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4 妹の決断

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 久遠は、なにがなんだかわからないといった様子だ。
「ですよね! よかった」
 柚子が言った。
「それで京一くん、今日ちゃんと、学校に来ていましたか?」
 前のめりになって、柚子が尋ねた。
「いや、彼は今日、学校に来なかったですよ」
 久遠が言った。
「えっ、それ本当ですか?」
 目を丸くして、柚子が言った。
「はい。彼のことは、なぜ休んだのか知りませんが、教室では、一度も見かけませんでした」
 たんたんと久遠が言った。
「そんな……京一くん、なにかあったのかしら……」
 困惑しながら柚子が言った。
 バイトも学校も休みなんて、これはなにか、やむを得ない事情があるにちがいない。柚子は、京一の身を心から心配した。
 久遠は突然、神妙な面もちになって、あごに手を当てると、
「二人とも同時に来なくなるなんて、なんかあやしいですよね」と言った。
 なにがあやしいというんだ。久遠は、乙葉と京一の間に、なにかあったとでもいいたいのか。柚子は心の中だけで、怒りながらそう思った。
「きっと京一くんは、風邪かなにかですよ。私は、京一くんが休んだのは、お姉ちゃんが行方不明なこととは、なんのかかわりもないと思います」
 平静をよそおいながら、柚子が言った。
「そうですかねえ。僕は、なにか引っかかります」
 相変わらずうたがわしそうにいう久遠に、柚子はたえられなくなり、家の中に入ることにした。
「じゃあ、私はこれで」
 柚子は玄関の門をあけると、素早く階段を上り、扉の取手に手をかけた。
「あ、あの」
 突然、久遠に呼び止められ、柚子は後ろを振りかえった。
「なんですか?」
「あ、すみません。あの、倉本さんが無事に見つかるまで、また、ノートを届けに来てもいいでしょうか」
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