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6 久遠類の恋心

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「本当に?」
 乙葉が言った。
「でも、もしまた、なにかあったら言ってよ。私じゃ、頼りないかもしれないけど」
「頼りないだなんてそんな! でも、ありがとうございます」
 久遠がそう言ったあと、ふいに乙葉の視線が、机の横にかけてあるかばんにいった気がした。久遠はその時、あまり見られたくない物が、かばんの中に入っていることに気づき、冷や汗をかいた。
「あら? これはなに?」
 久遠の予想は当たった。
 乙葉の視線は、かばんの中からすこしだけ出ていた、漫画にいっていた。
「あっ、えっと、そ、それは……」
 久遠は激しく動揺した。
「見てもいいかしら?」
 やんわりと乙葉が言った。
「いや、あの……はい」
 久遠は断りきれず、つい許可を出してしまった。
 それを聞いた乙葉は、早速、久遠のかばんの中から、その物をとり出した。
 すると中から出てきたのは、最近発売されたばかりの、はやりの少年漫画だった。
 乙葉はその漫画を見て、
「あ! やっぱり! あの漫画ね」と言った。
「かばんの中をチラッと見た時に、そうじゃないかと思ってたのよ。これ、すごく面白いわよね! 私も読みたいと思ってたの」
「あ、はい」
 久遠がそう返事をした。
「それにしても珍しいわね。久遠くんが漫画を読むなんて!」
 乙葉が言った。
 久遠は返事のかわりに、苦笑いをした。
 本当のことをいうと、この漫画は以前、乙葉が誰かと話していた時に、好きだというのを聞いて、乙葉ともっと仲良くなるために、すぐに買いにいった物だった。でもそんなことを乙葉にいえば、きらわれてしまうにちがいない。だからこのことは、口がさけても言えない、と久遠は思った。
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