23 / 51
第五章 デート、浸食、ターゲット。
(2)
しおりを挟む
「いらっしゃいませ。杏ちゃん」
目の前に咲く、何事もなかったかのような笑顔。
当たり前のように現れたコイツに、殺意に似た感情がぽつりと胸に色を落とした。奴の足元からひょこりと顔を見せたゴンちゃんの愛くるしさに、沸き立ちかけた激情を何とか押さえつける。
「……どうも」
「お変わりなくって感じだね。どうぞお好きな席に」
雲隠れしていたことが嘘みたいな光景。心なしか女性客比率が上がったように見えなくもない。そんな「カフェ・ごんざれす」の店内を、透馬はブランクを感じさせない立ち回りで動き回っていた。
私はといえば、何ともいえない胸くそ悪さに眉をひそめる。てめぇ、よくも飄々と。涼しげなその胸倉を掴み上げたいところだが、生憎ここは人目がある。今この状況で実行しようものなら、きっと私の方が周りの女性客から袋叩きだ。
「杏さん。すみません、無理を頼んでしまって」
入口付近で立ち尽くしていた私に、厨房から出てきた栄二さんが声をかける。ああそうだ。私は別に、透馬の馬鹿に用があったわけではない。
「いえ。私のほうこそ、忙しい時間帯に来てしまいましたね」
「とんでもないですよ。透馬、シフォンを二番卓に」
「はいよっ」
栄二さんの一声で、透馬は再びお客さんの元へ向かう。その作られた隙を逃すまい。
意志疎通を交わした視線を合図に、私は栄二さんへ茶封筒を素早く手渡した。そして同時に、栄二さんから新たな茶封筒を受け取る。まるで怪しい取引でもしているような自分たちが可笑しい。
「ありがとうございます。すっかり甘えてしまって」
「いえ。これで結構楽しんでますから」
初めは唐突に頼まれてしまった小説の推敲作業は、今でも定期的にお願いされるようになっていた。
舞台はそのまま引き継がれるものの、初回とは別の視点から語られる物語。どうやらこの作者は、これらのすべてをまとめて一つの作品とするらしい。いまだ伏線が多く、一読者として続きが気になるところだ。
本当はこのまま、ここでお茶をして帰ろうと思っていたのだが。
「今日はちょっとこれから用事があって。また今度ゆっくり、寄らせてもらいますね」
尤もらしい台詞。それでも、微かに焦げ付いた感情に栄二さんは感づいたと思う。
笑顔を交わし、奴の顔も特に見ることなく私は店を後にした。突き抜けるような青空を見上げ、大きく嘆息した。
何だ。元気そうじゃねーの。くそ野郎。
唐突に姿を消した奴を糾弾する資格も理由も、私にはない。ただ、ほんの少しくらいは心配してやっていたのに、と。
「ちょっと待った!」
「きゃあっ!?」
歩みを再開しようとした矢先、もの凄い力で後方に引っ張られる。
咄嗟に振り返った先には、八つ当たり真っ只中だった透馬が必死の形相でこちらを見つめていた。しかしながら視線がかち合った瞬間、目の前の顔から呆れたような笑みが滲み出る。
「何よ、その顔は」
「相変わらず思い通りになってくれないね。杏ちゃんは」
「何だそれ。……っていうか仕事。放っていいの?」
指摘に微かに苦笑いを浮かべた透馬は、それでも腕を離すつもりはないらしい。
太陽の下。改めて眺めてみた奴の顔色は、どうやら本調子とまではいかないようだ。
相変わらずの白い肌に、僅かに青みが透けている。図書館のフリースペースで刻まれていた目元のくまは引いているらしい。栄二さんも、これなら接客業には支障ないと判断したか。
「ふ。そんなに見つめられると照れちゃうよ」
全く照れていない口調に溜め息をこぼす。しかしながら、その真意は呆れではなかった。
「へへ。もしかして杏ちゃんも、少しは俺のこと心配してくれた?」
「……馬鹿じゃないの」
「ははっ、だよね」
「心配するに決まってるでしょ」
軽口を飲み込む気配がした。
見上げた透馬は何故か反応に窮していて、私は怪訝な表情を浮かべる。動きが止まった間抜け面に、徐々に腹が立ってきた。
「あんな具合で外をふらふらふらふら出歩いて。そんなだから体調崩すし熱も出るのよ。いっそ女から病気移されて家で大人しく寝込んでろ、この種蒔き馬鹿!」
「杏、ちゃん」
「私が!」
堰を切ったように、本音がこぼれ落ちる。
「私が――あんな風に、あんたに水を浴びせちゃったから」
熱い吐息をつく。性急に打ち鳴らす鼓動をそっと落ち着けるために。
「喫茶店であんな風に水を浴びせたのは私だから。だからこれでも、人並みに責任を感じてた」
語尾が、微かに震える。それでも、半端な言葉を残したくはなかった。
癇癪起こした挙句水をぶっかけるなんて。あれはどう考えても、やり過ぎだった。
「ごめんなさい」
顔が歪みそうになったのを隠すように、私は頭を下げた。
砂混じりの苦い風が辺りを吹き抜ける。過ぎ去る音を遠くしてもなお、透馬は言葉を発しない。
「病院には行った? せめて治療費を、」
「……かーわーいー」
「……」
単語として意味を捉えそびれる。
ぽかんと呆けた一瞬をつくように、透馬の胸が無遠慮に私の視界を覆い隠した。
身体中を包み込む温もりには記憶がある。図書館で落ちてきた本から庇われたときと同じ体温で。
「ちょ……!」
「やーっぱり。思い通りになってくんないなぁ~、杏ちゃんは」
「はっ!?」
「ふ。何でもないよ。ただ、」
すごく可愛いなって、思っただけ。
楽しげな笑い声が耳の近くに届き、噛みしめるたびに体温が上がっていく。
口にした謝罪の言葉も忘れ、私は身体ごと振りかぶった拳を奴の腹にめり込ませた。鳩尾から引き抜いたと同時に、透馬が道路に膝を付く。イタリアに帰れ似非イタリア野郎。
「俺……いちお、復帰間もないんだけど……?」
「世の中には自業自得という言葉があるのよ。透馬君」
「……ははっ」
お腹をさすりながら、前屈み気味に立ち上がる透馬。威嚇の視線を送り続ける私に、柔らかな笑みを浮かべる。
「まぁ、このパンチは痛み分けということで……杏ちゃん」
「何」
「さっき、謝ってくれたことだけど」
じゃり、と。敵が一歩距離を積めたことに、私は眉間を寄せた。
そんな反応すら楽しそうに、透馬はゆっくりと歩みを進めてくる。反射的に後ずさりしようとする私の足が、プライドで留められていることを知って。
「杏ちゃんがそんなに気に病んでるならね。ひとつ提案があるんだ」
「……」
嫌な予感しかしない。
にっこり綺麗に弧を描いた奴の口に、私はどこで間違えたかも知れない自分の選択を全力で呪いたくなった。
目の前に咲く、何事もなかったかのような笑顔。
当たり前のように現れたコイツに、殺意に似た感情がぽつりと胸に色を落とした。奴の足元からひょこりと顔を見せたゴンちゃんの愛くるしさに、沸き立ちかけた激情を何とか押さえつける。
「……どうも」
「お変わりなくって感じだね。どうぞお好きな席に」
雲隠れしていたことが嘘みたいな光景。心なしか女性客比率が上がったように見えなくもない。そんな「カフェ・ごんざれす」の店内を、透馬はブランクを感じさせない立ち回りで動き回っていた。
私はといえば、何ともいえない胸くそ悪さに眉をひそめる。てめぇ、よくも飄々と。涼しげなその胸倉を掴み上げたいところだが、生憎ここは人目がある。今この状況で実行しようものなら、きっと私の方が周りの女性客から袋叩きだ。
「杏さん。すみません、無理を頼んでしまって」
入口付近で立ち尽くしていた私に、厨房から出てきた栄二さんが声をかける。ああそうだ。私は別に、透馬の馬鹿に用があったわけではない。
「いえ。私のほうこそ、忙しい時間帯に来てしまいましたね」
「とんでもないですよ。透馬、シフォンを二番卓に」
「はいよっ」
栄二さんの一声で、透馬は再びお客さんの元へ向かう。その作られた隙を逃すまい。
意志疎通を交わした視線を合図に、私は栄二さんへ茶封筒を素早く手渡した。そして同時に、栄二さんから新たな茶封筒を受け取る。まるで怪しい取引でもしているような自分たちが可笑しい。
「ありがとうございます。すっかり甘えてしまって」
「いえ。これで結構楽しんでますから」
初めは唐突に頼まれてしまった小説の推敲作業は、今でも定期的にお願いされるようになっていた。
舞台はそのまま引き継がれるものの、初回とは別の視点から語られる物語。どうやらこの作者は、これらのすべてをまとめて一つの作品とするらしい。いまだ伏線が多く、一読者として続きが気になるところだ。
本当はこのまま、ここでお茶をして帰ろうと思っていたのだが。
「今日はちょっとこれから用事があって。また今度ゆっくり、寄らせてもらいますね」
尤もらしい台詞。それでも、微かに焦げ付いた感情に栄二さんは感づいたと思う。
笑顔を交わし、奴の顔も特に見ることなく私は店を後にした。突き抜けるような青空を見上げ、大きく嘆息した。
何だ。元気そうじゃねーの。くそ野郎。
唐突に姿を消した奴を糾弾する資格も理由も、私にはない。ただ、ほんの少しくらいは心配してやっていたのに、と。
「ちょっと待った!」
「きゃあっ!?」
歩みを再開しようとした矢先、もの凄い力で後方に引っ張られる。
咄嗟に振り返った先には、八つ当たり真っ只中だった透馬が必死の形相でこちらを見つめていた。しかしながら視線がかち合った瞬間、目の前の顔から呆れたような笑みが滲み出る。
「何よ、その顔は」
「相変わらず思い通りになってくれないね。杏ちゃんは」
「何だそれ。……っていうか仕事。放っていいの?」
指摘に微かに苦笑いを浮かべた透馬は、それでも腕を離すつもりはないらしい。
太陽の下。改めて眺めてみた奴の顔色は、どうやら本調子とまではいかないようだ。
相変わらずの白い肌に、僅かに青みが透けている。図書館のフリースペースで刻まれていた目元のくまは引いているらしい。栄二さんも、これなら接客業には支障ないと判断したか。
「ふ。そんなに見つめられると照れちゃうよ」
全く照れていない口調に溜め息をこぼす。しかしながら、その真意は呆れではなかった。
「へへ。もしかして杏ちゃんも、少しは俺のこと心配してくれた?」
「……馬鹿じゃないの」
「ははっ、だよね」
「心配するに決まってるでしょ」
軽口を飲み込む気配がした。
見上げた透馬は何故か反応に窮していて、私は怪訝な表情を浮かべる。動きが止まった間抜け面に、徐々に腹が立ってきた。
「あんな具合で外をふらふらふらふら出歩いて。そんなだから体調崩すし熱も出るのよ。いっそ女から病気移されて家で大人しく寝込んでろ、この種蒔き馬鹿!」
「杏、ちゃん」
「私が!」
堰を切ったように、本音がこぼれ落ちる。
「私が――あんな風に、あんたに水を浴びせちゃったから」
熱い吐息をつく。性急に打ち鳴らす鼓動をそっと落ち着けるために。
「喫茶店であんな風に水を浴びせたのは私だから。だからこれでも、人並みに責任を感じてた」
語尾が、微かに震える。それでも、半端な言葉を残したくはなかった。
癇癪起こした挙句水をぶっかけるなんて。あれはどう考えても、やり過ぎだった。
「ごめんなさい」
顔が歪みそうになったのを隠すように、私は頭を下げた。
砂混じりの苦い風が辺りを吹き抜ける。過ぎ去る音を遠くしてもなお、透馬は言葉を発しない。
「病院には行った? せめて治療費を、」
「……かーわーいー」
「……」
単語として意味を捉えそびれる。
ぽかんと呆けた一瞬をつくように、透馬の胸が無遠慮に私の視界を覆い隠した。
身体中を包み込む温もりには記憶がある。図書館で落ちてきた本から庇われたときと同じ体温で。
「ちょ……!」
「やーっぱり。思い通りになってくんないなぁ~、杏ちゃんは」
「はっ!?」
「ふ。何でもないよ。ただ、」
すごく可愛いなって、思っただけ。
楽しげな笑い声が耳の近くに届き、噛みしめるたびに体温が上がっていく。
口にした謝罪の言葉も忘れ、私は身体ごと振りかぶった拳を奴の腹にめり込ませた。鳩尾から引き抜いたと同時に、透馬が道路に膝を付く。イタリアに帰れ似非イタリア野郎。
「俺……いちお、復帰間もないんだけど……?」
「世の中には自業自得という言葉があるのよ。透馬君」
「……ははっ」
お腹をさすりながら、前屈み気味に立ち上がる透馬。威嚇の視線を送り続ける私に、柔らかな笑みを浮かべる。
「まぁ、このパンチは痛み分けということで……杏ちゃん」
「何」
「さっき、謝ってくれたことだけど」
じゃり、と。敵が一歩距離を積めたことに、私は眉間を寄せた。
そんな反応すら楽しそうに、透馬はゆっくりと歩みを進めてくる。反射的に後ずさりしようとする私の足が、プライドで留められていることを知って。
「杏ちゃんがそんなに気に病んでるならね。ひとつ提案があるんだ」
「……」
嫌な予感しかしない。
にっこり綺麗に弧を描いた奴の口に、私はどこで間違えたかも知れない自分の選択を全力で呪いたくなった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜
束原ミヤコ
恋愛
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。
そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。
だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。
マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。
全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。
それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。
マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。
自由だ。
魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。
マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。
これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
男爵令嬢に転生したら実は悪役令嬢でした! 伯爵家の養女になったヒロインよりも悲惨な目にあっているのに断罪なんてお断りです
古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
「お前との婚約を破棄する」
クラウディアはイケメンの男から婚約破棄されてしまった……
クラウディアはその瞬間ハッとして目を覚ました。
ええええ! 何なのこの夢は? 正夢?
でも、クラウディアは属国のしがない男爵令嬢なのよ。婚約破棄ってそれ以前にあんな凛々しいイケメンが婚約者なわけないじゃない! それ以前に、クラウディアは継母とその妹によって男爵家の中では虐められていて、メイドのような雑用をさせられていたのだ。こんな婚約者がいるわけない。 しかし、そのクラウディアの前に宗主国の帝国から貴族の子弟が通う学園に通うようにと指示が来てクラウディアの運命は大きく変わっていくのだ。果たして白馬の皇子様との断罪を阻止できるのか?
ぜひともお楽しみ下さい。
将来の義理の娘に夫を寝取られた
無味無臭(不定期更新)
恋愛
死んだはずの私は、過去に戻ったらしい。
伯爵家の一人娘として、15歳で公爵家に嫁いだ。
優しい夫と可愛い息子に恵まれた。
そんな息子も伯爵家の令嬢と結婚したので私達夫婦は隠居することにした。
しかし幸せな隠居生活は突然終わりを告げた。
幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。
ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」
夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。
──数年後。
ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。
「あなたの息の根は、わたしが止めます」
彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる