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翌日、早目に朝食を食べて診療所を開けに行った父さんを見送り、パン屋の開店準備をしているとクリスが現れた。
「おはよう。昨日ケインさんと会えました。なので、帰る前に君のパン屋に寄って行こうと思ってね。」
「ありがとうございます。まだ開店前ですけど、焼き上がったもので良ければどうぞ。」
クリスにおすすめのパンを包んでいると母さんが顔を出した。
「あら、お客様だったの?」
「うん。国に帰る前に寄ってくれたそうなので、開店前だけどいいよね?」
「ありがとうございます。焼きたて、追加あるからサービスしてあげなさい。」
母さんが奥に戻っていくのをクリスがじっと見つめている。
「何かありました?」
「君のお母さん?昔、王都にいなかったかな?」
「分からないけど、聞いてみる?」

奥に入った母さんを呼ぶとにこにこしながら出てきた。
「あらあら、私はお邪魔じゃないの?」
「ただのお客さんよ。母さんに聞きたいことがあるんだそうよ。」
 
開店準備もだいたい出来たので、3人で奥の部屋に行くことにした。
「わたしに何かご用ですか?」
「私はクリスという者です。フェルティ王国から来ました。あなたは10年前王都で私と会ったことがありませんか?」
「クリスって、ま、まさか⁈」
「母さん?」
「そうです。クリストファー・フェルティです。実はケイン医師にあの頃のことを聞きに来たんです。なかなか自由がなくて、やっとあの頃のことを調べ始めました。でもケイン医師もあまり詳しくないみたいで諦めかけていたところで、あなたに偶然会えるなんて…」
「クリストファー様、私はあの日、偶然仕事が休みで家にいたので詳しくはわかりません。あんなことがあったから、仕事を辞めてこの街に来たんです。申し訳ありません。」
「母さん?」
「君のお母さんは、昔私の婚約者の侍女だったんだ。彼女が亡くなった時のことをいろいろ調べていて、ケイン医師を訪ねて来たんだけれど君のお母さんにも会えて良かったよ。」
「何にもお役に立てていませんが。」
母さんは申し訳なさそうだが、クリスは嬉しそうだ。
「彼女は、エルフェリアはあの日まで元気だった?」
「はい。お転婆でよくお母様に怒られて、しょげたりしていましたが、クリストファー様に頂いたオルゴールをとても好かれて、いつも聞いていらっしゃいました。」
「そうか、ありがとう。そろそろ国に帰らないとならないが、話が少しでも聞けて良かったよ。」
クリスはさみしそうな笑顔で帰って行った。
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