上 下
225 / 246
6 さよなら

しおりを挟む
「短い時間だったけど、楽しかったぜ——いろいろと迷惑かけたけどな」
「本当、あんたには最初から最後まで、迷惑かけられっ放しだったわよ」
 柚子が呆れながら文句を言った。
「おまっ、最後にそれはねえだろ? 嬢ちゃん」
 勘弁してくれとでもいうように、銀司が眉尻を下げた。
 みんなはそんな銀司を見て、どっと笑った。
「まあいいけど。じゃ、外の世界に出たら、また俺の寿司、食べにこいよな」
 あっさりと銀司が言った。
 それを聞いた柚子は、これまでの強気な態度が嘘のように、途端に悲しい顔をしてうつむいた。
 その顔を見た銀司はとっさに、
「おい、嬢ちゃんも絶対だぞ」と言った。
 すると、柚子は顔を上げ、パッと顔を明るくさせた。
 しかし、すぐにいつものようにつんけんした態度に戻ると、
「ふん」と言った。
「別にいってあげなくもないけど。ていうか、あんたの店、なんていう名前よ」
 柚子がそう言っている間にも、銀司はさっさといってしまった。
 その瞬間、柚子は顔を赤くさせ、もう見えなくなった銀司に向かって、怒りはじめた。
「あーあ、いっちゃった」
 残念そうにルーカスが言った。
「まあ、また会った時に聞けばいいわよ」
 乙葉が言った。
「じゃあ次、僕が出るよ」
 今度は、内田が高く手を挙げて言った。
「みんな、僕の料理、おいしいって言ってくれた上に、残さず食べてくれてありがとう」
 みんなの方を向いて、内田が言った。
「僕いつか、街で一番おいしい料理店のコックになるからさ。銀司の寿司屋にいった次の日にでも、食べにきてよ」
「内田さん……」
 なにか胸にぐっとくるものがあり、乙葉がしみじみと言った。
しおりを挟む

処理中です...