上 下
115 / 256
4 妹の決断

31

しおりを挟む
 苦しくて仕方なかったが、そのあと、思い切って息を全部吐いてから、なんとか深呼吸をして耐えた。
「アハ、アハハ、アハハハハ」
 ピエロは、相変わらず笑っている。
「もうムリ、やめて! こっちにこないで!」
 乙葉は必死にさけんで、抵抗した。
 しかしその声もむなしく、ピエロの顔は、乙葉の前にせまってくるばかりだった。
 もういっそ目をつむって、その存在を見えなくしてしまいたいくらいだったが、そうしたら自分がどうなってしまうかわからない恐怖があったため、乙葉は仕方なく、目をあけているしかなかった。
 そしてついに、ピエロの顔が目と鼻の先になった時、乙葉の顔は青白くなった。
 だめだ、おそわれる、そう思った瞬間、
「乙葉?」と、その場にいないはずのルーカスの声が、どこからか聞こえてきた。
 どうしてルーカスの声が? そう思った時、目の前にあったピエロの顔は、徐々に消えてなくなった。
「乙葉、乙葉——」
 聞こえてくるルーカスの声は、少しずつ大きくなっていく。
「乙葉、どうしたの? 乙葉?」
 乙葉は、目をパチッと開けた。
 その瞬間、
「ピエロが!」と、興奮しながら、ルーカスを見て言った。
「ピエロ?」
 ルーカスはなんのことだかさっぱりわからないといった様子で、乙葉をきょとんと見つめている。
「どこにいるの?」
「……へ?」
 起き上がってまわりを見ると、二日前から泊まっている、ルーカスの家の風景がそこにはあった。
「鏡の部屋じゃない……」
しおりを挟む

処理中です...