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5 ドキドキ観覧車

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「あのー、本当に僕、眼鏡がないとほとんど見えないので、早く返してください」
 弱々しい声で久遠が言った。
 すると、やっとルーカスの気がすんだのか、
「仕方ないなあ、返してあげるよ」と言った。
 そして、ルーカスは不満そうにしながら、久遠に眼鏡を返した。
 乙葉と柚子の二人は、そのようすを見ると、顔を見合ってほほえんだ。
「いや、仕方ないなって、これ、僕の眼鏡ですから」
 ルーカスに向かって、久遠がおずおずと言った。
 そのあと、柚子は突然、小屋の中をぐるっと見まわし出して、
「それにしても、中も案外片づいてて、きれいね」と言った。
「だから言ったでしょ? 私、がんばって片づけたんだもの」
 自慢げに乙葉が言った。
 久遠は、ルーカスからとりかえした眼鏡を自分にかけると、部屋の中央にある仕切りを見て、
「この仕切りは、なんですか?」と聞いた。
「あー……これは」
 乙葉は途中で言い淀んだ。
「それは、乙葉が勝手に置いたものなんだよ。仕切りを使って、個室みたいにしているんだ」
 なにやら、この部屋にはいない人の声が聞こえて、全員、おどろきながら声のする方に注目した。
「京一くん……!」
 目を見開きながら柚子が言った。
 そう、小屋の扉には、いつの間にか外から帰ってきた、京一がいた。
「もう、帰ってきてるのなら言ってよ。びっくりするじゃない」
 乙葉がそう文句を言った。
 京一は乙葉のいうことを無視すると、
「こいつさ、俺とおなじ空間で寝るのがいやだからって、一時は家出までしたんだよ。でも、結局その仕切りを置くことで、解決したんだ」と、柚子と久遠の二人に向かって言った。
「ちょ、京一、言わないでよ」
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