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5 クラウスの剣

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 乙葉はルーカスのいる方を向くと、
「ね、ルーカス?」と、目で合図しながら言った。
「はあ、また僕なんだね」
 それがなんの合図なのか察したルーカスは、うんざりしながらそう言った。
「こんなにこき使われるだけなのもなにかしゃくだから、次から一回飛ぶごとに、お金をとることにしようと思うんだけど、どう思う? 別に問題ないよね?」
 しかし、乙葉はルーカスの言っていることを聞かないふりして、やり過ごすことにした。
 それから乙葉とルーカスは、空中にふわりと浮き上がり、地上から数メートルのところで、皆を見下ろしながら止まった。
「じゃあ姉ちゃん、俺らのかわりに、その坊主と偵察頼んだぞ」
 銀司が親指を立てながら言った。
 そのまた隣では、柚子がうらやましそうに乙葉たちを見て、
「いいなあ、私もいきたかった」と言った。
 そしてみんなに見守られながら、乙葉はルーカスと一緒に、屋根の上まで、一気に飛び上がっていった。
「うえっ……なによ、あれ……」
 屋根の上を見て早々、思わず吐きそうな顔をしながら、乙葉が言った。
 なぜなら目の前には、緑のなにかグニョグニョとしている、パッと見、スライムのような、はたまた、ひき肉のような物体があるからだった。そのものは小刻みに動いているようで、とんでもなく気持ちが悪いものに思えた。
 よく見てみると、その緑の物体は、透明なガラスに覆われているようだった。時折、カラスが何羽か近づいてきて、鋭いクチバシで、何度かそのガラスを強く突いているのが見えた。あれを見る限りでは、ちょっとやそっとのことでは割れない、硬いガラスなのだろうと乙葉は思った。
「もしかして、これが京一の言っていた、あのボスの本体?」
 乙葉が言った。
「そうだよ」
 すでに見慣れているからなのか、平気な様子でルーカスが言った。
「まさか、こんなに気味の悪い見た目をしているとは、思わなかったわ」
 顔をしかめながら、乙葉が言った。
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