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7 お化け屋敷と空中ブランコ

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「いや、いまなにかにぶつかって……」
 そう言うと、久遠はゆっくりと顔を上げた。
 すると目の前に、髪が長くて顔が真っ青の、頭から血を流している女の顔があらわれた。
「うっ、うわあああああ」
 久遠は思わず悲鳴を上げ、体をのけ反らせながら、いくらか後ろに下がった。
 京一は久遠の近くまで寄ってくると、
「おい、どうした? なにがあったんだ?」と、おどろいた顔をして言った。
 おびえた顔の久遠は、女を指さしながら、
「そ、そこに、お、お化けが……!」と、手足を震えさせながら言った。
 久遠とは反対に、うそみたいに落ち着いた京一は、久遠の指さした方向やその周辺を、目をこらして見た。
 しかし、なにもそれらしきものは見当たらないようで、
「どこに?」というだけだった。
 おかしい。目の前には着物を着た女が、たしかに立っているのに。それなのに、どうして京一は気づかないのか。久遠は顔をしかめた。
(もしかして、自分にだけ見えているのか?)
「なに言ってるんだよ、久遠。どこにもいないじゃないか」
 呆れた様子で京一が言った。
 それでも久遠は、どうしても京一に、その存在に気づいてほしくて、
「いや、いますよ! そこに!」と、必死で指をさしながらうったえた。
 まだピンときていない様子の京一は、細い目をしながら、
「んん?」と言って、久遠が指をさした方向を見ている。
 久遠はその間にも、縮み上がって姿が消えてしまいそうなほど、こわくてたまらない気持ちになっていた。
(もう、こんなところいやだ)
 そう思ったあと、
「女の人! 見えないんですか?」と、久遠が言った。
 そこで京一はようやく、ハッとしたようだった。
「——ああ、これはただの、カラクリ人形だよ」
「カラクリ人形……?」
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