の妹君だった。ジョシュア様と殿下は従兄弟同士だからあれほど仲が良いのかと納得する。

「マーサ、セリーナ嬢は今回は直轄領の事業の為に滞在中だけど殿下がまとわりついているから、適当に剥がしておいて欲しい。次回からは殿下が離さないだろうけど。」
「かしこまりました。セリーナ様、マーサと申します。よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」

マーサが来てくれたおかげで、いままでより気が楽になった。やはり侍女としてすぐ側にいる人は、信頼できる人がいい。これからの事を考えると誰か探した方がよさそうだ。伯爵家では自分でなんでもやっているし、アイリス様として王宮にいたときはマリーとリリアがいた。2人とも結婚しているし、マリーは公爵領でアイリス様付きで頼めない。

「マーサさん。」
「セリーナ様、マーサでいいです。なんでしょうか。」
「今後のことを考えると私付きの侍女がいた方がいいですよね。」
「そうですね。ご実家では?」
「ほとんど自分でやりますし、食事は母と二人で作っていました。」
「セリーナ様はなかなかステキなお嬢様ですね。これはいい意味ですよ。侍女ですが、私に任せてもらえますか。滞在中に数人ご紹介しますね。」
「お願いします。」


翌日の午前中には、3人の侍女が面接にやって来た。皆、マーサの紹介だけあって誰でも大丈夫そうだ。

「マーサ、私は3人とも決めがたいのだけど。」
「それでしたら、次回から3人とも来てもらいましょう。1人でずっとお世話するのは無理ですから。皆、現在王宮内で働いていますから、その時に担当替えしますので。」
「マーサ、明日は視察に朝から行くのでそのつもりでお願いします。」

午後になり、のんびりしているところにジョシュア様がやってきた。

「セリーナ嬢、いま良いですか。もう1人紹介しておきたいのですが。」
「はい。どうぞ。」

ジョシュア様の後ろには、多分歳上なんだろうけれど、可愛い感じの美人な女性がいる。
ジョシュア様の奥様?兄弟?

「あなたがセリーナね。今日、王宮に来ていて良かったわ。良い子じゃないの。フレディにしては、上出来ね。」
「ベル様、セリーナ様がびっくりしています。」
「そうですよ。母上。」
「ジョシュア様、いま母上って」
「私の母、イザベラです。」
「よろしくね。ティーダ公爵夫人イザベラよ。フレディの叔母でもあるわ。」
「イザベラ様、よろしくお願いいたします。」

いままでお会いすることがなかったけれど、絶対知らずに会ったら、40代とは思わない。この方だけ時間の流れが違うと思える。

「セリーナ嬢、一応この人が気に入ったから、王宮での心配はないと思うよ。」
「ジョシュア様?」
「なんたって、現国王陛下が可愛がっている妹姫で、王妃様の親友、ティーダ公爵夫人でいまだに社交界の花だから。」
「そうよ。私があなたに気に入っているとなれば、下手な手出しはできないからねー。」

見た目はとてもかわいいけれど、ジョシュア様と似た空気をまとっている。この人にも逆らったらいけないようだ。権力的なことではなく、敵にしたくないという意味で…
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