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第二章 side:リシェール

第二話 少年王子は決意する

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 気がつくと豪華な部屋に居た。
 ここは何処…だっけ?
 鏡台の前を通った時、鏡に映る自分の姿に驚愕する。
 金髪に紫の瞳をした『僕』の姿。
 その色合いの話を何処かで聞いたような…。

 すぐに思い出す。
 姉さんが言ってたんだって。
「うちの会社から出てるBLゲームに、あんたをモデルにさせてもらったキャラ作っちゃってたんだ♪ごめんねー。あんたを金髪にして目を紫にしただけだから。あ、殺されないようにカリスマMAXに振っといたから☆」
  全く悪気なく、半分ぐらい意味のわからない事をしれっと言う。
  姉さんはゲーム会社で働いている。

  当然却下したが、もうゲームは発売から1年経っていた。
 何で今頃言う!
「姉さんのバカっ!!」
 それだけ叫ぶと部屋を走り去る。
 …そこで階段を踏み外した。


 不思議だった。
 金髪だし紫色の目で、僕とはカラーリングが全く違うのに、違和感を感じない。
 僕と瓜二つの色違いの姿。
 鏡に手を伸ばして触れてみた。

 どこからか声が伝わる。
『助けて…』
『何度やっても…私では…』
『替わって……』
 頭の中に色々な映像が流れた。
 恐らくこの金髪の身体の持ち主『リシェール』が体験した世界。
 ゲームだから何度もループさせられて……。


『僕が助けてあげよう、出来る範囲で。』
 そう決意した。
 鏡の中のリシェールは泣いていたから…。
「泣かないで……もう大丈夫…。」
 鏡にそっと頭を押し付けて囁いた。


 ゲームなんて殆どやった事が無いし、このゲームに至っては自分がモデルに使われたことしか知らない。
 でも僕に出来るなら助けてあげたい。
 縁みたいなものをそっくりだから感じてしまうから。



 リシェールが見せてくれた記憶を頼りに僕は行動を開始した。
 確かさっき両親が死んだはず。

『私』の仮面を被って自分と切り替える。
 この間の僕はリシェール。
 口調も何もかもしっかりトレース出来ている、問題はない……はず?


 城下街、農地、城門、何処へ行っても遺体が転がっている絶望的な光景を目にしてしまい、早くも心が折れそうだった。
 治療薬の無い疫病。
 止める手段の無い……え、いきなり詰んでるよね?
 もしも僕が死んだら…リシェール本人と同じように、繰り返す檻の中になるのだろうか…。

 ふと姉さんの言葉が甦る。
『殺されないようにカリスマMAXに振っといたから☆』
 忌々しい会話でのあの部分が気になっていた。
 でもそれなら本物も恩恵を預かってる筈……?

 せっかく見出した活路に思えたけど、使い方がわからないなら意味が無い。
 本当にさようなら姉さん、僕は帰れないかもしれない…。


 玉座の間に行くと問題が山積みだ。
 国王夫妻の葬儀、泣きじゃくる一歳下の弟、遺体の焼却に見込みのない治療。
 何も出来ない僕にはこんな処置は無理だ。
 リシェールの記憶が無かったら投げて逃げていたかもしれない。

 気合を入れて全ての指示を円滑に処理する。
 身体が覚えている能力だ。
 方々の処理をしていると讃えられたけど、『母は治療魔法が使えたのにリシェールは使えない』という事実はかなり痛い。
 治癒魔法があれば、苦しんでいる人を少しでも楽に出来たんじゃないのかって。
 実際そう思ってる国民も居るだろう。
 そもそもこの状況を切り抜けるって、ゲームだとしてどうするのか見当がつかない。


 精神的にも体力的にも限界を感じ始めた。
 もう自分が何をしたらいいかさっぱりだ。
 背もたれに深く身を預け、思考の海に沈んでしまう。
  一点に集中してしまうのが僕の悪い癖だ。

「兄上!」
 ボーッと考えていたら、弟のサフィが執務室に入って来ていた。
  いけない、気を抜いていた。
「急用か?」
  すぐにリシェールとしての態度で来室の用件を問う。
「あの、疫病が消えました。」
「えっ…?」
  キョトンとしてしまう。
 だって疫病って消そうと思って消えるものでは無い。
「何でもライナック王国のウェルナート王子が消してくれたとか。」
  僕が呆けてしまったので、心配そうにサフィが説明してくれた。

  ウェルナート王子か…凄い魔力だとは聞いていたけど、人間性に問題があって、他への興味がゼロとか聞いてたんだけど、あくまでも噂なのかな?
  
  ウェルナート……関わるべきなのかな?
  リシェールの記憶では彼に……酷い目に遭わされていた事もあった。


  でも、今回の彼は世界を救っている。
  だから関わってみようか。
  だって一人では何も出来ない。
  今回凄く身に滲みた。

 誰かと協力すれば出来る事は広がると思うんだ。


 数週間後、世界を救った英雄を讃え、疫病の消滅を祝うパーティーの招待状が届く。

 当然参加の返答を送った。



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