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1 迷い込んだ少女

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 京一は夏休みをどう過ごすのだろう。きっと剣道大好き人間の京一のことだ。毎日のように部活に行って、ひまな日には、バイトでも入れるのだろう。またコンビニに行って、ひやかしにでも行ってやろうか。
 たくらみを含んだ笑みを浮かべたあと、乙葉はあらためて、周囲を見た。
 店や会社らしき建物、家々が立ちならび、歩道にはちらほらと人が歩いている。そして空を見上げると、雲一つない快晴で、見ていて気持ちまでもが晴れた気がした。
 本当にいい休日だ。
「ニャオ~」
「?」
 声の主をさがすべく、辺りを見まわすと、路地のほうから、ふたたび同じ声が聞こえた。
 声がした路地に入って、奥へとすすむと、民家の石垣の上で、猫がこう箱ずわりをしているのが目に入った。
「まあ、猫だわ。とっても可愛い!」
 近寄ろうとすると、猫が乙葉をいちべつしたため、乙葉は一度、足を止めた。そして猫は思いきり伸びをしたかと思うと、すぐに石垣から下りた。
「えー、もう行っちゃうの?」
 乙葉が残念に思いながらいうと、猫は振りかえって、
「ニャ~」と、乙葉に向かって話しかけてきたような気がした。
 それはなんだかまるで、
「ついてこい」と言われているかのようだ。
 乙葉は思わず目をかがやかせる。
 もともと、猫のことが大好きなため、なおさら、よろこんでついて行くことにした。
 猫は路地のさらに奥へとすすんでいく。しっぽを振りながら、足をトテトテと動かしてすすむ、猫の後ろ姿を見ていると、たまらなく愛おしく思えて、胸がときめいた。
 乙葉はこれまで何度も、猫を飼いたいと思っていたのだけど、猫アレルギーの母がいるため、いままで、家で猫を飼ったことは一度もない。そのかわり、ペットショップや友達の家、道で会った猫にしつようなほどからみ、愛情をそそいでいる。
 この猫は首輪もしていないし、飼い猫にしては目つきがするどくて、毛もゴワゴワしている。きっと野良猫だろう。柄は白と茶と黒の三色がまざっているから、三毛猫だ。
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